INTERVIEWS
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Ferry Corsten

トランス界のスーパースターFerry Corsten。トランスブームが巻き起こった2000年代前半、Armin van Buuren、Tiestoと共にトランス三大巨頭としてシーンを牽引し、今もなお第一線で活動し続けている。 2015年10月、実に10年振りとなるSystem F名義でのプレイを直前に控えたFerry Corstenに対し、Trance Family JapanはVelfarre × ageHaが開催中の新木場ageHaでインタビューを行った。コミュニティの特性を活かし、ファンからも質問を募集して行ったインタビューは、Ferry Corstenの新たな一面が垣間見えるのではないだろうか。

Interview & Text:Ariel-Joseph Lim、加藤奈々
Photo:Astro(近内孝)
 

 

 

 
リミックスなどで原曲を薄めたくないというか、このトラックはもうこれで決まりっていうものを作りたい。タッチしないでいればいるほど、それはより特別なものになり、より長く生き続けることになると思うんだ。


ーー今年、「Ligaya」以来となるGouryella名義のトラック「Anahera」がリリースされました。Gouryella名義の再開に到った理由を聞かせてください。

Ligayaからもう13年くらいになるんだよね。Gouryellaでもう一度やりたいというのは、長く頭の中で考えていたことではあるんだ。ただGouryellaとしての活動を停止して以来、どういうわけかトランスコミュニティの中でGouryellaというプロジェクトやその存在が、ある種伝説化していったところがあった。なんというか「Gouryella」という名を口に出すだけでみんな体がブルッと震える、みたいな。そんな領域まで名前が一人歩きしていたように思う。だからでき上がったトランスのトラックに軽い気持ちでGouryellaの名前を使うなんてことは、絶対にやるべきではないと思ったんだ。もしGouryellaとしてリリースするのであれば、聴いた瞬間にGouryellaであることがわかるものにする必要があった。そうしないとみんなの期待を裏切ってしまうからね。これだ! というメロディーを探しながら、頭の中でずっとアイデアを転がしていたんだ。アイデアはいろいろ浮かんだんだけど、なかなかピタッとはまるものに行き着かなくてね。それから昨今のメインストリームになっている「put your hands up in the air!(さあ、両手を上に掲げよう!)」的なアプローチに、やや食傷気味だったっていうのもあって… 個人的に今こそあのサウンドを復活させるときなのではないかと、感じたというのもある。

そしてある時、不意に求めていたメロディーが見つかったんだ。System Fの古いトラックに「The Sonnet」という曲があるんだけど、じつはこれのメロディーのスピンオフみたいな形でね。そのときに、「よし、こいつを当時の方法で現代風にプロデュースしてみよう。」って思ったんだ。で、実際その通りにやった。そんなこんなで、随分時間がかかってしまったというわけさ。


ーーAnaheraは多くのトランスファンから絶賛されましたが、このリアクションは予想していましたか?

ここまでとは想像していなかった。なんというか、まるで祝福されているかのような受け入れられ方で。Gouryellaを復活させれば、多くの人が喜んでくれるだろうとは思っていたけど、このような反応は予想外だったよ。ただ多くの批判も受けるだろうとは予想していた。そもそもGouryellaに対する期待に完全に応えるなんてことは不可能だと思っていたからね。だから、迷いを含めていろいろな感情が混ざったことがすべての発端になったんだね。


ーーそしてこれまで以上にGouryellaのハードルが上がりましたね。

それは確かだね。でも、自分の中に新しい軸を確立することもできた。みんなにとってGouryellaのサウンドとはどういうものか、今の僕にはわかっている。だから次にどこに行くべきか、基本的に迷うことはないかな。


ーーこれからもGouryella名義でのリリースは続くのでしょうか?

そうだね。ただGouryellaというのは、例えば3ヶ月に1回リリースするとか、そういったコンスタントな活動の仕方は、もともとしていなかった。まあ年に1回とか、それくらいかな。特別な感じを維持したいからね。それにリミックスなどで原曲を薄めたくないというか、このトラックはもうこれで決まりっていうものを作りたい。タッチしないでいればいるほど、それはより特別なものになり、より長く生き続けることになると思うんだ。
 

 

 

 
すごく特別なプロジェクトで、ダンスミュージックにおいては前例のない試みとなる。もし思い描いている通りに実現すれば本当にクールだと思う。



ーーこちらの質問は日本を代表するプログレッシブトランス、プログレッシブハウスのプロデューサーShingo Nakamuraからです。昨年頃よりディープハウスやフューチャーハウス、およびその要素を取り入れた楽曲が流行していますが、そういった流行を取り入れることを考えたことはありますか?

