「僕は何よりもDJであって、自分を「プロデューサー」だと考えてはいません。ですから、僕にとってアルバムというのは、複数の曲によって構成される「波」のようなものなんです。」
- タイトルは、ご自身の名前を付け、それも2作連続となります。これはアルバム自体のコンセプトを設けないという形なのでしょうか?
僕の生活の一部だからです。そして、この音楽は僕から生まれたものなので、それ以外の…例えば『太陽と雲』とか(笑)、そういった言葉を探すのが面倒だっただけです。僕の音楽であるということ、それ以上の意味は特にないので。僕のレーベル〈MDR〉も同じです。いちいちタイトルの言葉を探すのが面倒なので、カタログ番号をEPタイトルとしています。
- でも、〈MDR〉から単発のシングルを出すのと、アルバムというまとまった形の作品を出すのとでは、取り組み方が違うのではないですか?
僕は何よりもDJであって、自分を「プロデューサー」だと考えてはいません。ですから、僕にとってアルバムというのは、複数の曲によって構成される「波」のようなものなんです。ですから、イントロがあって、アウトロがあって、その間にこういう展開があって…というような筋書きに合わせて曲を作っていくわけではなく、日々作り溜めてきた曲の中から、こういう流れで聴いたらいいんじゃないかと思う曲を選びました。
- あなたの作品を聴いていると、快楽的な音楽とは違う強い信念のようなものを感じます。心地良いフレーズやノリやすいビートではなく、違和感を覚えるような印象を持つことが多いです。曲作りの際に大切にしていることはありますか?
例えば映画に例えると、ハリウッドの大型作品のように、銃撃戦があってカーチェースがあって、ドカンドカンと爆発が起こるような娯楽映画がある一方で、考えさせられるような、多様な解釈ができるような映画もあります。「なぜ、あそこでこんなことが起こったんだろう?」、「あれは、どんな意味があったんだろう?」と見終わった後も考えを巡らせるような作品。僕は後者の方が好きで、僕の音楽もそうであってほしいと思っているんです。ですから、あまり「やりすぎない」ように心がけています。もったいぶって小出しにしているというわけではなく、聴いた人が好きな解釈を加えられるような隙間を残すようにしています。
僕の曲作りにおいて重要なのは、聴くことですね。自分で作ってみた曲を、少し時間を空けて繰り返し聴くようにしています。それでも良いと思える曲は良い曲だし、思えない曲は破棄します。僕は、1つの曲を何日もかけて作り上げていくタイプではありません。その場の気分で、勢いで録って、それを後で聴き直して良ければ多少エディットを加えますが、最初の衝動を大切にしています。アイディアを思いついた瞬間にかたちにしておかないと、忘れてしまうからです。
- ということは、常にその場の思いつきで曲を作って録っておいて、後で聴き直して良ければシングルに、一緒にまとめて聴いていいものはアルバムにする、という感じでしょうか。
そう。まさにその通りです。特に今回のアルバムに関しては、Levon Vincentとやった曲「Outback」と、Shedとやった曲「Aim」をもっとも早い段階で作っていました。これらの曲は、一緒にやったセッションの一部分を使って、僕が新しく作り直したバージョンなんです。それ以外の曲は、この2曲のムードに合わせて考えていったので、アルバム全体の方向性を決めたキートラックとなったのはこの2つですね。
もともと僕は曲作りを始めたのは割と最近で、2000年代半ばに始めた頃は何も分からず、かなり荒っぽい作り方をしていました(笑)。でも、その頃から粗さも持ち味だと思っていて、その部分は生かしていこうと考えていました。それが曲のハートであり、ソウルだと思うんですよ。全て綺麗に洗練された音楽って、つまらなく聴こえがちなので。よく波形を見て、「ハイが大きすぎる」とか、バランスを整えようとする人がいますが、僕は全て耳で判断します。自分で聴いてカッコ良ければ、それでOK!それが1番重要です。
- 前作「Dettmann」とは何か大きく変わった部分はありますか?
