Report:Kana Yoshioka
Photo: Spotify O-EAST アンザイミキ | duo MUSIC EXCHANGE Daisuke Miyashiya | 東間屋 Akanuma Yuma
Photo: Spotify O-EAST アンザイミキ | duo MUSIC EXCHANGE Daisuke Miyashiya | 東間屋 Akanuma Yuma
18時の開場とほぼ同時に、各々の開場でDJやライヴがスタート。18時の時点で会場の外は、長蛇の列だったにも関わらず、すでに中は後方まで人で埋まっていた。3つの会場では、どの時間帯もそれぞれに多くのファンを持つアーティストたちがライヴを行ったこともあり、来場者はタイムテーブルと睨めっこになったことであろう。
Spotify O-EASTでは、 DJ STYLISH a.k.a. 鎮座DOPENESSがオープンにふさわしく、その名の通りイカした選曲で会場を温めていた。宮崎美子「今は平気よ」、郷ひろみ「君の名はサイコ」など、和物を中心とした選曲が会場に鳴り響く。そこから、U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESSのライヴへと突入。ステージに3人が揃ったところで、一曲目にライヴ初披露となった、坂本氏の「enegy flow」のピアノソロに2人のリリックを載せたバージョンというスペシャルな内容でスタート。インドから帰ってきたばかりのU-zhaanのタブラ演奏と、トランペットや他の楽器などをその場で演奏・録音、ループさせた音の上で、環ROYと鎮座DOPENESSによるスキルの高いラップのキャッチボールが始まり、「七曜日(Nana-Youbi)」「にゃー feat.矢野顕子」などをリズムに合わせマイクフロウ。途中、「ギンビス」のワードのフロウにU-zhaanから環ROYへやり直しが出たりして、そのやりとりに会場が和み、ステージと来場者の間の距離が一気に縮まりいい雰囲気に。そしてラストは「エナジー風呂」でライヴをしめてくれた。
そこから、80年代後半から坂本氏と交流の深いTOWA TEIのDJへ。「TECHNOVA」「MILKY WAY(feat.RYUICHI SAKAMOTO & YUKALICIOUS」をはじめとした自らの楽曲から、「WAR HEAD」「千のナイフ」などの坂本氏が手がけた楽曲を中心にプレイ。終盤にはMCも入りつつ、ラスト2曲は、今年の春にリリースが予定されているY.M.Oのライヴ盤(1979年グリークシアター)より「BEHIND THE MUSK」、そして「い・け・な・いルージュマジック」でプレイを終えた。
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そして韓国からこの日のためにやってきたSE SO NEONが、会場の空気を変えオルタナティヴロックの世界へ。生前の坂本氏は、ニューヨークの自宅で当時まだ無名だったSE SO NEONのライヴをテレビで目撃し、「彼女はすばらしい才能がある」とすぐに検索。同年夏にセントラルパークで行われたライブイベントに足を運び、楽屋を訪ねて自己紹介をするところから始まった。坂本氏とSE SO NEONの縁は、以降ソウルや東京、NYでお茶をしたり食事をするなど交流を深めていたという。そんな彼らのライヴは、ボーカル兼ギタリストのファン・ソユンと、ベーシストのパク・ヒョンジン、そしてサポートドラマーのキム・ヒョンギョンの3ピースで決行。爆音で鳴り響くギターのリフとドラムにヴォーカルが浮遊するようにのり、軽快なグルーヴのベースがすべてを包み、「Stranger」「A Long Dream」といったオリジナルの楽曲を中心にプレイ。ファン・ソユンがMCで「今日は坂本さんに観てもらう、2回目のライヴだと思っている」と語ったのだが、坂本氏へ向けた果てしない愛とエネルギーを感じたライヴであった。
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そしてステージは再びDJへ。電子音楽界の若手ホープ原口沙輔がライヴともいえるDJセットで、自らカバーをした坂本氏の楽曲を丁寧につぎつぎとプレイ。「El Mar Mediterrani」「TIBETAN DANCE」「Rain」を始め、後半はシンガーの長瀬有花がゲストで登場し、「愛してる, 愛してない」「Ballet Mecanique」など3曲を歌い上げた。ラストは自身によるオリジナル曲「戻りさせて」をプレイ。“今”を感じる新感覚の曲に、電子音楽の進化を感じた。
Spotify O-EASTのトリは、小山田圭吾率いるCorneliusの登場だ。最初はメンバーの姿は見えず、ステージの白い幕に映し出された映像から始まり、何が始まるのかと思わず息を呑む。幕が降りると同時に現れたメンバーたちの装いは黒を基調とした服を着ていた。小山田圭吾はいつものサングラスをかけず、黒いジャケットに黒いタイ、黒いパンツといった追悼とも言えるスタイルで登場。キーボード、ギターに堀江博久、ドラムにあらきゆうこ、モーグ・シンセサイザーとベースに大野由美子がサポートメンバーで参加し、坂本龍一の楽曲をカバーを連発していく。Cornelius特有の大きな画面に流れる映像やライトを取り入れたステージワークも素晴らしい。曲は「Mic Check」「Point of View Point」「Audio Architecture」と続き、「Another View Point」では映像に坂本龍一の姿が映し出され、グッときたところで、「Turn Turn」、小山田圭吾が丁寧に歌い上げた「Thatness And Thereness」では、感極まった人たちの姿が印象的だった。YMO「Cue」を経て、ラストはCornelius「あなたがいるなら」でライヴを終えた。
