現在、世界でもっともリスペクトを集めている日本人アーティストは誰だろうか。おそらくその3本の指に入る人物のひとりが「DJ KRUSH」ではないだろうか。1991年の本格的なソロ活動開始以降、圧倒的な存在感とジャンルやフィールドにとらわれない幅広い活動で「DJ KRUSH」という名は世界中に知れ渡った。ヨーロッパ、アメリカを中心にこれまでに全5大陸、48ヶ国、296都市、延べ400万人以上もの、人種も文化も言葉も違うオーディエンスを魅了してきた。ヒップホップ、そして音楽というフォーマットを超越し「DJ KRUSH」という一ジャンルを築き上げた男が、2011年、ソロ活動20周年をむかえた。
7月29日。オープン時間にクラブへ入ったのは、高校生ぶりぐらいだろう。当時は客が誰もいないのにドキドキしながら過ごしたことがあった。今では、終電で会場に向かい、生活のルーティーンワークと化した夜遊びに、不感症になったのかもしれない。ただこの日だけは、高校生のときの私と同じように純粋な期待を持ち、オープン時間に入り、メインフロアの前方を陣取っている多くのオーディエンスがいた。
23時、DJ KRUSHが登場した。これから7時間に及ぶ純度100%のロングセットが始まろうとしている。ターンテーブルを前にした彼の集中力が伝わってくる。プレイが始まる前に、DJ KRUSHのマネージャーと話をしたのだが、オープン前になんとすでに7時間にも及ぶリハーサルをしたということを聞いて、そのプロ意識の高さには脱帽した。
静かな立ち上がり。寡黙にプレイしていくその様子は、背面のスクリーンに映し出され、プレイに集中している表情が読み取れる。活動初期から振り返っていくような、ディープなアブストラクトヒップホップが続く。一向に手を休めず、1時間が過ぎ、2時間が過ぎる。ビートが早くなりヒップホップからドラムンベースへと変動していく。3時間が経過したところで彼の手が止まり、フロアに対してお辞儀をした。それは、音楽以外でフロアと初めて対話した瞬間だった。
ここから、詳細が明かされなかったライブがスタートされることとなる。まず登場したのがDJ KRUSHのサウンドに欠かすことができない尺八奏者「森田柊山」。普段生で聞くことのない日本を代表する音。そこにDJ KRUSHがトラックとスクラッチが合わさり、やりすぎることなく、空白も混じる"侘び錆び"の世界を表現していった。
そして、近年DJ KRUSHとの共演が多いタップダンサー「熊谷和徳」が登場した。米ダンスマガジンにおいて"観るべきダンサー25人"のうちの1人に選ばれるだけある、芸術的なタップダンスが繰り出される。音楽的にはパーカッションの役割を担っているイメージだろうか。ターンテーブル、尺八、タップダンスと、他では実現しないセッションが繰り広げられていく。
まだまだ、DJ KRUSHに縁あるアーティストが続く。次に登場したのは、2010年2月28日に代官山"UNIT"にて開催された「DJ KRUSH Countdown to 20th Anniversary Special vol.1」にも出演していたMCの1人「RINO LATINA II 」。自由にフロウを変化させながら、歯切れのいいリズム感溢れる言葉が、フロアとの一体感を生んでいった。さらにもう1人MCとして、降神の「志人」が登場する。ヒップホップというよりもストレートな言葉を語りかけてくるMCは、RINOとは対照的で空間の色を変えた。
最後に登場したのが、「こだま和文」。この2ショットが見れるなんて。ステージに登場すると、DJ KRUSHと笑顔で握手を交わす。この日一番のほころんだ顔を見せたDJ KRUSHを見ると、2人の親しい関係性が見えてくる。こだま和文の音色は、儚く優しい。日本人的美意識をヒップホップというフォーマットで表現してきたDJ KRUSHのビート、世界観に非常にマッチしている。私たちは、言葉を奪われたように、ただ音楽に浸るしかない時間が過ぎていった。
スペシャルなセッションが終わり、再びDJ KRUSHのDJプレイに戻っていく。DJ、ライブセッション、DJと、いわば第3部に突入すると、今度はビートが4つのキックを打ち出す。ハウス、テクノ、ミニマル、サイケデリック、etc。その選曲性もプレイスタイルも、やはり4つ打ちDJと異なりおもしろい。彼のプレイするジャンルは「DJ KRUSH」なんだということを改めて痛感する。私は、2010年7月に東京で行われた「AUDIO TOKYO FESTIVAL」でのDJ KRUSHの幅広いプレイを聴いて一発で虜になり、それから行ける公演にはすべて行っていた。普段は1時間~2時間しかプレイ時間がないので、4つ打ちの時間もそこまで長くないが、今日はトータル7時間。この4つ打ち主軸で魅せた第3部は十分に楽しめた。
終わりも近づくとDJ KRUSHを代表するトラック「KEMURI」が流れて、今までの流れを一変させる。そしてここから、「証言」「禁断の惑星」へと続く。「証言」は、RINOも参加していた名曲。「禁断の惑星」は志人がMCを務める名曲。この日、出演してくれた2人に礼をいうかのように、ライブではなくDJとして両者のトラックをかけたDJ KRUSHの粋な計らいだった。そしてここから、最後まで日本語ヒップホップセットが続くのだが、やはりみんな大好きなんだと思う、本当にカッコイイ、日本のヒップホップという音楽を。
この日は、DJ KRUSHの音楽活動20周年でもあるが、もうひとつ大きなイベントがあった。7月29日はDJ KRUSHの誕生日だったのだ。共演者がステージに登場し、RINOがそのことを説明し、こだま和文が「HAPPY BIRTH DAY」を演奏することに、驚きを覚えながらフロアにいた全員で合唱。そして恒例の写真撮影が行われた。なんと49歳。来年には50歳だ。こんなにカッコイイ50歳がいるだろうか?先陣を切って世界に挑み、多くのアーティストの道導べとなり、今なお挑戦し続けるひとりの男。そんなDJ KRUSHに男として心から憧れ尊敬する。
「DJ KRUSHさん20周年本当におめでとうございます」
Text : yanma (clubberia)
Photo : HayachiN
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