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「変化する情報社会の中で、どのように自分自身を見つめ直し、地球とのつながりを再確認するか」アムステルダムADEの新プロジェクト『ADE Zen Space』

取材・文: KUMI KAWAI
編集: NORIHIKO KAWAI
写真: Joris Raaijman / Dick Rennings / Mark Richter

先日、Calmに続くトップ2の瞑想アプリHeadspaceが、100億円の資金調達に成功したそうだ。GoogleやAppleなどをはじめとしたIT業界がマインドフルネスを研修に取り入れたり、特にデジタルネイティブであるミレニアム世代は健康やセルフケアへの関心が高く、日本人に馴染みのある「禅」の思想やエッセンスも世界でますます注目されている。
そういった流れを受けて、「Amsterdam Dance Event(ADE)」でも2019年から「ADE Zen Space」というプログラムがはじまったのでレポートしたい。ADEはアムステルダムにて年に一度、10月に5日間に渡って開催されるエレクトロニック・ミュージックの祭典で、1990年代に500人規模ではじまってから回を重ねるにつれ、2019年には40万人の来場者が訪れるまで大きくなり、いまやLGBTの祭典「Amsterdam Pride」と並び、市や行政が強力にバックアップする一大イベントとなっている。


  
 今年から始まったこのプログラム「ADE Zen Space」では、「めまぐるしく変化する情報社会の中で、どのように自分自身を見つめ直し、地球とのつながりを再確認するか」というテーマで、インスタレーションやパフォーマンス、メディテーションセッションなどが行われた。
会場となったDe Waalse Kerkは、アムステルダム中心地にひっそりと佇むプロテスタント教会で、15世紀後半に建てられたもの。


普段の教会の様子。©De Waalse Kerk

教会の構内ではちょうど、Kim Boothによるクリスタルシンギングボウルのセッションが行われていた。
Kim Boothは過去に音楽のPRエージェンシーを13年やっており、Ellen AllienやJosh Winkなども手がけていたが、家族に起こった出来事などをきっかけにヨガの道へと進み、その中でクリスタルシンギングボウルに出会ったという。チベットのラマ教の高僧が神に捧げる儀式に使う仏具が発祥のシンギングボウルには、人や物、場を浄化し、ストレスを軽減し、リラックスさせる効果があるといわれている。

このシンギングボウルの大きな特徴として、「倍音」を奏でることが挙げられる。音の高さは周波数によって決まるが、音には基本となる周波数の他に、その2倍、3倍...と整数倍の周波数の振動がいくつも生じている。この音が「倍音」といわれるものだが、音の振動は空気中よりも水中のほうが伝わりやすい。人間の身体は約70%を水が占めているので、この倍音を浴びると、体の中のいたるところに音の振動が浸透するというのだ。 さらにクリスタルシンギングボウルは、素材がメタルではなく水晶でできている。水晶はケイ素純度99%の鉱物で、関節や皮膚、毛髪、歯や爪などにも多く含まれており、より身体と共鳴しやすいともいわれている。
教会の構内では20〜30人ほどの参加者が床に横になったり、ビーンバッククッションに身を委ねたり、座禅を組んでシンギングボウルの音を浴びていた。思い思いにメディテーションをしているかのようだった。静まり返った教会の構内に、伸びやかに響き渡るシンギングボウルの音は、確かに体の細胞に浸透してゆく感じがした。お寺や教会など、神聖な場所でのセッションは特別なものだと感じた。



次に予約していたインスタレーション”Ademruimte”を体験する為に教会の2階へ移動。“Ademruimte”はオランダ語で「呼吸する空間」を意味する。この作品は、医療関係者や都市計画担当、建築家のグループが集まり「都会の中でどうやったらカームダウンできるか、自己の内側を見つめる場所が作れるか」とリサーチをする中で生まれたそうだ。普段はデン・ハーグ市のThe Grey Spaceというアートスペースに常設されているこのインスタレーションが、今回のADEに際して出張展示となった。2020年1月末からはベルリンのCTM Festivalのエキシビジョンとして出張しており、春になってからオランダへ戻ってくることになっている。 Ademruimteを中心となり動かしているのが、Calmspaces (​https://www.calmspaces.nl/)​ という団体で、建築家のTena Lazarevicとインタラクティブ・デザインとデジタルメディア畑のBeer van Geerによるユニットが中心になっている。会場でBeerに質問したところ、日本で働いていた時に訪れた日本庭園にもインスパイアを受けたという。

早速インスタレーションへ。のれんのような白布のかかった入り口をくぐると、足元には枯山水を思わせる小石が敷き詰められいた。木製の椅子に座ると、インストラクションが床に投影される。「光の輪が大きくなるのに合わせて息を吸い込み、光が小さくなるのに合わせて息を吐きます」椅子にはセンサーが組み込まれており、わずかな圧力の差を読み込んで、心臓と呼吸のパターンを検出する。椅子についているコントローラーで、光と音のスピードを自分の心地よい速さに調整できるようになっている。光に合わせて、まるで心臓の音や呼吸をカーム&ピースに表現した心地よいサウンドが聴こえるのだが、これは日本人のサウンドアーティストYota Morimoto(​http://yota.tehis.net/​)が担当している。ハーグ王立音楽院でソノロジー(さまざまな音の研究をする)を学び、英国バーミンガム大学で作曲の博士号を取ってからは、オランダをベースに各国で活動しているそうだ。

音と光に合わせてゆっくりと呼吸をはじめた。胸が広がり、肺にたくさん空気が入り込む。それまで、肺の容量をほんの少ししか使っていなかったことに気が付いた。
しばらくすると、光がより大きくなり、音がそれに溶け込むように開けて静かに高揚感を帯びた。後から聞いたのだが、呼吸がより光と音にシンクロしてくるとこうなるそうだ。

5分間ほどだろうか、呼吸に集中し、頭が空っぽになった。終わった後に軽い脱力感を感じたが、グラウンディングをしたような感覚で、たしかに身体と心が落ち着いた。

 

Ademruimte from Calm Spaces on Vimeo.



また同じ会場で、夜11時から8時間にわたって行われていたプログラムが、「Circle of Live - In Dreams」。Circle of Live は、MinilogueやSon Kiteのメンバーとして活躍したSebastian Mullaert率いる即興ライブ・プロジェクトだ。過去には AmeやPeter Van Hoesen、Tobias.等と流動的に活動を行なってきた。今回はJohanna Knutssonと、スリーピングコンサートとしてコラボレーションした。23時のスタート以降は入場不可、スリーピングバッグなどの寝具持参(エアベッド不可)、アルコール販売はナシ&持ち込み禁止、朝食付き(ベジタリアン・ヴィーガンオプションあり)...というさまざまな参加条件は、従来のナイトクラビングとは一線を画していた。早々に場所を確保し、横たわる。心地よい音に身を委ね、身体がどんどん床に沈んでいき脱力していく。夢か現実かのはざまを少しさまよってから何時だか、寝落ちしていた。かなり早い時間だったと思う。極上の体験だった。



年齢を重ねるにつれ、夜遊びが体力的に厳しくなってきた自分を少し悲しく思っていた昨今。この"ADE Zen Space"では、フェスティバルを従来とは違う視点で楽しむ方法を提案していたので、とても自分にはフィットしていた。パソコン仕事に子育てと家事、自分と向き合う時間がほとんどない日々の中で、今回のADEは私に呼吸をすることを思い出させ、自分の感覚を取り戻せる時間となった。