INTERVIEWS

DOC MARTIN

DOC MARTIN(以下DOC)
西海岸のハウスシーンはすでに86年頃からあったんだ。当時アメリカのハウスシーンで世界的に名前が知られていたのは、みんなも知っているとおり、シカゴやニューヨークだったけど、ここにも確かにシーンがあって、その頃からアシッドハウス、ガラージ、テクノ、何でもプレイするスタイルがあったんだ。すごく自由な音楽観で、本当に何でもかけていたし、一見相性がよくなさそうな2つのレコードをミックスして、新しい聴き方を提示したりもしてた。一概には言えないけれど他の都市のハウスDJは、もっと窮屈でカチッと決まった音(ジャンル)をプレイしていて、オーディエンスもそれを望んでいる。解りやすくて、安心して聞ける音楽を望んでいるんだ。イントロから、ブレイクダウン、ビッグブレイクダウン、ミュージック、コーラスみたいな流れをね。そして1曲1曲を楽しむ感じ。僕はDJするときにターンテーブルに立った瞬間から最後の1枚をかけるまでが大きな一曲だと思っているし、それが西海岸の特色になっていると思うよ。

LILLIA(以下LI)
いわば「ミュージックジャーニー」(音楽の旅)なのよ。 DOC
昔ほどではなくなったね。今は簡単にレコードや情報が手に入る時代だから。ハウスというシーンの中で西海岸のシーンはどこの都市も近いものを感じるね。

LI
違うところといえば、サンフランシスコはDJのセットが短いと思うわ。DJをたくさん入れて、それぞれが1~2時間回すのね。バイブやフロウも急激に変化する感じ。サンディエゴはもっとラウンジーな音楽を好む傾向にあるわね。音楽よりも空間としてのクラブを楽しむ感じかしら。アンダーグラウンド感はないわね。私たちのホームグラウンドであるLAは、もっとアンダーグラウンドだわ。SUBLEVELのパーティーもアンダーグラウンドで、すべて手作りなの。私たちが理想とする形を求めると、そうなっちゃうのよね。

MARTY(以下MA)
LAでは、毎週末いろんなところでパーティーが開催されているけれど、本当にクオリティーの高いパーティーは残念ながら数が少ない。そして、クオリティーの高いパーティーにはアンダーグラウンドが多いんだ。 MA
アンダーグラウンドパーティーというのは、クラブという、はじめから用意されたセットで開催するパーティーじゃなくて、ロケーション、建物、サウンドシステム、照明、バーにいたるまで、すべてゼロから作りこんで行うパーティーのことだよ。SUBLEVELのようにね。クラブで開催するほうがよっぽど簡単だけど、こだわっていくとどうしてもクラブには限界がある。アンダーグラウンドパーティーは音も、集まる人たちもずっとクオリティーが高いんだよ。TRUE HOUSE HEADS(本物のハウスミュージック狂)はSUBLEVELの開催を楽しみにしている。「次はいつやるんだMARTY!!」ってね。こないだのパーティーでも、サンタバーバラや、サンディエゴからわざわざ足を運んでくれた人もいたしね。

DOC
日本のYELLOWのように音楽をわかっている人ばかりならいいんだけど、LAのクラブオーナーのほとんどはビジネスマンなんだ。音がいいクラブもあるけど、音楽への情熱よりもお金を大事に思っているんだ。だから、みんな自分でパーティーを作り始めた。僕は90年にLAに引っ越してきた時は、本当に2、3軒くらいしかハウスがかかる箱がなかったんだ。Markus Wyattが、がんばってハウスパーティーをしてたけど、それ以外はヒップホップだったり、トップ40の音楽だったりが、ほとんどだった。それで自分たちで 「Flammable Liquid」(可燃液)というパーティーを始めた。毎週、違うアンダーグランドのロケーションでね。開催のたびに来客の数が増えていって、人数を抑えるために毎回ボイスメールの番号(自動応答の電話番号)を変えなければならなかった。400人から500人しか入らない場所に1500人も集ったら、警察が飛んでくるだろ? ボイスメールの番号を変えれば、本当に好きで、情報を探している人しかパーティーにたどり着けない。それでも、みんな夢中で遊びに来てくれて、毎週すごい盛り上がりだったね。
アンダーグラウンドパーティーってのは本当に大変で経費もハンパなくかかる。クラブならお店と入場料とバーの取り分を交渉して終わり。でもアンダーグラウンドパーティーはDJ、サウンドシステム、照明、バーなど、すべて自分たちで持ち込まなければいけない。毎回、クラブを買っているようなものだね(笑)。役割はMartyが会場との契約や機材の発注、アシスタント集めをして、Lilliaがウェブとフライヤーの制作&プロモーション、僕も他の都市でDJをしながら、どんどんPRする。実際、メキシコ、サンディエゴ、サンフランシスコ、テキサス、シカゴ、ニューヨーク、遠くからでも、みんな噂を聞きつけて遊びに来るんだ。 MA
SUBLEVEL、Saturday Night Sessions、Sacred Ground、Body Rock……、えーっと、おすすめできるのはだいたい8、9個くらいかな?。一番はSUBLEBVELだけどね! サウンドも照明もDOCがプレイする音楽も自信を持って一番といえるよ。 DOC
Lilliaと一緒にロンドンに住んでいて、レギュラーパーティーを持っていたんだけど、自分の理想とは、かけ離れた形になってしまったんだ。そのクラブが音やコンセプトについてポリシーを持たなくなって、僕の知らないところで好き勝手に宣伝をはじめてしまった。自分が出演しないのにフライヤーに名前だけが載っていたりね。それで2人で「理想のパーティー」について本気で考えていたアイデアがSUBLEVELの元になっているね。

