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The Orb

1988年の結成以降、テクノというフィールドに限らずさまざまなジャンルで新しい音楽を生み出してきたThe Orb。それは歴史あるUKダンスミュージックシーンにおいて、つねに最前線で“The Orb”らしい作品を発表してきたことからもわかるだろう。今回、7月4日(土)に代官山UNITで来日公演を控えている彼らに、リリースされたばかりのニューアルバム『Moonbuilding 2703 AD』について話を聞くことができた。今まで以上に洗練された音で形成され、ダブやヒップホップ、ファンクからクラシックまでありとあらゆる音楽を垣間見ることができる本作。一体何を思い、どのように制作が進められたのだろうか。これまでに発表してきた作品を振り返りながら、その魅力に迫った。

 

 


「月を地球の培養器としてとらえる、そういう世界をクリエイトしようとした」


- 今作『Moonbuilding 2703 AD』は、非常に洗練されている印象を受けました。過去の<Kompakt>からのリリースでも同じような印象を受けたのですが、今作では、いかにミニマルにしてThe Orbの音を出すかに挑戦しているようでした。実際には、どのようなコンセプトのもの作った作品だったのでしょうか?

このアルバムの基本的なコンセプトと言うと…俺たちはある種の世界というか、月を地球の培養器としてとらえる、そういう世界をクリエイトしようとしたっていうか。“Moonbuilding”というコンセプトには、ある考え方が存在するんだよ。というか、コンスピラシー説かな。その考え方/コンスピラシーというのは、「月は何者かの手によって造られた」っていうものなんだけど(具体的に『Who Built The Moon?』という2005年出版の本を上げています)、それは本質的に「月を造った連中達は未来に月を生み出し、そこから時間を遡って現在に置いたのか」、あるいは「彼らは過去に月を造り、未来へと月を飛ばしたのか?」という話でね。だからこのアルバムではさまざまな異なる時間構成が組み込まれているし、少なくともリズムに関しては内面でさまざまなパターンが入り交じっている。というわけで…そうだね、これはベーシックな「コンスピラシーアルバム」ってことになるよ。


- 「コンセプトアルバム」と呼ぶこともできますか?

今言ったようなアイデアがあるからそうなのかもしれないし……ただ、俺自身としてはコンセプトアルバムではなく、これは「Opus」(※クラシック音楽作品で使われる「作品名/作品番号」のこと)と呼びたいところだな。というのも、この作品には確実にクラシック音楽の要素…、たとえば楽曲の長さやその構成といった面、ひとつの楽曲がその内部で変化を重ねながら発展していくような、クラシック的な要素があるし。だから、この作品はいわゆるごく一般的な四つ打ちの「クラブミックスアルバム」だとか、あるいはありがちで普通な「ポップソング」ではないってこと。


- その一方で、タイトル曲である「Moonbuilding 2703 AD」は、ブラックミュージックの持つグルーヴとセクシーさがありました。それもレゲエ、ダブではなくヒップホップ、ディスコ的な要素で。こういったトラックを作ったのはなぜでしょうか?

なぜかって? そりゃあもちろん、俺たちはああいう曲を作ることができるからだよ。自分たちにはああいう曲を作るスキルがあってできたことだし、他のブラザーたちに向けての呼びかけみたいなものだよね。


- また、このタイトルの意味は?

このタイトルの「2703」っていうのは、実は俺のふたりの子供達の誕生日から取った数字でね。ひとりは27日生まれで、もうひとりは3日に生まれたっていう。ただそれだけのことで、それ以上の意味合いはないんだよ。あと、このアルバムに、俺はなんというか、未来っぽい雰囲気を与えたかったのかな。とにかく自分にはピンときたんだよ。奇数の数字っていうのもそれっぽいし、とにかく「2703」はハマるし、未来っぽい雰囲気の数字だなと思った。23世紀でも、24世紀でも、25世紀でもない。それよりも遥かに先の未来ってことだし。その時、一体どうなってるんだろうね。男たちが子供を産むようになり、女たちが労働のすべてを担当したり、「2703AD」はそんな未来世界かもしれないよな(笑)。


- はぁ…(笑)。

いや、これからどうなるか誰にも分からないんだし、可能性はありだろ(笑)。フフフフフ…いやもちろん、今言ったのはほんの思いつきだけどね!

