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Open Reel Ensemble

前代の遺物、オープンリールとデジタル機器を組み合わせ、精密かつ大胆なパフォーマンスを行うOpen Reel Ensemble。2009年に和田永、佐藤公俊、難波卓己、吉田悠、吉田匡の5人により結成され、国内外で高い評価を受けてきたが、このたび2015年9月末をもって、メンバーの佐藤、難波が同バンドから卒業する。5人で作る最後の作品となったセカンドアルバム『Vocal Code』がリリースされたが、各曲に込められた意味や制作アプローチについて話を聞いた。

Interview : 永野久美
Photo : 稲垣拓也

 

 

 
オープンリールが現役で活躍していたのが高度経済成長期だったこともあって、その頃の未来観が不意に再生されて。- 和田




――今回は「声」をテーマにした作品だということですが、音楽を作る段階で歌う人も決めていたんですか?

吉田悠:いや、曲を作ってからオープンリールで曲をアレンジする段階まで進んだところで「さて、歌は誰に歌ってもらおうか?」という順番でした。

和田:歌詞や曲が持つ“物語”が最初にあって「そこに登場するのはどんな人だろう」とイメージした中から、実在するキャストを選んでいく感じでした。

吉田匡:ただ、2曲目の「回・転・旅・行・記 with 七尾旅人」は違うプロセスですね。僕らはお互いにデモを作って投げ合うんですけど、当初この曲は難波がデモを作った。旅好きな彼が作ったこの曲のテーマにも「旅」というキーワードがあって。そこから七尾さんとのコラボレーションが決まった。

和田:七尾さんが以前、僕らのライブを観て興味を持ってくれたのがきっかけで「ぜひ何かコラボレーションができれば…」とお互いの想いが合致した瞬間があって。「回・転・旅・行・記」というタイトルが全てを物語っているのですが、回転から生まれたトラックと、回転する世界を旅する旅人さん、まさにお互いの世界観が混ざり合って曲が生まれました。
 
吉田悠:どういうものが仕上がってくるか、とてもワクワクでしたね。
 
――それぞれの曲の背景や制作について教えてください。まず、1曲目の「帰って来た楽園 with 森翔太」はどういった設定なんですか?

和田:まず「オープンリール/歌」といって最初に思い浮かべたのが「帰って来たヨッパライ」という曲。「オラは死んじまったダ〜」という歌詞の…。あれはオープンリールで早回し録音をしているんです。思い浮かべたら「勝手な続編を作りたい」と思ってしまって、歌詞と歌を作りました。「酔っぱらいの息子」が主人公という設定。30代中頃、独身で髪の毛が薄くて酒が飲めないけどミルクが大好きという…。そこで頭に浮かんだのがパフォーマーの森翔太さん。「きっとこの曲をおもしろくしてくれるはず!」とオファーしました。心の中の楽園で歌っている、という設定です。

――3曲目の「空中特急」は和田さんご自身で作って歌っていますね。
 
和田:ライブで軽く歌を歌ったことはあったのですが、ちゃんとレコーディングして落とし込んだのははじめてでした。「空中特急という架空の列車の中で、車掌さんが歌っている」というイメージだったので、上手かったりヴォーカリストである必要がなかった。デモの段階では自分で歌っていたので、みんなも「君の声でいいんじゃないか?」と。オープンリールが現役で活躍していたのが高度経済成長期だったこともあって、その頃の未来観が不意に再生されて。自分たちが子どもの頃、「21世紀になったら、空飛ぶ車や列車があって…」といったイメージがありましたよね。そして「科学技術が進歩して、よりよい世の中になる」という底抜けに明るい希望があったのが、実際21世紀を迎えてみると手放しにそうも言えない現実だったり。絶望感もあった。それが反映されたのがこの曲ですね。
 
吉田匡:万博っぽいイメージですね。

 


――4曲目の「ふるぼっこ」とはどんな意味ですか?

吉田悠:「フルパワーでボコボコにする」って意味です(笑)。すごいタイトルですよね。以前、クリウィムバアニーさんというパフォーマー集団の方と一緒に出演するにあたって佐藤が作った曲なんですが、オファーをもらったとき「私達をフルボッコしてくれ」と笑顔で言われたんです。

和田:「笑顔でボコボコにしてくれ」とも言われたかな(笑)。そのときにできた曲を今回、クリウィムバアニーのみなさんにも参加してもらってレコーディングをしました。今回のアルバムのキーワードは「声」や「歌」ですが、必ずしもメロディーがあって、ヴォーカルとして歌う必要はないなと。この曲には、歌ともいえぬ叫び声が氾濫しています。
 
――5曲目は旅の歌ですね?
 
