写真: Mira Morozova, Dmitry Chuntul , Alexey Pavlenko , Anton Ogarev, Yana Ross
動画 : Moment Tokyo / 取材: clubberia編集部 / 協力: Pioneer DJ , lute
動画 : Moment Tokyo / 取材: clubberia編集部 / 協力: Pioneer DJ , lute
恥ずかしながら、フーコック島の存在を知ったのはこのフェスがきっかけだった。カンボジア沖合のタイランド湾に浮かぶこの小さな島は、ベトナムのリゾート地として近年注目を集めている場所なのだそう。そんなフーコック島で2016年以来開催されているのが、「EPIZODE」。アジア最大規模のアンダーグラウンドミュージック・フェスとして、その地位を確立しつつある同イベントのレポートをお届けしたい。
ラインナップは盤石。というよりも世界基準で考えて、どこのどんな大型ダンスミュージックイベントと比べても遜色ない、まさしくトップレベルのものだ。しかし特筆すべきは、例年このイベントが年の瀬から年を跨ぎ11日間に渡り、24時間ぶっ続けでエンドレスに開催されているということ。計250時間もの間ノンストップで行われるという計算になる。音楽とともに熱烈な年越しや新年を迎えたい、生粋のフェスラヴァーにとっては格好の場所だろう。
現地に着いたのは間も無く夕暮れを迎える頃。この季節には珍しい台風が急接近していた。会場に向かうと、案の定ビーチにある3つの会場のうちメインステージはすでに閉鎖されている。ヤシの木や白い砂浜を愛でる余裕などあるはずもなく、ただただ己の運のなさを呪う。朗報は、テントのあるステージでRicardo Villalobosがロングプレイを披露するというニュース。激しい雨風に負けじと集まった人達でフロアもブースもごった返す中、歓喜と興奮に満ち溢れた濃厚・濃密な空間に身を置き、尿意と疲労感に邪魔されながらも踊り狂うことができた。会場入りして早々に味わえた恍惚感に感謝。しかし、ステージから臨む地平線に日が昇り、明るくなってからも全く終わる気配はない。「……あ、そっか。終わらないんだった、このパーティ」と何度も脳内ツッコミを入れる場面があった(ちなみに、Ricardoはこの日9時間のプレイを披露)。
ロケーションの最高さに改めて気がついたのは陽が昇ってから。砂浜と海の上に浮かぶアーティスティックなオブジェや建造物。特に印象的だったのは、竹材で組まれた二階建てのBamboo Houseだった。一階部分はドリンクバーやギャラリーショップになっていて、階段を登るとお洒落な隠れ家バーみたいなチルアウトスペースがお目見え。踊り疲れた人たちがここで身体を休め、英気を養うというわけだ。ちなみに、日中のビーチ沿いではヨガなどのアクティビティが行われている。フレッシュな南国フルーツのドリンクを飲みながらヨガに勤しむというヘルシーな時間の使い方もできるし、もちろん会場への出入りは常に自由。途中で抜け出してホテルに帰るも良し、観光を楽しむも良し。リフレッシュの仕方を選べるのはありがたいことである。
EPIZODEの特色として、ヨーロッパだけではなくアジアのアーティスト招聘にも力を入れていることが挙げられる。日本からはベルリン経由で田中フミヤとDJ masdaが、お隣・韓国からは注目の女性アーティスト・Peggy Gouが参戦。その他、地元・ベトナムはもちろん、シンガポール、マレーシア、インド、中国からも多数のアーティストが名を連ねている。EPIZODEは、ヨーロッパとアジアのダンスミュージックが邂逅する稀有な場所と言えるだろう。それにしても、規模や開催時間の長さから考えれば当然なのかもしれないが、3フロアしかないビーチパーティに140人以上のアーティストが会するというのは中々とんでもないこと。フェスを運営しているのがロシアの団体なので必然的にロシア人が多いのだが、多国籍な情緒溢れる会場を歩いていると、自分が今一体どこの国にいるのかよく分からなくなってくる。
余談だが、ロシアとは中々複雑な国で、国土の7割以上がアジアに面しているため、「国家」としてのロシアはヨーロッパに属すると言えるが、「領土・領域」に関しては、西はヨーロッパ、東はアジアと区別せざるを得ないのだ。このことを思うと、ヨーロッパとアジアの中間に位置するロシアが、ヨーロッパとアジアのカルチャーを融合させるフェスをやることの意味や必然性が感じられる。実際、「アジアにヨーロッパからの最新のトレンドを持ち込むと同時に、アジアの音楽シーンを広げたい」というのがPR担当:Gorana Romcevic氏が語ったEPIZODEのゴールだ。
ロシアといえば、いまやカリスマ的な人気を誇るクイーン・Nina Kravitz。彼女がブースに現れた瞬間、アイドルの撮影会に集まったカメラ小僧よろしく、オーディエンス達が一斉にスマホを向ける光景が鮮烈に頭に残っている。その他、ルーマニアン・シーンの最高峰レーベル[a:rpia:r]のRhadoo、Petre Inspirescu、Raresh、そしてPrasleshも圧倒的な人気と存在感を見せた。当然ながら、多彩なアーティストのステージを網羅することはできなかったが、歩き疲れて足が棒になるほど広大ではない会場のサイズも返って好都合。少し足を伸ばせばすぐにたどり着ける距離で、様々な国のカルチャーを垣間見られる。導線に敷き詰められたウッドデッキが足にも優しい。会場内で音楽旅行やグルメを楽しむ以外に、世界中から集まった旅人とコミュニケーションを取ることができたのも良い思い出だ。
第二のイビサとなり得るのか、という議論に対してYESと即答することはできなかったが、このローカル感と多国籍感、そして充足感はこれまでに体験したことがないものだった。芸術的なライティングやインスタレーション、フーコック島の美しいサンセットの光景を目にするだけでも価値はあるし、目覚ましい勢いで開発が進むフーコック島の観光地としてのポテンシャルにも期待したい。今年4年目を迎えるEPIZODEの構想は既に練られている。年越しや年始の新しい過ごし方の一案として、新たな旅行先の候補として、ぜひリストに加えてみて欲しい。