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Metis

一面に広がる緑のなか、カメラと複数の人に囲まれながら、ひとりの女性が力強くもどこか優しい歌声を響かせている。彼女は今、新しいミュージックビデオの撮影の最中だ。彼女の名はMetis。デビュー以来、ソウルフルな歌声と、ラブ&ピース精神溢れるリリック、メロディで全国の人に元気を届けてきた、日本のレゲエ女性シンガーだ。現在ではレゲエ/ソウルミュージックシーンだけにとどまらず、さまざまなシーンからも大きな人気を博している彼女だが、今に至るまでにさまざまな障害、試練を乗り越えてきたという。そんな彼女が、今年迎えるデビュー10周年を記念したメモリアルベストアルバム『ONE VOICE』を9月21日(水)にリリースする。自身が歩んできたこの10年間の集大成ともいえるこのアルバムには、長きにわたりファンに愛され続け、また彼女にとっても特別な存在である数々の名曲を再レコーディングし収録。さらに、彼女自身初めての経験となった、バンドメンバーとの合作「RAY OF LIGHT」を含めた6つの新曲も収録され各シーンから注目を浴びている。今回のアルバム制作に対し、彼女はどのような想いを抱きながら取り掛かったのだろうか。撮影を終えたばかりの彼女に、これまでの10年間の歩みを振り返ってもらいながら、今回の作品の魅力、音楽に対する想い、そしてこれからの未来について聞いた。

Interview&Text: Yoshiki Yamazaki
 [clubberia]
Photo : Satomi Namba [clubberia]

 

 



歌で数多くの人を救ってきたMetis。彼女が込める、曲に対する想いとは。


ーーまずはベストアルバムのリリースおめでとうございます。今回のベストアルバムに収録された既存曲は、再レコーディングされていますよね。なぜ再レコーディングしようと思ったのですか?
この10年間でのさまざまな経験を通して、人の背中を押せるような力が1曲1曲に宿り始めていると感じたんです。今回は、自分の大好きな曲、ファンの人たちと時代とともに歩んだ楽曲というものを、現在の自分の解釈でもう一度歌い、改めてファンのみなさんに届けたい、そういった想いから再レコーディングをしました。


ーー自分だけではなく、自分が作った楽曲もまた成長しているということですね。
私の場合、ひとつの楽曲を作って終わりというわけではなくて、“この曲をお客さんと一緒に育てていこう”という気持ちでライブで歌ってます。曲というものは、お客さんにも愛されながらいろいろな表情を宿し、徐々に変化していくものだと思っています。


ーーMetisさんの楽曲では、人を勇気づけたり、元気づけたりなどポジティブなメッセージ性が強く含まれているなと感じます。そういった歌を歌っていこうと思ったきっかけはなんですか?
すべてのきっかけは母ですね。うちの母はキャリアウーマンだったのですが、女手ひとつで私を育ててくれて。普段は怖い人なんですけど、社内旅行とかに行くと、ステージで踊って歌うような人だったんです。変なかつら被って、面白いメイクして、山本リンダを歌ったりとか(笑)。いつでもみんなを楽しませている姿を子供ながらに見ていて、「いつかこの人みたいになりたいな」と思うようになっていきました。


ーー今回の収録曲のなかで特に思い入れのある曲などはありますか?
「母賛歌」ですね。私は8年前に最愛の母を亡くしました。でも今は母の死も乗り越え、「自分の家族やお母さんという存在を大切にしてください」という、悲しみを乗り越えた自分だからこそ伝えられるメッセージを、今回改めてこの曲に込めました。言葉で表現するのは難しいのですが、昔よりも力まずに大きく歌えてる、といった変化が今回のレコーディングでは特に感じられましたね。この10年間、母の死だけではなく、さまざまな試練があったのですが、それをひとつひとつ乗り越えることで、自分のペースで生きていくことや、人に流されないで自分の足でちゃんと立って生きていくことの大切さを知りました。決して楽ではありませんでしたが、今こうやって思えるのは、辛いことがたくさんあったからだと思っています。


■「母賛歌」/Metis

 

 

 
 
ーー今回のアルバム名を含め、これまでのフルアルバムのタイトルにはすべて「ONE」というワードがつけられているのですが、これには何か特別な意味があるのでしょうか?

