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Jeff Mills

この企画にはたくさんの準備を要しました。多くのリハーサルや打合せを行なったほか、編曲を担当したトマ・ルッセルに私の作った曲がどのように作られたかを説明し、また、それを演奏していただく管弦楽団の80人のメンバーたちに理解してもらうことに多くの時間を費やしました。それは、原曲の1つ1つは、リスナーにある種の感情を感じてもらいたいと思い、特殊な方法を用いて作られたものが多かったからです。ですから、管弦楽(クラシック)バージョンを作るうえでも、そうしたコンセプト、特殊な音楽の表現手法を活かしたいと思い、その結果、約11か月の期間と管弦楽団との4度のリハーサル、それ以外の部分でも、7度の打合せを行ないました。これは私のキャリアの中で、もっとも綿密に練られたものとなり、また成功のために多くの努力を要する企画となりました。 2002年に一度ドイツで東ベルリンフィルオーケストラとエレクトロニックとクラシックの音楽のパフォーマンスをしようという企画が持ち上がりました。残念ながら、当時は他のプロジェクトもあり、進行が難しく、パフォーマンスまでには至らなかったわけですが、結果として彼等と「Utopia」と「Entrance to Metropolis」という素晴らしい楽曲のサンプルを作り上げることができました。そして、そのサンプル音源が知人の手に渡り、今回のフランスでの企画の発案に至ったわけです。 私はこれまで、ずっとライブパフォーマンスを行ないたいと思っておりましたが、スタジオで制作する音楽以上のライブをできるかどうかについて、自分でも自信がなかったので、ライブパフォーマンスを行うまでには至らなかったのです。スタジオでは多くの時間を使い、私が音楽を使って表現したい方向性を詰めていくことができます。時には、発想がさまざまなところへ飛んでいき、1つの曲を完成させるのに何日もの時間がかかります。その結果、とても複雑で音と音が層になって重なっていく楽曲を作り出せるのです。つまり、そうすることによって、曲に独自の色合いが生まれるのです。リアルタイムで行なわれるライブの場合、即興性を生み出すことはできますが、(また、それをライブの醍醐味と理解した上での発言となりますが)私の考えるテクノとは時間を越えて音楽によって語られる物語であり、そうしたものである以上、ライブよりもスタジオで時間をかけて作られる音楽であるべきだと感じていたからです。 2000年に「Metropolis」のサウンドトラックを独自に制作してから、私のサントラ制作に対する興味は情熱的といっていいほど高まりました。その頃から私はクラシックの管弦楽の要素をテクノと融合させる手法も用い始めていました。「Actual」、「Medium」、「Time Machine」といった楽曲、アルバム「Contact Special」などがよい例だと思います。そうした楽曲の制作の過程で、私はクラシック音楽やライブミュージシャンが演奏するものと近いものを作り出そうと試みました。そして、コラボレーションの話が持ち上がった時、この企画に飛び乗ったのです。このライブにチャレンジすることによって、テクノミュージックの新たな領域を広げることができるのではないかと考えたからです。 私は物語が語られる方法によって、ストーリーを感じられるものだと思っております。どのような音楽的手法でも、音楽の中にある種の深い感情を人々の心から呼び起こせるものだと思っております。たとえば、ホルスト※1による「惑星」がクラシックの中でも我々のテクノミュージックとの共通点が観える良い例かと思います。作曲家とは、ある情景を思い浮かべて音楽を作り出していくものです。そして、イマジネーションを使うことによって、自分のまわりに存在する世界を開拓できるのです。もし、それを感じとり、音階やコードを使って表現できれば、そうした想像を音楽として表現することが可能となります。私は特にジェルジ・リゲティ※2に対して深い尊敬の念を抱いております。彼のアレンジメントは大地や地球はおろか、宇宙までも音楽によって感じられる作品となっているからです。

音楽を通して生まれるものとは、作曲家が彼の見る世界の何が正しくて何が正しくないかといった世界観だと思います。そして、それは音楽を通して説明されるものでしょう。私は音楽を通して常にリスナーの注意を呼びかけようと思っております。ですから、多くの場合ミュージシャンが作り出す世界というのは彼/彼女が耳や目で感じとったことを自身の頭脳が捉えた世界なのです。

※1. グスターヴ・ホルスト、イギリスを代表するクラシックの作曲家。占星術から着想を得た7つの楽曲からなる組曲「惑星」(The Planets)の作曲で知られており、各曲はローマ神話に登場する神々にも相当する惑星が主題となっている。

※2. 現代音楽の作曲家、カール・ハインツ・シュトックハウゼン、アイメルトなどの知遇を得て、1958年、最初の電子音楽「アルティクラツィオーン」(Artikulation)を作曲したことで知られる。 深い影響を与えられたといえるでしょう。Pond Du Gardはローマ時代から残るすばらしい遺産の1つです。この水道橋はいにしえの時代に近隣の農村や町へ水を運ぶために作られました。また、この地域は温泉が沸き出る土地としても有名で、古代からサウナや公共の温泉施設などが建設されていたのです。当時としては非常に近代的な施設があったわけです。こうした文化を持った土地で、このような(テクノの管弦楽によるライブ)パフォーマンスを行なうことは、これは未来における何か新しい方向性を示すためのものであると感じました。そして、このプロジェクトは「Blue Potential」(葵い可能性)と名付けられました。これは我々人類が辿り着いたことのない2つの未開の場所を表しています。遠く離れた宇宙と、海の底の深海です。この2つの場所を見据えることによって、我々は人類の存在自体を見い出すこととなるのです。そして、Pond Du Gardでは、川の水面に写る夜空の星を同時に見ることができる場所なのです。 はい、テクノロジーとイマジネーションについては作曲や自身のアイデアを具現化する際に心がけています。そうしなければ、テクノロジーのもつ可能性を最大限には発揮できないでしょう。また、現在でも自身のイマジネーションのみに頼って、創作活動をおこなっております。また、今後も、私は常に自身の音楽を高めるため、新たな方法を見いだしていきたいと思っています。 過去10年間、私の新しいアイデアを日本のみなさんに届けることができて光栄に思っております。こうした私の発想は他の国や都市では決して具現化できるものではなかったと思います。それは、日本以外のオーディエンスの多くは「何を聞き、何を見て体験するか」をすでにある種の固定観念として持っているケースが多く、そうした意識がまったく新しい、何か革新的な企画を受け入れがたい状況を作ってしまっているからです。未来への意識を常に考える者として、私のビジョンを共にシェアできるテクノシーンが日本に存在することを光栄に思っております。再び、みなさんに会えるのを楽しみにしております。 4.14 発売
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