当然変わってはいますが、特に自分で聴き比べてどちらの方がどうだとか、こうだとかは考えていないですね。僕はDJなので、幅広く色んな音楽が好きです。シンプルな曲も、クレイジーな曲も、速い曲も遅い曲も。先ほど言ったように、曲作りは僕にとってその瞬間を切り取る作業なので、ファーストの頃と比べたらその分歳も取りましたし、新たなノウハウも学びましたし、少し大人になったとは思います。そんな今の自分の気持ちを切り取った記録です。でも、曲作りのスタンスや判断基準は変わっていませんね。
「僕は行く先々で「ベルリンはどう?」と聞かれますが、ハッキリ言って分かりません(笑)。常に飛び回っているので… 」
- 先ほどコラボレーションの話が出ましたが、Emikaのヴォーカルを起用した曲がとても新鮮でした。これはどのような経緯でできたんですか?
あれは、実は古いトラックなんです。ファーストアルバムの制作時に作ったんですが収録せず、その後もリリースしなかった。どこか未完成な気がしていました。その後また聴き直した際に、「何かが欠けている」と気づいて、ヴォーカルを入れてみたらどうかと思いついたんです。そこで、友人のEmikaに聴いてみてもらって、気に入ったらヴォーカルを入れてみてくれと言ったんです。そしたら、彼女はとても気に入ったといって作業を始めてくれました。僕は歌を入れてくるだろうと思ったんですが、蓋を開けてみたら歌ではなく、声をレイヤーにして重ねたものでした。何というか、亡霊の声が聴こえているかのようで、最高だ!と思いましたね。トラックとしては完成したものを渡して、そこに声を加えてもらったので、完全に彼女の解釈によって想像していなかった、素晴らしい仕上がりになりました。とても満足しています。
- ShedとはHard Waxで共に働いていたこともありますし、個人的に仲がいいのは分かりますが、Levon Vincentとはどういった経緯でセッションすることになったんですか?
2人ともたまたま別の曲のためにやったセッションで、アルバムのためのコラボレーションというわけではありませんでした。彼は、僕が個人的にとても好きなアーティストで、そういうアーティストと一緒に作業することは楽しいので、将来的には、他の人たちともやってみたいですね。シェッドももちろん大ファンですよ!
- 今年5月にはバレエ団とのコラボレーション「MASSE」にも参加されていますが、これはどんな体験でしたか?
これは、普段とは全く違う作業の流れでしたね。僕はAmeのFrank Wiedemannとタグを組んでやったんですが、舞台のテーマだけが決まっていて、そのイメージで先に音楽を作り、出来上がった音楽にバレエの振り付けをするというものでした。Frankも僕と同じように、その場の気分でどんどん曲を作っていくタイプの人なので、やり易かったです。2人で作った曲のアイディアをバレエ団の人たちに聴いてもらって、向こうの意見を聞いて少し長さを調整したりしてから、振り付けに取りかかってもらいました。滅多にできない貴重な体験をさせてもらいましたね。公演は2度見にいったんですが、1回目は曲のディテールが気になって全然踊りに集中できませんでした(笑)。2度目に、やっと楽しめました。特に僕の曲は、普段作っている物と違うタイプの音なので、余計に楽しい経験になりましたね。
- 現在のベルリンのシーンをどう思いますか?多くの注目や人が集まり、以前と変わった印象を受けたりしますか?
僕は行く先々で「ベルリンはどう?」と聞かれますが、ハッキリ言って分かりません(笑)。常に飛び回っているので… でも、ベルリンがこれほどエキサイティングなのは、今でも多くの人たちがこの街のカルチャーを体験しにやってくることだと思います。他のほとんどの都市は、観光客といえば観光名所や博物館などを見に行きますが、ベルリンはカルチャー、特に音楽/クラブカルチャーに魅力を感じる人々がやってきます。もちろん変化はしています。変化することは当たり前で、逆にしなければつまらないでしょう。なくなったクラブもあれば、新しくオープンしたクラブもありますし、Berghainは世界中の人が知る権威的なクラブになりましたけど、街の魅力は衰えていないと思いますよ。とはいえ、僕はその中に入り込んでしまっているので、客観的に見て判断できないところはあります。
「今も新しい才能に出会ったりして、常にサプライズがありますから、そういう新しい音楽との出会いが今後も続いてほしいと思います。そうでないと、DJをやり続けられませんからね。プロデューサーとしても、そういった刺激がインスピレーションになります。」
- DJ NOBUが主催するFUTURE TERRORが初めての来日ですよね?FUTURE TERRORでプレイした時の事はいかがでしたか?
