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Renaat Vandepapeliere

 1983年、ベルギーのゲントにて、フェラーリのような跳ね馬のロゴがトレードマークのレーベルは生まれた。創設者の二人、Renaat Vandepapelierとその妻Sabine Maesの頭文字を取って名付けられた<R&S Records>。時代の流れとともに一時は活動を休止するも、30年あまりにわたって良質な音楽をリリースしてきたレーベルオーナーRenaatが、レーベル運営の秘訣や心意気について語ってくれた。

Translation: Kumi Nagano 
Edit: Ryosuke Kimura(clubberia)

 

 

 
 一度は倒産するも復活を遂げた<R&S Records>。30年以上もの長い期間、レーベル運営を維持することは容易いことではなかっただろう。ましてや、時代の流れとともに音楽の動きも急激に変化するなかで、彼は一体何を見出したのだろう。

「ビジネスのプラットフォームは常に変わりつつあるし、2000年以降はとくにその変化は加速している。レーベルにとって収入はとても大事なものだし、それがなくてはリリースをすることができなくなってしまうが、実は倒産する前の8年間は、出すレコード出すレコード、損することが多かったんだ。全てが変わりつつあるんだよ。音楽のビジネスモデルもシフトしたんだ。いまや音楽はいろんな方法で消費されていく。YouTube、soundcloud、ブログなど…、そこで音楽を聴くときはたいがい小さなイヤフォンだから、音のクオリティなんてものはまったく気にしないんだ。でも、こんなカオスな時代に生きているのはいいことだと思う。そのなかで自分の生き方、どう進んでいくかを見つけていけばいいのだから。僕は売れる傾向を考慮しながら音楽のジャンルを細分化したり分析をしたくないんだ」


 その変化は過去の<R&S Records>とは違う音楽を生み出すきっかけのようにも感じる。次世代シーンを担うであろうアーティストたちが続々と誕生しているのも事実だ。

「僕らは今、音楽業界という速い流れの中でジェットコースターに乗っているかのように流されている。だからこれからも、どんなことが起こるか見てみようじゃないか。そのなかで“今がどんな時代なのか”を見極めることがとても大事だ。僕は若いヤングスターが大好きなんだ。そのバイブレーションは僕を活き活きとさせてくれるからね。僕らにとって、アーティストと契約することは非常に大切で、その際、自分に正直でいないとならない。『僕は本当にそのアーティストのことが好きか?』と自問する。好きじゃなかったら、経済的にもどうやって彼らのことを支えられるっていうのかい? アーティストを発掘することは、自分自身のアイデンティティを見つけることにもなるんだよ。このシーンにはたくさんのいいレーベルがあるから、単にひとつのジャンルに特化したレーベルであることには興味がないんだ。なるべくいろんなものを集めたいし、多様性を持たせたい。できるだけユニークにもしたいし、対比も持たせたいんだ。リアリティとハートも持ち合わせたいね。そして、他のレーベルにリスペクトを持つ。僕はいろんな音楽が好きだけど、他人のマネだけは絶対にしたくない」



 新しいアーティストと契約することはリスクも伴う。しかし、アーティストへのリスペクト、そして彼が持つリリースの信念こそ、自然と素晴らしい音楽を発信する源なのだ。

「ときにリスクを負わなければならないことだってあるさ。そういうときは、やってみるしかないんだ。『1000万枚売れるはずだ』とアーティストと契約して、それを実現できる人もいるけど、僕にはできないよ。そんな器はないからね。とにかく僕は音楽を分析したりしたくないんだ。例えばBurial、Mala、Derrik May、彼らはすばらしい音楽を世に出してきたが、それは市場が求めていたからでなく、彼らが自然と成熟していってそれを生み出したってこと。彼らの音楽はとてもユニークで、他に同じようなものはひとつもなかったからね。本当にたくさんの若い世代にインスパイアを与えたよ。今日僕らが聴く音楽のなかにも、彼らの影響を多く垣間みることができる。James Brakeも彼らからインスピレーションを受けたうちの一人だからね。偽善や『金持ちになりたい』という動機でからではなく、“それがユニークかどうか、心に響くかどうか”を基準にリリースをしてきた。市場のゲームに踊らされるなんて、つまらないからね。僕は驚きが欲しいんだよ。リチャード(Aphex Twin)の例を考えてみてよ。この話は今まで何度もししてきたけど、僕らがAphex Twinのリリースをした最初の年、売上が20枚だったから多くの人が笑ったよ(笑)。でも、僕らは「よし、どんどんいこう、ロックンロールだ!」とひるまなかったんだ。あのとき笑った人たちには、その後も僕らのやっていることをきっと理解できないだろね。でも、世の中にはそれを理解する人もいる。あのときの音楽少年が、今は大人になってたくさんの若者に影響を与える存在となっているんだからさ」

