すっかり間が空いてしまいましたが、もうTokyo Dance Music Event開催中です。今回は「JEFF MILLS presents PLANETS the Celestial Body Installation」で、サウンドシステムを構築するという重要な役割を担うエンジニアであり、株式会社ヒランヤアクセス代表の藤田晃司との対談です。
彼は奄美大島の皆既日食での船上パーティーでPAをつとめたり、宇川直宏による伝説のクラブ=mixroofficeを手がけるなど、パーティーシーンに密接したPAエンジニア。最近ではRA -energy design-(ラー・エナジーデザイン)というチームを組んで、佐藤タイジさん主催の「中津川 The Solar Budokan」で、ソーラーパネルだけを使った音響システムを構築したりしています。
この対談は、その彼の本拠地である「新木場クリエイティブ・ラボ」で実際にスピーカーを仕込む1週間前に行われました。
Koyas(以下 K): まずは晃司くんの簡単な自己紹介からお願いします。
藤田晃司(以下 F): 職業はサウンド・エンジニアというものをやっております。
はじめてちょうど…今年2017年だからちょうど20年なんですね。
K: 10代から音響屋さんってこと?
F: 18ぐらいからまあなんか始まった感じですね。
K: なんでPAエンジニアになったのかなと。転機はあったの?
F: 転機ねえ、あったね。当時18歳ぐらいの時に高校後半に高円寺のシンセ屋があってね。
K: モダン・ツールス(Modern Tools)?
F: そうModern Tools。まあ、そこに通う様な高校生になってまして。そうすっとバイト募集が貼ってあったのね。「おお!バイト募集!?」って問い合わせたら、社長が出てきて面接をしてくれたんですよ。
そうしたら「いいよ。じゃあ高校卒業したらおいでよ」って言われて。「わかりました!」っつって。で、高校卒業式の次の日から働いてた。
でね、その頃にもうパーティ始めてたんだよね。17ぐらいん時に友達にVitamin-Qとか連れてかれて、18の時にはパーティ始めてて自分もDJするようになってたんだよ。でも、パーティやる所の音が良くないことに気づいていくわけ。
だからパーティーやる時にサウンド・システムを整えるっていうところからが仕込みだったんだよね。
それで楽器屋で働いてると、ある日突然楽器ではなくてスピーカーを売りに来た人がいて、その人が困った顔してさ、「いや~ちょっともう店たたんで来て、これちょっと引き取って頂きたいんですよ」…金なさそうだなこの人、みたいなね。
それで、「社長、なんかスピーカー来たんすけど…」って言ったら「あ~もうやめて!ウチそういうのやってないから!!もう帰して!」って言われて、そこでキラーン!と思って。
「社長!俺直接やってもいいっすか?」「あ~もう好きにして!!」つって(笑)
やった~~!と思って。
「なんかちょっとウチじゃ置けないっぽいんすよ…、もし良かったら…社長にも聞いてきたんですけど、俺直接これやりとりしてもいいっすよ」「本当ですかー!? ありがたい」みたいな。
それでいくらだったっけな、15インチのスピーカー2本で3万だったか5万だったか、そんなのが手に入っちゃってですね、しめたもんだと。これでいつでもパーティできるぜ!って事になっていくわけですよ。
それを転がして代々木公園なんかで始めるようになってね。
K: それが何年頃?
