レーベルスタッフ「そんなに強制してません!」
中野「(笑)で、思い切って過去の音源をザーッと聴いてみたんですよ。そうしたら、意外と『へぇ……なかなかすごいじゃん』って思った(笑)。客観的におもしろい音楽だなぁと感じられたんだよね。それで、ベストっていう非常に商業主義的なアイコンにむしろ挑んでいって、ちゃんとしたひとつの『作品』として世の中に生み落としてみようっていう気になれた。だから今回出すことにしたんです」
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川島「作品を聴き直したときに『いい曲いっぱいあるじゃん』と思えたから、これだったらベストを作っても楽曲の世界観が薄まることはない、それくらいの強度の曲を作ってきたっていう確信はあったんだけど、でも出すんだったら自分たちでもう1度マスタリングしたほうがいいとは思ってて。やっぱりマスターテープ(マスタリングによってCD用に音質、音圧調整がされる前の音源)と聴き比べると全然違ってたから」
中野「俺達の作ってたものって、プロのエンジニアが絶対に作らない暴れん坊なマスターなんですよ。それこそ録音マイク立てるところからミックスダウンまで全部自分でやってるから、音の中に他人が介在していない。だから通常エンジニアが間違いとして処理してしまう音が、意志として残ってたりする。ひとつひとつの音に意志が感じられるんですよね。……っていうことが10年ぶりにマスターテープを引っ張り出して聴いてわかって。そのクリエイターとしての骨太さに、昔の自分とはいえ、びっくりした(笑)。で、そういう曲に込められた思いや意味をちゃんと伝えるには、自分でマスタリングするしかないなって――マスターテープとしては独特だから、間違った解釈でマスタリングされちゃうと本当に伝えたいことが伝わらないんです。それは絶対に嫌だから。それで、新作のレコーディングを中断してこれをやりました(笑)」
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中野「ビート組むところから楽器から何から、全部やり直したからね。『何かが足りない』と感じたときに、普通はもう1本ギターを足してみようとかってことで済む場合が多いんだけど、このバンドの場合はトラック全部殺しちゃうこともあって。これはそのパターン」 中野「うーん、思い入れがある曲ばっかりだからなぁ………。あ、でも『LET IT ALL COME DOWN』のアコースティックギターの1発目の音が入った瞬間にバンッとカラーが変わるでしょう? あれは自分がそれまで聴いたアコギの中でも最高の音を録ろうと思って、何時間も試行錯誤して録った音で。そういうことってちゃんと残るんだなぁって、無駄になってないなっていうのは思いました。そういうのはどの曲にもいえることだね。あと「JOYLIDE」は、今回新たにシンセの音をダビングしてる。この曲は当時流行ってたビッグビート・ブームの完璧なカウンターを作ろうと思って作った曲で。ロック的なテイストとミニマルなテクノの昂揚感と、予測不可能な連れて行ってくれる感じを全部1曲に盛り込んだ、自分の中では革命的な曲なんですけど、まぁ当たり前なんだけど10何年経つとあまり新鮮さが感じられない部分もあって。で、原曲のイメージを壊さないまま今になじませるために、ちょっとシンセをダビングしました」 中野「大切に音楽を作ってきたんだなぁということは、改めて感じられましたね。本当に寝ないで1曲1曲、丁寧に丁寧に作ってるから。『確かにこれじゃあ2年に1枚がやっとだったよな』って思うくらい(笑)」 中野「あと、その時々の自分はちゃんと反映されるってことは改めて感じましたね。僕らは自分たちで曲も作ってミックスもやってトラックダウンもしてるからこそ、音を聴き直すとすごくわかるんですよね。たとえば、今回は『FULL OF ELEVATING PLEASURES』の曲がキーになっていて。あのアルバムは自分たちをすごくドラスティックに変えていこうとしている時期だったから、世界観の広い楽曲が多いんですよ。音楽の理想形っていう大風呂敷をバンッと広げた形で作ってる。だから結果的に『FULL OF~』からの選曲が多くなったな。DISC 1もDISC 2もエンディングは『FULL OF~』の曲だしね。振り返ると、あのアルバムは結構不思議だったなぁって。日本に制作の拠点を設けて最初のアルバムなんだけど、海外にいたことで自分が日本人であるということをすごく感じていた時期でもあって、自分たちをリスタートしたいという欲求や、表現に対する欲求が凄く強かった。自分のあらゆるモチベーションが詰まっている作品――だからこそバリエーションが広くてエネルギッシュな、そして開放的な作品。で、逆に『UMBRA』の曲はフラストレーションを感じるし(笑)。でも、違和感は感じなかった……。俺、結構自虐的だったんだよね。『UMBRA』って『OUT LOUD』聴いてた人からは衝撃的なものだったし」
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中野「逆にこれくらい濃いオリジナルアルバムを作らなきゃいけないというプレッシャーが、今……(苦笑)」 中野&川島「はい、頑張ります(笑)」