1996年にリリースされたシングル“Offshore”はBTの“Flaming June”とともにレイヴの取締などで失速しつつあったUKダンス・シーンの重要な分岐点であり、<CREAM>や<Renaissance>などのスーパークラブの台頭とイビザの再発見という現在まで繋がるヨーロッパのクラブ・シーンの原点とも言える。
“Offshore”のオリジナル・ヴァージョンはバレアリック・サウンドの代表曲として【Cafe Del Mar】などのチルアウト・コンピレーションのほとんど全てにライセンス収録され、ダンス・ヴァージョンも含めれば全世界で200タイトル以上のアルバムに収録されている。
Chicaneのメロディックで時には映画のサントラのように響くサウンドは、その後のトランスがジャンルとして確立される上でほぼ全てのDJやアーティストに影響を与えている。トランスという言葉がまだピュアな響きを持っていた90年代後半、1stアルバム「Far From Maddening Crowds」をリリース。そのオリジナリティー溢れるサウンドは既に際立った存在であった。この時期にChicaneが在籍した[Xtravaganza]や[Hooj Choons]、そして[Perfecto]や[NEO]、[Additive]などのレーベルがトランス・シーンを生みだしたと言っても過言ではないだろう。
2000年にリリースされた2ndアルバム「Behind The Sun」からシングル・カットされた“Saltwater“や“Autumn Tactics”が持っている美しくも深いサウンドは、青い空やどこまでも広がる水平線のように、これまでのパーティーとはまったく違った景色をフロアにいた僕らに見せてくれた。この2曲とブライアン・アダムスがボーカルで参加した“Don't Give Up”がそれぞれナショナル・チャートにチャートインし、Chicaneは世界的なブレイクを果たす。
ダンス・シーンから登場しながらアルバム・アーティストとして10年以上もフロントラインで活躍する数少ないアーティストの一人であり、ヨーロッパのトランスのオリジネイター、また僕がこれまでずっとオファーし続けて日本に呼ぶことのできなかった唯一のアーティストでもある。
現在はArmin van Buurenのレーベル、[Armada]に所属、昨年のリリースのアルバム「Thousand Mile Stare」は大きな話題となった。最新のシングルではFerry Corstenとコラボレーションしており満を持しての来日公演がようやく実現する。
僕自身、1996年のプライベート・パーティーである<night&dawn>、イビサから戻りはじめた<MOTHERSHIP>と<the ocean>、様々な場所で行ったフリー・パーティーである<Balearic Sunrise>から<フジロック>、そして<MAGNIFICENT>まで彼の曲をプレイし続けてきた、だからこそ忘れることのできない様々な思い出が彼の曲には詰まっている。
- written by YODA