 

 

 


- そして、アナログ盤にはJ Dillaのトリビュートトラックも入ってますよね? これは、もともと彼が好きで影響を受けたからか、それとも彼のサンプリングスキルに敬意を払ってのものなのでしょうか?

そうだね。J Dillaに、それからMadlib、基本的にはそのふたりになるけども、俺が彼らの音楽を聴き始めた頃、彼らも俺がThe Orbで使っているものと同じサンプルを多く使っていることに気づいてね。要するに、俺たちも彼らも同じような発想から出発していて、実はそんなにかけ離れていないんだなと。それで彼らの音楽に惚れ込むことになった。俺はJ Dillaの『Donuts』はおそらく史上ベストなアルバムだと思っているし、彼があのアルバムを作るために使ったトラック群の出典を探っていくと、同じDJとして実にインスパイアされるんだよ。こういうアルバムをDJは作れるんだってね。インスピレーションを受けるって意味で、あのアルバム以上の作品はほかにないよ。あの作品のサンプルソースを探っていって、元ネタが何かを突き止めていくと、それこそ扉がバーンッ!と開くというか、たぶん君がまだ聴いたこともないような、実に素晴らしいソウルレコードの数々に出会えるよ。


- あなたですら知らなかったようなレコードでしょうか?

うん、俺ですら未知のレコードだね。


- それは驚きですね。

いやあ、別に驚きでもないし不思議でもないよ。音楽の網目というのはとんでもなく広大で巨大なものだからね。たぶん、俺はレゲエ音楽のコレクションなら相当に素早く聴きこなしていくことができるだろうけど、60年代のR&B/ソウル音楽のコレクションとなると、どこから手をつけていいのか分からないし、お手上げだ。知識がないと当たり外れも激しいからね。でも、俺にとってはそれも楽しいんだけどね。いまだに俺が楽しめているのは、音楽にはそういう要素があるからなんだよね。誰も見向きもしないような珍盤の数々を試しに聴いてみたりね。そうそう!この話題で今急に思い出したんだけど、実は自分のインターネットラジオ局をスタートさせてね。それを聴いてもらえば、今話したようなことが理解できるかもしれないな。ラジオは英時間の正午からスタートして、午後6時に終了するたかが6時間の番組ってこと(笑)。もともとはちょっとしたプロモーションみたいなものとして始めたんだよ。でも、そのステーションではこれから、俺のさまざまなラジオミックスが毎日オンエアされることになっているんだ。局の名称は「WNBC London」(https://www.facebook.com/wnbc.london
だから、よろしくね。とは言っても本当にごく小規模なプロジェクトで、まだfacebookのページくらいしか作ってない状態なんだ。だから本格的に発信していくのはこれからだし、実は第1回目の放送も先週行ったばかりで。

 

 

 
「サンプリングに対して不安を感じたりするべきじゃないし、とにかく理解しようとしてみて、その上でサンプリングを楽しんでみるべきだ」



- チェックしてみますね。さて、The Orbについて少しお聞きしたいのですが。最初にJimmy Cautyがサンプラーを買ってきて、それを触りながら音を作っていたら、その音をJimmyが気に入ってThe Orbが結成されたんですよね。あなたにとってサンプリングという行為は、どのようなものなのでしょうか?