あれは… クレイジーなパーティーだったと記憶していますよ(笑)。ビルの6階かなんかにあるクラブで、音もとても良くて、お客さんもリラックスしたクールな人たちばかりでした。あれが初来日時だったので、とても強烈な思い出です。
- 日本であなたの名前を聞くと、多くの人がBerghainやDJ NOBUを連想すると思います。6月には東京"LIQUIDROOM"と大阪"CIRCAS"でプレイされましたね。日本でのパーティーはいかがでしたか?
とても楽しかったですよ!Liquidroomは、クラブというよりコンサートという感じはしましたけど、音もとても良かったですし、楽しみました。公演後に何人かの人と興味深い話もしましたし。日本では毎回いい体験が出来るので、行くのが楽しみです。
DJ NOBUはとても優れたDJですね。僕は技術的なことにはあまりこだわらなくて、その人のテイスト、世界観を重視しますが、彼はそれが定まっている人だと思います。最初に聴いたときは、いろんなスタイルの音楽をミックスしていたように思いますが、最近はよりディープでトリッピーな感じになってきましたね。彼のプレイはいつも楽しんで聴いています。
- 多くのDJやアーティストが、日本でプレイすることを好みますが、日本のパーティー/クラブの特別なところはどんなところですか?
ヨーロッパ人からすると、食べ物から風土、文化、全てが違います。特に初めて日本に行ったときは、本当に圧倒されましたね。それ以前から日本はおもしろいところだという話は散々聞いていましたが、想像以上でした。パーティーやクラブに関しては、お客さんが熱心ですね。本当にそのクラブなり、パーティーなり、DJなりが大好きなファンなのだなということが伝わってきます。そこが特別なところでしょうね。他の国では、「どこかへ飲みに行こう」という感覚でクラブに行くので、誰のどんなパーティーなのかよく分かっていない人がいるのが普通なんです。それはそれで、いいことだと思います。じっとDJを観察しているだけのファンだけでも困りますからね(笑)。そういう人もいて、気にせず踊っている人もいる、その両方がいる環境が理想じゃないでしょうか。日本は、お客さんがよく踊ってくれるのもいいですね。
- 日本来日前にレコードをセレクトする写真がFACEBOOKにアップされていましたが、今もプレイはレコードですか?
なるべくレコードを中心にプレイするようにしています。日本のクラブはどこも環境が整っているので安心してプレイできますし。でも、フェスティバルや、他の国のクラブでは、稀にレコードをプレイする人が少なくて、ちゃんと機材やモニター環境が整っていないところがあるので、そういう場合に備えてデジタルのバックアップは常に用意しています。以前はCDも焼いていましたが、今はUSBスティックを使うことの方が多いです。
- ご自身の中で、今興味がある音や今後どういった音を作りたいなどありますか?
最近聴いた中で印象に残っているのは… 新しいModeratのアルバムとか、David Lynchのアルバムとかですかね。その時の気分によるので、特にこれに1番入れ込んでいるというものはないですが。先に説明した通り、僕はその時の気分でそのまま曲を作るので、こういうスタイルにしようとか、こんな曲に挑戦してみようとか、あらかじめ考えることはないんです。
- DJ/プロデューサーと確実にキャリアアップされていますが、今後のビジョンなどはありますか?
何も大それた計画はありません。今やっていることをやり続けられたらいいと思っています。5年後にどうありたいかとか、思い描くタイプではないので。今も新しい才能に出会ったりして、常にサプライズがありますから、そういう新しい音楽との出会いが今後も続いてほしいと思います。そうでないと、DJをやり続けられませんからね。プロデューサーとしても、そういった刺激がインスピレーションになります。
- Release Information -
アーティスト:
Marcel Dettmann
タイトル:
Dettmann 2
レーベル:
Ostgut Ton / Octave
発売日:
9月18日
価格:
¥2,200-
■HMV
http://www.hmv.co.jp/artist_Marcel-Dettmann_000000000394023/item_Dettmann-2_5516259
■AMAZON
http://www.amazon.co.jp/Dettmann-II-Marcel/dp/B00EDFZA1M
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