 

 

 
 今や、<R&S Records>が発掘するアーティストは必ずと言っていいほどシーンの話題となる。だからこそ、彼の元には世界中から多くの作品が送られてくるようだ。


「私の元に送られてくるプロモを聴くとき、考慮するのは“すでに知られている音楽かどうか”“他のレーベルがすでに同じようなものをリリースしているかどうか”ということ。もしそうであれば、僕はリリースしない。いろいろな提案を受けたり、ミーティングのなかで『これはリリースすべきだ! ミリオンセラーを狙える!』ってプッシュされることもある。でも、僕はそういったことでは動かないよ。たとえば、頭に銃を突きつけられて『これをリリースしろ!』と言われても、もし僕が好きな音楽じゃなかったら何も起こらない。ただそれだけのことなんだ。いくらメディア露出の記事を送ってこられても、話題になっていると言われても、それがなんだっていうんだい?」


 好きな音楽に真っ直ぐで、32年経った今も彼の音楽に対する信念が変わることはない。そして、時代が変わっても常にポジティブに生きる姿勢。それこそが<R&S Records>の象徴なのかもしれない。

「僕はポジティブな人間だ。一度きりの人生を生きている。自分がどうしたら笑顔になれるのか、それを基準にして生きていて、それ以外のことはあまり気にしてないんだ(笑)。金はないし、車もないし、家もない。笑って生きていられる、それだけさ。僕の妹は30歳のときに交通事故で亡くなった。僕の兄は40歳のときにガンがわかって2週間もしないうちに亡くなった。同情を買ったり、不満を言いたいわけじゃなくて、ただ死の間際まで笑っていたいのさ。ネガティブになっているヒマはないのさ。たった一瞬でさえもね。僕がジプシーみたいに絶え間なく旅をしていることをみんな知っている。僕は同じところにずっと留まっていられないんだ。僕が望んでいるのは、<R&S>を面白くし続けるということ。つまり、自分の人生自体を面白いものにしていくってことさ。そう考えると、とても自分本位なビジネスだよね(笑)。レーベルを始めたとき、何の計画もなかったけど、今もこれからも予定を決めずに進んでいくよ」

 

 


- Event Information -

タイトル:R&S Records “IN ORDER TO DANCE” in TOKYO
開催日:2015年10月23日(金)
時間:22時〜
会場:代官山AIR
料金:前売  2,500円 当日 3,500円
出演 : Alex Smoke -LIVE (R&S Records | Soma | Vakant from UK), Lakker - LIVE A/V (R&S Records | KILLEKILL | from Berlin/Ireland), DJ K.U.D.O (ARTMAN | Qooki Records), Shhhhh (Sunhouse),  Nori (posivision), Greg Hunter- LIVE (Apollo | Subsurfing | Waveshaper from UK), Hataken - LIVE (TFoM | Waveshaper), Katsuya Sano (Ibadan Records | from Berlin), DJ Doppelgenger (GURUZ | ASYLUM), PortaL (Soundgram | PLLEX), K.U.R.O. (Psyristor Trax), 電子海面,  Yoshinori Saitou, Z_Hyper, Hataken (TFoM | Waveshaper), Ethan Drown Hulburt (Live video modular), ngt. (rebelbase)

■clubberiapage
http://www.clubberia.com/ja/events/243196-R-S-Records-IN-ORDER-TO-DANCE-in-TOKYO/
https://www.pioneerdj.com/ja-jp/landing/ddj-wego4-and-wedj/