まず、Jimmyが買ってきたのはサンプラーではなくてシンセサイザーだったんだよ。俺にはシンセサイザーを扱う心得があったし、彼のためにシンセを始動させてあげた。彼がシンセで音を作れるように手伝ってやったっていうのかな。そこから「一緒にトラックを作ろう、バンドをやろうぜ」と話が広がっていった。彼が買ってきたのは古いOB-Xで…あれはヤマハのシンセだったのかな?(※OB-Xはオーバーハイム社製)いや、たぶん違うな。ともかく、OB-Xって名前のシンセサイザーだった、それは間違いない。かなり古い途方もないシロモノで、非常にダークでミステリアスな雰囲気のコードが出せるマシーンだった。まあ、基本的にはそうやって始まっていったんだ。そして、その次の段階がサンプリングだった。というのも、彼は俺がDJだということを知っていたからね。だから冗談のように話が進んでいって、「よし、次はレコードだ、一緒にレコードを作ろう」ということになり、サンプラーと古いヤマハのシンセ、確か機種は650か何かだったと思うけど、30分ほどダイレクトにプレイしたところでそれまで作った音源をすべて失い、何もかも1からやり直すことになったりね(笑)。あれは本当にきつかったなぁ……。そのあと、シンセも進化して700が発表され、続いて750が登場という調子で、とにかくもう煩雑になる一方で、やってられるかって感じだった。ところがパイオニアから小型のミキサー(8秒のサンプリング機能付きの商品)が発表されて、しかもそれを使えばサンプル音源を実用DJ向けのモジュールにストレートに移し替えることも可能になって。そこから、サンプリングのノウハウや、なぜサンプリングを使うのかを学ぶことができるようになったという。まあ、昔話だけどね。


- あなたがサンプリングという技術を発見したときは、大きな「天啓を受けた」というようなものだったのでしょうか。「これで自分も音楽を作れるようになった」というような。

基本的にはそういう面もあったんだろうけども、サンプリングをやり始めた最初の頃は、ゲームをやってるようなものだったんだ。やっていて面白い遊びのようなものだったし、当時は今のように、他の連中(※サンプルしたオリジナル音源の権利所有者)のために利益を生み出すハメになるという側面はまだ関与してこなかった。だから誰からもケチをつけられなかったし、俺たちも実際にサンプリングを楽しみながらやっていた。最初にサンプリングをやったのは「A Huge Ever Growing Pulsating Brain That Rules From The Centre Of The Ultraworld」で、あの曲も20分ほどある“Opus”と呼んでいいトラックだけども、それを1989年の頭にリリースしたんだ。あの曲は1988年夏の段階から取り組んでいたもので、最終的には89年に発表することになった。それから89年の冬に、「Little Fluffy Clouds」に取り組み始めた。ただ、サンプリングの楽しかった部分が、レコードレーベルという名の“金儲けマシーン”の介入によってにっちもさっちもいかない泥沼状態に入ってしまったという。俺たちはもうあの頃味わった苦さからはもう距離を置いているんだけどね。というののも、今回の『Moonbuilding 2703 AD』は間違いなく幸福感や喜びといった要素を持つレコードだし、それは俺達のファーストシングルだった「A Huge Ever Growing Pulsating Brain That Rules From The Centre Of The Ultraworld」にもあった要素だから。ちなみに、あのシングルのタイトルは世界一長いもので、The Orbの歴史の話をすると、俺達はこれまでイギリスのトップ100シングルチャートにランクインしたシングルの中でもっとも長い曲を出したこともあるんだよ(※「Blue Room」のこと)。約40分弱もある曲でさ(笑)。あれがチャート入りしたことで、Top Of The Pops(※英BBC制作の音楽チャート•カウントダウン番組。スタジオ出演者のほとんどが音源に合わせて生ではなく口パクで演奏することでも知られる)に出演することになって、その際に俺たちはステージでチェスをプレイしたっていう。あの光景は、たぶん家のテレビでTOTPを観ていた人たちにとってはちょっとした“発見”だったんじゃないの?


- ははははは(笑)。

それに、俺達はその後、3年後くらいにTake That(イギリスのポップグループ)と共演もしたんだよ。Robbie Williams(元Take That)にスタジオで出くわしたことがあって、その出会いをきっかけに「I Started A Joke」っていう、Bee Geesのカヴァーを一緒にやることになったんだ(※1998年発表のBee Geesトリビュートアルバム収録)。


- 意外ですね。

あのトラックのことはあんまり多くの人に知られていないんだ。それから、俺達がUKトップ5シングルを放ったのは「Toxygene」というトラックで、あれはもともとJean Michel Jarreの「Oxygene」って曲(※「Oxygene 8」のこと)のリミックスとして始まったんだけど、彼があのヴァージョンを気に入らなかったから自分たちでシングルとしてリリースすることにして。結果的にあれは俺たちにとって初のトップ5シングル、英チャートで最高4位に達するヒットになったんだよ。


