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mouse on the keys

 2006年に結成された3人組のインストゥルメンタル・バンド、mouse on the keys。日本におけるポストハードコア/ポストロックシーンのパイオニアバンドのひとつであるnine days wonderの元メンバーであった川崎昭(ドラム、ピアノ)と清田敦(ピアノ、キーボード)が立ち上げ、2007年に 新留大介(ピアノ、キーボード)が加わり現在のトリオ編成となった。クラシックから現代音楽、ノイズまで、その構築美とカオスの両極端を合わせ持つ彼らは、日本のみならずEU圏のツアーでも多くのクラウドの心を掴んだ。今回、2ndアルバム『the flowers of romance』を6年ぶりにリリースしたが、前作からの変化、今作への思いを語ってもらった。

Text: Kumi Nagano
Photo: Eriko Omori

 

 

「音楽的偶然性ばかり追い求めるのではなく、素直に『いい曲をつくろう』という気持ちで作れました」


——前作までは、toe主宰のレーベル<Machupicchu INDUSTRIAS>からのリリースでしたが、今回は<mule musiq>からのリリースとなりますね。ポストロック中心のレーベルから、ハウス/テクノを中心としたレーベルに変わったいきさつを教えてください。

川崎:今回の話はマネージャー経由で来たんですが、彼は以前、<mule musiq>の河崎さんと仕事をしたことがあったようで。2ndミニアルバム『machinic phylum』収録の「plateau」を、Kuniyuki TakahashiさんとCalmさんにリミックスしていただいて、2013年にヴァイナル専門のレーベル<RETALK>からリリースしたんです。おそらくそれがきっかけで気に入ってもらえたんじゃないかなと。<mule musiq>のリリースにはKuniyukiさんのほかにも、Henrik SchwarzやMinilogue、SLY MONGOOSEなどの素晴らしいアーティストが多かったので、誘っていただけて嬉しかったです。


——河崎さんサイドから、「<mule musiq>はダンスミュージック以外をリリースする新しいレーベルを始めようと考えていた時期だったので、今のタイミングでリリースできたらおもしろいんじゃないかと思った」ともお聞きました。

川崎:僕らもダンスミュージックシーンのアーティストとの関わりが増えてきていたので、タイミングがよかったですね。2012年リリースのミニアルバム『machinic phylum』でのLevon Vincentとのコラボレーション、同年フジロックでMoritz von Oswald Trioと同じステージに立ったり、『machinic phylum』リリースツアーではVladislav Delay(aka Sasu Ripatti)と大阪、東京とツーマンしたりなど。バンドシーンに限定せず、これからもどんどんクリエイティブでエクスペリメンタルなアーティストと関わっていきたいです。さらに、<mule musiq>は海外流通を<Kompakt>でやっているので、そこもポイントになりましたね。mouse on the keysが<Kompakt>と関われるなんて昔だったら考えられないですよ。今回のリリースで、より活動範囲が世界に広がると思います。あと、前作までは自分たちでジャケットのアートワークを担当していましたが、今回は<mule musiq>の方で決めたんです。新進気鋭のイタリア人フォトグラファーJulian Vassalloが手がけたものです。彼はJil Sanderなどのハイファッションも撮っている注目のフォトグラファーで。僕らは今まで、ジャケットでも自分たちの考える世界観を表現するべきだと思っていたんですが、今回、<mule musiq>にお任せしたことは結果的によかった。今までだったら自分たちが選ばないもので、かつ意外性があると思います。

 

 