Bob Marleyの名曲に「One Love」がありますよね? 私はあの歌が大好きで、高校生の頃によく聴いてたんです。母が最初の手術を受けている時も夜中ずっと聴いてたほどで。ちょうどその頃、Bob Marleyのトリビュートコンサートの映像を見たんです。そこには、Rita Marley(Bob Marleyの妻)をはじめ、Busta RhymesやLauryn Hill、Jimmy Cliffなど、レゲエシーンのレジェンドたちの姿があり、コンサートの終盤でみんなで「One Love」を歌うんです。彼らが伝える“いろんな障害を乗り越えてひとつになろう”というメッセージにすごく衝撃を受け、とても感動しました。ひとつの愛でいろんな人と繋がっていく大切さに気付き、私も“One Love”、“One Heart”、“One Soul”というコンセプトを掲げるようになりました。今年迎えるデビュー10年を記念したベストアルバムには、“私のひとつの声でいろんな世界観を、いろんなメッセージを届けたい”という想いから、「ONE VOICE」というタイトルをつけました。


ーー今回のレコーディングで何か印象深い出来事などはありましたか?
まず、既存曲の再レコーディングは、ずっとお世話になっているレコーディングスタジオで行ったのですが、新曲に関しては今のバンドメンバーが普段から使っている埼玉のレコーディングスタジオで行いました。新曲のひとつに「人類史上最大の愛」という曲があるのですが、楽器はもちろん、コーラスなどもメンバーに頼み、楽曲のすべてを私とメンバーだけで作りました。今まで、常にひとりで曲を作ってきたということもあり、みんなで曲を作るということは、私にとってすごく新鮮なことだったんです。今回の新曲は、仲間の絆で生まれたという想いが強いですね。


■「人類史上最大の愛」/Metis

 

 



ダンスホールレゲエに魅了され、ダブプレートを作りにジャマイカへ


ーーレゲエミュージックとの出会いはいつ頃ですか?
一番最初に出会ったのは、中学校2年生の時にCDショップで聴いたInner Circleの「Games People Play」です。でも当時の私はR&Bやゴスペルに夢中で、Mariah CareyやWhitney Houstonの曲ばかり聴いていました。当時の私からしたら、まさか将来の自分がレゲエミュージックを歌っているとは思ってもみなかったでしょうね(笑)。でもそういったルーツがあるからこそ、レゲエだけに限らず、R&Bやゴスペルといった、ジャンルにとらわれずに歌えている今の自分がいるのだと思います。


ーーレゲエミュージックシーンで活動し始めたきっかけはなんだったのでしょうか?
都内のクラブで活動していた頃の下積み時代から、2006年のメジャーデビューを果たす間に、ダンスホールレゲエにすごく影響されはじめたんです。7インチのアナログレコードとかを集めるのがすごく好きになったり。それで最終的に“ここまできたらジャマイカに行こう!”と思い立って、ダブプレート作りにジャマイカ行ったのがきっかけですね。


ーーすごい行動力ですね(笑)。
もう行くしかないと思って(笑)。ジャマイカではパーティーのことをレゲエ用語で“ダンス”と言うんですけど、とにかくサウンドシステムを生で感じたくて、現地に着いたらまず“ダンス”に向かいました。いざ行ってみると、サウンドシステムから出る音の迫力も日本とは比べものにならないほど大きくて、みんな楽しそうに踊っていると思いきや、その横ではバイカーと自転車に乗ってる人が大ケンカしてたりなど、日本ではなかなか見られない衝撃的な光景でした(笑)。その後、首都のキングストンを巡ったのちにレコーディングをしたんです。
 

 

 

 

ーージャマイカでのレコーディングはどうでしたか?

