INTERVIEWS

Albino Sound

 世界中から才能あるアーティストが集結する「Red Bull Music Academy」に、昨年日本代表として選出された梅谷裕貴ことAlbino Sound。本格的に音楽制作を開始してからわずか2年、10月7日(水)に遂にデビューアルバム『Cloud Sports』をリリースした。
 「Red Bull Music Academy」に参加したことで注目を集めているが、Albino Soundとは一体何者なのだろう? まっすぐな眼差しで語る音楽への深い愛情と知識、意外な切り口を持った制作過程。本作では、初々しいながらも、そういった彼の明確なスタイルを反映した楽曲を聴くことができる。そのスタイル、そしていかにして“Albino Sound”が誕生したのか。これまでの彼の歴史に迫るとともに、本作について話を聞いた。

Interview&Text:Ryosuke Kimura(clubberia)
Photo:Satomi Namba(clubberia)

 

 

「自分の苦手なものをやり始めたら、こんなことになったから不思議ですよね(笑)」


——デビューアルバム発売おめでとうございます。改めてアルバムを振り返ってみていかがですか?

制作を始めてまだ2年くらいなので、変な感じですよ(笑)。「Red Bull Music Academy 2014」に応募したときは、自分の曲なんて全然なかったですからね。曲を作るきっかけとして、このために2曲作って応募したら参加できることになって、そこから1年くらいで自分がやってきたことを今回のアルバムでまとめた感じですね。


——ご自身にとって「Red Bull Music Academy 2014」への参加がやはり大きかったと。

そうですね。もともと楽器を弾いていた人間なので、グリッドに対する免疫が全然なかったんですよ。ギターを弾いてドローンとかアンビエントを作っていた時期が長かったし、画面上の中でモノを完成させるというDTMのプロセスになかなか慣れなくて。「Red Bull Music Academy 2014」に参加するまでの3年間くらいは、音楽を作っていなかったですし、普通に仕事もしていました。そこから、あるタイミングでまた音楽を作るようになって、Ableton Liveを買って勉強をしていたら募集があったので。


——再び音楽を作り始めようと思ったタイミングとは一体何だったんですか?

いろいろあったんですが、2012年の「SonarSound Tokyo」に行ったときに、たまたまMount Kimbieと話す機会があって。そのとき東京に来たのが初めてだったみたいで、「どこで遊んだらいい?」と聞かれ、次の日僕が休みだったんで、「じゃあ一緒に遊ぼう」ということになったんです。それで2〜3日くらい一緒に遊んだんですが、彼らの人間性がもっと好きになって。ちょうど、このまま仕事続けるのかまた音楽をやるのか悩んでいた時期だったので、これがすごくいいきっかけになったというか。


——やはり音楽をやりたいという気持ちはずっと心のどこかにあったのでしょうか?

ありましたね、とくに音楽に関しては。でも、一人で始めるんだったらパソコンを使ってやらないといけない意識はあって。でも、パソコンが苦手だったんですよ(笑)。だから自分では絶対にできないと思っていたんですけど、まずは苦手なことをやってみようと。自分の苦手なものをやり始めたら、こんなことになったから不思議ですよね(笑)。


——早いですよね、作り始めて。こんなにも早くデビューできるものかと(笑)。

早かったですね。今回のアルバムのためにミュージックビデオ2本をディレクションしてくれた友人とよく一緒に仕事をしていて、去年は映画の音楽を作っていましたね。いわゆるテレビのCMとかで見るような一般広告の制作とは全然違うスタンスのやり方でやろうとお互いで決めて、音楽もただのBGMではなく、映像にも干渉して相互作用でひとつの作品として見えるようにやろうと。

 

 


——「Culture, Over again」「Library」の2曲をミュージックビデオとして作ったわけですが、それもそういったきっかけからですか?

