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子育てと音楽活動の両立
Vol.01:Eiji(Dachambo)

取材・文:Koyas

 子どもを授かったときに、自分の音楽活動やライフスタイルはどうなるのか? 正直、想像もつかないと思います。もうすぐ4歳になる娘を持つ私、Koyasもそのひとりでした。
 
 海外とは違い、日本の音楽業界の人はあまり家族の存在をオープンにしない印象です。しかしそれでは、子育てと音楽活動を両立するためのノウハウが蓄積されません。そこで、この連載では子もちのアーティストに登場してもらい、どう両立しているのかを聞いていきたいと思います。
 
 1回目はフェス番長としても名高いジャムバンドDachamboのベースEijiさん。私にとってEijiさんはライブの現場に子どもを連れて行ったり、MVに出演させたりと、家族を大事にする良きパパのお手本のような存在です。
 
 
2人の息子を持つベーシストの日常
 
Koyas今日はEijiさんとご家族について話を聞きたいと思います。
 
Eiji今は京都に家族4人で住んでます。子どもは2人。中学2年生と小学2年生の男の子です。奥さんは30代後半の一般女性です。パート的なことをしています。
 
KoyasEijiさんの一日の流れを教えてください。
 
Eiji現場がないときは、朝7時とかに起きてますよ。自分に余裕のあるときは、掃除や洗濯もやれるだけやって。8時、9時に家を出て車で30分のところにあるスタジオに行きます。そっちに楽器やレコード、CDなど仕事で使うものは全部あるので。午前中は、わりと連絡が来ないので楽器を弾いて自分の時間にして、お昼を食べたあとから連絡業務をやって、夕方くらいに切り上げて家に帰って夕食を食べる。週のうち3日くらいは自分のスタジオに行ってますね。
 
Koyasじゃあ深夜までスタジオに籠もることは?
 
Eiji制作時期になったらもちろん昼も夜もなくなるんですけどね。
 
Koyasスタジオが自宅にないってことは、子どもに邪魔されないですよね。
 
Eijiされないですね。前は自宅で作業していたんですけど、切り替えが上手くできない。制作に集中してると余裕がなくなって、自分のこと優先してしまっていたので。なので、自宅以外にスタジオを借りれたのは良かったです。
 
Koyas現場が多い週末の生活はどうしてますか?
 
Eiji週末は現場に合わせた生活にしてますね。夜の出番が遅かったらゆっくり起きて。あと、土曜の朝はPCも開かないので、週末の連絡は…すみません(笑)。音楽業界と言えども、夜中に電話するのは、もうダメだと思うんですよね。
 
Koyas僕は子どもができてから、平日と週末の境目がはっきりしました。
 
Eijiそれはありますよね。何もない週末は、水族館とか動物園とかショッピングモールに行ったり。普通の週末を過ごしています。



出演するフェスに子どもを連れて行くことの現実

取材は、6月30日〜7月1日に千葉・白浜フラワーパークで開催されたフェスティバル「ZIPANG」で行いました。EijiさんはこのときはDachamboとして出演。


Koyas子どもを現場に連れて行ったりもしていますよね?
 
Eiji雰囲気の良いキャンプインのフェスティバル、それこそフジロックだったり、子どもにとっても記念になるだろうなっていうものにはなるべく家族で行くようにしてます。ライブのときはそっとしておいてもらうんですけど、それ以外は一緒に回ったりしてますね。
 
Koyas自分が出演するフェスに子どもを連れて行くことに憧れる人もいると思いますが、現実はどうですか?
 
Eiji第一にステージのことを考えなきゃいけないけど、小さい子どもには当然分からないわけじゃないですか。だから、相手できないから「ちょっと後にして!」とかいうことになっちゃう。気が立っている訳じゃないですけど、今ちょっと考えられないから! みたいな感じになっちゃう。まず、僕たちはステージをやるっていう役割をこなさなきゃいけないから、現場によっては行きたいと言われても断ります。出番も遅いし状況的に余裕がないのに一緒に行っても楽しめないから、ここの現場は難しいよ、みたいな。上の子はフジロックを生まれて8ヶ月の時から行ってて、
 
Koyasえっ、8ヶ月でフジロックに連れてったんですか?
 
Eijiえぇ(笑)、それから何回も行ってて。あるときステージのプロデューサーから電話がかかってきて「お前の子どもの虫かご、楽屋に置きっぱなしだぞ」。中に虫がいるからちゃんと放してやれ、みたいな(笑)。それをFIELD OF HEAVENの楽屋でやってるんですけど、実社会とは違ってフェスティバルの文化っていろんなことに寛容ですよね。
 
Koyas家族とぶつかることはないですか?
 
Eiji:うちは気を遣ってくれています。ライブ当日の朝とかにごちゃごちゃ言われたりはしません。助かってます。



家事で時間の使い方が上手くなる!?
 
Koyasお子さんの誕生前後で苦労したことはありますか?
 
Eiji1人目はすごく大変でしたね。音楽業界の人なんて生活がもともとバラバラだったわけですし。そこに育児も加わって、寝てるんだか起きてるんだか抱っこしているんだか、分からない時期もありました。単純に子育てっていうものの大変さをもろに食らいました。
 
Koyas家族のなかで役割分担はありますか?
 