- サンプリングに関しては、よく著作権の側面やアートとしての側面で議論されますが、どのように考えてますか? あなたが関わったKLF(Jimmy CautyとBill Drummondによるハウスユニット。チルアウトというジャンルは彼らが発表したアルバム『Chill Out』から生まれた)でも、よく問題になっているようでしたが。

そういうことはサンプリングに限らずエレクトリックギターや、あるいはシンセサイザーについても(それらの楽器が登場した当初から)議論されてきたんだよ。だから、時代の進化につれて論議の対象も変わるし、とはいえ物事が変化してテクノロジーが発展していく状況を止めることは不可能なんだから、「いい加減諦めろよ!」って思うよ(笑)。それくらい単純な話だよ。諦めて無視することができないのなら、逆にそのテクノロジーと親しくなる方が良いだろうな。


- それでも、まだサンプリングに関する訴訟を起こす人はいますよね?

そりゃそうだよ。ただ、そういった連中も諦めざるを得ないだろうね。だって、変化していく時代の趨勢に合わせていかなくちゃいけないし、サンプリングというテクニックは頑として存在してしまっているわけで。いくら権利者側が不平を垂れたところで、サンプリングという行為が消失するってことはないんだよ。それでもブーブー文句を言い続けているような連中はいずれ、「物わかりが悪い、考え方が古いうんざりするような奴らだ」って思われるのがオチだって(笑)。それに今の若い世代の連中の感覚からすれば、「なんで自分達のやりたいことに対して、どっかのおっさん達から『サンプリングは悪だ、禁止』なんて指図を受けなきゃいけないんだよ」って思うだろうし。だから、もしも作る側がとてもクリエイティブだったら、その人間にとってサンプリングを使うという行為は恩恵になるべきなんだよ。だから、サンプリングに対して不安を感じたりするべきじゃないし、とにかく理解しようとしてみて、その上でサンプリングを楽しんでみるべきだと思う。それに、わざわざ権利者側に「あなたのこの曲がサンプリングされてますよ」なんて告げ口するような人間は、実際そんなにいないものだしね。だって、たとえばアルバム1枚が丸々サンプリングから成り立っているような作品だとしても、ほとんどの人間はその中から1個のサンプル音源すら聴き分けることができないんだから。といっても、別に俺たちはジョークとして、人々を担ごうとして音楽を作ってるわけじゃないんだよ。とにかく俺たちは、自分たちが作りたいと思ったその通りのやり方で音楽を演奏している、それだけのことだし、それにこういう手法で音楽を作り出すことをエンジョイしているだけだよ。



- 現在の音楽制作でおふたりの役割はどのようなものでしょうか?

大体のプロセスというのは、俺があるサウンドを拾い出して……。たとえばハサミで何かを切る音があったとして、その音をハイハットのサウンドへ変えていくわけ。もちろんそこからさまざまなエフェクト類を加えていくんだけど、相方のThomasがそれらをコンピューターに取り込んでいってくれる。だから基本的には、彼がコンピューターを相手にしながらマウスを操作していく役目で、俺はそのコンピューターにサウンド源をフィードしていく側だな。そこから2人でコンピューターの画面とにらめっこをしながら、細かなブロックごとに分けられたものをLogic(音楽制作ソフトウェア)上でひとつのトラックに構築していく。そこからAbleton Live(音楽制作ソフトウェア)にファイルを移していくんだ。

 

 

 
「長く続いてきた状況に変化が生まれるのは誰だって苦手だよ。そういう変化は起きてほしくないだろ?」



- 『The Orbserver In The Star House』では、ご自身も影響を受けたとおっしゃっているLee "Scratch" Perryとの作品となったわけですが、アーティストとして、または人間として彼から学んだことは何でしょうか?

