REPORTS
>

MUTEK 10(world report)

カナダ最大のダンスミュージックフェス「MUTEK」に潜入 カナダのモントリオールで毎年行われている世界最大規模のダンスミュージックフィスティバル「MUTEK」。今年で10周年を迎えるこのイベントは、屋内外のホールや公園などの会場にて5月27日から31日の5日間に渡って行われた。「MUTEK」はデジタルによって創り出される音と音楽、ビジュアルアートの普及を目的として設立。出演するアーティストのラインナップもさることながら奇抜な目を奪う奇抜で前衛的なビジュアルアートも見逃せなかった。

LOCATION

北米のパリと呼ばれるモントリオールは、ヨーロッパを彷彿させる美しい街並みが特徴 的。そして半分以上がフランス語圏住民であるこの街の看板の多くはもちろんフランス語で書かれている。公共機関を使わなければたどり着けないほど離れてい るそれぞれの会場、馴染みのないフランス語の看板はそのスムーズな移動における最初の難関となった。(もっとちゃんとナビゲーションしてよ…。)しかしな がら公園、バーやクラブ、美術館などを使ったこのイベントは、街中をあげてのお祭りでなければ実現しない規模の大きさ。至るところに掲げられた 「MUTEK」のポスターや看板がそれを物語る。

ARTIFICIEL@PLACE DES ARTS

まず向かったのは美術館「PLACE DES ARTS」。地元モントリオールのアーティストARTIFICIELによる空間インスタレーション。天井に吊るされた電球に高圧な電流を流すことで発せら れる光と音の共鳴。ガラスを指で弾くようなかすかな音や時にささやく声のような音。それらがまるで生き物のように不規則に鳴り、やがて偶然のようにループ を生み出す究極のミニマルアート。うーん、かなりシュール。そしてこの叙情的な暖かみを持つ電球の灯りと、聴覚的な心地良さは得てして眠気を誘う…。旅路 に疲れた者にとって格好の安らぎ場所となった。

MONOLAKE@PLACE DES ARTS

次はミニマルダブの先駆者MONOLAKEとして知ら れるドイツのRobert Henkeと、マルチメディアアーティストChristopher Bauderによるバルーンアートライブ。LEDを内包した64個もの風船が音とともに閃光を放つ。Henke自身がこのプロジェクトについて”今までの 作品の中で最もシリアスな作品”と語っているように、奏でる硬質な音の粒のすべては恍惚へと誘うよう緻密に計算されているという。クリック音に合わせてフ ラッシュを切るようにバルーンのライトが連続的に切り替わる。その白と黒のコントラストが魅せる視覚的インパクト。そこに生き物みたいに渦巻くダビーなサ ウンドが浴びせられると脳はトリップせざるを得なくなる。やばい! 思わず失神するかと思った。

Cyclo@SAT

次の会場は地下にあるクラブ「SAT」。ここにもまた実験的なアーティストが集結。 池田亮司と Carten Nicolaiのユニット、Cyclo。ホワイトノイズに始まりハウリングぎりぎりの張りつめた音や電子的なノイズ音を使って創るカオスにコードやリズム という秩序を与える。点と点が重なりが線になっていくようなそんな音作りはまさしく実験的で、チルアウトさせないストイックな楽しみ方を提供してくれた。

Atom Heart@SAT

近頃おなじみの紳士ライクなスーツ姿で登場したのは、ソロ名義Atom Heart以外にも様々なアーティスト名を使い分け多彩に活躍するAtom TM。クラフトワークさながらの数列やマトリックスを使用した奇妙な映像の上で夢幻のパルスを繰り広げる。コンパクトな動きでありながらある種のポップ感 を感じさせるサウンドは文句なしに気持ちいい。インテリジェンスなビジュアルと裏腹に、頭でっかちにならないセンスの良さはジャンルの壁を越えて様々な世 界を観てきた造詣の深い彼だからこそ。次はALVA NOTE。バッシバシ飛んでくる目の覚めるようなキックと、下へ広がるノイジーな低音。ストライプのカラフルな映像と相まったその音のコントラストに音の 地層みたいなイメージを感じた。体はキックに合わせて縦に動くのだけど、その合間を舞う音の波の中を泳ぐ感覚は爽快そのもの。パルスサウンドの心地良さは 体がよく知ってる。

