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Shuya Okino

 
- 彼は天才です。作曲も編曲もレコーディングもトラックダウンもできる。しかもそれぞれの作業の質が非常に高い訳ですから。 -

 
 
- 2014年、数々のリリースの噂が絶えない沖野さんですが、第1弾のリリースは『DESTINY Replayed By ROOT SOUL』。まず、このアルバムを出そうと思ったきっかけは何だったんですか?


前作『DESTINY』を出してから新曲も作り始めてはいたんですが、 『DESTINY』に収録された曲を自分のDJ用に遊びでリミックスしていたんですよね。『DESTINY』は、ジャズ・ミーツ・ブギーというコンセプトで全11曲が様々なタイプのクロスオーバー・ミュージックになっていた訳です。そこに、いわゆる70年代の"もろ"ブギーというものは入れなかった。そこで、「あれ、この曲知ってるけど、なんかヴァージョンが違うな?」という驚きをオーディエンスに与える為にも違うアレンジを作ってみようかなと。『DESTINY』の中では最もスピリチュアル・ジャズに寄せたDEEP INTO SUNSHINEを典型的なブギーにする事で僕の狙いを具現化しようと思ったのがきっかけですかね。
 
- では、その時点でアルバム全体をブギー化するとう構想があった訳ではないんですね?

そうですね。まず、DEEP INTO SUNSHINEをROOT SOULこと池田憲一と一緒にリミックスし、それが東京マラソンの為のコンピレーションに収録される事になった。される・・・と言っても選曲は僕だったんですが(笑)。歴代のソウルやディスコの名曲と並列したんですが、この時はまだドラムが打ち込みでもう一息・・・って感じだったんです。でも、音源化された事でこのアイデアは面白いかもしれないと自分でも思い始めたんですよ。その後、STILL IN LOVEやLOOK AHEADといった『DESTINY』からのヒット曲も池田とリミックスのデモを作り、クラブでかけたところ、非常に反応がいい。ちょうど、池田は自分が働くThe Roomで冨永陽介(彼も又The Roomのスタッフ)のレコーディングに参加していて、「沖野さん、今ならThe Roomでドラムもいい音で録れますよ」というから、それじゃこの際、全曲リミックスをやってみるか?という事になったんです。
 
- 最初はご自分もリミックスに関わっていたのに、全ての曲を池田憲一(ROOT SOUL)さんに任せようと思ったのはどうしてですか?

ちょうど、彼はROOT SOULのセカンド・アルバムのデモも作っていたんですよね。これが非常にいいんです。『DESTINY』は池田にプロデュースしてもらい、僕のアイデアを形にしてもらったので、逆に今度は彼が全てのアレンジを考え、僕が監修する立場の方がいいかなと。既に僕は1度自分のメロディーやファイバリット(『DESTINY』は半分がオリジナルで半分が名曲のカバー)に対して理想の編曲をしているので、そこと差別化するのは池田に任せた方が新鮮じゃないですか?

  - ボーカル以外を全てThe Roomでレコーディングをされたという事なんですが、どうしてスタジオではなくThe Roomだったんですか?

理由は3つあるんです。1つは『DESTINY』で使ったスタジオがなくなってしまった。やはり今は、スタジオの運営も厳しいんでしょうね。ピアノやドラムが非常にリーズナブルな値段で録れるいいスタジオだったんです。そこが存在していればThe Roomという選択肢はなかったかもしれない。スタジオ代がかからない、と言っても僕がThe Roomの家賃を払っていたので厳密には無料ではないんですが、予算上のスタジオ代は必要ない訳です。音楽不況がもたらしたメリットっていうのも皮肉なもんですけど・・・。
また、2012年から2013年にかけてMOUNTAIN MOCHA KILLIMANJARO、三宅洋平、COMA-CHI、そして前出の冨永陽介というアーティスト達がThe Roomでレコーディングをしていたというのも大きな理由ですね。既存のスタジオでなくても十分に希望の音が録音できるという事が既に実証されていたんです。ま、彼らも場所代がかからないという事でThe Roomを活用(笑)してたんだと思うんですが、やってみたら他のスタジオに何ら遜色ない!むしろ、ここで録った方がいい!!みたいな事になっていたんです。だったら、僕が使わない理由はないですよね?むしろ、20年も店をやっていて、どうしてその事に気付かなかったんだろうと激しく後悔しましたよ(苦笑)。あとは、録った音がその場でチェックできるって事ですかね。だって、現場で録音して、その場で再生できるなんて願ったり叶ったりじゃないですか?レコーディングもトラック・ダウンもThe Roomでできるんですから。
 
- 通常、リミックス・アルバムというのは、いろんなリミキサーが入ってるから面白いという意見もあると思うんです。それをROOT SOULだけに任せるという事で音楽性が狭くなるとは考えませんでしたか?

