INTERVIEWS

Hanna Hais

アメリカのソウルクラッシックで育った、フランス生まれパリ在住のシンガーソングライター、Hanna Haïs(ハンナ・ハイス)。彼女は自ら歌詞を書き、歌い、そして曲をプロデュースする。フランス語で奏でられる彼女の歌声は、ハウスミュージックと心地よく一体となり、欧米だけでなくアジアでも多くの人を魅了してきた。前作から実に6年もの月日を経て作られたサードアルバム『2071』。今から56年後、2071年の世界をイメージしたというこの作品には、人間の愚かさにはじまり、荒んだ世界でかすかに生き残るロマンスまで、オリジナリティ溢れるアイディアが詰まっている。アーティストとしての彼女の背景、アルバムの世界観、コラボレーションを含む制作過程から、現在世界から注目される南アフリカのシーンにいたるまで話を聞いてみた。

Interview & Translation by Ken Hidaka (Lone Star Production)
Text by posivision編集部
Profile & album cover photo by Joe Kottman

 

 

 
- ハウスミュージックと出会い、完全に虜になって「このジャンルで歌いたい」と心の底から思ったわ -



- 自己紹介をお願いできますか?

私の名前はハンナ・ハイス。歌手、ソングライター、作曲家、プロデューサー、DJとして活動しているわ。フランス生まれ、パリ在住よ。


- まず、お聞きしたいのですが、なぜ歌手になったのですか?

私は子供の頃からよく歌っていて、父がよく私の歌声を小さなテープレコーダーに録音していたわ。歌のレッスンも受けていて、18歳からプロとして歌っているの。音楽家族に生まれたと言えるわね。兄も別のジャンルだけど、プロのシンガーなのよ。


- なぜエレクトロニックミュージックやダンスミュージックのシンガーを目指したのですか?

ハウスミュージックと出会い、完全に虜になって「このジャンルで歌いたい」と心の底から思ったわ。それに、フランス語でハウスミュージックを歌うことは、絶対に相性が良いと確信したの。数年後にデビューシングル『Il parlait pas français(彼はフランス語を話さなかった)』を<Distance>というフランスのレーベルからリリースすることができて、リミックスにLarry Heard、日本語ボーカルで友人のイトウ•コウスケが参加してくれたの。


- 2006年ころ、あなたはDJにもなりましたよね? そのきっかけを教えてください。

若い頃からレコードディガーだったの。常にヴァイナルを探し回っていたわ。自分が歌いたい楽曲を探してね…。昔、DJと一緒に住んでいたこともあったから、ハウスミュージックは私にとって凄く身近なものだったの。DJすることが大好きだから、決心したことに全く後悔はないわ。プレイしている時、オーディエンスと繋がることができる、そんな感覚が好きなの。私の制作する音楽は、DJプレイをするためのモノが多いってことも関係していると思うわ。


- 新作のタイトルに、なぜ『2071』と名付けたのですか?

「世界が2071年にどうなっているか」私なりのビジョンを描写したかったからそう名付けたの。


- なぜ、今から56年後を選んだのでしょうか?

この作品は、映画『ブレイドランナー』からインスピレーションを受けて制作したの。私は70年代のSF映画がすごく大好きで、『ブレイドランナー』に描かれていることが、実際2071年に現実化するんじゃないかと思っていて。2041年だと現在から近すぎて、極端な変化が生じないと思ったし、2115年だと遠すぎて、世界がどうなっているか全く想像しきれなかったから…。だから2071年に決めたの。

 

 


 
- 私にとって、アルバムは自己を表現するための正当な方法 -



- 今回のサードアルバムは、前作から6年が経っています。2000年代後半、あなたはダンスミュージックシーンに嫌気がさしていたと聞きました。EDMの台頭やハウスミュージックが進んでいる方向性など。現在、ハウスミュージックが進んでいる方向やその進歩について、どう感じていますか?