もうひとつの会場、duo MUSIC EXCHANGEでも素晴らしいライヴの数々が行われていた。トップバッターは注目のアーティスト北村蕗が登場。「Undercooled」のカバーをはじめ、オリジナル曲も披露し幻想的且つアグレッシヴなアプローチで独自の世界観を音で紡いでくれた。
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そこからのネオ・ミクスチャーの頂点に立つDos Monos。1曲目に、YMOの1stアルバム『イエロー・マジック・オーケストラ』に収録されている「コンピューターゲーム“サーカスのテーマ”」をサンプリングした1stアルバム収録のインスト曲「ドスゲーム」から始まり、昨年リリースしたアルバム『Dos Atomos』から数曲、またこれまでリリースされてきた楽曲を立て続けに披露。ハードコア、ヒップホップ、ロックが融合したボルテージの高いド直球なライヴを観せてくれた。さすがは世界のDos Monos。
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そして間髪を容れず、ソウルからやってきた注目のオルタナティヴKポップ・クルーBalming Tigerへ。往年のYMOへのオマージュとしてメンバーお揃いの赤いスーツ姿で登場。この時点で、会場は満杯で入場制限がかかり、外には長い入場待ちの列ができたほどだった。ダンスを取り入れたパフォーマンスと、上げ気味で踊り出したくなるサウンド満載の中、日本でも馴染みのあるドラマ主題歌「Wash Away」で会場をさらに盛り上げてくれ、最高なライヴを観せてくれた。
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そして真鍋大度+岡村靖幸のB2B DJセットへ。真鍋大度は今回特別に提供されたというオリジナルのマルチトラック音源を用いて制作したリミックスを中心にプレイ。「1919」「Rain」「Asience」「chasm」「A WONGGA DANCE SONG」「wind, cypresses & absinthe」などの坂本氏の名曲を見事にリミックスしたトラックが印象的で、真鍋大度の隣にいた岡村靖幸は「Riot in Lagos」をプレイし会場を盛り上げていた。また、映像と音楽がリンクを果たしたDJセットが見事であり、真鍋大度が坂本氏と築き上げてきた音楽とアートへの探究心を改めて再確認する時間でもあった。
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そこからDJは日本の電子音楽界の重鎮、砂原良徳へ。ステージに上がるや否や、空気の流れをガラッと砂原ワールドへと変え、アルバム『Esperanto』から数曲、YMOの楽曲をサンプリングした音源などを映像とリンクさせ、視聴覚をトリップさせる幻想的な世界を演出。
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そしてduo MUSIC EXCHANGEのラストは、大沢伸一とどんぐりずによるユニットDONGROSSOが登場。ニューシングル「MY HARDCORE VALENTINE」をはじめ、新曲を多めにやった彼らのライヴは、メッセージ性のあるラップと低音重視のビートが始終なり続け、エナジーにあふれたパフォーマンスで、この日のフェストを締め括ってくれた。
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そしてDJをメインにした東間屋では、NOTYPE 9、美羽、TOYOMUといった「RADIO SAKAMOTO」のDJオーデションをパスした、とはいえすでに各方面で実力を発揮しているサウンドプロデューサーたちでもあった彼らのプレイから、Dos Monosから没 aka NGS、ヴァイナルもプレイしディープな音の世界を聴かせてくれたChloé Juliette、そしてMars89が安定感のあるベース&エレクトロニックな選曲で最後までフロアを沸かせてくれた。
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2003年から2023年までJ-WAVEにて放送されてきた、坂本龍一がナビゲーターを務めたラジオ番組『RADIO SAKAMOTO』と、2月8日~11日まで渋谷で開催されたアートとテクノロジーの祭典「DIG SHIBUYA」がタッグを組み、新しい形の音楽フェストとして渋谷という音楽と文化の発信地で実現した「RADIO SAKAMOTO Uday」。テクノロジーを駆使した音楽を電子音楽と解釈してもいいのであれば、坂本氏は長年かけてテクノロジーの進化を音楽やアートを通じて、その可能性を追求し続けた正真正銘の芸術家であろう。その活動は世代やジャンルを問わず、世界中の音楽ファンを魅了し、そして影響を受けた音楽家たちは、さらに各々の音楽を突き詰め最高なライヴを私たちにみせてくれた。感動を超えて一言、音楽って最高です。坂本龍一イズムは、この先も私たちがネバーエンディングで受け継いでいくべき“文化”なのではないだろうか。