- 今作は、2011年にパリで行われたコンテンポラリーダンス「Drama per musica」のためにThomas Muellerと共に制作したサウンドトラック作品となっているとのことですが、まず「Drama per musica」は、どのようなパフォーマンスなのでしょうか?
"Drama per Musica"は、2011年にパリのジョルジュ・ポンピドゥ国立美術文化センターで開催されたコンテンポラリーダンスで、パフォーマーのアレクサンドレ・ロッコリとセヴェリン・リエーネが、私のこのパフォーマンスのコンセプトとサウンドトラックに対してのいくつかのアイデアを相談してくれたのがオファーのきっかけだった。1950年代のニューヨークのカウンターカルチャーを現代のベルリンのテクノサウンドで表現するという、とても興味深いプロジェクトだったわ。カウンターカルチャーが社会から受け入れられにくかった様を、舞台に大きな帆が設置されていて3人のダンサーが沈みそうなボートをもがき苦しみながらも懸命に前にすすむ事で表現していたの。パフォーマンスのタイムテーブルとステージ上でレコーディングされた彼らのボイスを元に、Thomas Muellerとこのサウンドトラックを作り始めたの。
今回このアルバムの素材となる"Drama per Musica"を創る事になった時に、自身のアルバムをリリースする良いタイミングになったと思ったわ。最初は、10個のトラックを制作しようと思っていたの。でもスタジオで仲間たちとテクノ、ジャズ、ミニマリズム、リリックなどさまざまなアイデアをアルバムに投入しようと思った時に、今回の作品は、リスナーのイマジネーションを掻き立てる様な抽象的な作品にしたくなったの。その時の気持ちが『LISm』をこの様な形に導いてくれたわ。
- 実際にDrama per musicaの仕事をしてみていかがでしたか?
DJとしてダンスフロアの人たちを踊らせる様に、舞台のパフォーマーを自分の音楽で踊ってもらうという事にとてもインスパイアーされたの。ジョルジュ・ポンピドゥ国立美術文化センターのディレクターが私の音楽のファンだった事で、彼がロッコリにこのアイデアを提案して実現する事になったの。ステージ上のパフォーマーのメッセージやパッションを音楽を通じて表現するのは、普段と違った体験だったから彼らと一緒に仕事したのはとてもエキサイティングだったわ。
- 今作は、レーベルメイトのThomas Muellerと"Thesongsays""Hello...Repeat"などからリリースするBruno Pronsatoと制作しています。彼らを起用した理由を教えてください。
最初、舞台の為のサウンドトラックをThomas Muellerと制作した後、1年半は、この素材を私のハードディスクで眠らせておいたの。彼と一緒にサウンドトラックを制作したのは、彼が制作過程でサウンドエフェクトをいくつものレイヤーでまとめていくプロダクションがとても好きで今回一緒に制作する事にしたわ。イビザのCircoloco DC10で6ヶ月DJプレイしたり遊んだりしてベルリンに戻ってきた時に(イビザの海と太陽は恋しかったけど)スタジオに入って音楽を制作しようと思ったの。その時にハードディスクで眠っていた今回のアルバムの素材となった多くのレコーディング音源を再び耳にして改めてこの作品を自分の新しいアルバムとしてまとめようと思ったわ。
"LISm"のためにBruno Pronsatoをプロデューサーとして迎えた理由は、彼の作品のヴォーカルのに対する感性や使い方がとても好きだったからなの。私はスタジオに行くと自分のヴォーカルやドラム、ギターなどの音色をレコーディングしていてそれらを今回のアルバムに取り入れるのにBrunoが必要だと思ったわ。
- 彼らとの制作は、どのように作業を進められたのですか?まるでインプロヴァイゼーションのようにも聞こえました。
ええ、私たちはたくさんの即興のセッションをスタジオで行ったわ。その時の私たちの感情をそのまま演奏で表現していたセッションがどういう結末を迎えるか予想もできなかったし、それらが最終的に今回のアルバムにまとまったの。この部分は今回のアルバム『LISm』でもっともエキサイティングなところだと思うわ。これまでに制作したどの作品とも違う手法にチャレンジした『LISm』は、アイデアの起点がサウンドトラックだったという点でこれまでの自分のスタイルや、固定観念と切り離された、アーティストとしての自由を最優先にした作品に仕上がった。自由、喜び、創造性、、、何年も今回の様な作品を創りたいと思っていたけれど実際はできなかった。今回の"Drama per Musica"がそのインスピレーションを与えてくれて『LISm』を完成させる事を後押ししてくれたのだと思うわ。
- "Drama per Musica"と『LISm』とでは、何か違いがあったのでしょうか?