確かにそういう意見はあるでしょうね。でも、いろんなリミキサーが参加したアルバムで通して聴けるものってあります?元々は、異なるジャンルのクリエーターに発注しているから、それぞれのファンを取り込んで知らなかった音楽を知ってもらうという打算的にして理想的な、下心のような使命のような理由があったと思うんですが、やっぱり、通して聴くには散漫で・・・。ましてや曲順が間違っている事も多く、とてもアルバム単位で聴けるものとして成立しにくい。クオリティーに差があったりすると余計にそう思いますよね。それに、今は配信で曲単位で買えてしまう時代だから、従来までのリミックス・アルバムの存在価値って薄れていると思うんです。否定はしませんが・・・。それに、全曲ではないんですが、僕、『UNITED LEGENDS』というソロのデビュー・アルバムの中から抜粋してSLEEP WALKERというジャズのバンドがワン・リミキサーとしてアルバムを出すという事を既にやってますからね。逆に音楽性を狭めるとうか、統一感を出してアルバム買いしてもらう事を考えた方がいいんじゃないですかね?

  - アルバムが出来上がって感想はどうですか?

正直、ショックでしたね。「俺の考えたアレンジよりどれもいいじゃないか!」と(笑)。同じクリエーターとしては悔しいですよ。特にカバー曲は、オリジナルに対し、一度僕なりの提案を行っている。しかも、そこに池田も関与してた訳ですから。さらにもうヒトネタ!ってのは非常にハードルが高かったと思うんです。それでもこうやって彼は全く違う発想でリミックス・アルバムを作り上げた。まぁ、全編生演奏なので"Replayed"という表記になってますけど・・・。いや、その高いハードルを超えられるって大したもんですよ。だから、悔しいけれど、自分が育てたアーティストがそこまで成長したという喜びもある。池田のキャラが結構いじられ系なので、気付いてない人も多いんですが、彼は天才です。作曲も編曲もレコーディングもトラックダウンもできる。しかもそれぞれの作業の質が非常に高い訳ですから。

   
- 要するに、エレクトロ/プレEDM的なアーティストにあれをやられて、俺らが黙ってたらアカンやろ?という事です。しかもロボット?なんだし。 -
 
 
- そんな『DESTINY Replayed By ROOT SOUL』ですが、宣伝文に「ロボット2人組への人類 からの返答である!」と書いてあります。この2人組ってひょっとして・・・。


そうです、DAFT PUNKです。厳密には、GET LUCKYを聴く前に全てのアレンジは終っていたので、返答ではないんですけどね(笑)。でも、出たタイミングは後になるから返答でいいかと。要するに、エレクトロ/プレEDM的なアーティストにあれをやられて、俺らが黙ってたらアカンやろ?という事です。しかもロボット?なんだし。『RANDOM ACCESS MEMORIES』は、すごいアルバムですよ。セールスの事を言ってるんじゃないです。コンセプトだったり、あれを去年、DAFT PUNKが出すという意味だったり。でも、僕がかけられるのはやはり、PHARRELLが歌ってる2曲だけなんですよね。大体にして僕達ジャズ系のDJやファンク/レア・グルーヴ系のDJだってこの5年間、ブギーやディスコをプッシュして来た訳ですよ。それが、DAFT PUNKに美味しい所を全部持っていかれていいんですかと?彼らも音楽のトレンドには敏感だろうし、PHARRELLのみならず、NILE ROGERSまだ引っ張り出して来る所がすごい訳なんですが、僕らには僕らなりの現行ブギーなり現行ディスコがあっていいと思うんです。だから、僕も散々GET LUCKYはかけたけれど、自分のオーディエンスに対して、もっと盛り上がる曲、しかも、自分が手掛けた曲がないとDJとして、そして、クリエーターとしてマズいだろうと。あの侵攻には何らかの形で対抗しないと・・・という思いはありましたね。

  - その事をもっとアピールされては(笑)?