——今回のアルバム制作について聞かせてください。

川崎:毎回、作るときに「自分にとっても驚きのあるものじゃないとイヤだ」という気持ちを大事にしていますが、時間の経過とともに「いい」と思うものは少しずつ変わりつつあります。もちろん今まで作ってきたものの良さは残したいと思っていますけどね。2012年、ひとつ前のミニアルバム制作のときと違って、音楽的偶然性ばかり追い求めるのではなく、素直に「いい曲をつくろう」という気持ちで作れました。今回のアルバムを振り返ったとき、「人間的成長」という言葉が浮かびます。今までは、構築的に全部自分が決めてきたんですが、それに限界がきたんです。時には狂信的になることも制作においては大事ですが、僕としてはそれにひたりすぎると壁にぶつかってしまう。僕は「よくわからないけどカッコいい」というところに興味があって、それが何なのか追求したいという気持ちがずっとあるんです。自分の直観を信じてるんですが、「信じる」ってこと自体が何なのかも知りたいし、「新しいものを作りたい」という気持ちもある。でも結局、何かの焼き直しになりがちで、そこから脱するにはどうしたらいいか、と常に考えています。それで哲学書をはじめとした本をよく読むんです。僕は本を「プラグイン」や「エフェクト」と呼んでいるんですが、読んで新しい考え方を知ることによって、曲に対して「こう試してみようか?」と新しいアイデアが浮かぶんです。作曲において、バンドメンバー以外の人とのコラボレーションのアイデアも、そこから着想を得ました。構築的に曲を作りつつ、直観で「なにかわからないもの」「これはいい!」というものを掴むことを大事にする。それを見つけるのは大変な作業ですが、とにかくいろんな音楽を聴いて、本を読んで、経験を積んで、直観を磨くようにしています。今までの経験、蓄積されて来たものに直観は反応するんです。僕は、バンタンデザイン研究所という学校でDTMなどを教えているんですが、「どうやって新しいもの、自分らしいものをつくるか、みんなで一緒に考えていこう」という授業をやっています。とにかく「たくさん音楽を聴くことが大事だ」といつも伝えています。コード理論だけわかっていても、曲を知らなかったらアレンジはできないし、理論がわからなくても音楽をたくさん聴いていい曲作る人はいますからね。

 

 


——前作までは、川崎さんメインで、PCの打ち込みで作ったとのことですが、今作はいかがですか?

川崎:新留が3曲、キヨが1曲、僕は3曲担当しました。それとバンド外のコラボレート曲が2曲。僕がディレクションして作ってもらいました。あと1曲は、モーリス・ラヴェルの曲のカバー。以前は僕がほとんど作っていたんですが、2012年くらいから「共同で作る」という流れになってきて、今回のアルバムで「完全に担当を振り分けて作る」ということをやりました。「mouse on the keysらしさ」という、言葉にできないイメージや体験をメンバーで共有してきて、それを重ねて来たことで、今回はとにかく清田と新留の二人に、最初から任せて「作って」と言えました。結果的にアルバムとしてバランスの取れたものが仕上がったので、とてもよかったですね。


——それぞれ担当した曲を教えてください。

新留:「reflextion」と「mirror of nature」ですね。mouse on the keysの曲はこういう感じだ、というイメージは割と定着してきたと思うんですが、これはいいことでありつつも、そうじゃないものを出した方がいいと話し合っていて。そこを踏まえつつ、今回、mouse on the keysの曲を自分ひとりで作るのが初めてだったので、逆に他の2人が作らないようなものを意識して作ってみました。最初はどんなものを作ればいいのか悩んでいたんですが、最終的には自分の好きなものを作れば大丈夫なんじゃないかって思えました。バンドのフィーリング、考え方や影響を受けたものを自分なりに体験しているので。

清田:僕は「the flowers of romance」を作りました。

 

 


——これはアルバムのタイトル曲ですが、作った後にそれが決まったのですか?