「Culture, Over again」のソースは、去年作った映画のサントラなんですよ。それが、映画に出てくるクラブのシーンで流れてる音楽だったんです。そのままクラブの曲を作っても面白くないし、いわゆるクラブミュージックのメタ表現をしたというか。一見そのなかで鳴っている音だと思ったら、主人公の心象描写を追っかけていて、そっちに舵を切るという。音楽的判断ではなく、映像的な判断で作ったんです。音楽とは違って映像には映像の流れがあるから、人が振り向くからこうなるというような判断が必要なので、それを自分の音楽に持ち込むようになってから音楽制作が一気に楽しくなりましたね。だからアルバムもそういうプロセスで作ったんですよ。自分が作りやすいようにストーリーやカメラアングルを決めて。


——おもしろい作り方ですね。そういったこともアルバムのコンセプトになっているのでしょうか?

コンセプト自体はアルバムタイトルの『Cloud Sports』なんです。単純にイメージのスポーツという。スポーツ漫画を読むような感覚なんですけど、肉体がない状態でどうやってスポーツするかな〜というただの思いつきから生まれた言葉なんですが(笑)。肉体を使わずにスポーツをやるとしたら、精神しかないじゃないですか。だから、想像力だけでスポーツするというか。そういう思いつきのストーリーがあって、クラウドだったらいろんな意味に通じると思って。ただ、それも徐々に変化していって、自分自身と音楽との関わり方や物の見方を一番上手く表せる言葉だと思ったんです。身体も常に変化するじゃないですか、お腹を下す日もあれば便秘の日もありますし(笑)。頭のなかでイメージしているものも常に流動しているので、常にあるその変化を表す言葉でもあるのかなとも思っています。


——アルバムタイトルもそうですが、Albino Soundというアーティスト名も気になりました。これにはどういった意味があるのでしょうか?

Bo Ningenという仲良しのバンドがいまして、そのなかでもとくに仲のいいギターのKohei Matudaと、去年一緒に映画のサントラを作っていたんですが、何年か前に2人の名義を考えようという話をしていたんです。NirvanaのプロデューサーをやっていたSteve Albiniという方がいるんですが、この人にしか出せない音があって、当時の雑誌でよく“アルビニサウンド”という言葉を目にしていたんですよ。それを僕が文字って「Albino Soundは?」って冗談で言ったら、「それ、いいね!」となって。リキッドルームのKATAというギャラリーでBo Ningenの彼や他の友達数名で即興のライブをやったときに、Albino Soundという名義を使って、それをそのままアーティスト名にしました。音楽が想像つかない名前ですよね(笑)。


——そうなんです、だからすごく不思議に感じていました。今お話を聞いていると、音楽だけでなく、言葉遊びもお好きなんだなと。

言葉遊びで音楽を作っていますね。イメージももちろんありますけど、テクノって突き詰めた数学的な音楽だと思っていて。そこに対抗しても敵うわけもないし、もともと僕自身ジャンル表現の人間ではないので、だったら国語的に音楽を作ろうというのが自分のなかであって。昔から音楽本を読むのが大好きだし、言葉から音楽を想像するということばかりしていたので。


——レビューとかを見てこういう音楽なんだと想像したり?

そうですね。想像だけして、敢えて聞かないとか(笑)。

 

 


「自分が想像したドラマやストーリーで音を表現することができたら、自分の音にできるんじゃないかと」


——音楽的な話になりますが、デビューアルバムなので、大前提として自分の音楽を発信する目的があると思うのですが、楽曲を作るなかでその他にとくに意識したことってありますか?

音楽的判断じゃないことを常にすることですかね。あとは、手を動かしながらでないと作れないタイプなので、最近はアナログの機材も増えてきました。ただ、一番意識したのが、音楽に他の意味合いを持たせることですね。それがビジュアルやストーリーに繋がるのかなと。


——なるほど。ちなみに、アルバム収録曲のなかでひとつストーリーを語るとしたら。

「Culture, Over again」は、失墜してホームレスになったサラリーマンの話なんですよ。超エリートだったトップの証券マンが、リーマンショックで仕事を失った話で。その男はイケイケのバブリーな暮らしをマンハッタンでしていたんですが、成功の名残から当時よく通っていたクラブ、いわゆるバブリーなお店があるビルの真向かいの路地裏でホームレスをやってるんです。そこで顔なじみだったDJがかけている曲と思いきや、「Culture, Over again」という声ネタが入ってくるんですが、その声こそ、その男がカムバックするという意思の表れなんです。そんな回想の話になっていて、シンセが初めて入ってきたときに、その男の心象描写が出てくるという、だいたいのアングルが決まっていて。