いや、判る人には判ると思います。別にこのアルバムが彼らの作品と比べてどうこうという事ではないんです。僕達にもブギーに対する強い愛はあるし、現代版のブギーを作れるんだという事の確認する作業ですよね。そういう意味では、 "ロボット2人組とは似て非なる人間2人組のブギーへの偏愛?"と言った方が正確かもしれない(笑)。

   
- 自分がすべき事はやはり、消費されない、時代を超えて聴き継がれる音楽を作る事しかないと思うんです。音楽が売れないんじゃなくて、僕達が買う価値のないものしか作れてないって事でしょ?
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- 2014年は沖野さんのDJ生活25周年でもあり、KYOTO JAZZ MASSIVEの20周年でもあります。『DESTINY Replayed By ROOT SOUL』に続くリリースやこの先予定されているイベントについてお聞かせ頂けますか?


ソロのリリースとしては、今、巷で話題の1万円アナログのリリースが控えてますね(苦笑)。KYODAIというスペイン出身でベルリン在住の兄弟デュオがSTILL IN LOVEのリミックスをやってくれています。そして、その後にはいよいよKYOTO JAZZ MASSIVEの新しいシングルも出ると思います。何とか20周年の節目の年に2NDアルバムを出したいんですけどね・・・。新曲を含む最新音源からなるコンピレーションとKJMの作品集は出るかな。リリパはもちろんの事、20周年記念パーティーも行う予定です。海外からもライブのオファーが続々と来てますしね。あとは、動物園の為のコンピレーションとか・・・。

  - 動物園の為のコンピレーション?

話すと長くなるので、リリースが決まったらまたCLUBBERIAのインタビューで説明します(笑)。

  - 音楽業界の不振が囁かれてかなり時間も経つんですが、沖野さんは常にアクティヴで、ユニークな活動を行われています。現状に対する不満やこの先の不安はないですか?一体そのエネルギーは何によってもたらされているんですか?

不満や不安・・・。それはない事ないですよ。だからこそやるしかないって感じでしょうかね。ネガティヴな事を考えている時間があったら行動した方がいいんじゃないですか?でも、僕の場合危機感から動いている訳でもないんです。好きな事で喰って来たし、こんなラッキーな境遇にむしろ感謝の毎日ですね。確かに、CDショップはなくなるし、アルバムは買ってもらえなくなってるし、音楽は無料で当たり前なんて事を言い出す人もいる・・・。そんな状況の中で自分がすべき事はやはり、消費されない、時代を超えて聴き継がれる音楽を作る事しかないと思うんです。音楽が売れないんじゃなくて、僕達が買う価値のないものしか作れてないって事でしょ?1万円出しても欲しくなるものを作る。あるいは、1曲100円しかもらえないかもしれないけれど、量産して世界中の人に聴いてもらう。それしかないと思うんです。僕のエネルギー源は、自分の可能性はどこまであるんだろう?という事に対する期待みたいなものかもしれません。この苦境を沖野修也はどうやって乗り越えていくんだろうという興味(笑)。僕のブログ、基本的に僕がトラブルに巻き込まれた方がアクセスが多いんですよね。それ判らなくもないかな。だって、もし僕が自伝を書いたら、ピンチの時の方が読者が盛り上がるでしょ。だから今、様々な仕掛けで皆を楽しませなきゃいけないな・・・と思っています。やっぱり僕は、根がDJなんでしょうね。
- Release Information -

タイトル:
DESTINY replayed by ROOT SOUL

アーティスト:
Shuya Okino

発売日:
1月29日
 

価格:
2100円

●トラックリスト
01. Let Nothing Change you feat.Pete Simpson
02. Still In Love feat.Navasha Daya *Org: RoseRoyce "StrongerThanEver"(1982年)収録
03. Look Ahead feat.N'Dea Davenport *Org: Aquarian Dream "Noman Conners Presents Aquarian Dream" (1976年)収録
04. Destiny feat.N'Dea Davenport
05. Love And Live feat.Navasha Daya
06. Sun Will Rise feat.Diviniti
07. Take A Look At Yoursel feat.Diviniti *Org: Eddie Russ"Take A Look At Yourself"(1978年)収録
08. Just Do it
09. Give Your Love A Chance *Org: Narada Michael Walden"Awakening" (1979年)収録
10. Deep Into Sunshine feat.N'Dea Davenport
11. Holding You,Loving You feat.Pete Simpson *Org: Don Blackman "Don Blackman"(1982 年)収録

■視聴はOfficial SoundCloudより  
- Tour Information -


01.31 京都 Metro
02.10 大阪 CIRCUS
02.14 福岡 MILLS
02.21 浜松 Planet Cafe
02.22 渋谷 The Room
03.01 高崎 CANOES BAR
03.29 札幌 ACID ROOM
04.25 名古屋 club JB'S
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