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WOMB ADVENTURE'10

今年で10年を迎え、日本のダンスミュージックシーンに多大な影響を与えた"WOMB"。毎年恒例のDJ MAG誌が主催するTOP100 CLUBS 2009にBerghain(ドイツ)、Fabric(ロンドン)、Space(イビザ)についで4位という快挙を残した 。去る12月4日土曜日に読者には"SUMMER SONIC"の開催場所としておなじみの千葉県・幕張メッセにて"WOMB CRUISE"、"CLUB PHAZON"などのプロジェクトを経て、今年で3回目となる大型屋内フェスティバル"WOMB ADVENTURE"(以下、"WA")が開催された。WOMBは渋谷の中心部に店を構えており、日常生活から近い場所にあるからこそ、その非日常性が際立つのであるが、なぜ都心から1時間離れた場所で"WA"を開催するか、その意図を探るべく会場に足を運んだ。

電車に揺られ21時過ぎにJR線・海浜幕張駅に到着。駅前や会場への道中は人もまばらで不景気の波が大型フェスにも影響を与えているのかという不安を抱きながら入場。(その不安はCARL CRAIGのプレイ中に、ものの見事にかき消える。)

会場へはクローク、ショップのある2Fから入場する。冬のため来場者はクロークでコートを預け、みな軽装に。軽装と言っても、ライブイベントよろしく、Tシャ ツ、ジーンズ、スニーカーではなく、来場者それぞれがクラブファッション、ナイトファッションに身を包んでいた。クラブにとっては来場者の服装もイベント の視覚性を補う上で大事な要素となりうる事をみな意識しているのであろう。しかしハロウィンを少し引きずったようなショッカー団には笑わされた。そしてエ ントランス料金の安さには驚かされた。事前購入でグループ割引では一人5000円、当日でも7000円。この規模では非常に安い。事実、その安さ故に韓国在住の友人もこのイベントのために来日したくらいだ。

YU MARUNO(GLMV.Inc)が制作したエントランスインスタレーションをくぐり階段を下りると、すぐそこには隣接する2つのメインフロア、WOMB WORLD WIDE AREAとWOMB RESIDENTS WITH SPECIAL GUESTS AREAへ通じる。それぞれ"WOMB"の10倍はあろうかと思われる床面積に、これまた10メートルはあろうと思われる天井高、まさに"WOMB"のフロアがそのまま拡大したような空間構成。サウンドシステムは前方のみの配置であったが、会場の左右、後方どの場所で聞いても一定水準で気持ちよく聞く事が出来た。その姿勢にサウンドエンジニアの心意気を感じる。
さらに両エリアとも正面にフルカラーレーザー、LED、照明が配され、"WOMB"の特徴と言えるサウンド、ビジュアル、ライティングのマッチングが完全再現。そしてフロアの後方部の仕切りを潜ると50メートルはあるであろう長いバー、フードスペースヘと繋がる仕組み。その長さ故、ほとんど待つ事がなくドリンクをオーダーする事が出来た。お陰様で酒がすすむ。

ここからは出演アーティストの様子を記していきたい。全てを見るために両フロアを細かく往復をしていたのでミックスの上で大事とされるグルーブを感じる事が出来なかった。簡易的なレポートとなった事をご了承の上読み進めて頂きたい。