単純に私はEDMのファンではないだけなの。人それぞれ好みのジャンルがあるように。ハウス界には新たなクリエイティブな才能と、ポジティブなエナジーが集まってきていると思う。よくよく考えてみると、すでにハウスミュージックが生まれてから、もう30年も経っているのに未だに創造性に満ちているのはとても凄いことだと思うわ。普通、30年も経ったら、いかなる音楽スタイルであったとしても、少なくとも創造性がなくなってしまうんじゃないかって思わない? でも、ハウスミュージックに関しては、そうではないの。現在も大活躍している50歳以上のDJやプロデューサーもたくさんいるし、同時に20代のDJが素晴らしい音楽をプロデュースしている。


- 年々、フルアルバムをリリースしない(できない)アーティストが増え続け、リスナーにとってはシングルをデジタルでダウンロードすることが当たり前となってきています。そんな中、なぜフルアルバムを出すことになったのでしょうか?

フルアルバムを制作することは究極の試練だと思うわ。シングルは出してもすぐ消えるけど、アルバムはもう少し長く残るもの。アルバムを聞けば、そのアーティストが実際にどんなアーティストなのか見えてくるものだし、内面に秘めている物も自ずと作品に表れてくるものだと思う。私にとって、アルバムは自己を表現するための正当な方法。アーティストならば、恐れずに自分のアルバムを制作すべきだと私は思うわ。


- 今回のアルバムは、CDやヴァイナルでのリリースはありますか?

『2071』はデジタル配信、それとテレパシーで送信するわ(笑)。


- ダンスミュージックのフルアルバムを制作する際の基本的な考えについて聞かせてください。アルバムという形態には何が欠かせないと思いますか?

まず、音楽的な方向性、ビジョンが必要。そしてそれにふさわしい楽曲を作る必要があって、それをスタジオで一緒に作れる人を探す。これが基本のスタンスよ。

 

 

 
- 以前のアルバムと同様に、この新作でもあなたは多くのプロデューサーとコラボレートをしました。1人のプロデューサーだけを起用しないのはなぜなのでしょうか?


とても興味深い質問ね、自分でも考えてみたことがないわ。違うプロデューサーと音楽制作するのが好きで、私のオリジナルのビジョンに、別のプロデューサーがどのようにインプットするかを見るのが楽しみなの。ひょっとして今後アルバムを制作する時、1人のプロデューサーと作業することもあるかもしれないわね。


- Alex Finkin(アレックス・フィンケン)は、本作でコラボレートしたプロデューサーの中で最も多い4曲を手がけましたが、彼とどのような経緯で一緒に制作することになったのか教えて下さい。

実はアレックスは今回5曲手がけていているの。Raw Diffusion(ロー・ディフュージョン)という彼の別名義をプラスするとね。このアルバムのレコーディング前に、私とレーベル<Atalmusic>、それにアレックスと何度もミーティングをしてよく話し合い、新作の音楽的な方向性を決めた後にスタジオ入りをしたの。私がメロディと歌詞を考えて、アレックスがビートのプログラムと大まかなアレンジを手がける。私はボーカルを録音し、アレックスは制作の仕上げを。そして、彼のスタジオでレーベル陣営を交えて、完成した仮楽曲を一緒にチェックするミーティングを開いて、みんなが満足するまで修正を入れたわ。
セカンドアルバムと比べて「よりアンダーグラウンド感のあるサウンドを」と探っていたわ。


- Matthias Heilbronn(マティウス・ハイルブロン)ともコラボレートしていますね。2004年にリリースされたあなたのデビューアルバム『Rosanova』で彼は3曲を手がけていますが、今回なぜ再び彼を起用したのでしょうか?

2004年からマティウスのサウンドが変化して、Joeski(ジョースキー)とコラボしている最近の作品が気に入っていて。今回の新作では新たな音を目指していたので、彼を起用するのがふさわしいと思ったの。


- 他のプロデューサーとのコラボレーションはいかがでしたか?