川崎:実は最初、他の曲にこのタイトルをつけていたんですが、どうもしっくりこなかったので途中で変えました。僕は現代音楽が好きで、ストリートなものとミックスできないかなと思って来たんです。そして、この曲にはそれを感じられた。弦楽器を大々的にフィーチャーしていたりと、今までにない試みをしてくれたので非常にいい曲だし、キヨが作ったこの曲が、前作からの変化をすごく表しているような気がしたので、アルバムと同じタイトルにしました。

清田:以前から弦楽器の入った音楽を作りたいとは思っていたんですが、ライブでやることを考えると、「キーボードに置き換えられるものを」と考えるようになっていて。でもシンセで作る弦楽器の音だと、どうしても生の弦楽器と落差ができてしまう。期限が迫る中、やっぱり生の弦楽器を使いたいと思ったので、それを押し進める形にしました。ライブでの再現はひとまず置いておいて。ヴァイオリンとコントラバスはKineticの千葉広樹くん。あと、波多野敦子さんにもう1つのヴァイオリンとヴィオラを弾いてもらいました。今までと違って、生ドラムは入ってないし、その代わり今まで入れたことのなかった弦楽器が入った。そういった意味でも、とても新しい試みでしたね。


——他にコラボレートされた方はいますか?

川崎:演奏と作曲それぞれでコラボレートした方がいるんですが、演奏だとアディショナル・メンバーでやってもらっているトランペットの佐々木大輔くん。quasimodeというジャズグループのサポートでもプレイしていたアーティストで、「reflextion」の最後のソロを担当しているんです。お任せで何パターンか吹いてもらって、その中から新留が選んで使いました。あと、佐々木くんと共に準メンバーとして一緒にやっているサックスプレイヤーの根本潤くんも数曲参加してます。それと、僕が作った「the lonely crowd」では、明星/Akeboshiさんというシンガーソングライターに参加してもらっています。ここ3、4年、僕は明星さんのサポートドラムを演っていることもあって、ぜひ歌ってほしいなと思っていたんです。ただ「歌」というより、楽器の音のように「声」をレイヤーとして重ねたかったので、よく聞かないと聴き逃してしまうかもしれない。

 

 


——制作期間はどれくらいだったのでしょうか?

川崎:曲作りは1年くらいのスパンでやっていましたが、レコーディングやミックス期間は約1ヶ月くらいですね。

新留:リリースのスケジュールが決まった段階で、残された時間があと半年でした。それまではイメージだけ固めていて「なんとかやれるでしょう」と思っていたんですが、甘かったですね。そこからがもうきつかった。

川崎:スタジオ代が余分にかからないよう、本来レコーディングが始まる前にデモはすべて作っておくものなんです。でも今回は、みんなの準備が進んでいなくて、スタジオに来てアレンジを変えることが何度もありましたね。


——レコーディングをRed Bull Studios Tokyoでやったと聞きました。

川崎:最初、ULTRA-VYBEのスタジオで5日間ドラム録りをして、その後、ピアノのある伊豆スタジオで上物を4日間。それで終わらせるつもりだったんですが、その後、Red BullのスタジオやNONEWYORK STUDIOが使えることになって。Red Bullのスタジオでは、エディットやミックスを中心にやりつつ、いい鳴りのドラムセットがあったので、僕はそこでも叩いてさらに作り込みしちゃいましたね(笑)。ちょっと贅沢ですよね、予定の倍以上のスタジオワークをしているので。スタジオでやりながら完成させたところがある。だから今回は奇跡ですよ、偶然だらけで。 作っている最中はどんなアルバムになるのか本当にわからなかった。


——いくつか意味が気になったタイトルがあるのですが、どのようにつけたのですか?

川崎:だいたい僕がタイトルをつけるんですが、基本的にペットに名前をつけるような感じでつけてます(笑)。先に曲を作って、それから曲のイメージに合うような言葉をインスピレーションでつける。アルバムのタイトルも、ジャケットのアートワークを見てからつけました。このとき思いついたのが、元Sex Pistols のJohn Lydonが始めたバンド、PIL(Public Image Ltd)の2ndアルバムのタイトル『the flowers of romance』。mouse on the keysのサウンドは、ある意味ポストパンクやニューウェーブからクラブミュージックに変容する時期のアーティストを継承しているとも言えるし、それに対するオマージュとしてつけてみました。ご存知なように、Thomas FehrmannやMoritz Von Oswaldは出自がニューウェーブバンドですよね。まあ何にせよ、意味づけは後からなんです。何か深い意味があると思われることもあるんですが、どうせ時間が経てば風化して、どうやってタイトルをつけたかは忘れられる。ただ「このアルバムは○○だ」という名前が馴染んで定着する。今までたくさんの意味づけをしてきたけど、結局、風化してしまったら同じ。自分で意味があるって言ったって、そもそも思い込みだと思うんで、曲のイメージに合ったニックネームをつけるというやり方が僕にはしっくりきますね。