俺は、実際に彼と会うずっと前から多くのことを彼から学んできた。それは「日常的に転がっている色んな音から音楽を作り出すことは可能だ」ということなんだよね。彼はそのプロセスを何十年とやってきた人だし、彼が長いキャリアを通じてやってきたことは、ごく普通の音を使い、その上に音楽を乗せるってことだったわけ。俺たちがやってきたのもごく普通の音の上に、色んなノイズを乗せるってことだし、さらにその上にノイズから作り出した音楽を重ねて被せるという。でも、ぶっちゃけたことを話すと、彼は俺たちのそういうやり方には、やや反対っていう姿勢だったね。


- そうだったんですか?

まあ、俺からするとそれってちょいと無用な敵対心の表れじゃないかって思えたけどね。一方で、彼のような天才が意味もなく不和を唱えることもないだろうと。だからまあ、彼には俺たちのメソッドに対する意見があったということだし、俺としては彼が(賛成であれ反対であれ)意見を持ってくれた事実そのものを尊重した。ところがしばらく経って、一緒にやり始めて3、4日目くらい経ったころだったと思うけど、彼は俺たちに向かって「この音楽、良いな」って言い出して、気に入り始めてくれてね。だから、彼も俺たちのやろうとしていることを飲み込んでくれたっていう。でも、共演時に彼は76歳だったわけで、その点ひとつとっても、やっぱり彼には最敬礼せざるを得ないよ。あれくらい歳を取ると、誰だって「変化なんてご免」なわけ。変化したくない、変化を嫌うってのが普通だし、「長く通っていたお気に入りのお菓子屋が閉店して悲しい」とか、「父親が亡くなってショック」とか、長く続いてきた状況に変化が生まれるのは誰だって苦手だよ。そういう変化は起きてほしくないだろ? これは彼の音楽にも当てはまる話なんだけど、Lee "Scratch" Perryというのは、古典的なレゲエのスタイル、すなわちブラス隊や女性シンガーたちを多く使ったスタイルも受け入れたレゲエアーティストのひとりなわけだけど、俺たちはそのスタイルを次のレベルへと持っていきたかった。それこそ25世紀まで引っ張っていきたかった。最終的にそのイメージを彼が理解してくれて、変化を受け入れてくれた。それに、あの経験はやっぱり素晴らしかったし、あのプロジェクトで彼がもたらしたものは、何よりもあの素晴らしい“声”というか。彼のあの素晴らしく詩に満ちた“声”っていうのかな。たとえばあの場に湖があったら、彼はその上を歩いてるって感じだったね。もちろん彼が(聖人のように)水の上を歩いてみせたわけじゃなかったけど、こっちとしては一緒にいて、彼からそんな印象を受けたよ。


- 『Adventures Beyond The Ultraworld』や『U.F.Orb』は特に名盤として人気ですが、当時のことを振り返ると、作品や音楽シーンについて今だから思うことはありますか?

まず、例に挙げてくれた最初の2枚のアルバムに関して言えば、まず、すごいヴォリュームの作品だったわけだよね。『Adventures Beyond The Ultraworld』は104分、『U.F.Orb』は確か、トータルで74〜75分近くの大作だった。その尺を1960年代、あるいは70年代にレコードを作っていたバンドの多くに当てはめると、その長さだけで彼らの初期アルバム5枚分くらいに匹敵するんだよ。だから俺たちは、昔の連中にとってのアルバム5枚分くらいの内容を、自分らの2枚組デビューアルバムに凝縮してみせたわけだ。しかも、そのダブルアルバムからはリミックスアルバムも生まれたし、あのリミックスアルバムは自分たちでもすごく誇りに思っている内容なんだ。まあ、ファーストアルバムの美しい点がなんだったかと言えば、俺があの時点で何をしようとしても、ほんとに放ったらかしで口を出されなかったってところなんだよ。「お前に2万ポンドやるから、その金で何かやってみろ。レコードを1枚作ってくれたら、その後はこっちで何か考えてみるから」みたいな感じだった。とはいっても、アルバムをやる前の時点で俺たちには「Little Fluffy Clouds」や「A Huge Ever Growing Pulsating Brain That Rules From The Centre Of The Ultraworld」といった実績があったわけで、俺たちに音楽が作れることくらいレーベル側も知っていたんだよ。だから、「こいつらがやれるか否か?」ということより、「一体どんな音楽を仕上げてくるか?」ということがポイントだったんだよ。誰にも口出しされずに好きにやれたし、誰からも干渉されずに作ることができた作品のひとつだったね。こうして振り返ってみると、今回のアルバムに近いかもしれない。あのアルバム制作のとき、俺たちはすっかりスタジオにカンヅメで、5日間ぶっ通しでセッションといった調子だったから。本当に誰も俺たちに構うことがなかったからね。彼らからしたら、当時の俺たちが何をやっているのかさっぱり分からなくて、それで放置してたのかもしれないけどね(笑)。


