ダバオ市カムス出身の“DJ Love”ことSherwin Tunaが、実家のネットカフェ脇の小部屋でBPM140の単調な四つ打ちループを制作したのは2000年代中頃。やがてジープニーのクラクション、鳥獣の鳴き声、ホイッスル、笑い声、ネットミームなど、生活のあらゆる喧騒を取り込みながら、実家から隣家へ、隣家からストリートへ、ストリートから隣町へと、その奇怪なダンスを伴って伝染していく。やがてBudotsと名付けられたこの音楽はSNSの爆発的拡散と政治利用によって──一度もクラブを経由することなく──国民的ADMとして知れ渡ることになったが、その“不真面目さ”ゆえに知識層や文化層から毛嫌いされ、「低俗」の汚名を着せられてしまう。時を経て2023年、DJ Loveがロンドン発の配信プラットフォーム「Boiler Room」でBudotsを披露すると、世界中のダンスミュージック愛好家たちに少なからぬ衝撃をもたらすこととなった。
今回来日するobese.dogma777は、この西洋の権威をストレートに強襲した“事件”の首謀者であり、またマニラの電子音楽シーンを長く耕し続けてきた気概あるプロデューサーでもある。2010年代から抱き続けてきたBudotsへの特別な想いが結実しつつあるいま、彼はこのADMを新たな次元へと引き上げるべく「Post-Budots」という主題を掲げ、東南アジアの島国からダンスミュージックシーン全体に蔓延る停滞感、エリート主義、政治性に揺さぶりをかけるのであった。
迎え入れるDJ陣──Soi48、YOUNG-G、MMM、Koichi Tsutaki、Aoki Lucas、RICH & BUSY、Dynamite Kid──も前回開催から旅を重ね、MMP220もパワーアップして準備は万端。さらにイベント前日の10月4日(土)には、obese.dogma777をゲストに迎えた「OMK Meeting」の開催も予定している。3ヶ月連続企画の幕開けにふさわしいプログラムを、ぜひ現場で体感してほしい。
■obese.dogma777 (from Philippines)
フィリピン・マニラを拠点にする音楽プロデューサー/DJ・Jorge Juan B.によるプロジェクト。かつては「similarobjects」の名で電子音楽を制作し、「Manila Community Radio」の共同創始者としても知られる彼は、ポストモダンなクラブサウンドを通じて、秘教的で過剰主義的な音楽世界を構築する。ポップカルチャーからネットミーム、オカルティズム、ハイパーリアリズムといった領域からの影響を有機的に混ぜ合わせながら、メインストリームのクラブ的パターンを再文脈化し、伝統とデジタル・グロテスクの境界線を曖昧にするようなサウンドを志向している。