F: それが1998年なんだよ。98年…で、99年もやって。毎週朝前ぐらいから代々木公園が音を鳴らし始めてたような時代で。ジオイドだのVitamin-Qだのリキッドだのでやって、皆アフターでそのまんま流れてくるみたいな。中心部みたいなね。すごい時代だったよね、今思うと。あんな人たちがウロウロしてる公園ってもう…みたいな(笑)。
K: ちょっと今からは想像できないよね。
F: 想像できないよね。まあそういう激しい時代にスピーカーを手に入れてしまい、毎週のようにあそこでやるような事になるわけですよ。
自分のパーティーやってあれをもって回してると、「ねえ晃司くん!スピーカーさ~、あれ今度ちょっと持ってきてくんない?」「いいよやろうよやろうよ、持ってくよ」って。
K: そうなるよね。
F: 「晃司くんあのさちょっと来週なんだけどさ、ちょっとスピーカー…3万でちょっと貸してくれない?」とか。わ、お金になった、みたいな。それが気づいたら、あれ?俺仕事やめれんじゃん!ってなるわけですよね(笑)。
そっからだね、本格的に動き始めたのは。これ独立しよう、ていうか何かやろう、って感じになって。
新木場クリエイティブラボ
K: じゃあ20歳そこそこでPAエンジニア、ていうか音響屋さんになって。ちなみに今はどんな仕事が多いの?
F: 今は…半分はお店の設計、施行管理っていうのが多くなってて。もう半分はイベントの仕事だよね。
K: その内パーティーのオペレートとかは?
F: まあその半分の内にパーティのオペレートは入ってるかな、お店の管理の一環としてね。あとはイベントのオペレートっていうのがあと残り4分の1。もう4分の1ってのが何か色々だよ、RAだったり、アーティストのお世話っていうか、一緒に動いたりとか。
K: 今回のインスタレーションもそこに入るか。
F: そうだね、実験要素というか…うん、そんなバランスかねえ。
K: なるほど、で、ちょっと今インスタレーションの話になったんだけど、今回スピーカー48本立ててやるのに、晃司くんから見てこのインスタレーションこうしていきたいみたいのはある?
F: いやまあほんと、そこにオーケストラが存在するっていう感覚を再現したいなと思いますね。これの面白さはたぶんそこだから。そこが成立してなんぼのシステムというかデザインなのかなと思うから。そこを目指したいな。
K: まあね。ただ、元の音源にはオーケストラだけじゃなくてシンセもあればROLAND TR-909(リズムマシン)も入ってるわけじゃない?だから自分としてはまあそこらへんをうまく混ぜたいなってのは…
ROLAND TR-909
F: まずだからオーケストラの再現と、テクノのうまみを。僕らの世代なりに。
オリジナル・シンフォ・キャンバスとはまた違った色というか、顔が見れればいいかなっていう…とこですかね。
K: このシンフォ・キャンバスみたいな表現方法は、完全に宮本さんオリジナルっていうわけではなくて、1970年代ぐらいからかな、アクースモニウムという表現技法があるんだけど、それの写真見ると指向性のあるスピーカー(注:音を一点に向けて飛ばすタイプのスピーカー)ばっかり使ってるのね。いわゆる普通のラウドスピーカーみたいな形状の。
REXみたいな無指向性のやつ(注:音を周囲に広げるように鳴らすスピーカー)は調べた限りはなくて、そういう点ではやってることはオリジナルなことなのかなと。
無指向性スピーカーREX Photo by 葛西龍
K: そこで、晃司くん的には無指向性・指向性のあるものとか、どう混ぜてくとかどう扱うとか、何かビジョンとかある?
F: それね、前回スピーカーの選定をやった時に見えた事もあるし前から思ってた事もあるんだど。その楽器の…元々の楽器の形に即したものがいいんだろうな、それぞれあてるものはって思っていて。
K: ピアノだったらピアノ型(笑)。
F: まあそこまでできないんだけど、たとえばラッパ?サックスとかトランペットとかトロンボーンとかってのはさ、そもそもホーンじゃない?
