高宮:前回の『SIENT DREAM』を制作してから分かったことですが、この作品って実はすごく繁雑な作業なんです。いわゆるミックスCDのように楽曲と楽曲をつなぐだけじゃない。楽曲を一度解体、再構築して、っていう編集能力が問われるシビアな工程なわけです。だから気軽に頼めないんですよ(笑)。そんな時にTom Middleton(UKのチルアウト/テクノ・プロデューサー)の来日公演で池田君と偶然会って、そこで話しをしていて「彼なら大丈夫だ」と確信しました。
池田:いやぁ、完全に手探りの状態でした。全編リエディットを施してミックスCDを作るなんていうことはやったことがないから(笑)。フラワーの膨大な量の作品から選曲するのは大変でしたねぇ。選曲だけでも3ヶ月くらいかかったかな。とはいえ僕もフラワーレコーズのファンの一人だから、DJ冥利に尽きるというか。で、3ヶ月経った時点で100曲まで絞って、本格的な作業はそこからでした。正直、途方もないなぁって(笑)。でも巷によくあるような30曲とかを細切れにエディットして収録、みたいな形にはしたくなかった。やっぱり全体の流れを聴かせるような作品にしたかったから。
池田:月並みなチルアウト作品にしたくなかったのがひとつ。僕から見たフラワーの特色を表現したいなぁっていうのがひとつ。それに作品としての気持ちよさを尊重した作りにしたい、っていう3点かな。
池田:そうですね。でも、出来上がった頃にはまったく違うものになってたね(笑)。カット&ペーストして、抜き差しして、エフェクトを掛けるときには自分の想像を裏切る感じになったってケースは多々あるなぁ。
高宮:手法的に言うなら今回はダブアルバムと呼んだほうが誤解が少ないかもしれないですね。作業工程だけを見たら完全にそうだから。
池田:Little Big Beeの“Waterman(SILENT DREAM VERSION)”ですかね。これは冨田勲さんみたいなニューエイジ感が出たんじゃないかな(笑)。
高宮:僕が伝えた『SILENT DREAM』のコンセプトをしっかり体現しているなと。それと同時にダンスミュージックとしての機能性はしっかり残しているんだよね。チルアウトなんだけど踊れる構成にもなっている。そこは興味深かったですね。
高宮:大まかに捉えると、刺激的なものの対極にあるものってことなんだけど、ただ必ずしもそれが無刺激かといったらそうじゃない。逆にそっちの方が刺激的だったってこともあり得るわけです。それと12インチでカットする為の作品ではないということ。あとはDJ各々の感覚なんじゃないかな。僕が担当した前作はヒーリング的なものに近いし、池田君はまた違う感覚で捉えていると思います。
池田:チルアウトって言葉で連想するのは海だったり水だったりするのが一般的かもしれないけど、今回に限っては山とか砂漠、滝みたいなイメージを表現したつもりです。
池田:そう。これはある意味で日本人独自の解釈なんじゃない?そうじゃなくてもKLF『CHILL OUT』の羊の声から20年近く経っているわけでしょ。すごく裾野が広がっているよね。
高宮:それにすごくカジュアルになったとも感じる。生活の一部に溶け込んだというか。だいぶ租借が進んでいる証拠ですよ。それに極めて東京的なムーブメントだと思っているんですよ、チルアウトって。だからすごく可能性を感じています。ひとつの捉え方のみではなくて、いろいろな音楽スタイルを取り込んだジャンルに育ってきてるんでしょうね。発展の余地がまだある。アッパーな音楽が増えてきてるから、その反動で時代がチルアウトを求めている気もするんだけどね。
高宮:うん。揺り戻しというよりも、アッパーなものとも両立し得る価値観なんだろうな。
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