LI
01年末にレコードを整理してたら、そのアイデアが蘇ってきたの。「音楽を愛し、SUBLEVELというレーベルを愛してくれる人に向けたパーティーをしたい」ってね。そのころLAにはカウントダウンパーティーという習慣がなくて、それじゃ大晦日にやろうって話になって、LAダウンタウンのロフトスペースを借りて。そこはラセン階段がとても美しいビルのスペースで350人くらい来てくれたのよね。みんな幸せそうに握手したり、抱擁したり、笑顔を交わしたり、1つになって踊ったり、あんなに幸せそうなお客さんの顔を見たことなかったから、すごくうれしくて、「またやろうよ」って。しかもSUBLEVELをはじめてから、DOCから離れていったお客さんが帰ってきたのよね。出演しないのにDOCの名前がフライヤーに載ったり、1時間しかプレイできない(自分の意思ではないのに)という残酷な状況が続いていたから、一時期はお客さんが諦めてしまっていたの。「DOCを楽しみにクラブに行ったのに残念」って人が本当に多くて。私たちは悪くないのに「DOCはまた来なかった!」って言われていたのよ。おかしな話でしょ。でもSUBLEVELはそんな悪評を払拭するだけのステキなバイブがあったのね。最初のパーティーにも「DOCがロングセットをするわよ!!」って宣伝したら、サンフランシスコから100人も遊びに来てくれたのよ。(LA、SF間は車で10時間!)
あと、LAのクラブはドレスコードがあるところが多くて、DOCのDJを聞いて踊りたいと思ってもスニーカーはダメ、Tシャツはダメって、ことが多くて、音楽を聞きに来るコアな人は差別を受けていたのよ。SUBLEVELには自由があるから、汚い服でも、ビシッと決めていても、偉い人も普通の人もみんな平等なのよね。

DOC
僕たちはゲストDJについてもポリシーを持っている。大きなクラブやイベントは、有名なDJを入れて多くの集客を得ようとするけど、ゲストだけが目当ての来場者ばかりだと、パーティーのバイブが変わってしまう。だからSUBLEVELでは、僕たちが本当にいいと思ったDJ以外はゲストに呼ばない。僕らが作る音楽に共感してくれて、パーティーのカラーに合った人は有名、無名、関係なく、いっしょにやりたいと思う。実際、お客さんはゲストDJのことを知らないことが多いんだ。「誰コレ?」って思いながら遊びにくると、みんなビックリする。「こんなヤバイDJがいたんだ!」ってね! 今回のMOCHIZUKIもすばらしかったよ。SUBLEVELはいつも僕らの音楽をサポートしてくれるファンに贈るギフトのようなものだから、中途半端なことはできないし、自分たちらしいパーティーになるように全力を注いでいるよ。 MA
みんなMOCHIZUKIが日本から持ち込む音楽に興味津々だったよ。僕が知っているかぎり、日本人がゲストDJのパーティーなんて聞いたことないからね。でも、そう思ってくれるSUBLEVELのお客さんのクオリティーが高いのは、すばらしいことだけどね。

DOC
名前があってもなくても、いいDJを呼ぶ。それを続けると、SUBLEVELのファンは「今回もすばらしいDJだったから、次のゲストもすばらしいに違いない!」って考えるんだ。 DOC
パーティーは入り口の雰囲気がかなり重要だと思っているよ。最初の一歩足を踏み入れた瞬間に人が感じるものってたくさんあると思うんだ。空港みたいな厳重なセキュリティーがあって、しかめ面のフロントだったら「パーティーを楽しむぞ」って気分は折れてしまう。SUBLEVELのフロントにはLilliaがいて、お客さんとコミュニケーションをとっている。軽く言葉を交わして、笑顔で迎える。それだけでバイブはガラッと変わる。ぼくもできるかぎりフロアやラウンジを回って、みんなにHelloっていうようにしているよ。 僕らもMOCHIZUKIに感謝しているよ!! DOC
SUBLEVELは年内にあと3回はやりたいね。でも、ロケーション、日程、スタッフ、もちろんサウンドも、すべての都合がそろわなければ無理にはやらないけどね。レーベルとしては8月25日にLOOP SOUNDSから発売するSUBLEVELのコンピレーションを制作している。このCDには2001年から2006年までのSUBLEVELの歴史と、もっと以前の未発表の曲、現存する曲の別リミックス、新曲も収録されたスペシャルな作品集になっている。DJとしては9月のジャパンツアーも含めて、年末までいっぱいだし、地元でもいくつかのフェスティバルやパーティーに参加する予定だよ。

DOC&LI
日本のすばらしい才能を迎えて今回のSUBLEVELを開催できたことに感謝しているよ。そして9月に来日した際は、僕たちが精一杯の愛をこめて最高のショーをプレゼントするよ。ARIGATO-GOZAIMASU!!