Eiji僕がヒット曲ばかり書いているようなすごい人だったら、家庭のことを一切やらなくてもたぶん許される。だけど、そうではないから、やっぱりある程度家のこともやった方がいいなって思います。そうすることで、僕がやっている音楽の仕事について嫁さんの方も理解してくれるようになったと思います。家事は誰でもできるし、今は掃除も洗濯も簡単ですよね。長い時間をとるものじゃないし、面倒くさがっていただけだと思うんですよ。そこで時間の使い方が上手くなりましたよね。
 
Koyas時間の使い方は、僕も子どもができてから意識するようになりました。独身のころは、時間よりも自分の作品の質をいかに高めるかだったのが、子どもが生まれてからは限られた時間のなかでいかに片付けるかに変わった。
 
Eijiそうなんですよ。逆にプロっぽくなったわけですよね。限られた時間のなかで、ちゃんとしたクオリティーを出すようになった。
 
Koyas働き方改革ですよね(笑)。土日に仕事の連絡をあまりとらないのも働き方改革ですね。
 
Eijiそうすると、月から金までできちんと納めるような仕事の仕方になるし。長いツアーが入っているんだったら、その前に必ず終わらせる。自分一人で生きていたら、なかなか自分の生き方とか変えられない。でも結婚とか人生のなかで良いことが起きるときって、いい方向に変えられるタイミングではあると思うんですよね。
 
KoyasEijiさんは富山ホットフィールドというフェスの制作にも関わっていますが、よくバンドやりながらできますよね。
 
Eijiほんと、時間の使い方が上手くなったからね(笑)。でも家庭を持つようになってから、作品への集中力は確実にあがっているし、断然にちゃんと音楽ができていると思います。
 
ミュージシャンって締め切りのある仕事もくるけど、基本的には締め切りがないですよね。自分の創作活動でダラダラしちゃうって必ずあると思うんです。ゴールまでたどり着いていない途中の曲がいっぱいある、みたいな。でも、そういうのが減ってくる。僕は京都に引っ越したんだけど、そのタイミングから自分の曲をレコーディングするようになって最初の5年で4枚アルバム出しましたから。
 
KoyasEijiさんのソロって弾き語りで、Dachamboとは作風が違いますよね。
 
EijiDachamboでやっていることも僕だと思うんですけど、6人のなかの1人なので。ソロのときは自分がイエス/ノーを出す決定を自分で必ずしているので、それは楽しくもあり、責任もあるんですけどね。
 
Koyas全部自分で決めるのは大変じゃないですか?
 
Eiji悩みますよ。悩みますけど、自分で決めていいわけですから。もちろんマスタリングまで進んだときに「アレッ」って思っても自分のせいだし(笑)。でも決めた理由も、ちゃんとあるわけだからそれでいいと思うんですよね。
 
Koyas自分で全部決めるとなると、永遠に終わらない可能性もないですか?
 
Eiji自分の性格を自分である程度わかっているので、締め切りを自分で設けるというか…。たとえばマスタリングの日取りを先にとっておくとか。ミックスっていくらでもやり直せるから、次の日聞いたら気にくわない、ってよくある話ですよ。何回やり直しても、90点台をちょっと上下しているくらいで、100点はなかなか取れない。だから締め切りが決まっていると、今持てる自分の判断力とかセンスとかで一番高いところまでいったら、マスタリング回して次の作品を作った方がいいかなと思っています。
 
Koyas子どもから音楽的なインスピレーションもらうことありました?
 
Eijiあったと思いますよ。子どもが保育園から帰ってきて「月が1個だけだって知ってた?」って言ってくるから、僕は「はっ??」みたいな(笑)。子どもは、毎日違う月だと思っていたみたいで。月は1個で地球の周りを回ってて、見え方変わるだけだよって説明しても分かってはくれないですよね。ひととおり説明したあとに「でもアメリカの月は違うよね?」って言ってたし(笑)。そういう違う視点を得られるっていうのは、面白いなって思いますよ。
 
Koyasちなみに子どもの声を録音したことは?
 
Eiji一応やった(笑)。一通りやってみたけど、それってみんなやりたいと思うから、一回やれば、もういいかな(笑)。
 
Koyasやってみてどうでした?
 
Eijiいずれ子どもは大きくなるから、やっておいて良かったなと思ってる。僕たちにとってマイクを向けて何かを録るっていうのは、スマホで写真を撮るのと変わらないじゃないですか。歌ってもらったし、コーラス入れもしたし、MVにも出てもらった。これを読んでる人は、親バカだなって思うかもしれないけど、やりたいことはやるようにしている。
 
Koyas今まで一通り話を伺ってきましたが、Eijiさんにとって子育てとは何ですか?
 
Eiji少し大人になることかも。歳をとれば大人に見えるのに中身は大人じゃなかったんだけど、家庭を持ったことで徐々に大人になるためのスイッチが入れられたかな。
※記事中の年齢は取材時のもの


Eiji(Dachambo

Dachamboは、「Fuji Rock Festival」をはじめ、全国のフェスティバルやパーティーの顔として活躍するジャムバンド。Eijiは、そのベーシスト。バンド構成は、ツインドラムにディジュリドゥー、ベース、ギター、シンセサイザーの6人。2017年には、日本人バンドで初めて「Burning Man」に出演している。
http://dachambo.com
 
Koyas

東京を中心に活動しているアーティスト/プロデューサー。DJ Yogurtと共に数々の作品をリリース。また、曽我部恵一BAND、奇妙礼太郎、KEN ISHIIなど幅広いジャンルのリミックスも手がける。2017年には、Jeff Millsのアルバム『Planets』のフルオーケストラをスピーカー60本並べて再現するインスタレーションを手がけた。ほかにもレーベルpsymaticsの運営者、Ableton Liveの認定トレーナー、執筆家など多方面で活躍。
http://koyaspro.com/