- 90年代イギリスのエレクトロニック/ダンス•ミュージック•シーンというのは、現在に較べて概して自由だった、レコード会社の手綱が緩かったと言えますか?

そうだなぁ、それもあったけど、今よりも遥かにDIYなシーンだったんだよ。たとえばの話、もしも既存のレーベルと契約しようと思ってやっていたら、誰も俺たちの作品を出さなかっただろうし、The Orbそのものも存在しなかったと思うよ。だから自分たちでレーベルを設立して、他のレーベルの手を借りずに自分たちの手で何枚かの国内ヒットを生み出すことができたわけ。要するに、自宅からヒットレコードを送り出すことも可能だったんだ。でも、何もかも完璧で安泰なはずがないし、晴れの日もあれば雨降りの日もあるけどね。でもとにかくあれは非常に活気に満ちていた時期だったよ。おそらくブートレグ行為が台頭するようになる前の最後の時代だっただろうね。今は誰もがウェブから無料で音源をゲットしているわけだし、それによって音楽産業の旧来の仕組みはブチ壊され、そこから“Apple”という名の怪物が生み出されてしまったから(笑)。


- 確かに、あれは巨大な怪物ですよね(笑)。

うんうん、ほんとに。デジタルな世界が万国共通のものになってしまったんだからね。


- 自分はiTunesストアだけはまだ使ったことがないですけど。

そりゃ大したもんだな! 俺もパートナーとそれについては話したんだけど、iTunesを使わない派は彼女だけで、俺は使ってるから。俺はどうやっても聴ききれないくらいのすごい量の楽曲をiTunesに保存していて。コンピューターはいくつか使ってるけど、そのどれもが音楽でメモリーは満タンで、音楽以外はこれといって何も保存してないんだよ。そう考えると自分の日常生活がいかに退屈なものかって気もするけど、少なくとも音楽に関して俺は退屈な人間じゃないんだからそれでいいかってことで。

 

 

 
「日本人から多くの人間が学んでくれたらいいのにと思うくらい、学べることはたくさんあると思う」



- 初来日はいつでいたか?『U.F.Orb』をリリースしたときでしょうか? その経緯や、ギグを行った場所、日本での思い出やエピソードなどがあれば教えてください。

The Orbとしての初来日はいつだったっけなぁ……。自分がDJとして初めて日本に行った時のことは覚えてる。やっぱり初体験はいつだって忘れられないものだからね。そのときは、Peter Hookがソロでやってたバンド、Revengeにくっついて行った時だったんだ。だから、たぶん1991年頃のことだったと思う。


- そうだったんですか。じゃあ、彼らのライブの前座としてDJをやった、みたいな?

うん。確か日本で4公演やったんじゃなかったかな。


- そのときの思い出で、今でも記憶に残っていることってありますか?