"Drama per Musica"は、最初にコンセプトやストーリー、時間的な制約もありチームワークが求められていたわ。とても刺激的だった。アルバム『LISm』は、私の作品なので制限の無い自由なクリエイティビティーの元で創られた作品ね。
今回の楽曲には"Falling"という言葉が繰り返し使われていて、この言葉は私にとってとても興味深い言葉で、人間は何かの深い感情に落下していく事でポジティヴになったりネガティヴになったり、リラックスする。例えば恋に落ちたり、仕事を失ったり、日常のさまざまな感情でその感覚を得られるわ。だから人は誰に対しても誠実で慎重でなければならないと思う。そういうメッセージがこの言葉には込められているわ。
- 最初、実験的かなと思ったのですが、音楽が画くサウンドスケープがおもしろく、1枚を通してすんなりと聞ける心地よい作品でした。まるでこのアルバムのアートワークの様な水の中にいるような心地よさがありました。
このアルバムのアートワークは、このアルバムの音の世界にダイヴする事を示唆しているの。水の中は外の世界と切り離されてイマジネーションが掻き立てられるでしょう?私は、このアルバムを制作している時に同じ様な感覚を持ったの。今このアルバムをリスナーとして聴いても、改めてこの"LISm"の世界に没頭させられるの。アルバムのお気に入りのトラックをランダムに聴くという感覚はこの作品には無いわ。日常で音楽をゆっくり聴ける時間が作れる時にこの"LISm"にダイヴしてみてほしいの。
- 発売から、ある程度時間が経ちましたが、周りの反応はいかがでしたか?
まだ分からないわ。でもリアクションは、私にとってあまり重要ではないの。私は、このアルバムがとても好きだし、世界のどこかにいるリスナーがこの作品を気に入ってくれたらとても嬉しいと思うから。
- 今回のように、音楽だけでなくダンスや他のジャンルと一緒にパフォーマンスを行いたいなどの展望はありますか?
アルバムのクッションを作成したの(笑)。今年もたくさんのDJを世界中でしていてとても情熱的だわ。6月には、Big Beach FestivalでDJをするために東京に行くからみんなにも会えるわね。
- 作品への質問とは、少しズレてしまうのですが、あなたの作品やアーティスト写真などのアートワークへのこだわりを強く感じます。アートワークなどは、ご自身でプロデュースされているのでしょうか?また、影響を受けたアーティストやカルチャーがあったら教えてください。
私は、アートワークに関してもたくさんのアイデアを持っているわ。音楽に関しては、完全に私のフィーリングや感覚を優先しているけど、アートワークは、写真家やデザイナーの感性と作品に合った人を起用してるの。『LISm』のアートワークやプレス用資料に使っている写真は、全て白黒の写真で、『LISm』の作品のイメージに完全に合致した雰囲気を持っていると思う。"Bpitch Control"は、さまざまなグラフィックデザイナーや写真家とプロジェクト毎に仕事をしていて誰かが創った作品をそのまま使う事もあれば、私からアイデアを伝えてイメージを膨らませていく事もある。キーラン・ビーアンという写真家は、ベルリンのクラブの写真をたくさん撮っていて、シングルやデジタルリリースのアートワークに使用しようと思っているわ。(http://crystalmafia.com)
そして、もうすぐリリースされる"Bpitch Control"のコンピレーション『Where The Wind Blows』のアートワークは、私が大好きなカールステン・フォーックというベルリンのアーティストに創ってもらったわ。私たちがそのライフスタイルに共感するアーティストは、積極的に一緒に仕事をしたいと思っているの。
- 注目している日本人アーティストはいますか?
宮崎駿、園子温、北野武、坂本龍一、村上隆、菅井汲は好きね、あと池村玲子、とてもエモーショナルでドリーミーなアーティストね。日本のアーティストは素晴らしい方が多いわ。日本は遠い国だから情報があまり得られないのが残念だけど。
- アーティストとして、レーベルオーナーとして長い間シーンで活躍されてますが、長く続けられる秘訣はなんでしょうか?また、一貫して大事に していることは何でしょうか?もし若いアーティストに何かアドバイスがあれば教えて下さい。
夢を抱き続ける事ね。自分を信じて何かを創り続けていく事、もしくは何か貴方をハッピーにする何かを探し続ける事ね。
- 今、GAMAによるデジタルDJライセンス制度に関して、ドイツは注目を集めていますが、あなたはこの制度をどう思われますか?また、レー ベルを運営している立場、アーティストとしてどう向き合っていくつもりですか?
GEMAは、とても混沌としているわ。彼らはドイツのクラブオーナーやDJから何とかしてお金を徴収したいのよ。もしこの制度が実施されればベルリンの素晴らしいクラブシーンは、小さなクラブから大きなクラブまでクローズしなければならなくなってしまうわ。今よりも高額のGEMAの使用料をクラブオーナーやDJから徴収した後に、そのお金はどこに行ってしまうのかしら?クラブは、既にたくさんの使用料と税金を支払っているわ。今GEMAがしようとしている事は本当に意味を成さないし、ベルリンやドイツからクラブシーンを無くしてしまおうとしているとしか思えないわ。
- Information -
タイトル:Lism
アーティスト:ELLEN ALLIEN
レーベル:BPITCH CONTROL
価格:¥1,990
発売日:3月6日
■HMV
http://www.hmv.co.jp/artist_Ellen-Allien_000000000075751/item_Lism_5347090
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