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ワイルドに再燃するトランスの聖地ゴア

 取材・文・写真:小張 正暁(Dance on the Planet)


 ワイルドな野外の環境で、ワイルドなオーディエンスが似合うダンスミュージック。そして、今や少しばかり懐かしい響きがする音楽ジャンル「ゴアトランス」。
 
 その聖地・ゴアは南インド西岸に位置するリゾート地。植民地時代にはポルトガル領だったことから、ヒンズー教よりもキリスト教の影響が色濃い独特の文化が形成されている。かつて、Pink Floydがライブを開催し、世界に知られるようになったヒッピーの聖地でもある。1980年代後半にドイツで誕生したトランスがこの地にもたらされ、土地に根付き、独自の発展を遂げた。そしてゴアトランスとして認知され、1990年代にその隆盛を迎える。当時のゴアは、様々なジャンルの音楽とコミュニティーが入り混じった混沌の中にあり、だからこそ人々を魅了した。例えば、テクノのトップアーティストSven Vathのルーツがゴアにあることはよく知られたことである。また、ユーロ系トランスの一大レーベルAnjunabeatsの名前は、現在もゴアのパーティーの中心地となっているAnjuna(アンジュナ)から取られている。その後、ゴアトランスがジャンルとして固定化、一般化すると、違法ドラッグの取り締まりなどでパーティーも規制され、2000年代にはゴアのシーンは衰退の一途をたどった。
 
 しかし、ここ数年インドのゴアが盛り上がっているという情報を耳にすることが増えていた。再び世界中から多くのトラベラーがゴアに集まっているという。私も40歳にして初めてインド・ゴアの地に足を踏み入れることにした。20年にわたり長年慣れ親しんできた音楽のルーツを、そしてルーツの今を感じたい。そんな思いで2月に8日間をゴアで過ごした。


ゴア空港の喧騒


ゴアの街角にはパーティーの告知だらけ


 日本からなら首都デリー乗り継ぎか、ムンバイ乗り継ぎで20時間近い旅程。ヨーロッパや東南アジアの主要都市に行くよりは少しだけタフな旅だ。ゴア空港に着くと宿のあるバガトールまでは40キロ強、タクシーで1時ほどの距離を走る。空港にカウンターのある定額タクシーで1500ルピーほど。レートでいうと3000円弱なので、リゾート地とはいえ日本に比べると物価は相当安い。また、ゴアは酒税も安く、レストランやバーなどでビール1本が100ルピー(170円)ほど。そもそも、インドのほとんどの地域では、ヒンズー教の禁忌からお酒自体飲むことが難しい。そのため、インド人の富裕層も飲酒が容易なリゾート地としてゴアに集まってきており、実際にパーティーやフェスティバルでもインド人の割合が増えているという。


OZORA 2017のオフィシャルアフタームービーもプレミア上映! OZORA One Day in GOAへ。


 2月6日。ゴア滞在2日目。最初に訪れたパーティーはOZORA One Day in GOA。私が日本でプロモーターをしているハンガリー・OZORAのプロモーションパーティーのゴア版である。アンジュナビーチにあるShiva Valleyという海の家のような会場に、OZORAらしい温かみのあるデコが出来上がっていく。日が落ちるとパーティーがスタートし、目玉のひとつであるOZORA 2017のオフィシャルアフタームービーのプレミア上映会が行われた。世界で一番早く、そしてOZORAのクルーとともにゴアで観るアフタームービーは格別だ。
 
 この日は、EarthlingとTristanが登場。加えてDicksterもシークレットゲストとして登場した。ピークタイムになってくるとさすがにフロアはパンパンで居心地がいいとは言えない。“Shiva Valleyは朝がベスト”そういう地元の声も多かった。この日は、正午近くまで続く予定が、理由も分からず10時で途中終了。雨も降ってきてそのままお開きとなった。



OZORA One Day in GOAが開催されたビーチと会場


老舗のパーティースペースHill Topが総力を挙げたHill Top Festival。

 
 今年で35周年を迎えるゴア最大にして老舗のパーティースペースHill Topが総力を挙げたHill Top Festivalを2月9日から2月11日にかけて開催していた。この3日間のフェスティバルには、Vini Vici、Astrix、Ace Ventura、Loud、Greg from Highlight Tribeなど現在のサイケデリックトランスシーンの世界的トップアーティストが集結していた。

 
 このHill Top Festival。3日間通しの前売りチケットが7,000ルピー。当日券は2,500ルピーである。レートでいうと当日券で4,000円ほどだが、当地の物価から考えると当日券が日本円で1万円、3日間なら3万円以上の感覚だと思う。そもそも、ゴアのパーティーのほとんどはエントランスフリーというのが基本で、会場はドリンク代で売り上げを立てるシステムが主流だった。しかし、こうしたフェスティバルをはじめ、エントランスフィー(あるいはミュージックチャージ)を取るイベントが増えてきている。これについてはゴアのパーティーピープルから賛否両論あったが、Hill Top Festivalにそれだけの対価を払って参加している参加者は、フリーパーティーに来ている人々よりもマナーがいいし、何よりも楽しもうとする姿勢が強烈だった。