ファーストシングル「梅は咲いたか 桜はまだかいな」に収録されたカップリング曲の「青い涙」という日本語の曲をレコーディングしたのですが、集まってもらった現地のミュージシャンたちが日本語をすごく気に入ってくれて。その時初めて、“レゲエミュージックだからといって洋楽を意識せず、日本の和の心で自分の音楽をやっていこう”と思いました。それまでは、自分のスタイルのことばかり気になってしまっていたんですけど、“私の言葉で、私の感覚でいいんだな”と初めて感じて。とても大きい衝撃を受けて帰国しました。


ーー同シングルのリリース時期に、湯島天満宮で合格祈願ライブを行われてましたよね? 噂によると、Metisさんは湯島天満宮に祀られている菅原道真公の末裔なのだとか。やはりそういった所縁もあって湯島天満宮を選んだのですか?
実は勝手にそういうこと(Metisさんが菅原道真公の末裔だという話)になっちゃったんですよね(笑)。その噂が意味に繋がっちゃって。でも、菅原道真の末裔って全国にたくさんいますからね。祖母が“うちは菅原道真の末裔なんだよ”と教えてくれたのですが、菅原氏の家系図自体は戦時中の広島の原爆で焼けてしまっているので、確かな証拠があるわけではないんですよ。そのことをラジオで言ったら世間が“Metisは菅原道真の末裔だ”と認識してしまって。でも、当時「梅は咲いたか 桜はまだかいな」を聴いた受験生から、「合格しました!」という報告の手紙をたくさんいただけたのはとても嬉しかったですね。


■「梅は咲いたか 桜はまだかいな」/Metis 

 

 

 

ーー今のレゲエシーンと10年前のシーンとの変化などは感じますか?

それはすごく感じますね。まず私がデビューした頃は、常に怖い先輩たちがいましたからね(笑)。別にいじめられる、というわけではないのですが、とにかくオーラがすごすぎて。彼らは本場のジャマイカのスタイルを届けようとしていたし、レゲエシーンをどうにかして盛り上げようとしていたのでどことなくピリピリしたムードが漂っていて。今はそういった雰囲気はあまりありませんが、今は今で寿君やTAK-Zとか、第3世代の人たちが窓口を広げたことによって、レゲエシーンがまた盛り上がってきているように感じます。


ーーほかのアーティストさんのライブなどは頻繁に行きますか?
ライブはよく行きますよ。過去にライブを観に行くようになってから周りとの繋がりができはじめたということもありますし。実は、昔はいつも自宅に籠って歌の練習ばかりしてたので、人のライブにはまったく行ってなかったんです。でもそれではダメだなと徐々に気づかされて。というのも、2012年から2年間、家から一歩も出ない生活を送っていたのですが、だんだん自分が壊れてしまって。頑張りすぎてガス欠になってしまったんです。その間、何もやる気が起きず、歌が嫌いになっちゃって、ステージに立ってもまともに歌えず、歌詞を書いてもネガティブなことばかりで…、とにかくひどい状態でした。


ーーそれは大変でしたね...。そのような苦しい環境からどうやって抜け出したのですか?
ある日、たまたまレゲエライブを観に行った時に、そこにいたレゲエアーティストたちがいろんな人を紹介してくれたんです。そこでの人と人と繋がりを通して、人間は支え合って生きているんだなという感覚が少しづつ芽生えはじめてきて。それからは、なるべく外に出たり、公園を歩いたりしてもっと自分を見つめる時間を作るようになりました。そうすることによって、徐々に自分のなかの何かが変わりはじめたんです。例えば、毎日同じ道を歩くにしても、「今日はこんなにも日が照ってる、こんな色をしてる、こんな花が咲いてる」という、些細なことにも気づけるようになっていって。それからは、もっといろんな人に会うようになって、今では多くの仲間やアーティストに囲まれ、幸せな日々を過ごせています。

 

 