だからあれはね、指向性があるんですよ。だからああいうものは指向性のあるスピーカーがいいだろうと。
MA632。通称マイクロ・アレイ
たとえばじゃあ弦モノ?バイオリンとかヴィオラとか…っていったものに関してはやっぱり弦が響いて、全体に響いてんだよね。360度に。だからあれはやっぱり無指向性でやるべきだろうと。なんかそんなような…まあ大雑把だけどすごく今言った事は、そんなようなイメージでスピーカーを今回選んでるから。
Taguchiの無指向性スピーカーMini Bell
K: ほ~。その辺の話は面白いね。もうちょっと掘り下げて聞きたいんだけど。
F: えーとたとえばティンパニだったら…ティンパニ型(笑)。
まあもしティンパニで…タイコ系ね?ティンパニだけじゃなく。タイコの皮があれ鳴ってるわけですよ。360度バーン!と弾けてさ。
だからユニットじゃあ上向きにして鳴らせばそんな風になるんじゃないのかなって思うんだけど、大口径になればなるほどハイが出にくくなってしまうから、そんなような為に今回セルラーグローブというスピーカーを使ってやろうかなと思ってるんだけれども。
球体を4つにカットしたような形のセルラー・グローブ
上に弾けてくようなもんに関してはセルラーグローブみたいなもんで…球面、球体波形という、球体の一部からね…を、切り取ったような形で出るようなスピーカーと、あとサブウーハーも下に向かって。タイコの胴がね、下に向かって出るみたいに。
やっぱりその楽器の鳴り方とか広がり方に即した形でスピーカーをアレンジしたいなあということで今回アレンジしているわけなんですよ。
K: まあ弦ものはREX…だよね?だからそうだよね、そういう胴鳴り感を出す…
ストリングスを奏でるREX
F: うん。まあ弦が響いている、その弦がくっついてる箱が響いている、っていうことってのはやっぱりどっちかって言うと無指向性に近いというか。
指向性がないんだよね、あんまりね。
K: で、逆に指向性を持たせるっていうと…まあ管楽器も管楽器、したらTR-909も?
F: そうね。TR-909も…まあこれ僕らはTR-909というか電子音というものを、スピーカー…今までの従来型のスピーカーを通して聞いているものなので。
やっぱり前からやってくる…音が前からこっちにやってくるというイメージかなと。だからあえてそういうダイレクトに飛んでくるような音をねらって、TR-909に関してはアレンジしているかなあ。
K: なるほど。じゃあシンセに関しては?
F: シンセに関しては…たとえばパッド系の音なんてのは、パッドって結局ストリング系に近いもんだったりとかしてるじゃない?
そうするとやっぱ鳴り響くって意味ではこれも無指向性でもいいのかなとも思ったし。
今回だからモノラルなシンセにはそういった無指向性型として、REXとは違うけれども球体型スピーカー。多面体スピーカーのKiraiを使おうと思ってる。
重さ30kgを超える多面体スピーカーKirai Photo by 葛西龍
K: Kiraiを選んだのには見た目もあるよね。惑星っぽいし。
F: 見た目もあるし。あとそこにあてる音色もこれなら良いだろうっていうところで。
K: ステレオのシンセのスピーカーは?
F: そう、これは結局ね、左右に広げてるぶん距離があるでしょ?
ただまあ左右をあわせて一つの音になるから…
これがね、REXみたいに遠達性の弱いスピーカーとかパワーの少ないスピーカーだとちょっと用が足りないっていうこともあって、
一番後ろに置くから音像が大きくてもいいだろうっていうことで、細長いCMFっていう…まあいわゆるラインアレイの小型バージョンなんだけど。
ラインアレイというかゾイレ型スピーカーになるんだけども。コラムスピーカー。で、まあ全体を覆ってあげるような指向性をねらってる。
シンセを鳴らすCMF
K: なるほど。
F: 指向性が広いんだよねCMFは、130度ぐらいあるから。LRに置いても真ん中までちゃんと聞こえる。
K: サブウーハーはなんか使い分けとかしてるの?
F: サブウーハーは今回、大太鼓の所は15インチのフラット・ウーハーを使おうかと
K: なるほど。他にあと低音が肝になるのは…。
F: ピアノとかね。あとコントラバス用のロウとか。
これは今1番使われてる…1番汎用性のある12インチのサブウーハーを使います。
ピアノ用スピーカー Photo by 葛西龍
K: で、あと909のキック。
F: キックにも12インチを使います。
K: センターのシンセの所にもサブウーハー…
F: これも12インチでやりますね。1個違うのはティンパニは下を向いた10インチのサブウーハーを使います。下向きで鳴るっていう。
K: ほ~~~。床で反射した低音が…
F: そう。ぶわーって回って。360度に低音がいく感じにしようかなと。
K: 面白いね。見た目もけっこう奇抜な感じになるの?そうすると。全部並んで。
F: ちょっと変な格好はしてるよね、うん(笑)。
K: 指揮台に近い弦楽器の部分はほぼREX?
