木下(以下 木) :そうですね、まず井上三太さんにご協力いただいてショップバッグやTシャツを出したり、STUSSYともコラボして。それからゴールデンウィークにはDJ PremierとPete Rockを呼んで、ミックスCD、ライブDVDもリリースできて。ヒップホップファンにはかなり喜んでもらえたんじゃないかと思います。
笹村(以下 笹) :あと、日本語ラップのミックスも出しましたね。「I REP」(※)っていう曲なんですけど、エクスクルーシブの新録も入れて。そのレコードはすごく売れました(笑)。(※注:DABO、ANARCHY、KREVAというそれぞれ違った方向性で人気を集める日本人ラッパー3人が参加して話題となった)
木 :せっかくの30周年なんで、とことん利用してやろうかな、と(笑)。
笹 :早い段階で、社長から「30周年だったら何やっても大丈夫やでーっ」て(笑)。
DJ KENTA(以下 K) :本当にそうですね。高校のころの黄金ルートとして、まず土曜日にラジオで「Hip Hop Journey Da Cypher」(※)を聴いて、そこでかかったトラックリストが翌日Manhattanに貼り出されるんですよ。そこで欲しい曲をピックアップして、そのあとCISCO、Yellow Pop、Spiceとかを回るっていう。(※注:1997年から2002年までJ-WAVEで放送されていたヒップホップ番組)
K :そうですね、いまでもそうですよ。でも最近はお店が少なくなって、横浜から車で渋谷に出かけてもManhattanに行ってdisk unionに行ったらおしまい、みたいな感じになってて……ちょっと寂しいけど。
COMA-CHI(以下 C) :iTunesとかダウンロードで買えるっていうのは、例えば深夜とかでも気にいった曲を見つけたらすぐ手に入るし便利ですよね。でもそうやって買った曲でも、本当に好きになっていく曲ってやっぱり「モノ」で欲しいとか、そういう風に思っちゃいますね。
C :今、メジャーレーベルから作品を出すようになって、事務所に入って、っていう風になると、もちろんお店とかにごあいさつに行くこともあるんですけど、売られている現場から、ちょっと「距離が遠いな」って感じるところはあるんですよ。自分とお店が密にコンタクトできて、「こんな人がかって買っていったよ」とか、「こういう思いで作ったから、売るときにこういう風にしてね」とか、店頭の人と親密になれるようなお店で売ってもらえたらいいなぁって思います。
木 :そうですよね、理想はやっぱり、アーティストもワイワイいて、お客さんもいてっていう。
笹 :昔、DJ YUTAKAさんは、自分のレコードに自分でコメント書いて、自分で貼ったりしてましたね。
(一同) :スゴイ!
木 :そういうふうに、もっと距離が縮まればいいですよね。
K :僕は10年以上前からのユーザーなんですけど、当時はネットもなくて、ファックスが送られてきて、リストにチェック入れて買うようなこともあったので、曲を試聴出来ないときは(その曲へのレコード店の)コメントを参考にして購入してましたね。
笹 :昔は試聴もそんなにできなかったですからね。「試聴は何枚まで」みたいなこともよくありましたし。
木 :うちのバイヤーのなかで、お客さんに合ったチョイスをするっていうことはあります。今はひとりのお客さんが買う幅も狭くなってきているので、その辺のニーズを考えてはいますが、「いいものはいい」ってことも変わらず提案していきたい。なので、お客さんに合わせたものと、うちから発信していくものでバランスをとりたいですね。
笹 :そうですね……今、例えばクラブでかかってる曲が売れるかっていうと、全然そうじゃないんですよね。前だったらアリシア・キーズのデビュー曲「Girlfriend」が出たときとか、ジェイ・Zの「Blueprint」が出たときなんかは、DJがみんな買って、クラブでもかかりまくって、みたいなことがあったんですけど。今は「"アナログ"が欲しい人」が「"アナログ"で買う」ような傾向が強いですね。
木 :いま売れるのは日本語ラップとかですね。たとえば、PSGとかS.L.A.C.K.とか。
