- 僕の知り合いが初めてマイクを通さない生楽器の音を聞いて感動していて。意外とそういう人って多いんですよね。オーケストラとか何十人の人が一斉に音を出すと、ジャンって音だけで鳥肌立ちますよ。-
- アルバムタイトルが『Cinematic』ということでBGMのようなイメージを持っていたのですが、曲でストーリーを作って作品にしたようであり、画の浮かび方が鮮明でした。まず、本作の制作意図や経緯を教えていただけますか?
映画音楽っていうものはもともとJazztronikをやろうと思った時にあったコンセプトの1つなんです。僕のプロフィールで常にJazztronikとは?という欄に、ダンスミュージック、ジャズ、ブラジル音楽、ファンクなどに並んで必ず映画音楽というキーワードも入っていたんですけど、その部分を今までなかなか出せなかったんですね。それは単純に僕の技量がなかったのが1番大きいんですけど、そういった音楽を作るタイミングもなかなかなくて。あと、Jazztronikで先にやりたいこともあったというのも大きいかもしれません。
『Cinematic』を作ることになったきっかけは、もともとJazztronikに特定のメンバーはいないんですけど、最近同じメンバーでライブをしてるんです。同じメンバーで活動することによってそれぞれの技量がわかるし、この人はこれができるとか、こういう編成でこういうアレンジでやってみたら面白いんじゃないかというアイディアも浮かぶんですよ。それがこのアルバムを作ることになった1番のきっかけですね。
- 『Cinematic』は、いつ頃から作品にしようと決めていたのですか?
12月頭くらいかな。前作がJazztronikのスタジオライブベストだったこともあって次にリリースする作品は今まで出していないJazztronikの面を出した作品にしたいなというのがあって。それは前からも思っていたことなんですけど、何で統一感を持たせられるかをずっと考えていて。僕はもともと映画音楽がすごく好きで、それに大きな影響を受けて作曲の勉強を始めたんです。
映画音楽っていうのはそもそも映画というものがあってそれに付ける音楽なので、映画音楽を作るというよりは、僕の中で影響を受けた映画音楽のイメージになる様な音楽を作るというコンセプトですね。
- ちなみに影響を受けた映画音楽とはどういったものでしょうか?
音楽というか作曲家は山ほどいます。新旧問わず。もちろん日本でいえば坂本龍一さんなんかも思いっきり影響を受けていますし。外国でもメジャーな人からマイナーな人まで。メジャーな人でいえばEnnio Morriconeだったり。
- 今回の作品を聞いていて統一感があるのはもちろんなんですけど、ちょっと昔のヨーロッパの町並みというか、セピア調な色味を連想しました。面白いと思ったのが聞けば聞くほどその画が変わってくるんですよね。キャッチーな作品ではないので、聞き込むほど聞こえなかった音が聞こえて画が変わって自分の中のストーリーが変わるという展開があって面白いと思いました。
ありがとうございます。ヨーロッパっぽいっていうのはね、僕がこの作品を作る直前に4週間ほどヨーロッパに行っていたというのがあると思います。
- 4週間も何をされていたんですか?
旅行です。
-ちなみにどこに行かれたんですか?
ロンドンに行って、ベニス、フィレンツェ、ローマ、バルセロナ、パリという感じですね。ロンドンには友達がたくさんいるので毎日友達と会って。あとは普通に観光ですね。イタリアも久々だったので。
- お気に入りの場所はありますか?
僕はフィレンツェがすごく気に入っています。過去に2回行ったことがあったんですけど、実はいまいちピンときていなかったんです。でも今回はすごく良い場所だなと思いました。フィレンツェって職人がたくさん住んでいるんですよね。その職人さんたちがたくさんお店やっていて。そしてそういう人たちが住んでいる街って、独特な雰囲気があって好きなんです。
- 音楽というひとかたまりで捉えているので、クラシックの次にダブステップがかかろうがドラムンベースがかかろうが僕にとっては普通なんですね。それがJazztronikの多様性にもつながっているのかなと思います。-
- 今作ではどういった楽器の編成でしたか?
