INTERVIEWS

Peverelist a.k.a. Tom Ford

僕が生まれ育ったのはブリストルじゃなくて(イングランド東部の)エセックスなんだ。学生のころはバンドをやっていて、18歳のときにブリストルへ移り住んだ。ここに来てからはドラムンベースやジャングルのパーティに明け暮れて、もっと音楽の近くにいたいと思って、Rooted Recordsで働き始めたんだ。2001年のころだった。10年ほど前、この街には10軒ほどレコードショップがあったけど、今はずいぶんと減った。レコードを買う人が少なくなったからね。僕らが今もここでレコードショップを続けられているのはRooted Recordsが「ヴァイナルのスペシャリスト」だから。店頭だけでなく、世界中からインターネットを通じてオーダーをもらっている。ヨーロッパだけでなくオーストラリア、アメリカ、日本などからもね。 そうなんだ。店内はほぼヴァイナルで、あとはほんの少しCDを置いているかな。 ここには世界で活躍するアーティストから地元のローカルアーティストまで、たくさんのプロモやトラックが寄せられてくる。そのほか、新しい音源をチェックして仕入れたり、中古のもの、とくにレアなモノも入れている。同僚と相談して、どのレコードを仕入れようか、またどのレコードをネット上だけでなく店頭に置こうか決めている。店のドアをくぐるとそこには、どこを見ても世界中からのベストディスクが並んでいる。……そんなコンセプトで店をやっているんだ。古いものから最新のプロモまで、ダブ、テクノ、ファンク、ヒップホップと幅広くセレクトしている。中古レコードももちろん、地元のローカルDJやアーティストが置いていく、ここにしかないミックスCDやミックステープ、雑誌なども取り扱っているよ。 僕がレーベルをスタートさせた2006年ごろは、まだダブステップのシーンは今ほど大きくなかった。"Punch Drunk"は「ブリストルのアーティストの音を、もっと多くの人にも知ってもらいたい」と始めたレーベルなんだ。地元のアーティストが音楽を世界に向けて発信するための、プラットフォームが欲しかった。当時はなかったけど、ここ3~4年でブリストルをベースにしたレーベルは増えたね。10~15個ほど新しいレーベルができた。移り変わりは激しいと思うけど……。 10年前、ここはドラムンベースの街だった。ブリストルサウンドとしても知れ渡っていたと思うけど、今はダブステップがこの街を代表する音になっている。毎週、大小さまざまな箱でいろんなパーティーが開かれている。世界的に活躍しているアーティストがプレイしに来ることもめずらしくない。Shackleton、Martynなども月に1度くらいはプレイしに来る。2004年にPinchが「Context」というパーティーをはじめた当時は、まだそんな状況じゃなかった。そのあと「Subloaded」「Dubloaded」といったパーティーを始めて、少しずつ少しずつ広がって、今のようになったんだ。 ダブステップなら、Pinchがやっている「Subloaded」というパーティーをおススメするよ。つい先日、5周年のアニバーサリーが"Black Swan"というクラブであったんだけれど、そこはブリストルでも伝説的なクラブなんだ(※ブリストル出身のMassive Attackなどもプレイしていたクラブ)。Pinchと僕とでやっているパーティー「Dubloaded」もオススメ。Shakelton、Martyn、Kode9といったビッグネームもプレイしに来たことがある。そう、駅からこの店に来る途中のCheltenham Road沿いにあるクラブ"The Croft"でやっているんだ。 それをよく聞かれるんだけど、住んでいる僕らにはわからないよ。歴史的には、ここが港町で昔から世界中のいろんなものが行き来してきていることも関係あると思うし、僕のようにブリストル・サウンドに憧れて移り住んだ人も少なくないと思う。ここ数年、別の土地からブリストルに移り住んでくる人の数もまた増えているし、音楽をやっている人やなにか創作している人もたくさんいる。ロンドンとはまた違った空気があるしね。ロンドンはもっと時間の流れがもっと速くてアクティブでアグレッシブ、ブリストルはもっと緩やかかもしれないね、親切な人も多いし……。 ブリストルのほかのアーティストにはちょっと悪いけど、名前を挙げたいのはJokerかな。この先もっとブレイクすると思う。 うーん、むずかしい質問だな(笑)。僕が思うに、ダブステップを支えているのは2つのジェネレーションで、1つは僕らくらいの30代前後の世代、もう1つはティーンや20代前半のグループ。僕は今30歳だけど、ジャングルやガレージなどいろんな音楽の影響を受けてきたし、20代前半の彼らはまた違った音楽を聴いて育ってきている。だからダブステップのサウンドはとてもバラエティに富んでいるんだと思う。この先どうなるかは実際、誰もわからないし僕ももちろんなにも言えないけれど……。とにかく進化し続けるし、おもしろくなっていくと思う。「この先どんな新しいサウンドが出てくるのか予想がつかない」というのは音楽の醍醐味でもあると思うから。あと、オーディエンスが新しい音に対してとてもオープンマインドだから、ダブステップは変わり続けているんだと思う。 Punch Drunkのリリースをオーダーし、支持してくれてありがとう。とくにDISC SHOP ZEROのナオキ、Moduleのユウサクには感謝しているよ。