まずはドイツからLUCIANO主宰レーベル”Cadenza”の新星、ROBERT DIETZ。今回で2度目の来日となる彼のプレイは、彼のリリース同様、ホーン等の管楽器やピアノリフ、カットされたボーカルを主体としたテックハウスを軸に活動初期を思わせるようなミニマル、ハウスをプレイし、スターターに相応しいプレイを見せてくれた。
"WOMB"が誇るドラムンベースパーティー"06S"のレジデントアーティストとして活動するAKiはいつも通り安定感のあるエッジーなドラムンベースを展開。タイムテーブルを見るまでは他ジャンルよりBPM(Beats Per Minute、曲のテンポを示す数値)が高い、つまりリズムが早いドラムンベースのアーティストAKiはRONI SIZEとともにイベントの終盤でプレイすると思っていた。個人的に完全に裏切られた状態での彼のプレイは安定感を持ってぐいぐい進みながら、フェスに来た観客の高揚感を煽る。つられてフロアは高揚気味に。その流れのままブリストルサウンドの重鎮RONI SIZE。ドラムンベースの元になったジャングルを彷彿とされるトラックを基調に、後に控えるエレクトロのアーティストを意識してか「Justice vs. Simian / We are your friends」ネタの「Bc Nobel / We are your friends (drum and bass remix) 」をプレイ。プロフェッショナルの姿勢を見せつける。

デトロイトシーンで活躍、今年で経歴20年を迎えるCARL CRAIG。 彼はやはり世界を引率するパイオニアであった。スピーカーから流れるサウンドは往年のドラムマシンから生み出されたハウス、テクノサウンドであったが、彼 は巧みにリンゴのついたパソコン、マックを操り、ミックスやトラックのブレイクの合間に派手なスネアロール、クラッシュ、ハイハット連打の上音を足して、 現場感を創出していく。気づいた頃にはフロアはいっぱいの人で溢れかえっていた。そして「In The Trees (Carl Craig C2 Remix) / Ron Trent」に筆者は感動。

代官山のセレクトショップ "bonjour records"のバイヤー、MASATOSHI UEMURA。日本のエレクトロの隆盛を彼抜きでは語る事が出来ないキーマンだ。前半はRONI SIZEのドラムンベース直後もあってか、新しい流れを作るためにシンプルなトラックで展開、途中から今年のクラブアンセムのリミックスをプレイし聞き覚 えのある上音やボーカルを巧みに操り観客をじらす、そのまま近年の流行しているダッチサウンド、アシッドテイストのジャーマンテクノに移行。バイヤーだけ あって新しいトラックの提供の仕方は絶妙であった。
そのままCROOKERSへ。GAN-BAN NIGHT、FUJI ROCK FESTIVALへ出演を果たした彼らは日本での知名度も高い。今回のプ レイは彼のオリジナルトラックに象徴されるようなボーカルを主体にしたトラックを多くスピン。エレクトロ以降のアーティストとして多様性を見せつけるプレ イであった。コード進行を用いたメロディアスなブレイクと、対照的な単音のベースで構成されたシンプルなビートの落差が激しく、何度も高所から突き落とさ れる感覚はさすがの一言であった。

後ろに控えるRICHIE HAWTIN主宰のMINUSのキーマンといえるだろうGAISER。今回の"WA"のコンセプト映像に楽曲を提供したアーティストだ。
彼はこれまでのミニマルアーティストと一線を画す。2010年以降の彼のオリジナルトラックは本当に素晴らしい。これまでのミニマルは極限まで削ぎ落とされた(ミニマルの創始者RICHIE HAWTINのレーベル名のようにマイナスされた)トラックであったが、彼が作り上げるものは削ぎ落とす事だけにとどまらず、パソコンの発達により生まれたクリックと深く混ざり合い、リズムトラックでメロディーを積み上げていくようなトラックを制作する。彼のオリジナルトラックをちりばめたプレイと後ろに控えるPLASTIKMAN LIVEの期待度もあいまってフロアは陶酔。
http://www.youtube.com/watch?v=zrxS_z5D7g0&feature=player_embedded

GAISERのプレイが終わりステージに黒幕がかけられる。クラブではありえない演出にフロアの期待感は高まる。5分ほど経過した後に今回のメインアクト、PLASTIKMANが登場。円形のスクリーンの中に彼が1人で佇む。ビジュアルとサウンドが完全に同期した世界は圧巻であった。"WA"でしか表現出来ない世界感に包まれ踊る事を忘れ佇む観客もいた。Youtubeで海外公演の様子を見る事が出来るので見逃した方はぜひ新しいクラブ表現をその目で見てほしい。