Rocco(ロッコ)が制作する楽曲が大好きで、彼の「TBT3」は頻繁にプレイしたし、名作だと思っていたので、彼にリミックスをオーダーしたわ。Boddh Satva(ボディ・サティヴァ)とは、だいぶ前に出会っていて、「フランス語とアフリカ語が交じるボーカルと、未来的なアフロハウスが融合したトラックを作りたい」と持ちかけ「Ka Donke」を制作したの。Hallex.M(ハレックス.M)は、香港在住のフランス人のプロデューサー。そして、マイアミのWMC (マイアミ・ウィンターミュージック・カンファレンス)の船上パーティで私がDJしているときに出会ったのがEric Kupper(エリック・カッパー)。彼は私の楽曲を気にいってくれて、ある日彼が手がけたインストを送ってくれたの。パリで私がボーカルを録音し、アメリカで彼が楽曲を完成させたの。エリックはとても才能ある人で、過去にWhitney HoustonやLenny Kravitz、New Order、Depeche Modeのような多くの大物アーティストと仕事しているから、一緒にできてとても光栄だったわ。

 

 

 
- 何年かしたら、南アフリカは世界のハウスミュージックシーンで多大な影響力を持つと思うわ -


- 現在注目されている南アフリカのプロデューサー、P.M. Projectとのコラボ楽曲についてと、南アフリカのハウスミュージックシーンについて教えて下さい。あなたはよく南アフリカに足を運んでいると聞きました。現地でこの楽曲を録音したのですか? 

P.M. Projectは2人組のグループで、彼らも<Atalmusic>からデビューしていて。実は会ったことがないんだけど、彼らのアブストラクトなディープハウスのサウンドが大好きなの。私は南アフリカに何回か行ったことがあるけど、とても素晴しい国よ。国営ラジオでディープハウスがかかって、ディープハウス系のDJ達は、現地でスーパースター扱いされている。私はアンゴラでもプレイしたけど、そこでもハウスシーンは活気に溢れていたわ。


- 最近、南アフリカのシーンについて、いい噂をたくさん聞くのでこの質問をしました。Ananda Projectのクリス・ブランは現地に行って新作を手がけ、Louie Vega、Charles Webster等の有名なDJ達はしょっちゅう訪れていると聞きます。また、最近Red Bull Music Academy 2003の卒業生であるプロデューサー、Black Coffee等、地元から多くのDJやプロデューサーが世界の市場で人気を博していますよね。

南アフリカには、本当に多くの素晴らしい才能を持ったアーティストがいる。とても驚くべき事実よ。創造性がとても豊かで、例えばディープハウス一つのスタイルだけに限らず、多様なスタイルで作品が作られている。個人的には、Black Motion(DJとパーカッショニストの男性二人組)が好きなんだけど、その他にもC-Major 、<Atalmusic><Innervisions><mule musiq>からもリリースのあるCuloe De Songに、DJ Zinhle(DJジンレ)という女性DJも気に入っている。彼女はBusiswa Gqulu(ブシスワ・グクル)という女性歌手と「My Name Is」という楽曲をリリースしているけど、私はよくDJでこのトラックをプレイしているの。南アフリカのアーティストは、アフリカのルーツを最新のアングラなハウスのサウンドとミックスしているところが好き。今後、何年かしたら、南アフリカは世界のハウスミュージックシーンで多大な影響力を持つと思うわ。


- アルバム収録の「Alina」「N'fa Kafo」の2曲で、ギニア出身の女性歌手、Aminata Kouyate(アミナタ・コーヤテ)とデュエットしていますね。彼女について教えて下さい。

コートジボワールの共通の友人を通して、私は彼女とパリで出会った。アミナタは西アフリカのギニア出身で、母国では結構有名な歌手よ。西アフリカの数カ国で共用語のマニンカ語で彼女は歌っている。出会った後すぐに意気投合したから、彼女とコラボするのはとても楽だったわ。彼女に家まで来てもらい、この2曲のコンセプトを説明して、二人で上手く歌えるようになるまで微調整したわ。ボーカルパーツを自宅スタジオで一度録音し、アレックスがインストを準備出来るようにデータを送信し、本格的にボーカルをレコーディングするために彼のスタジオに出向いたわ。

 

Hanna Hais, Aminata Kouyate - Alina (Official Video)‬


- Aminata Kouyateのようなワールドミュージック界で名が知られている有能な歌手とコラボレートしたのはなぜですか?

