INTERVIEWS

Ostgut Ton―Nick Hoeppner&Steffi

Nick:とても長い話に話になるんだけど、もともと"Panorama Bar"や"Berghain"の場所にあった前身のクラブが、「OSTGUT(オストグット)」という名前だったんだ。そのころだから、8年ぐらい前からレーベルをやろうという話はあったんだけど。その当時、周りのスタッフもそのクラブの運営が忙しかったし、僕も他のレーベルで働いてたりで、なかなか具体的に進展しなかったんだ。で、まず"OSTGUT"が閉店して、"Panorama Bar"や"Berghain"として生まれ変わったんだけど、またマネージメントのスタッフとかと「やっぱりやろう」って話になったんだ。はじめにアフタヌーンパーティーの簡単なミックスCDなんかを出そうってことになったりしてたんだけど、最終的には"Ostgut Ton"はAndre Galluzziとやろうということになった。それが「Berghain」のシリーズの最初のリリースになったんだ。それも自然の流れというかプランがあったわけじゃないんだ。その後、Marcel DettmannやBen Klockなんかを出したときも、本当によい意味で軽い流れでどんどん出していけたんだ。明確なプランがあったわけじゃないんだよね。 Nick:この5年間というのは、本当にすごい変化があったんだ。もともとレーベルとしてはかなりスローペースでやっていて、初期のころはリリースの間もかなり開いてたりしたんだ。その後、2007年にはじめのアーティストアルバムをリリースして、転機といえば2008年かな。DettmannのミックスCD、Shedのアルバムが出たりとか、世界的にも一気にレーベルが有名になった感じがするね。RAにもピックアップされたりとか。さまざまなメディアのアルバム・オブ・ザ・イヤーみたいなものにもレーベルの作品が選ばれるようになったりね。ただある意味で楽しみでやっていたものが、しっかりとしたビジネスとして忙しくなってきたね。今では年間10~11枚12インチもリリースもして、ミックスCDやアルバムも2~3枚出してるからね。急に忙しくなった。このレーベル自体は、"Panorama Bar"や"Berghain"の会社がオーナーで、僕自身はフリーランスで手伝ってるという感じなんだけどね。まぁ、この5年間で2008年が、一番のターニングポイントかな。 Nick:ずっとうれしいことばっかりが続いてるって感じだね。あとLen Fakiが手がけたミックスCD「Berghain 03」は今でもコンスタントに売れていたり、他のレーベルがどんどん成績を下げて文句ばっかり言ってるときに、自分たちはよい成績を残せてすごくうれしいよ。あとは「Panorama Bar」のCassy(キャシー)のミックスを出したのもうれしかったし。いろいろあるけど、とにかくどの作品もいろいろ用意をして、工場からパッケージとして出てきたときがうれしいね。 Nick:最初のミックス作品を作るときに、候補となった収録楽曲がすごくいっぱいあって、とにかくライセンスをする作業が大変だったんだ。アーティストの側もライセンスをしてる間に「もう旬じゃないからこの曲は使うのやめたい」とか言われたり。40曲くらいライセンスとったんだけど、それだけで3枚くらいミックスCDができるよね。そういった作業的な部分がすごい大変だった。あとは何回校正しても、やっと物としてでき上がった段階で印刷ミスがあったりするもので、そういうのはとにかくショックだよね。あとはデザインのスケジュールが遅れたりとか、とにかくスケジュールを守るのが大変だね、レーベルをやってると。次に出す「Panorama Bar」のシリーズの最新作は、わりと昔のアメリカのハウスの楽曲が候補に上がってるんだけど、やっぱりアメリカはライセンスなんかも高くて、交渉ごとにうるさいから大変だね。レーベルを運営してる人はみなやってることなんだろうけど、予想以上に大変だよ。もちろん、こうした中でもアーティストとはよい関係でやれているよ。 Nick:まずひとつに大きな理由は、自分たちは30代で、やはり14歳から買ってるものだから、(ヴァイナルを買うということは)物として音楽を買うというモチベーションに結びついてる部分がある。やっぱりデジタルというのは、言い方は悪いけど「使い捨て」という感じがある。もしハードディスクがクラッシュしたら失われてしまう。ヴァイナルを持っている限り、そこに入ってる音は火事にでもならない限り、コレクションとして存在し続けることができる。そしてアートワークもあることがすばらしい。それを眺めながら聴くなんてこともできる。
Steffi:やっぱり物としての魅力があるわね。
Nick:デジタルに対しては、やはりそこまでの愛情は感じられないよね。ヴァイナルは、確かに作るにも、買うにも高価なものになってしまうのは否めない。でも、そこにはそれだけの価値があるものだと思うんだ。だから僕らも高いクオリティで作り続けることを大切にしてるんだ。アートワークも4色のカラーや最低でも2色のカラーで作るように僕らは努めてるんだ。あとは小さいながら、とても高いクオリティのヴァイナルを作る"PALLAS"という会社があって、そこで作るようにしてるんだ。そういう会社を選ぶ作業も重要だ。もともと僕はずっと長らくヴァイナルでDJをしてきて、スタイル的にもそれぞれの曲のハーモニーを大事にミックスしていく部類のDJなんだ。いろいろなスタイルがあるから否定はしないけど、フレーズだけをカットインしてミックスしたり、ビートのパーツを持ってきたりとかそういうことはしない。例えばRichie HawtinやChris Liebingみたいなスタイルは、音楽への敬意というよりも自分たちのテクニックに重点を置いているようで、そこには自分自身としては共感ができない部分がある。あとは、ディスコグやレコード屋に行って古いレコードを探したり、それに関して話すという作業があって、それはデジタルデータの時代よりも、もっと時間がゆったり流れてて、すごし方自体が違う気がするし。