そうだなあ…会場は確かクラブだったんだけど、ホテルがクラブと階段で繫がっているような仕組みの建物でね。だからこう、全然外気が入ってこないような密閉空間で、俺はものすごく具合が悪くなっちゃったんだよ。俺はその晩のライブに備えてステージエリアに待機してたんだけど、バックステージに逃げ込んで、最終的に主役のPeter Hookの楽屋にお邪魔させてもらうことにしたんだよ。でまあ、彼の楽屋でレコードをプレイしたりしてやり過ごしていたんだけど、運のいいことに、あの時のPeter Hookのツアーマネージャーが昔から仲の良かった俺の旧友でね。彼がフッキー(※ピーター•フックのあだ名)に俺が誰なのかということを、その場で説明してくれて、そのうちフッキーも「ああ〜っ! お前のこと、覚えてる!」みたいなことを言い出して、「お前、アレックスだろ?」って訊かれて、俺も「はい、そうです」みたいな。というのも、Killing Jokeというバンドが1980年にJoy Divisionとツアーをやったことがあって、その当時俺はKilling Jokeのローディーだったから、フッキーも覚えていたっていう。世界は狭いよなー。


- しかも、よりによって遥か彼方の日本で再会したっていう。

その通り! だから、俺がKilling Jokeのローディーだった頃に仲良しだった奴が、そのときフッキーの面倒を見てたってわけ。だからあれ以降、フッキーのことはもっとよく知るようになったな。

 

 


- 今回、The Orbとして縁のあるUNITでのライブとなります。UNITについてどのような印象がありますか?

うん、あそこでは何度もプレイしたね。大好きな会場のひとつだし、世界中でもベストのひとつ、素晴らしいサウンドシステムを備えた会場だ。スタッフもみんなナイスな連中だし、ダンスフロアも最高。プレイするたびに、毎回素晴らしい時間を過ごさせてもらってきたよ。ライブでもっとも重要なのはサウンドシステムなんだけど、UNITの設備はばっちり。A級と言っていいほどに最高で素晴らしいし、ブリリアントなサウンドを鳴らせるシステムだね。クアドロフォニックで、俺が求めているのにぴったりなんだよ。


- 日本のファンと強い繋がりを感じた瞬間があれば教えてください。

そういう瞬間はあるんだけど、たくさんあり過ぎるくらいで。うん、日本のお客さん達と繫がりを感じたのは、何も「これ」ってひとつの瞬間に限らず、際立って素晴らしい瞬間がこれまでいくらでもあったよ。


- ちなみに、日本のオーディエンスは他の国のお客とは違うなと感じますか?

とても行儀が良い、秩序を守る人達だよね。


- ああ、なるほど(笑)。

正直、日本人から多くの人間が学んでくれたらいいのにと思うくらい。いかに日本の人達が効率のいいエコをあらゆる場面で実践し、いかにきれい好きで自然と共存しているか、そこから学べることはたくさんあると思う。たとえば俺達がフジ(Fuji Rock)でプレイした時なんて、会場内がきれいで素晴らしかったね。フジだけじゃなく、あそこから派生した色んなフェス、スキーリゾートで開催されたフェスなんかにも出演したけど、そっちもフジと同じくらいクリーンで驚かされた。フェスがすべて終わった後に会場を見渡しても、何もかも。ちょっと強迫症気味にクリーンだと言えるのかもしれないけど、それは、言い換えれば日本人はフェス会場の自然を大事に扱い、面倒を見てるってことだし、そこは何よりも大事な点だよ。だから、小汚いのも構わない西洋人からすれば、日本人のキレイ好きぶりはちょっと強迫観念じみたものに映るのかもしれないけど、俺はちっともそう思わないし、むしろ素晴らしいことだと思う。全世界が日本人のあり方を参考にするべきじゃないかな。今の世界にはものすごい量のゴミがあふれているし、それにはゾッとさせられるからね…(笑)。

 

 

- Release Information -

タイトル:Moonbuilding 2703 AD
アーティスト:The Orb
発売日:2015年7月1日
価格:2,160円(税込)

[トラックリスト]
1. God’s Mirrorball
2. Moon Scapes 2703 BC
3. Lunar Caves
4. Moonbuilding 2703 AD
5. Moon Quake 1(Bonus Track)
6. Moon Quake 3(Bonus Track)


■クラベリア内イベント情報
DAIKANYAMA UNIT/SALOON/UNICE 11th ANNIVERSARY PARTY Featuring The Orb
http://www.clubberia.com/ja/events/237984
https://www.pioneerdj.com/ja-jp/product/software/wedj/dj-app/overview/