和田:「Reel to trip」という曲です。これもメンバーが歌っています。今回のアルバム収録曲は、各メンバーがそれぞれ持っているカラーを持ち寄って作ったので、かなりバリエーションに富んだものになりましたね。
 
吉田匡:この曲は「休日にひとり、バイクで小旅行に出かける」という歌。40kmぐらいのスピードで、のんびりベスパに乗って、うしろにオープンリールを乗せて気ままに走っていく…といったイメージ。肩の力を抜いて聴ける曲。
 
吉田悠:アクセルを踏んでない感じ。それと同じ速度でオープンリールがゆっくりと回っているイメージ。
 
吉田匡:曲と風景画がとてもイメージしやすくできていると思います。

――6曲目の「雲悠々水潺々(くもゆうゆう みずせんせん)」は…漢字の読み方が難しいですね。

吉田悠:作詞作曲を担当した佐藤は、ブラックミュージックのバックグラウンドを持っているから、この、英語の歌詞を入れたくなるようなグルーブにあえて日本語の歌詞を乗せてきたことに、とても驚きがあった。

和田:そもそも、日本語の歌詞を作るのが今回初めて。ファーストアルバムは、曲のイメージを考えた上で、全て英語で歌詞を書いたし。でも今回は自然と日本語の歌詞が生まれましたね。

――「(Life is like a) Brown Box with Jan」以外すべてそうですね。

和田:今までオープンリールが持っていたカラーに、日本語という世界観はあまりなかったんですが、オープンリールと日本語を掛け合わせてみたとき、どんなことが起こるだろうと興味があった。

吉田匡:今までの楽曲は、たしかに英語のイメージの方が合っていたと思うんですが、「言葉」という観点から考えてみると、僕らは日常的に日本語を使っていたり、音楽のジャンルとしても日本語にフィットしたので、今回はそうしました。

 

 

 
Open Reel Ensembleが共有している独特のフェティズム、世界観の中で、言葉にしきれないモノに名前をつけることがあるんです。-吉田匡


――7曲目はボヘミア民謡の「Tape Duck」。この曲もそうなんですが、全体的に子どもが聴いても楽しめそうな印象がありますね。

和田:自分たちの中の子どもの部分がよく出てしまったのかもしれないですね(笑)

吉田悠: 「カバー曲を何かやりたい」というところから始ったんですが、民謡を選んだのは「古くて懐かしいけど、今でも同じように楽しめる」というところがオープンリールと共通するものがあると思って。オープンリールという機械自体は古いものですけど、今を生きる若者の中にはオープンリールの存在を知らない人も多くて、その人たちにとってみればオープンリールはとても新しいものとなる。その懐かさが現在とシンクロしている感じ。「この曲を、アヒルに歌ってもらったら?!」と思いついたんです。アヒルの声をオープンリールで録音して、オープンリールで全てピッチを作っていけばできるなと。それでデモをすぐに作った。

――本物のアヒルの声を使ったんですか?

吉田悠:そう、アヒルの声だけを録りに、武蔵野の方にある公園に行ったんですよ。周りに人がいたり、なかなかアヒルが鳴いてくれなかったり、かなり待ちましたが、ちょうど係員が餌を持って来たタイミングがあって「グワァグァグァグァグァグァ!!」と一斉に鳴いたんですね。そこをすかさず録りました。オープンリールの回転速度で音の高さが変わるので、それでメロディーを作りました。この「声」をテーマにしたアルバムで、最後に5人の声を揃えたかったので、メンバーにお願いして歌ってもらいました。9月末で難波、佐藤が卒業するので、5人で作るのはこれが最後になるので。コミカルな曲なんですが、実は悲しい歌なんです。歌詞の最後を見てみると「とうとう人間に つかまえられて 気のいいあひるは 豚小屋暮らし ラン ラララ ランラララ…」となっている。比喩になっていて、とても批評的なところがある。

和田:一見かわいらしい曲なんですが、実は大人の哲学が詰まっている。他にも、作品のいろんなところに、裏テーマを散りばめていますね。

――8曲目の「アルコトルプルコ巻戻協奏曲」は、早口言葉みたいに言いづらいタイトルですね。

吉田匡:はい、10回繰り返して言ってみてください!(笑)

和田:別名「アルコトルプルコ・リワインド・コンチェルト」

――これも何か原曲があるんですか?