Steffi:あとは、セラートとかファイナル・スクラッチでやると音がみんな同じように聴こえてしまうと思う。前にアメリカからデジタルリリースしないかってオファーが来たんだけど、私はまったく興味がなかったわ。「そこに私の音楽に対するリスペクトはどこにあるんだろう?」って思った。インスタント過ぎるし、簡単過ぎるから興味が全然湧いてこない。あとはPCでのDJは無尽蔵に曲を持ち運ぶことができるけど、やっぱり私にとってDJ、たとえば日本でプレイするとなったら、家でレコードを選ぶこと自体がDJプレイのひとつだと考えてる。もちろん、限られた音源しかないなかで、それをかけたら会場がどんな反応をするか、そういうリスクを背負うけど、それも含めてDJだと思う。テクニックにしても、デジタルだったら誰でも簡単にできるから、単にプレイするだけなら経験がなくてもDJになれてしまう。やっぱり経験というのは大事だと思う。私はたとえばレイヴィーな会場なのにも関わらず、自分はハウスセットしか持って来ていないなんて場合に、そんな状況で会場を盛り上げる経験も度胸も持っているわ。そういう部分が大きく違ってくるじゃないかと思う。
Nick:もちろん、その部分がはじめからすごいDJもいるんだろうけど、僕なんて90年代の前半からDJをやり始めて、やっと最近、自分で「よいDJだな」って思えるようになってきたんだ。すぐにDJができてしまうおもちゃのような機材でDJをやりはじめた若いDJたちが今後、どんな時間を過ごすのか、それには少し興味があるね。
Steffi:ヴァイナル買うには、投資というか決断が必要で「これを諦めてレコードを買おう」とか、そういうプロセスがある。
Nick:「ビールを買おうか、レコードを買おうか」ってね。まぁ、ビールを買ってしまったときもあるんだけど(笑)。
Steffi:いまや1曲だけなら1ユーロとかでダウンロードして買える時代。そういった選択のプロセスがなく、ひどい曲がマーケットに溢れてしまうのも事実だと思う。 Steffi:いまの機材を揃えたのは2002年くらいかしら。1997年ぐらいから機材はいじってはいたんだけど、本当に本腰を入れて作ろうと思うようになった時期が、ちょうどベルリンに移住した時期ね。2007年。 Steffi:1987年にアシッドハウスに出会って、1990年にはクラブで遊んでて、1994年にはレコードを買って、ミックスをする友だちが周りに増えて、自分がはじめたのは1995年くらい。1998年にはアムステルダムに拠点を移して、まじめにクラブのDJとしての活動をはじめたという感じね。そして、ベルリンに2007年に移住したの。 Steffi:そうね、その時代のテイストを入れるようにしているのは確かね。たとえば現在の音をプレイしてても、どこかにそのフィーリングを感じることができるようなものにしたり。 Steffi:2007年に本腰を入れて作り始めたんだけど、やっぱり自分がDJとしてハッピーに思えるような作品を作れるまで出しちゃいけないと思ってた。でも、同時に具体的にその基準はどこだろうと考えてて。その時期というのは、まわりのDJやスタッフたちが「リリースしたら?」って言ってくれるようなことが増えてきた時期という感じ。だから「このとき」というのは言えないんだけど。自分の気持ちのなかではそんな感じね。 Steffi:一番最初にTAMA SUMOに自分のCDに入れる曲を作ってくれって言われて、そのとき、彼女は自分の作った楽曲を聴いてもらう唯一の友だちだったんだけど、最初にオファーされたときは実は一度「できない」って言ってパスしたの。だけど彼女にその後も強く言われて、すごく勇気付けてくれて。まずは12インチを作ろうってなったときに、Nickが半分冗談で「じゃあ、アルバムはいつ出すの?」って言ったから、「じゃあ、2011年の2月」って言ってしまったんだけど、「いまならできる」っていう感じの勢いで完成させたの。去年の3月から10月まで自分をスタジオにロックして作ったの。そのときに自分のモードだったり、聴いてる音楽だったり、そういうものを選んで入れこんで。 Steffi:アルバムを作ること――それは自分が一生懸命作った自分の作品であるというのは変わりはないんだけど、自分の作品を買ってくれる人、聴く人、そしてそれをプレイしてくれる人と、同時にそういった行動を起こす人のものでもあると思うの。彼らの手に渡った瞬間に、私の手を離れて彼らがどう使うか、作品は彼らのものになっていくというユニバーサルな考えから生まれているの。買う、プレイするっていうような人がいないと自分が作る意味がないし、作ったからにはプレイしてくれる人が必要だと思っているわ。 Nick:まずはRolandoの12インチが1月に出て、それはBen KlockのミックスCDに入っていたトラックとか。そしてさっきから話してるSteffiのアルバム。その後、Norman Nodge、Dinkyのアルバム。あとはレーベル外のアーティストの12インチをリリースしたり、4月に"Panorama Bar"ミックスシリーズの新作が出る予定だよ。