なぜかわからないんだけど、私はアフリカと特別な繋がりがあると感じている。2071年には、アフリカが世界の中心になると私は思っているの。アフリカの歌手とデュエットしたいというアイディアが思い浮かんでから、アフリカ人の女性シンガーを探し始めて、そこでコートジボワール出身の友人David Monsoh(デヴィッド・モンソー)がアミナタを紹介してくれたの。デヴィッドも素晴しいアフリカミュージック系のプロデューサーよ。アミナタの夫は素晴らしいギタリストで、バラフォンという伝統的なアフリカ楽器も演奏するの。


- アルバム全体のテーマ、背景を踏まえて、アルバムの各曲の歌詞を説明してもらえますか?(歌詞がフランス語で内容を理解するのが難しく…)

「J’en reve (私は夢見る)」 この歌は、自分が見た夢について書いていて、この夢で私は誰かと繋がろうとしているの。

「A Coté (On the side)」 ある約束をしたけれども裏切った男について歌っているわ。

「Paris Luna」 ほぼインストのトラック。

「N’fa Kafo」父の教訓を無視して、後々後悔する女の子についての歌。

「Rendez Vous」2071年、地球は汚染、失業、暴力、戦争によってとても厳しい状況となり、人々はとても惨めな暮らしをしている。「Rendez Vous」の中で、私は2071年の人たちに、より良い生活のために地球を去って、月や他の惑星へ移住しなさいと忠告しているの。

「Alina」 プロの政治家についての歌。

「Le declic (the trigger) 」 関係を持つ2人の間で何が刺激となるのかを書いたわ。

「Ka Donké」 アフリカ音楽と踊りについての曲で、私がアフリカ音楽を聴く時にどう感じるのかを歌っているの。まるで祈りのような曲よ。

「Edouard」 ゲイの友人についての歌。彼は元カレといつか復縁すると信じて諦めずに連絡を取ろうとしているけど、いつも大惨事が起こるという内容の歌だわ。

「Il me parle en anglais (he’s speaking to me in English) 」 外人の女性と恋をし、その彼女と英語で話すイギリス人についての物語。

「Life」 過去に不遇な目に遭って来た交際相手に対して、多大な愛を与える人物についての曲。


- あなたにとって、お気に入りのアルバムは何ですか? お気に入りのトップ5と、今後カヴァーしたい楽曲も教えて下さい。

<アルバム>
『Thriller』Michael Jackson
『Around The World In A Day』Prince
『Purple Rain』Prince
『Bonnie & Clyde』Serge Gainsbourg & Brigitte Bardot
『Sinatra & Company』Frank Sinatra

<お気に入りのトップ5>
Fingers Inc 「Can You Feel It」Fingers Inc
India & Masters At Work 「To Be In Love」
Kings of Tomorrow feat. Julie McKnight 「Finally」
Black Motion feat. Jah Rich 「Banane Mavoko」
DJ Zinhle feat. Busiswa Gqulu 「My Name Is」

<カヴァー>
この質問にはちょっと驚いたわ。ちょうど今度、カヴァーアルバムをやろうかと考えていたところだったから…。『Rive Gauche(左の岸:パリのセーヌ川の南岸)』というタイトルにするかもしれないけど、詳細は今度教えるわ。


- 好きな歌手と、その理由を聞かせて下さい。

女王のWhitney Houston。絶対音感の持ち主、Barbra Streisand(バーバラ・ストライザンド)。気品に満ちあふれている、Sade Adu(シャーデ・アドュ)。優れた歌手でありソングライターだったAmy Winehouse(エイミー・ワインハウス)。この4名が私の最も好きな歌手よ。


- 最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

近い内に日本へまた行きたいわ。

 

 

 

- Release Information -


アーティスト:Hanna Hais
タイトル:2071
レーベル:Atal Music
発売日:6月22日

[トラックリスト]
01. J'en rêve (Alex Finkin mS Album Mix)
02. A Coté (Matthias Heilbronn Club Album Mix)
03. Paris Luna (Raw Diffusion Album Mix)
04. N'fa Kafo (Rocco Underground Mix)
05. Rendez-Vous (Alex Finkin mS Album Mix)
06. Alina (Alex Finkin mS Album Mix)
07. Le Déclic (P.M Project Dark Mix)
08. N'fa Kafo (Alex Finkin mS Album Mix)
09. Ka Donké (Boddhi Satva Album Mix)
10. Edouard (Hallex.M Mix)
11. Il me parle en anglais (Matthias Heilbronn Album Mix)
12. Life (Kupper's Afro Soul Mix)

■公式ホームページ
www.hannahais.com