■Time Warp 2010
http://www.youtube.com/watch?v=VDjD0nuh6hY&feature=player_embedded

■We Love Art, Paris, May 8 2010
http://www.youtube.com/watch?v=sxV1cVTEXJs&feature=player_embedded

CROOKERSの後は日本が世界に誇るSHINICHI OSAWA。フロアは超満員。彼が第一線に居続ける理由の1つ はオリジナルトラックの良さもさる事ながら、プレイする楽曲のほとんどを彼自身によってエディットされている事があげられる。それにより彼はオリジナル ティーを獲得するのである。 筆者が会場を往復していたため彼のオリジナリティーを形成する上でもう一つの大事なロック的なパフォーマンス(フロアへのダイブやCDJをギターをプレイするようにサンプラーとして使用)を見る事が出来なかったのが悔やまれる。
SHINICHI OSAWAの後はDARUMAとMAARからなるユニット、DEXPISTOLS。シンガポールのZoukでプレイするなど日本のエレクトロの看板ユニットである。彼らの魅力はヒップホップ、ハウスなどのルーツ、バックグラウンドの広さ深さに加え、一般的にエレクトロと言えばJusticeやDAFT PUNKを想像するが、それにとどまらない新しい音楽に対する雑食性である。近年はポストダブステップ、ポストハードハウスをプレイ、BPMも135近くまで高く設定するなど、新しいミックスを常に提供する。アンコールの後のハウスクラシックの高速ミックスセットにはやられた。また蛇足ではあるが、先日、DARUMAが自身のファッションブランド "ROC STAR" の休止を宣言。今後の動向が注目される。
そしてWWWエリアのトリはスペインからPACO OSUNA。初期はミニマルトラックを制作していたが、テックハウスアーティストのPaul Ritchと共作をするなど近年はグルービーなベースラインを強く押し出したテックハウス色の強いトラックを制作。プレイもそれに近い構成。PACO OSUNAが終わる時まで観客は最後の最後まで"WA"を楽しんでいた。

なぜ"WA"が幕張メッセで開催されるのか。その1つの理由はジャンル、観客のクロスオーバーだろう。1つのフロアでは決して出来ない、様々なジャンルを目的に集まった観客。その観客がジャンルに捕われずに、知らない、既知だけど体感した事のないサウンドをトップクラスのアーティスト、サウンドシステムで楽しむための工夫として2つのメインフロアのシステムがあったのだと考えられる。事実、新しいサウンドを発見した観客は少なくないはずだ。
最後に"WA"はアーティストに加え、VJ、照明、スタッフの協力がイベントを成功させるポイントであった。"WOMB"のレジデントパーティーに大きく関わるNUMAN、NAKAICHI(UNU)、AIBA、SAITOそしてBARではいつもの"WOMB"のスタッフの方々の顔もみられた。気の知れた仲間同士で作り上げたイベントだからこそ、息のあった連携、会場の一体感が生まれ、幕張メッセであっても"WOMB"に来ているような感覚を創出した。そう思ったのは私だけではないと思う。

また来年の開催を楽しみに。


Text by: カノマタケイスケ(varium・Lobstag)
http://varium.main.jp/

Photo by: STRO!ROBO, MARK OXLEY, HIDEYUKI UCHINO, CJ TEAM & HIKARU(CYBERJAPAN)

 

【WOMB WORLD WIDE AREA】RICHIE HAWTIN presents PLASTIKMAN LIVE, CARL CRAIG, GAISER, PACO OSUNA, ROBERT DIETZ, 【WOMB RESIDENTS with SPECIAL GUESTS AREA】CROOKERS, SHINICHI OSAWA, DEXPISTOLS, MASATOSHI UEMURA, RONI SIZE, AKi, LED VISUAL EFFECTS: NUMAN, NAKAICHI(UNU), ENTRANCE INSTALLATION: YU MARUNO(GLMV INC.), LIGHTING + LASER: AIBA, SAITO