曲によって違うんですよね。例えばタンゴの曲があるんですけど、それは大編成のストリングスと、ウッドベースとピアノとバンドネオンという楽器です。アコーディオンとは少しちがって。今作でいうと「A Night In Venezia」はバンドネオンで、「Manon And Giorgia」はアコーディオンです。音は似ているんですけどバンドネオンの方が少し鋭い音で演奏方法も全然違うんです。
- 本作での野崎さんの役割は何になるのですか?
今回はピアノと作曲と1曲だけ打ち込みをして、あとはアレンジですね。弦楽器の楽譜を書いたり、それぞれの楽器の楽譜をアレンジしてっていうのが僕の役割です。
- 他の楽器の楽譜をアレンジするというのは、すごく難しそうなイメージがあるんですが、実際に勉強をされてきた方からするとどうなのでしょうか?
もともと僕は作曲担当の人なので、昔から作曲について勉強してきたんです。クラシックや現代音楽の作曲っていうのも高校の時から大学を卒業するまで勉強してきました。難しくしようと思えばいくらでもできるし、簡単にすませようと思えばそれもできるし。それはもう曲じゃなくて自分がどんなものにしたいか次第ですね。何でも難しくすれば賢そうでいい、という訳でもないし。かといって弦楽器に大きな動きがなければシンセサイザーでも良いだろうし。そこはそれぞれの作品にあったアレンジをします。アレンジの部分てすごく重要で。僕はレコーディングをするたびに、この重要なアレンジの部分が自分でできてよかったって毎回思いますよ。お金を払って人に頼んでも自分の思い通りにならないかもしれないですし。
学生の頃の勉強は役立っていないことはないし、やっていたに越したことはないですけど。音楽に限らず、自分がこういう物にしたいっていう目標があるとそこに対して突き進めるんですよね。なので漠然と何もないようなところで曲を作ってアレンジしてってなるとちょっと難しいかもしれないですね。ひょっとしたら今作は今まで作品の中で1番それぞれの曲のゴールが見えていたかもしれない。こういう風にしたいっていうのが明確にあったんです。そうなると10分だろうが20分だろうが長い曲でも作れるんですよね。明確にゴールが定まっていないと20分の曲を作ったとしてもダラッと長いだけの、なんだよこれっていう曲になる可能性がありますから(笑)。
- 3月に三井住友ホールで複数編成によるコンサートをやられたということなんですけれども、クラブでDJをする時とはどういった気持ちの違いがあるのでしょうか?
それぞれに特徴があるものなのでなんとも言えないんですが、僕の中で違いは特に意識していないです。音楽というひとかたまりで捉えているので、クラシックの次にダブステップがかかろうがドラムンベースがかかろうが僕にとっては普通なんですね。それがJazztronikの多様性にもつながっているのかなと思います。
- 6月にまたライブがありますよね?
ライブは大小問わずいろんな形のものをやっていこうと思っています。自分の音楽を表現するにはライブの回数を増やした方がいいのかなと思い始めていて。そうするとDJの回数を少し減らさないとライブに集中できないんですけど。
- 僕はいつも打ち込みの曲ばかり聞いているので、本作を聞くと楽器の音色っていいなと思ってコンサートに行きたくなりました。
実は生楽器を聞いたことがない人って多いんですよね。一昨日上野の方でアコースティックのイベントに参加させてもらって1曲だけ演奏してきたんですけど、その時に来ていた僕の知り合いが初めてマイクを通さない生楽器の音を聞いて感動していて。意外とそういう人って多いんですよね。オーケストラとか何十人の人が一斉に音を出すと、ジャンって音だけで鳥肌立ちますよ。
外国だと、Carl Craigがオーケストラ編成でやっていたのあったじゃないですか?あれってすごく、いわゆるアメリカ、ヨーロッパな感じだなって思ったんです。あの映像を見た瞬間に、やっぱり西洋文化なんだなって、見せつけられたような感じがして。あれが外国の音楽なんですよ。クラシックがあって、ビートもあって。日本とは全然音楽の歴史が違う。日本の音楽はたった100年の歴史しかないので。ヨーロッパは400年も500年も、厳密に言うと遥か昔からあるので、Carl Craigのパフォーマンスを見た時には、ヨーロッパやアメリカの人ならこういうことやるよねって思いました。
- あれをもし日本人がやっていたのを見たら思われていたのでしょうか?