あるよ。実際今やっていることがまさにそうだしね。『Hello World』っていうEP 1が2月にリリースされて、EP 2が数ヶ月前にリリースされたばかりだ。そのEP 2の中に「Find A Way」というトラックがあるんだけど、そこではディープハウスなんかで聴くようなピッチダウンしたボーカルを取り入れている。それからEP 3にもひとつだけそうしたサウンドを使ったトラックがある。言うなればDioの「Push」とEric PrydzとFerry Corstenとか、そうしたディープハウス的なボーカルが合わさったような感じかな。だからそうしたものに含まれるいくつかの要素に関してはすごく素晴らしいと思っているよ。それに僕はいろいろなものをブレンドするのが好きだしね。


ーー今後の活動について教えて下さい。

今は来年に予定しているプロジェクトに向けて、準備をしているところだよ。詳細はまだ言えないんだけどね。すごく特別なプロジェクトで、ダンスミュージックにおいては前例のない試みだよ。もし思い描いている通りに実現すれば、本当にクールだと思うよ。それ以外の活動に関してはそうだな… ほとんどの人はFerryをトランスと結び付けていると思うんだけど、僕自身は飽きっぽいところもあって、もっとエレクトロをやりたいとか、あれがやりたいとか、けっこう右往左往してきたところがあるんだ。でも今はまたメロディックなサウンドに惹かれている。ここ数年のトランスではなくて、世紀の変わり目の頃のトランスや現代のアティテュードを加えたものにね。だから今僕が向かう方向としてはそういうところになるかな。


ーーDJとして、あなたの今の夢はなんでしょう?

そうだな、「Tomorrowland」や「TomorrowWorld」でやっている「Full On」というコンセプトがあるんだけど、僕は今それに多くの時間と労力を注いでいるんだ。単発のパーティーなんかも時々やったりしてね。僕がDJを招待してステージで一緒にプレイしたり、バックトゥバックでやったりするんだけど、これまではあくまでサイドプロジェクト的な領域にとどまっていたんだ。これをもっと大規模でちゃんとした、スタンドアローンでも完結するようなイベントにしてみたいというのはあるね。


ーー今夜、久しぶりにSystem Fとしてプレイすることについて、どう思われますか?

Gouryella名義でリリースして、今度はSystem Fでプレイするなんて、まるで僕が過去にしがみつこうとしているように思うかもしれないけど、そういうことではないんだ。今夜のプレイに関してはむしろageHa/Velfarreにおけるその誕生を祝うような側面がある。System FとそのサウンドはVelfarreで育まれたと言ってもいいからね。最初にSystem Fのセットでプレイしてくれないかと言われたときは、「え… まあいいけど?」みたいな感じだった。でもここ数日間何をプレイするか考えていたら、まさに「Full On」のSystem Fセットになるなって思ったんだ。さらにそこにGouryellaやFerry Corstenの要素も加わるっていうね。
 

 

 

 
トランスっていうのはテンポじゃないんだ。メロディーが作り出すエモーションこそがトランスであり、ビートやテンポではエモーションは作り出せない。それができるのはメロディーだけだ。



ーーもしも世界が終わる前に一曲選んでプレイできとしたら、何をかけますか?

「Adagio for Strings」だね。


ーーお気に入りのトランスDJ、またはプロデューサーを教えてください。

今ぱっと思い浮かぶのはAndrew Bayerだね。彼はすごくいいね。Above & Beyondのトラックなんかにもかなり関わっているよ。最近「TomorrowWorld」で「Full On」をやったときに彼もプレイしたんだけど、ディープで美しくて素晴らしいセットだったよ。


ーー他のジャンルではどうでしょうか?

ドラムンベースアーティストのNetskyかな。僕はドラムンベースが大好きなんだ。


ーーあなたは楽曲にさまざまな要素を取り入れていますが、芯の部分はトランスであるように感じます。トランスの魅力を教えてください。

たとえば真のトランスはBPMが140あるいは138でなければならないとか、そうした議論は本当に絶えないけど、僕自身はそんなものは関係ないと考えている。ではトランスとは何か。これは「ハウスはフィーリングだ」みたいに、ありがちなコメントに聞こえるかもしれないけど、トランスってのはテンポじゃないんだ。メロディーが作り出すエモーションこそがトランスであり、ビートやテンポではエモーションは作り出せない。それができるのはメロディーだけだ。たとえば素晴らしいメロディーを含むディープハウスやミニマルテクノのレコードなんかは、僕にとってはトランスのレコードなんだ。なぜならそこにはエモーションがあるからね。テンポやビートのプログラミング、キックを固くするか柔らかくするか、その周りに何を配置するか。それはあくまで補助的なものであり、核となるのはメロディーだ。そしてトランスというのは、そこから始まるんだ。


ーーワールドツアーで訪れる都市としてもっとも好きなのはイビザ、LA、東京であると聞きしましたが、東京がもっとも好きな都市の1つに入っている理由はなんですか?