吉田匡:巻戻協奏曲というのもないですし、アルコトルプルコというものもないです。すべて架空のものです。

――アルコトルプルコとは何ですか?

吉田匡:Open Reel Ensembleが共有している独特のフェティズム、世界観の中で、言葉にしきれないモノに名前をつけることがあるんです。それがこの曲のようにタイトルになることもあります。

和田:アルコトルプルコのことを言葉で説明するのが難しいんですが…丸いイメージです(笑)。この曲は「オープンリールを高速で巻き戻す」という動作を応用して作っていて、ピッチが不安定なんです。逆再生でものすごくゆっくりと引き延ばした楽曲をテープに録音して高速で巻き戻すと、再生されたときに速く回ってこのような揺らぎが起こります。
 
吉田匡:例えば10分かけて録音した音を1分かけて巻き戻すと、ものすごく高速になる。テープの巻き戻しをイメージしてもらいたいんですが、立ち上がりから徐々に早くなっていく不安定な動きがある。

和田:そこから徐々にスピードが上昇していき、最後にまたテープを巻き取るときに速度が落ちる。そこに物語を感じた。オープンリール達が奏でる協奏曲、映画のワンシーンのようなイメージがあった。

吉田匡:そこに僕と神田彩花さんというパフォーマーの声を乗せました。 神田さんはストーリー性を感じさせる声も持った方ですね。

和田:テープを巻き戻すことで、時間が巻き戻されながら音楽が再生され、過去を前へと進んでいく。それと走馬灯、振り返った時に見える風景がシンクロして。
 
――9曲目の「NAGRA」とは何ですか?

和田:スイス製のオープンリールデッキで、メーカー名でもあり機種名でもあります。それをイメージして作った曲です。

――歌詞に「世界最高峰のテープレコーダー…」とありますね。

吉田匡:やたらカッコいいんです。

吉田悠:男の子の心をくすぐる…(笑)

和田: 日本のオープンリールって木枠のものが多いんですが、ドイツ語圏で生まれたオープンリールは何故かメタリックなボディが多い。その硬質で金属質な機械に、とても繊細でフラジャイルなテープが巻かれている。そのギャップに萌えました(笑)。その質感やイメージを曲で表現しました。

吉田悠:これがファーストアルバムのときのアプローチに一番近いかもしれないですね。「オープンリールを使ってできることは何か」というところからスタートして音楽に落とし込んでいる。

――NAGRAのテープレコーダーは希少価値が高いものなんですか?

和田:なかなか手に入らないし、値段も高いですね。借りようと動いてみたんですが結局無理で…。その憧れ感、手に届かない感じも全て曲に表れている。いつの日か、NAGRAをみんなで背負って演奏したい。そのときにはこの曲を演奏しようと思ってます。

吉田悠:NAGRAに捧げる曲ですね。

 


――今作で「(Life is like a) Brown Box with Jan」だけが英語の歌詞ですね。

吉田悠:直訳すると「茶色い箱」ですが、いろいろな意味を込めているんです。発想の発端になったのは「木枠でできたオープンリール」なんですが、映画『フォレスト・ガンプ』の“Life is like a box of chocolates”(人生はチョコレートの入った箱のようなものだ。開けてみるまで分からない)をなぞらえていたり。今作は「ポップスやフォーク、ロックをオープンリールで表現してみよう」という試みでもあるんですが、そのジャンルの開拓者であるジョン・レノンやポール・マッカートニーのことの存在を頭の隅に浮かべながら作りました、恐れ多いですが。この曲を、みずみずしく歌ってくれる方、ということでJanさんにお願いした。僕らが思いつかないような解釈をしてくれたので、いいコラボレーションができた。

和田:11曲目の「Tapend Roll」はすでにライブでやっている曲で、テープ・ディレイの手法を使っています。オープンリールのデッキを2台、距離を離して置くと、左側のデッキで録音された音が、右側のデッキで少し遅れて再生される。その奏法で演奏する曲なんですが、今回、アルバム用によりライブ感を出してレコーディングした。映画のエンドロールとかけていて、アルバムの終わりの方に収録しました。いろんな想いが詰まった曲ですね。
 
和田:アルバムの最後に、心地よい子守唄のような曲を入れたくて「Telemoon」という曲を作りました。自分たちと同じ年頃の女の子が「月に電話してみたけど留守だった」というシチュエーション。そのイメージとピッタリなbabiさんに歌ってもらった。コンピュータとオープンリールのどちらの良さも生かして作った曲ですね。オープンリールが出す音をコンピュータに直接入れることもあれば、コンピュータで作った音をオープンリールで録ったり…。その作業を行ったり来たりしました。
 