 フェスティバルは、昼からスタートして22時には音が止まるスタイル。踊り足りない人のために、1キロほど離れた別会場で毎晩アフターパーティーが開催されていた。



左からTristan、Aca Ventua、GMSのRiktam


ゴアらしいパーティーの顛末も。野外レイブそのままの雰囲気が楽しめたORIGENS。


 2月12日、ゴア滞在の最終日。この日は、先日警察の介入で中止となったORIGENSのパーティーが復活。EarthlingやOZORAのTsubiなども出演した。
 
 辿り着いたのは、ジャングルの入り口。森を抜けると、なだらかな赤土の丘に、一段とワイルドな雰囲気の会場が現れた。野外レイブそのままの雰囲気の会場である。フリーパーティーということもあってか日本人も多く集まっている。

 最も印象的だったのは、TSUBIのDJ中にオーガナイザーがダンボールに「Party will go all night long」という質素極まりない看板を手書きし、それをブースの前に差し出した瞬間だった。パーティーはもともと22時終了でアナウンスされていたが、急遽オールナイトに変更になったのだ。オーディエンスは歓喜し、友達を誘うために皆こぞって看板を写メに撮り、スマホから送っていた。突発的にパーティーが発生し、突然中止にもなる。それはゴアならではの一場面だった。ゴアではこうした草の根的な情報網にどれだけアクセスできるのかが、パーティーライフを満喫する上では欠かせない要素なのだ。しかし、私たちが20時に会場を去った後、結局電源が足りなくなったとかで22時前に音が止まってそのままお開きとなってしまったらしい。この適当さ、雑さ加減もゴアらしいパーティーのワイルドな顛末だ。





時代とともに移りゆくトランスの聖地。


 8日間の滞在は充実したものだった。また、ビッグパーティーが集中していた時期に来れたのは幸運だった。しかし、ゴアをしっかり満喫するなら1週間では短いだろう。
 
 そんな中でも特に強く感じたのは、インドという国が、経済的にも文化的にもこれからまだまだ発展する余地があり、そして実際に凄まじい勢いで変わりつつある、ということだ。人口13億人。日本の10倍の国民を抱え、2024年には中国を抜いて世界首位になると予測されているインド。そして、ゴアもまたその中で新たな成長と変化の中にある。ゴア空港から市街地までの道のりでは、莫大な資金が投入され高速道路の大規模工事が至る所で行われていた。また、街中の至る所、民家の壁ですらモバイル通信のキャリアの広告で覆われ、熾烈な獲得競争が始まっていた。



 ダンスミュージックの面でインド全体を見ればEDMも非常に大きなマーケットを形成している。ゴアトランスのシーンにおいてもヨーロッパの現在進行形のサイケデリックトランスにテクノも入り混じり、その様相は刻一刻と変わりつつある。また、パーティーに警察の介入が再び顕著になってきているというのも変わりゆくインドの一側面であることは間違いない。ゴアでは今年の1月に首都デリーから女性の警察署長がやってきて、「もう賄賂は受け取らない」という方針で強硬な取り締まりを行うようになっている影響だという。賄賂で警察や役所が動くことが当然とされてきたこの国にも、健全化の波がやってきているのだ。
 
 一方で、根強い何かがこの土地に変わらず存在することも強く感じた。イビサ、パンガンに並び、「世界のヒッピー3大聖地」と呼ばれるゴア。観光地としてほぼ完成されたイビサ、カルチャー(特に音楽の面)で独自性の希薄なパンガン。このふたつに比べ、カルチャー自体のワイルドライフ。とでもいうべきものがゴアにはある。多くのDJたちはDJのブッキングがあるからこの土地に来るのではなく、パーティーシーンがあるからこの土地に来て、滞在中に足を使ってブッキングを取る。オーガナイザーやプロモーターも世界中から集まり情報交換をしている。ヒッピーたちが渡り鳥のように毎年集まり、コミュニティーとして機能している。という意味で世界でも類を見ない地域であるのは間違いない。
 
 経済の発展が、ゴアトランスにとって良いことかどうかは、様々な意見があると思うが、カルチャーと音楽が変化していくその現場を、年に一度この目で見て体験してくることは面白いし、スリリングなことだ思う。今ならまだ、ゴアの古き良きグルーヴが、空気が、残っている。新しい何か、未体験の何かを求める若者たちに体験してほしい。そんなインド・ゴアのワイルドなパーティートリップであった。





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