この街のカルチャーとバイブスが大好きなんだよね。それに清潔で礼儀正しいし、食べ物も美味しい。でも一番の理由はセンチメンタルな部分かな。僕の初期のキャリアの多くはここで築かれたから。System FとVelfarreが人気になったり、エイベックスとパートナーシップを結んだりね。だからこの街や日本のカルチャーに関しては、どうしても特別な目で見てしまうんだ。LAに関してはアメリカで一番好きな都市だし、EDMにしろトランスにしろ、ダンスミュージックに対するスタンスが本当にクールだと思う。コマーシャリズム的なイメージが強い都市ではあるけど、ダンスミュージックに関しては必ずしもそうではないしね。またアジア人を含む多種多様な人たちがいて、人種のるつぼとなっている点も魅力のひとつだね。ちなみにイビザだけど、この理由はもう明白というか、僕のホームグラウンドのようなものだからね。第二の故郷と言ってもいいし、好きな場所だよ。


ーーあなたが焼肉を好きということは、日本のトランスファンの間でよく知られています。では、焼き肉以外の日本食はいかがですか?

じつは今日も焼肉を食べたんだ。臭いするかな?(笑) 本当に大好きなんだよね。日本にいるとき以外で日本食を食べようとすると、基本的に「日本食レストラン」という場所に行くことになるんだけど、その場合ひとつのレストランに天ぷらや、うどんや、刺身など、すべてが揃っている。でも日本の素晴らしいところは、天ぷらの店、うどんの店、刺身の店、それぞれが分かれているんだよね。最初はすごく不思議な感じだったよ。日本食というものが、そうやってそれぞれ独立したフィールドに分かれていることがね。とにかく基本的にはなんでも好きだよ。唯一駄目なのがウニと納豆かな。ふぐはまだ食べたことがないから、なんとも言えないけど。それ以外は本当に全部好きだね。
 

 

 

 
怒っているよりも、笑っているほうが物事はずっとうまくいく。安っぽい言葉に聞こえるかもしれないけど、笑顔と共に人生を受け入れれば、人生も自分に微笑み返してくれる。



ーーあなたの作品の中では「Beautiful」が一番好きです。あのトラックはトランスの精神を完璧に、そしてとても美しく表現しているように思います。何か特定のインスピレーションを得て、あのトラックができたのでしょうか?

面白い質問だね。というのもあの曲は、元々ハウスの曲として作ったんだ。「Beautiful」で聴くことのできるフレーズというのは、じつはある曲のボーカルの一部分に過ぎないんだよ。その全体が入っている曲は「Forever」といって、「Beautiful」と同じ『LEF』というアルバムに収録されている。たまに新しい機材が素晴らしいインスピレーションをもたらすことがあるけれど、あれもそういった偶然から誕生したんだ。あのときはRolandの新しいV-Synthを買ったばかりで、そいつにはサウンドやボーカルを読み込む機能がついていたんだよね。そしてそいつを自由にいじることができた。そしてロボット的な声を発するボコーダーなんかと違い、そのボーカルを使って新しいメロディーをプレイすることができたんだ。人間の声質を維持したままね。すごいと思ったよ。それでテストの意味でハウスの曲を使ってプレイして、「Everything is beautiful…」って始まるところでコードを入れ、音を重ねていったら、「うわ、これはめちゃめちゃいいぞ」って感じになってね。そうやって「Beautiful」はできたんだ。メランコリックなリフとボーカルを組み合わせることによってね。

ーー「トランス」という概念は音楽であることを超え、哲学や生き方そのものであると捉える人もいます。あなた自身は、これについてどう思いますか?

世代によって語られる意見が違うかもしれないけれど、僕はかつてこんな風に言っていたことがある。「トランスというのはみんなを笑顔にして家に送り返す音楽なんだ」って。なぜならトランスというのはとてもリアルで、エモーションをかき立てるものだから。たとえばオフィスで面白くもない仕事を1週間したあとでも、トランスを聴きにいくことで心が解放されることがある。笑顔を浮かべ、他のすべてのことを忘れることができるんだ。そうした要素はテクノやハウスよりも大きいと思う。君たちのようなトランスファミリーの存在が何よりの証拠さ。たとえばハウスやEDMのファミリーなんてのは、世界のどこを探しても見つからないからね。あとはトランスは世紀の変わり目に大きなムーブメントとなり、以降その遺産をかじるようにジャンルの縮小を続け、同時に濃縮されていったことも理由としてあるように思える。トランスファミリーのみんながそうしたことを感じていて、ジャンルを守るために団結しようという空気がある。でもそれこそがトランスの本質でもあるんだ。トランスには他のどのジャンルよりも強い、連帯を生むバイブスがあるんだよね。


ーー多くのアーティストは作品を通して「人生の意味」について語ったり、何らかのメッセージを伝えようとしたりします。あなたの作品には、何か特別なメッセージが込められていたりしますか?

そういうことはあまり考えたことはないな。ただ、移動が多い日々の中で、いろいろなアクシデントを対処したりするうちに学んだことがひとつある。それは怒っているよりも、笑っているほうが物事はずっとうまくいくってこと。安っぽい言葉に聞こえるかもしれないけど、笑顔と共に人生を受け入れれば、人生も自分に微笑み返してくれる。いろいろな意味(many ways)でそれは本当だと、僕は思っている。とはいえ僕も怒るときはあるけどね。


ーー「Many Ways」…。

自分の曲のタイトルに、うまくつながったね。