吉田匡:鍵盤を弾きながらオープンリールを触って、「グニャン」と曲がった音を出したら即座にコンピュータに録音…といった感じです。
 
和田: エンジニアがよく「テープが鳴く」という表現をするんですが、テープの立ち上がり時の「チュピーン!ピョーン!」といった音などですね。テープにしか出せない、オープンリールの特徴的な音をコンピュータに大量に録音していって、音楽編集ソフト上で事細かに並べてエディットしていく。エディットは、最新のコンピュータがものすごいことできるけど、その音色は本物から録っている。

 

 

 
あるテクノロジーが誤読された瞬間に、新しい音色やジャンルが生まれる。-和田-


――アルバム収録曲のMVは制作予定がありますか?
 
和田:発売後、1ヶ月くらいかけていくつか発表する予定ですが、まだ未定の部分もあります。「帰って来た楽園」で歌ってくれている森さんが、MVのディレクションも担当してくれています。

吉田悠:「回・転・旅・行・記 with 七尾旅人」のMVはシシヤマザキさんというビデオクリエイターの方にお願いした。

和田:彼女のシュールな世界観が好きで、今回コラボレーションできてとても嬉しいです。

吉田匡:今までのOpen Reel Ensembleのビジュアルは、ソリッドで冷たいものが多かったんですが、今回のような音のジャンルのアルバムだと、全く違ったアプローチができるんじゃないかと。この曲に関しては、まず僕らが曲を作って、そこから七尾さんが加わったことで1回変化が起きて、そこからシシさんがビデオを作ったら、もう一回変化するんじゃないかと。それぐらいの可能性が見えていて、すごく楽しみです。かわいいのが出来上がると思います。

吉田悠:3曲目の「空中特急」のMVは1曲まるまる錯視効果を使っています。

吉田匡:錯視は、技術力を使わずに別世界が体験できる簡単な仕組み。実際のMV制作にはパソコンを使っていますが「古い、その時代にあったものを使って、何か新しいところへいく」という考え方はオープンリールと共通するところのもの。

和田:見る人の脳みその仕組みを使ってるので、人によっては何も起こらなかったりするかもしれない。

吉田匡:個人差があるみたいですね。

――前作との違いや、今までの活動を見てみると「新しいことをどんどんやっていこう」という強い気持ちが感じられます。

和田:そうですね、はじまりはいつも「やってみよう」というところからなので。例えば、東南アジアで「ファンキーコタ(別名ファンコット。インドネシアで発祥した高速ダンスミュージック)」という音楽が生まれたのですが、大衆民謡をクラブで何%かピッチを上げてプレイしたら、すごく踊れる!と発見したのがはじまりとも言われていて。「スピードを上げたら新ジャンルが生まれた」って、めちゃくちゃワクワクします。ヒップホップもそうですが、ターンテーブルの機能を本来の使われ方と違うやり方をしたら生まれたという…。あるテクノロジーが誤読された瞬間に、新しい音色やジャンルが生まれる。

吉田匡:そのつまみはファンキーコタを作るために作ったんじゃなくて、本来、微調整のためにあるんですけど! (笑)

和田:伝統音楽のクンビアを打ち込みでやったら、デジタルクンビアができたり。ドイツのバンドNEU!がセカンド『NEU!2』を作ったとき、アルバムの半分しか曲ができなかったから、すでにリリースしたシングルの回転数を変えたり音をひずませたりしてアルバムの残りを埋めた…という話もあるくらいですからね。単純なことだけど、結果としてそれがカッコよかった。「オープンリールもそういった可能性を秘めているんじゃないか?」と思うとワクワクしますね。

 


- Release Information -

タイトル:Vocal Code
アーティスト:Open Reel Ensemble
レーベル:P-VINE RECORDS
発売日:2015年9月2日
価格:2,700円(税込)

[トラックリスト]
01. 帰って来た楽園 with 森翔太
02. 回・転・旅・行・記 with 七尾旅人
03. 空中特急
04. ふるぼっこ with クリウィムバアニー
05. Reel to Trip
06. 雲悠々水潺々
07. Tape Duck
08. アルコトルプルコ巻戻協奏曲 with 神田彩香
09. NAGRA
10. (Life is like a) Brown Box with Jan
11. Tapend Roll
12. Telemoon with Babi