笹 :あとはクロスオーバーしてるアーティストですよね、ヒップホップファンだけじゃないタイプの。曽我部恵一さんとPSGの「Summer Symphony」なんかはすごく売れてるんじゃないですか?お店からといえば、今回来日するSlum VillageはもともとManhattanが日本で1番最初に紹介したんですよ。板垣さん(※)っていう元うちのバイヤーをやっていた人がデモテープをもらって、それを聴いたらすごく良くて。それが(Slum Villageのデビューシングル)「I Don't Know」だったんです。 (※注:元Manhattan Recordsの名物バイヤーにして、Mr. Itagaki a.k.a. Ita-cho名義でプロデューサー/トラックメイカー/DJとしても活躍する宇田川界隈の重鎮のひとり)
(一同) :おおー。
笹 :……という伝説があるんです。でも当時、Jay Dee(※)のああいうビートってなかったじゃないですか? その時にアレををいいって思った板垣さんって、すごいなと。(※注:Slum Villageのプロデューサー。脱退後にJ. Dillaと改名、ヒップホップ史に残る数々の傑作を残したが、2006年に32歳で急逝)
K :「I Don't Know」には衝撃受けましたね。実は最初に買ったレコードが「Runnin'」(※)なんです。だからもうJay Deeのサウンドは染み付いてますよね。(※注:the Pharcydeによるヒップホップ・クラシック、当時Jay Deeと名乗っていたJ. Dillaがプロデュースした出世作)
K :いろんなプロデューサーが参加してるんですけど、トラックよりもラップがたってる感じでしたね。アンダーグラウンドないいラップアルバムという感じがしました。
笹 :やっぱりSlum VillageといえばJay Deeですよね。
C :Illa J(※)のアルバムも、J. Dillaの音だからやっぱり好きだった。(※注:J. Dillaの実弟で昨年アルバム・デビュー。Jay Deeの未発表トラックを使って好評を博した)
木 :良かったですよね。Jay Deeもよくうちの店来てましたよ。Illa Jはめっちゃ好青年ですよね。サインくれって言ったら「オレのでいいの?」って言ってましたから(笑)。
K :Illa Jのライブ(※)もすごくよかったですけど、焼酎呑むとスゴイことになるんですよ……(笑)。(※注:今年2月にJ. Dillaの追悼イベントで初来日した)
木 :自社のアーティストを推していきたいですね。
笹 :そう、邦楽のアーティストを出していきたいんです。ラッパーとかシンガーを。昔のニトロとかMUROさんみたいな感じで。ああいうムーブメントをもう一回起こせたらな、と。
C :そうですね。Manhattanってやっぱり宇田川町の柱っていうかストリートカルチャーのメインっていうイメージだし、そういう渋谷のカルチャーが受け継がれたレーベルになるんじゃないかって期待しますよね。そういうところから出てくるアーティストは見てみたいし、良さそうだな。
ヒトミ :ジャイルス・ピーターソンとかも「こんなにレコードがあるのは地球上で1番じゃないか」って言うくらい渋谷・宇田川町にはレコード屋がありましたよね。っていうことはそれだけ音楽に対する知識や歴史、才能がある街だと思うんですよ。そのシーンを牽引してきたManhattanがレコードと共に自社のアーティストを輩出していくことは、すごく自然な流れだし、有意義だと思います。COMA-CHIのようにストリートから出たアーティストが、日本だけじゃなく、アジアや世界でも活躍していくようになればいいですよね。いま、海外のハウスやテクノのDJも、ギャラでいったら日本より中国や韓国、シンガポールとかの方がよかったりするのに、日本・東京に行って回したいって言う人はたくさんいます。いま東京はそれくらいステータスがある街になってるんで、これからはそのカルチャーや才能を、外に発信していく時代になっているのかな、と思いますね。
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