ああいった事をもし日本人がやっていたら面白いことするなあと思って見るとは思うんですけど、あれを見た時ほど納得させられる感覚はないと思います。
なぜかというと日本人にとってクラシックはクラシックじゃないから。上手く比べられないけれど、例えば日本の伝統芸能と、若者の最先端の文化が合わさって上手くいった例ってあまり聞かないでしょ?しかもスタイリッシュでかっこ良く見えるものっていうのは。
5、6年前にドイツのクラシックのレーベル<Grammophon>から何人かDJがコラボアルバムをリリースしたの知ってます?僕にとっては衝撃で。日本人からみると外国のクラシックのレーベルはお固いイメージだと思うんですけど、そのお固いと思っていたレーベルがそんなことするんだと思って。多分前述のcarl craigのコンサートはこの流れだと思いうんですが。
- 仕方なく嘘をついたんです。「レコード会社の担当の者です」と言って楽屋にいって葉加瀬さんにテープをお渡しして(笑)。そうしたら2日後くらいに葉加瀬さんから電話がかかってきて -
- 野崎さんのデビューはどういう経緯なのでしょうか?
僕は大学を卒業して何にもすることがなくて。音楽を勉強する大学を出たら音楽の仕事ができると思っていたんですけど、芸術系の学校ってむしろ就職先が無いようなところがほとんどで。
とりあえず子供にピアノや作曲を教える学校で1年間くらい教えていたんです。その間に〈Flower Records〉の高宮さんがJazztronikのデモを気に入ってくれて、Jazztronikをやりましょうという話になってはいたんです。ただ、インディーズレーベルのコンピレーションに1曲入れるだけだったので、それで生活できるわけがなくてどうしようかなあと思ってたんです。僕には音楽業界に何のコネもないし困ったなあと思っていて。
高校生の頃に葉加瀬さんがやられていたクライズラー&カンパニーがすごく好きだったんです。僕が小さい頃に聞かされていたクラシックが聴いたことのないようなアレンジになっていて。ライブも生演奏とコンピューターを融合させていてすごくかっこ良くて。いつか葉加瀬さんと仕事がしたいなと一方的に思っていたんです。
ある日僕がまだ23歳くらいの時に葉加瀬さんがBlue noteでコンサートを3、4日間やられていたんですね。その時にちょうどJazztronikの初期段階のデモテープを持っていって渡したかったんですけどなかなか渡せなくて。でも今渡さないともう機会がないと思って仕方なく嘘をついたんです。「レコード会社の担当の者です」と言って楽屋にいって葉加瀬さんにテープをお渡しして(笑)。そうしたら2日後くらいに葉加瀬さんから電話がかかってきて「お前、面白いから来週から来てくれ」って言われて、そこから急に音楽業界に飛び込むことになりました。
そうこうしているうちに1年くらい経って大沢さんと知りあって、大沢さんの手伝いをさせて頂いて。自分の活動以外にも人と一緒に仕事させてもらう機会が同時進行で増えていったんです。
- 過去の作品を聞きながら思ったのですが、野崎さんのようなテイストの人って他にいないなと改めて思いました。時代的に国産R&Bやジャズ、ハウスのブームの中にいた人達を連想してみたのですが、似たようなところを探してみても野崎さんのテイストは見つからなくて。
だから面白がって重宝されたんじゃないですかね。でも、よくいろいろな人と一緒にされるんですけど、なんで俺この人と一緒にされるんだろうって思ったことはよくありましたよ(笑)。
- Jazztronikはリリースの量が非常に多いですよね。どういったリズムで作られているんですか?