 
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ーー今回の新曲では、ダンスミュージックが色濃く出ている楽曲のイメージが印象深いのですが、これにはどういった心境の変化があったのでしょうか?
最近は“原点に戻りたい”という気持ちが非常に強く、原点であるダンスミュージックでもう一度かっこいいものを作りたいと思うようになり、今のバンドメンバーに相談したんです。その結果、バンドメンバーと一緒に曲を作ることになり、みんなと一緒に楽しみながらアイデアを出し合って完成させたのが「RAY OF LIGHT」という曲です。私は、ライブのなかでも特にフェスティバルや野外イベントが大好きなので、そういった場所でのライブを想定していつも曲を作るのですが、この曲も大勢のオーディエンスとひとつになって飛び跳ている光景を思い浮かべながら制作しました。


ーーMetisさんの曲や、最近Metisさんがハマっているクラブミュージックのアーティストを何かオススメしていただけますか?
自分の曲ではやはり「RAY OF LIGHT」ですね。この曲がパーティーピープルには一番刺さるかなと思います。これを聴いて何も考えずにめっちゃアガってほしいですね。今私が好んで聴いているアーティストは、イギリスのジャングル系ユニットRagga Twinsです。私はドラムンベースにラガの要素が交じった音楽が大好きで、「RAY OF LIGHT」もそれを意識して制作しました。ドラムンベースにパトワ語をのせたジャマイカンな楽曲に仕上がっています。


ーー曲調もヘビーで、ギターの音もすごく歪んでますよね。
もともとジャマイカのダンスホール的なアプローチを施した曲を、バンドメンバーがロック寄りにアレンジしたんです。私はドラムンベースとかジャングルとかのジャンルがもともと好きで、レゲエをはじめた頃からずっとそういったサウンドも平行して愛聴してきました。ジャングル自体は昔から存在していたのですが、個人的にすごく未来を感じるというか、新しいサウンドだと感じるんですよね。ここ数年で台頭してきたSkrillexを筆頭に、ダブステップやブロステップといったクラブサウンドでジャングルはアウトプットされはじめましたしね。SkrillexとRagga Twinsのコラボレーション曲「Ragga Bomb」もクラブミュージックファンの方たちにオススメです。


■Ragga Bomb with Ragga Twins/Skrillex

 

 

 

ーー今後はどのような活動を考えていますか?

一度原点に戻って、ピースなメッセージを自分のペースで伝えたいなと思っています。デビュー10周年を迎えた今、“世界を愛と平和で満たしたい”という気持ちが再び溢れてきているので。現在は、“命とは、人生とは何か”、みたいなシリアスな考えはいったん置いといて、“みんなでピースにハッピーにいこうや!”というポジティブな気持ちで曲を書いています。幸せなバイブスを繋げていって、自分自身ももっとたくさんの人と繋がり、またフェスティバルなどでみんなと一緒に歌いたいですし、そのスタイルを変えずに今後も歩んでいこうと思っています。


ーーでは最後に、今プロの歌手を目指している人たちに、何かメッセージをいただけますか。
ひとつは絶対に諦めないことですね。それと、人との繋がりを大切にする。シンガーとしてやっていきたいならライブハウスやクラブのスタッフの人たちとも仲良くなったり、現場のスタッフや一緒に歌う仲間をたくさん作って、歌う場所をどんどん広げっていってほしいです。

 

 



- Release Information -
タイトル:ONE VOICE ~Metis Best~
アーティスト:Metis
リリース:9月21日(水)
価格:3,500円

[トラックリスト]
01.梅は咲いたか 桜はまだかいな
02.HIGHER GROUND(新曲)
03.人類史上最大の愛(新曲)
04.ANSWER
05.花鳥風月
06.HAPPY PEOPLE
07.OVER THE RAINBOW
08.RAY OF LIGHT(新曲)
09.DODGE BULLET(新曲)
10.弱虫なんて呼ばないよ(新曲)
11.人間失格
12.ずっとそばに…
13.最後は笑おうよ
14アオギリの木の下で…
15母賛歌
16.I LOVE YOU(新曲)

■リリースページ
http://www.clubberia.com/ja/music/releases/4785-ONE-VOICE-Metis-Best-Metis/

■Metisオフィシャルサイト
http://www.teichiku.co.jp/artist/metis/