——おもしろいですね! そんなストーリーがあるとは全く想像しませんでした。ミュージックビデオでは、暗いスタジオで淡々と機材をいじっているんですが、シンセのメロディが流れると同時に窓から光が差し込む瞬間がすごく印象的で。

あれはディレクターの意向がありまして。彼とのやりとりで面白いのが、お互い相手の斜め上くらいを行こうとするので、互いのイメージしてるものが絶対にズレるんです(笑)。彼のなかでは、僕が捕虜になった通信兵で、無理やり監獄に閉じ込められて、無線通信を打たされるというストーリーがあって。だから、「一切笑わないで欲しい!」と言われてました(笑)。ひたすら暗号を打ち続けてるような。それで朝日が入ってきたタイミングで外で革命が起こって、すべてなし崩しになって終わるという、男の悲哀を表現してるんです。


 

 

 


——全然違うイメージを持ちながらひとつの音楽を共有していると。

そうなんです、そういう裏テーマがあったんだというのを後から聞かされることもたくさんありましたよ(笑)。


——この「Culture, Over again」って硬質な音でビートも際立っていて、すごくUK的な匂いがしますよね。

そうなんです。UKの雰囲気を全開で出しましたね。ブリストルのLivity Soundなど、テクノで聞いているのも最近はUKのものが多いですし。


——今って音をジャンル分けすることって難しいとは思いますが、Albino Soundとしてどんな音を作りたいと考えていたのでしょうか?

いわゆるUKみたいなノリというか、たとえばガラージを作ろうとか、2ステップを作ろうと思っても、それをそのままやっても面白くないので、そこにまったく関係ないドラマとストーリーを持ち込んで全然違う方向に持っていくようにしているんです。そうすることで、音よりもイメージとか空間に意識を持っていくことができるから、完成した曲を聴いたときに、「UK感あるけど、なんか違うな?」ってなるんですよね。「なんだろうなこれ?」みたいな。とにかく聴いてくれた人に首を傾げてほしいんですよ。もちろん、聴いていただいた方それぞれの解釈もあると思うので、そのまま受け入れて、アガっていただいてもセンチメンタルになっていただいてもいい。ただ、昔から日本人ってミックスカルチャーだし、海外から来たものを自分たちの文化にって言うじゃないですか? そういう日本らしさを出すこととか、和物とかが結構苦手で(笑)。


——こういう音楽に日本っぽさを取り入れることって、あまり考えられないですよね。もともと、日本で生まれた音楽でもないですし。

そうなんですよ。和っぽい音を入れるという手もありますけど、なんかそうじゃないでしょって思ってしまうくらい苦手で(笑)。でも、自分が想像したドラマやストーリーで音を表現することができたら、自分の音にできるんじゃないかと。そう考えると、ジャンル自体が全部盗める素材になってくると思うんです。音はサンプリングしてないけど、ブリストルとかのイメージをサンプリングするとか。


——イメージサンプルということで自分の中に一度落とし込めば、結局自分のサウンドが生まれると。

そうですね。そうなったときに、判断基準が映像やイメージになることも自分にとってはおもしろいと思ったんです。イメージが固まらないと制作に時間はかかってしまうんですけどね。あと、作り終わってから、これってクラブミュージックではなくフェイククラブミュージックだなと感じましたね。


——確かに、Albino Soundはクラブミュージックというなかに括れないかもしれないですね。実験的要素もあるし、ダブステップやベースミュージックの要素もある。すごく表現しにくいですが、それこそ首を傾げるじゃないですけど(笑)。

自分のなかでイメージを最優先するからこそ、『Cloud Sports』という言葉が当てはまるというか。自分のジャンルとまでは言えないかもしれませんが、『Cloud Sports』という言葉の意味こそが自分のスタイルですね。

 

 


「自分のなかでは(外国)の人たちが聴いても『何だこれ?』と思ってもらえるような作品になったと思っているので」


——作り始めた頃と今を比べて、今回のアルバムの制作期間で新しい発見などはありましたか?

