それは満員に詰め込まれたオーディエンスの熱気と、ニューヨークシティからの「hip hop’s finest」たちによる息吹に包まれた夜だった。
The Beatnuts、Nice and Smooth、D.I.T.C.らが一同に会しLord Finessesのバースデーを祝おうとしているその瞬間。DaboやDJ Hazimeといった日本の大御所たちの姿は見逃してしまったものの、僕の大好きなThe Beatnutsがまさに始めようとしているところにやっとSHIBUYA-AXにたどり着いた。想像通りヤバいパフォーマンスで、ヒップホップクラシック「No Escapin This」そして「Watch out Now」を熱演。oldiesな名曲の数々でフロアをコントロールし、しばし僕をつかの間の時代にトリップさせた。今のアーティストに比べ少し力がなくなってきたかと思っていたが、ステージ上ではまだまだ現役でタイトなショーを見せつけてくれた。
次はいよいよNice and Smoothの番である。 僕にとってこれが初めての彼らのショーケース。Greg Niceはステージではかなりクレイジーだと聞いてはいたが、これほどまでにブチかましてくれるとは予想だにしなかった。Smooth Bは終始落ち着いたフローだったものの、Greg Niceは相当にヤッてくれた。、昔に比べて相当に歳もとっているだろうに、その勢いはとどまることを知らず酔っ払ってるのかと思うぐらいステージ上を跳ね回る、跳ね回る。そして彼の興奮はどんどんヒートアップし、踊りながら、歌いながら、クラウドの中に飛び込み、人の波をかき分けどんどん進んでいく。およそ15分のちステージに這い戻り、熱気を帯びたフロアとステージとに一体感、そして笑顔が生まれた。個人的にはGreg Niceが、文字通りステージに「寝転び」ながら、5分強の間ビートボクシングをしたのが楽しかった。シーンに登場してから約20年が経過しているが、いまだに現役で「FRESH」なサウンドを奏でている彼らに敬意を表したい。
そして最後はいよいよ待ちに待ったD.I.T.C. の番だ。僕は人ごみをかきわけてステージへ向かった。彼らは僕のもっとも大好きなヒップホップクルーの1つである。少々気恥ずかしいのだが、ファンでありながら誰一人としてD.I.T.C.のメンバーのライブを見たことはなかった。残念ながらこの日Diamond Dは病欠。しかしO.C.、Showbiz、A.G.、そしてLord Finesse—ヒップホップの生ける伝説—を目の当たりにし、その歴史の証人となることができた。それぞれのマイクが交互にうなり、そのステージングはスムーズという粋を越えている。
その後それぞれのソロクラシックスを持ち出し始めると、O.C.は「Times Up」で、A.G.は「Soul Clap」で、Lord Finesseは「Hip to the Game」で、フロア共々エナジーとエモーションに満ち溢れ、我々オーディエンスは完全に打ちのめされた。
さらに「Thick」や「Day One」の数バースを披露し、「Big L」に祈りをささげると、会場全体が今は亡き英雄の魂に包まれたように感じた。会場はしばし沈黙に包まれ、彼へささげるナンバー「Tribute」のあと、その功績をたたえるべく「L」のクラシックソング「Ebonics」を披露した。会場の空気はゆらゆらと揺れ、みな「L」のソウルを肌で感じ取っていた。この日本という地で、我々オーディエンスがそこにいて、彼の名前を叫び、彼への愛情を示していることを、あの瞬間「BIG L」は誇りに感じていただろう。
そのあとはしばしライミングから離れ、Lord Finesseはターンテーブルへ駆け寄る。そこで誰もが驚く光景が繰り広げられた。「X-ecutioners」のターンテーブリストであるDJ Boogie Blindとのスクラッチセッションが始まったのである。Lord Finesseはプロデューサーとしてターンテーブルや卓の操作に長けていることは知っていたが、まさかあれほどまでにターンテーブルスキルがあるとは思いもしなかった。かなり「ナスティ」な人物だ。カッティング、スクラッチング、ジャグリング、スピンアラウンド、スイッチング……。本物の「ショー」を見せてくれ、僕はさらにアガった。
終盤にさしかかると、全員がステージから降り、クラウドに感謝の気持ちを示すべく握手をして回った。Greg Niceも登場し、片方の手に半分まで空いたジンのボトル、もう片方の手にマイクを握り締め、かなりの酩酊状態でステージを降りた。最初から最後まで「ILL」でクソドープなショーで、僕には一生忘れられない思い出となった。また近々東京で彼らを見れることを楽しみにしている。Lord Finesseにビッグアップ、そしてハッピーバースデー!
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