——「leviathan」はMVにも使用されたアルバムのハイライト曲でもありますが、タイトルも印象的ですよね。

川崎:これは僕が作曲したんですが、そのとき読んでいた本『リヴァイアサン』(トマス・ホッブズ著)からタイトルをつけましたね。もともとリヴァイアサンは旧約聖書に出てくる怪獣のことなんですが、ホッブズ的なイメージとミックスさせて。海からドーンと出てきて、小競り合いしている人間どもを押さえつけて平和を維持するみたいなイメージですかね。これも後づけですが、たまたまマッシブな強い感じで、曲のイメージと合った。意味的にはゴジラってタイトルでもよかったんですが(笑)。また、『文系にもわかる量子論』という本を読んでいて、「reflextion」はそこからヒントを得ました。人間は、光が物体に当たって反射したものを色として感知し、物体を認識しますよね。原子や素粒子の位置を調べるにも、光を当てて計測するらしいんですよ。「人間が認知するには、反射が必要なんだ」という言葉がまさに心に反射しまして(笑)。「reflextion」の音のシャープなイメージにあったタイトルだと思います。

 

 

 


「『何か今まで人間が到達できていない領域があるに違いない』と突き詰めていこうとする姿勢がテクノにはあるんじゃないかと」


川崎:僕は今だに、ダンスミュージックに対して進歩的な側面を求めちゃっていますね。中でも実験精神のあるアーティストに対してですけど。ダンスミュージックは、リズム、エフェクトや音色などがメインで、音楽ジャンルの中でもとくに感覚的な要素が強く、脳や神経にダイレクトに作用する音楽だと思うんです。テクノロジーを使うことで、人間の想像の世界、三次元空間にはないバーチャルな世界や概念に到達できるかもしれないって、ちょっと危険な思想を持てる貴重なジャンルじゃないかなと。しかもストリートの立場で、哲学や認知科学とリンクできるかもしれない。こんなこと言ったら怒られると思うんですけど、学者じゃないから“なんちゃって”でも許されちゃうのも魅力というか。たとえば、ドゥルーズ&ガタリの思想に感化されて、彼らの本のタイトルから<Mille Plateaux>というレーベル名をつけたり、イギリスやヨーロッパのエクスペリメンタルなテクノや即興シーンのアーティストが、クァンタン・メイヤスーの思弁的唯物論を中心としたムーブメントに影響されて作品を作るなど。「何か今まで人間が到達できていない領域があるに違いない」と突き詰めていこうとする姿勢がテクノにはあるんじゃないかと。妄想でもかまわない、mouse on the keysでも同じような感覚でやりたいなと思っているので、クラブカルチャーとリンクしたい理由はそこにもありますね。

 

 


——『machinic phylum』収録の「memory」はLevon Vincentとの共作でしたが、今後コラボレートしてみたいアーティストはいますか?

川崎:Henrik Schwarzともやってみたいですね。彼と2011年に共演していたBugge Wesseltoftもすごく好きで。あとはCarsten Nicolai。一緒にやっているOlaf Bender(a.k.a. Byetone)も、僕らのライブを良かったと言ってくれてうれしかった。お世辞かと思ったら真剣な顔だったので、近い将来やってみたいですね。




- Release Information -

タイトル:the flowers of romance
アーティスト:mouse on the keys
レーベル:mule musiq
発売日:2015年7月15日
価格:2,484円(税込)

[トラックリスト]
01. i shut my eyes in order to see
02. leviathan
03. reflexion
04. obsession
05. the lonely crowd
06. mirror of nature
07. hilbert dub
08. dance of life
09. the flowers of romance
10. le gibet