F: ほぼREX。筒型のやつ。コントラバスだけREXのおっきいやつ。
コントラバスを鳴らすREX200とサブ・ウーハー Photo by 葛西龍
K: オーケストラの木管楽器と管楽器は、指向性ちょっと持たして…
F: これも…えーとこれはね、細長いバージョンのツィーター付き。
K: 煙突が立ってるみたいな感じか…。
F: 煙突じゃなくてね。フラットボードという型番なんですけど、これの短いやつらを使ってます。4発入りと6発入り。
あんまり長いとね、音像がでかすぎて。この前にいるREXとかそういうのとスケールがあってこないんだよね。
木管楽器を鳴らすフラットボード Photo by 葛西龍
だからさっき言ったシンセみたいに1番後ろに配置するものとか音像が大きかったりしても、後から混ざってこう全体で…まあ距離もあるしね、いいんだけども。
やっぱりこの手前のREXみたいな小さい子たちに対して、この真ん中の…中間の列にいるやつらがちょっと音像が大きすぎると、ボリューム下げなきゃならないだけになってくるから、そうするとちょっと音のスケールが変わっちゃうと思うんですよ。
だからなるべくその…ドライブ感っていうのはそんなに差が出ないような形で音量が合うように、ユニットの少ないものを選んでます。
TR-909のキック用セルラー・グローブ(上)とサブ・ウーハー(下)Photo by 葛西龍
K: 次は…TR-909はどういうスピーカー使う?
F: TR-909も…CMFっていうのをLRには使おうかと。
それとキック、今も現状キックとLRに分けてしまっているのでそんなにバリエーションあるわけじゃないんだけれど、さっき言ったキックは…キックのハイにセルラーグローブ、キックのロウに12インチ、4発ってのを考えてんだけど。
これを2発でやるかどうかと…いうところですね。
K: なるほど。その辺は今の段階だと全部机上の空論だから(笑)。
F: うん、そうなの。実際並べて出してみないとわかんない事が多いですね。
仕込み前の新木場クリエイティブ・ラボ
実はこの対談が行われた時は、Jeff Mills立会い前でまだ何も仕込んでいませんでした。実際に設置が終わって聞いてみると、晃司くんの選んだスピーカーは、この話の通りの音を奏でていました。
この「JEFF MILLS presents PLANETS the Celestial Body Installation」は、
11月30日(木)〜12月1日(金)に開催される第2回TOKYO DANCE MUSIC EVENTで初公開されます。このTDMEは、日本初のダンス・ミュージックに焦点をあてた音楽カンファレンス。世界中で愛されている「ダンス・ミュージック」をキーワードに、日本のエンターテインメント業界全体の新たなチャンスを探求するべく、主に世界中の音楽業界で活躍中の著名なプロデューサー、アーティストに加えて、新しいミュージック・ビジネスの形を産み出すべく、テクノロジーや配信の分野で音楽業界をサポートして下さっている企業の方々、音楽を活用した魅力的なコンテンツを創造なさっているクリエイターが多く登壇いたします。詳細についてはウェブサイトを御覧ください。
ウェブサイト:http://tdme.com
日程:11月30日(木)、12月1日(金)
11月30日 10:30 - 19:15(20:00 – 21:30はVIPパス持ちの方のレセプション)
12月1日 10:30 - 17:30
会場:渋谷ヒカリエ 9F ヒカリエホールA、B、
「JEFF MILLS presents PLANETS the Celestial Body Installation」上演時間はこちらです。
12/1
14:15-14:50 : Part 1
16:10-16:50 : Part 2
Facebookイベントページ
https://www.facebook.com/events/1731756137120347/
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