Mathew Jonson + Dandy Jack / Carl Craig@Metropolis

場 所は変わって「Metropolis」。この会場は円形になっていて二階には映画館のようにたくさんの見物席が用意されている。まるでオペラ劇場みたいな 作りで面白い。入ってすぐにフランスの陽気な三人組dOPのサーカスライクなライブが耳をを引いた。疾走感溢れるビートに抜群のタイム感でジャジーなサウ ンドやカラフルなメロディーを絡めていく。ジューイッシュのトラディッナルな音楽を使用したりするその奇想天外で独創的なスタイルと、バランスのいいポッ プ感は個人的に大好きである。そして、ライブMCまでもやってのける懐の深さも彼らのエンターテインメント性をさらに高めているのだろう。夜も更け、満を 持して登場したMathew Jonson + Dandy Jackのアカデミックなメロディーに重ねるビートの中にある完全に確立された世界観にフロアは躍らされる踊らされる。熱狂。オーディエンスは掌握されっ ぱなし。そしてこの日のトリを務めたデトロイトの鬼才Carl Craigにとどめをさされることとなった。彼のプレイはシンフォニックに静かに始まり徐々にヒートアップ。太くて強いアタックと地響きみたいなうねり、 神々しさすら感じるファンタジスタなシンセのハーモニーがあたりを包む頃、完全に側から姿を消した同行者が最前列で髪を振り乱しながら一心不乱に踊ってい る姿に遭遇。もちろん声はかけない…。様々な国から来ているオーディエンスに関しても同様で例外はない。最後の最後、彼のプレイが終わるまでそんな情景が 続いた。

tobias.@Metropolis / MODERN DEEP LEFT QUARTET@NOCTURNE Ricardo Villalobos + ZIP@PIKNIC

朝が来て最終日の野外メインスレージ 「PIKNIC」。待ってましたとばかりにRicardo Villalobosと盟友であり最重要レーベルPERLONのオーナーZipのバック・トゥ・バックが始まった。3日間に及ぶイベントの疲れを吹っ飛ば すかのごとく会場のボルテージは一気にマックスへ。にこやかにバトンを渡し合い、高いテンションをキープアップする。もっともっとと強請るオーディエンス に眩しい笑顔で応じるRicardo Villalobosの艶やかにフロアを染めるような華麗なプレイ。クールに同じく優しい微笑を浮かべながら虎視眈々と登り詰めるZipのプレイ。いずれ もテクノシーンに多大な影響を与えるふたりの辣腕なプレイが生むグルービーさは他のものとは歴然でこちらも安心して身を任せられる。…とそこに突然の雨。 気づけばどこ吹く風で楽しんでいたオーディエンスをよそに、昨日の青空が嘘だったかのような嵐になった。時間を追うほどに冷たい風も相まって立っているの がやっと。だが驚くほどに客足は引かない。必死にしがみつき、その場に留まって音の洗礼を受けようとするオーディエンスに心を動かされたのかもしれない。 その一瞬一瞬を惜しむように、愛でるように二人のモンスター達は最高の笑顔を見せながら最後まで功名にフロアを踊らせ続けた。無機質かと思えばオーガニッ クで暖かい。繊細にときに大胆に翻弄する。オーディエンスはそれを全身全霊で受け止める。止まない雨と止まらないテンション、益々神がかってくるその音に 呼応して、決して大きくはないその会場の中には一体感とも呼べるものすごいエネルギーが渦巻いてた。そして「MUTEK」はおそらく感覚的な最高潮に達し た。思えば嵐がある種の結束感とさらなるドラマを生んだのかも。疲れ果てたその先に待ち受けた嵐。それでも味わう至極の時間と音に、見渡せばまわりは笑 顔、笑顔、笑顔…。そうか、これが楽園なのか。また行かなくちゃね来年も。