「Library」が今回のアルバムで最新の曲なんですが、これは新しい発見が自分のなかにありました。この曲はまったく同じタイムラインで同じシーケンスを組んでいて、まるで3つの曲が存在するような作りになっていて。その3つがすごく綺麗に繋がったと自分では思っています。これも元々仕事用に作った音源だったんですが、自分のなかで出来が良すぎたのでアルバムに入れようと。


——「Library」は単純な4ビートではないですが、テクノのDJがセットリストに加えても機能する楽曲ですよね。

使ってもらえたら嬉しいですね。ベースの鳴らし方もダブステップの鳴らし方とはまた違いますし、自分のなかではポストパンクな楽曲なんですよ。ニューウェーブやクラウトロックはもちろん好きな音楽ですが、自分が育ってきた2000年代のポストカルチャーから出てきた感じがあります。だから、ビートの組み方にもそういう色がきっと出ていると思いますし、そこからの流れでテクノの人たちに興味を持っていった感じもあります。


 

 

 


——ちなみに、普段はどんな音楽を聴かれてるんですか?

その時々でバラバラですけど、自分のなかで主要なアルバムが3枚あるんですよ。CANの『Future Days』(1973年)、ClusterとBrian Enoの『After The Heat』(1978年)、Arthur Russellの『World Of Echo』。この3枚は常に聴いているアルバムです。最近は、The Orbの『MOONBUILDING 2703 AD』(2015年)も良かったですね。あと、Keita Sanoさんのハウスも好きですね。


——話がガラッと変わるんですが、映像やヴィジュアルはもちろん、ファッションや風貌なども、日本人ぽくないセンスの持ち主というか。そういったことにもすごく感度が高いと感じました。

実は、ファッションの学校出身で、洋服を作っていたんですよ。だけど、まったくミシンと友達になれなくて(笑)。アナログシンセサイザーを買ったときは楽しくてずっと触っていたんですけどね。ちょうど自分が高校生のころって、ブルックリンでAnimal CollectiveとかBlack Diceなんかがファッションのシーンと繋がっていたり、ロンドンは昔からファッションと音楽の関係はあるし。高校生のときに「STUDIO VOICE」(INFASパブリケーションズ)をずっと読んでいたんですけど、そういったカルチャーが好きなんだと思います。ただ、音楽が洋服の飾り物になるのはすごく嫌で。海外だと文化体系としてアウトプットが洋服なだけで、音楽と洋服がうまく結びついていたりするので、整合性もあるしすごく建設的だなと感じます。音楽とファッションの2つが合わさって、それが最終的に芸術として高いところに向えばいいと思いますね。


——現段階で今後のビジョンってありますか?

アルバムをリリースしたことでギグが増えたら嬉しいですね。もちろん日本だけではなく、海外の人にも聴いてほしいです。自分のなかでは(外国)の人たちが聴いても「何だこれ?」と思ってもらえるような作品になったと思っているので。あとは次のことを始めようかなと。


——具体的に次のことというのは?

もっとライブをしやすいようにしていきたいなと。ライブをメインに、もっとテクノというか、ミニマルで長いシーケンスのなかでドラマを作れるように。やっぱりドラマ性を作るというのは自分のなかでずっと変わらないし、それでここまでやってきたと思っているので。ただ、“何もないと思ったら何かある”というようなものをもっとやりたいなと。そうなるとやっぱりテクノ的なアプローチなのかなって思っています。あとは、ベースミュージック好きの自分をうまく反映させる別名義をやってみようと思っています。

 

 


——これからが楽しみです。今後決まっているライブなどありますか?

11月7日(土)にリキッドルームで開催される「EMAF TOKYO 2015」でライブが決まってますね。Funkstorungも出るし、「Red Bull Music Academy」に参加したsauce81さんもいるので、すごく楽しみです。




- Release Information -

タイトル:Cloud Sports
アーティスト:Albino Sound
レーベル:P-VINE
発売日:2015年10月7日(水)
価格:2,160円(税込)

[トラックリスト]
01 Airports 1
02 Cathedral
03 Culture,Over again
04 library
05 Restless
06 Jump Over
07 Escape
08 Airports 2


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