多いんですけど、普通なんですよ。ポップスの人たちなんてもっと出せ出せって言われて出していると思いますよ。
作るペースも、それが特に決まってないんですよね。作曲するのはいわゆる日課みたいなものなんですよ。それがたまたまコンセプトが決まって、そのコンセプトに向けて曲が集まったらアルバムをリリースするだけです。もちろん中にはこのタイミングまでにこういう曲を作って出してくださいと言われる時もありましたけど、僕の場合ありがたい事に結構好き勝手やらせてもらってきたので、自分のコンセプトが固まったらそこに向けて進むというのが多かったですね。
- 野崎さんの過去のインタビューにポップという言葉がよく出てきたのですが、一般的に僕たちがイメージするポップとは違うと意味で使われていると思うのですが。
ポップっていうのはいわゆるポップスではなくて、人が無理しないで心地よく聞けて、興味を引かれるものっていう意味でのポップですね。ロックだろうがヘビメタだろうが、知らないジャンルでもそういう魅力を持っている曲はあるんですよね。それは本当にすごく良い意味でポップだと思っています。
マイケルジャクソンなんて当然キングオブポップで、特に70年代、80年代のアルバムは、どれをとっても突っ込みどころがないほどの完成度ですし、玄人も聴けて一般の人も聴けて、しかも楽曲だけでなくパフォーマンス力と歌唱力とカリスマ性があって。今でもポップだしクラブでマイケルをかける時に躊躇する人はあまりいないと思うんですよね。そういうポップさを持っている曲っていうのは見習った方が良いんじゃないかなって僕は思いますね。
人それぞれ表現方法は違うと思いますけど、僕はやっぱり、マイケルまでとは言わないですけど、ジャンル問わず何をしようが、なるべくたくさんの人に振り返ってもらえるような音楽性は常にキープしたいと思っています。そういう意味でのポップですね。だからJポップとかのポップではないです。
- 「Love Tribe」が2月で7周年を迎えて、ファイナルを4月に迎えるわけなんですけれども、1つのパーティーがピリオドを打つのにはどういったきっかけがあるのでしょうか?
厳密に言うと詳しくは僕自身も分かってないんですよ(笑)。「Love Tribe」っていうのは僕のイベントでありつつも、僕のスタッフとAIRが一緒に組んで神輿を担いでくれたんです。終わってしまうのは本当に寂しいですが、これをきっかけに、また新しい事に挑戦していきたいですね。
- 現在都内のレギュラーは"The ROOM"の「Jazztronica!!」のみに絞られるわけですね。
そうですね。「Jazztronica!!」は今後ちょっと拡大しようかなと思っていて。"The ROOM"で奇数月にやっていて、7月に周年パーティーを毎年やっているんですけど、年にあと2回くらいみんなで他の場所に出てお祭り的な感じでやるのもいいかなと。「Love Tribe」が終了した分はそういうところになるような気がしますね。
- DJイベントではなくてライブを増やすということでしょうか?
ライブも増やしたいし、「Love Tribe」のようなものも増やしたいですね。例えば"AIR"でピークタイムにかけるようなものは"The ROOM"には向かない場合もあるので。もちろん僕はそういう曲もすごく好きだから。そういうものもかけられるバージョンの「Jazztronica!!」もやりたいなと思っています。
-Release Information -
タイトル:Cinematic
アーティスト:Jazztronik
レーベル:七五三Records
発売日:4月9日
価格:¥1,890-
■Jazztronik Official Web Site
- Event Information -
タイトル:Jazztronik presents LOVE TRIBE "Last Dance"
開催日:4月18日(金)
会場:AIR
時間:22時
料金:DOOR¥3,000 WF¥2,500 AIR members¥2,000 Under23¥2000
出演:【B2F】Ryota Nozaki (Jazztronik), SHACHO (SOIL&”PIMP”SESSIONS), DJ TAKEUCHI (ALBNOTE), KAI & KYLE, KARIBIZA, [Dancers] SODEEP, Fishboy and friends, and Special Secret Dancer!!!, [Guest Musician] Takeshi Kurihara (MOUNTAIN MOCHA KILIMANJARO),
【B1F】Kazuhiko Asami, afromance, hiroshi kinoshita, 監督, ShadeSky (Wax Poetics Japan), necoDJ, DJ A-KILLAR, Shinichi, TAKASHI TESHIGAWARA a.k.a TessieNoMad:, Selector-TATSURU, Kylie, djshorge