INTERVIEWS

普段ドラムンベースを聴かない人たちへ
官能と低音のフロアへようこそ
DJ SODEYAMA × YMASA × DJ MASA

取材・文:Yanma
写真:tatsuki nakata、Yanma
撮影協力:宇田川カフェ

 
 なにやら、面白そうなパーティーが開催される。そう思う要素は大きく3つある。まずは、異色のパーティー同士によるコラボレーションだということ。知名度よりも新しく実力のあるアーティストを紹介する、つまりハイリスクを背負ってシーンで踏ん張る「#ONFLEEK」とドラムンベースのパーティーにも関わらずゲストDJはハウス/テクノDJのドラムンベースセットというセオリーから外れた企画で人気の「GRACE」がタッグを組んだ。そして提案するは、あのGoldie率いるMetalheadzよりアルバムデビューしたLenzman。さらに会場はドラムンベースのパーティーがなかった東京・Sankeys TYO。未知数だがとても興味深いパーティーである。だから、パーティーをプロデュースする「GRACE」オーガナイザーのYMASAと「#ONFLEEK」の仕掛け人KOSUKE、出演者のDJ MASA(「ROAD TO OUTLOOK JP 2014 CONTEST」チャンピオン)、そして、Sankeys TYOでレギュラーパーティーを抱え、誰よりもこの箱のサウンドに詳しいDJ SODEYAMA(GRACEにも出演経験あり)に集まってもらい、このパーティーの可能性を探ろうというわけだ。なお、開催は7月15日である。

GRACEというパーティーの視点

左からDJ SODEYAMA、YMASA、DJ MASA

——「GRACE」はドラムンベースのパーティーですが、ドラムンベースのDJではない人をゲストに呼んでいますね。そうする意図とは?

  YMASA:ハウスやテクノってどのパーティーに行っても、いつもの友達がいたりして遊べるんですけど、それがドラムンベースのパーティーってなると、そこで一緒に遊んでいる人たちとパタッと会わなくなってしまうのが、少し寂しいなと思いまして。その壁を壊してみんなでもっと遊びたかったんですね。ドラムンベースは、ヒップホップやテクノ、ハウスなどに比べるとかなり閉鎖的なところがあるので、もっとシーンに開放性を持たせたかたっんです。なので、ほかのジャンルで活躍しているアーティストにドラムンベースセットを披露してもらい、他のシーンの人たちにも遊びに来てもらうというのがコンセプトですね。

——ゲストは1回目がMAARさん、2回目がALYNさんとDJ RSさん。3回目が今日来てもらっているSODEYAMAさんでしたね。SODEYAMAさんはドラムンベースセットのオファーが来たときどう思いましたか?
 
SODEYAMA:別に、普通だよ。俺は何でも買いますから。それに、90年代のドラムンベースってEPの裏面にハウスリミックスを入れたりする人が多かったからね。4 Heroとかそうだったし。そういう流れがあったからね。俺のあとは誰が出たの?
 
YMASA:Kaoru Inoueさんです。その後がSekitovaさんとNoaさん。最近はhyota.さんとTaarさんです。あとはゲストDJが「ドラムンベースのDJって、こんなに難しいことやってるんだね」と言うんです。それを気付かせたいからやってるわけじゃもちろんないのですが、そういう話を聞くと自分たちがやっていることの証明になるような気がして嬉しいというか。
 
——ドラムンベースのDJのミックスって特殊なんですか?
 
SODEYAMA:違うわけではないけど、展開がミニマルじゃないからね。感覚でいうと、テクノよりはハウスやヒップホップのDJをやるほうが近いかも。テクノってミニマルなトラックを連続させるなら曲の展開はそんなに気にしなくてよくて、ずっと混ざっててもいい。でもハウスって歌ものと歌ものだったらイントロとアウトロでうまく繋がないといけないじゃん。そういう要素がドラムンベースは多い。どこでも繋げられるものでもないというか。ちゃんと曲の作りを理解して合わせないといけないのが大きいかな。それにベースが際立っている曲が多いから、ずっと混ぜていられない。
 
YMASA:「GRACE」に出てもらったゲストDJの方は、シーンにいるドラムンベースのDJの仕方とはまるで違うので、それがドラムンベースシーンで遊んでる人たちにとってもすごく新鮮で。エフェクトの使い方が皆さん上手いし、SODEYAMAさんに関してはプレイヤーの1台を効果音用に使ったり。ドラムンベースを聴きに来た人が、ゲストDJのプレイを聴いて、そのDJのファンになってテクノやハウスのパーティーに行ってくれても嬉しいし、ゲストDJのファンがドラムンベースを好きになってくれたら、とくに嬉しいです。これまでMicrocosmosでやっていましたが、それにも理由があって、ドラムンベースの土臭さみたいなものを抜きたいという想いがあって。ひとつは地下ではなくて地上でやれる場所が良かったんです。
 
一同:そこなんだ(笑)。
 
YMASA:クラブCIRCUSの代表でありドラムンベースDJのTOYOさんが毎回のように遊びに来てくれるんですけど「ドラムンベースの余計な濃さがなくて、一般の人も入りやすいオープンな雰囲気のパーティだよね。」って言ってくれたのはとても嬉しかったですね。
 
SODEYAMA:そもそもドラムンベースは、なんでそんなに特殊な扱いになっちゃうんだと思う? 今まではパーティーも少なかったじゃん。シーンはずっと昔からあるのに。ほかのダンスミュージックと混ざらない理由が何かあるのかな?
 
YMASA:よく聞くのは“踊り方がわからない”ということですね。早いですし。例えばハウスが好きな人はテクノも好きな人が多いし、4つ打ちっていう大きな枠組みがあるから。
 
SODEYAMA:でもさ、ヒップホップは遅いけどテンポを倍でとったらドラムンベースでしょ。
 
KOSUKE:ドラムンベースってファッションの要素があまりなくて、サウンドシステムと音!って感じだよね。
 
——でも「Drum & Bass Sessions」に行ったときは女の子が多いなという印象がありましたよ。
 
SODEYAMA:昔からドラムンベースって女の子多いよ。
 
KOSUKE:一人で来るカワイイ子がいるよね。
 
SODEYAMA:「Earth People」とか女の子多かったよ。
 
YMASA&DJ MASA:「Earth People」?
 
SODEYAMA:日本の初期のドラムンベースパーティーだよ。



Microcosmosで行われていた時の「GRACE」の様子


Goldieも認めたLenzmanとは?
 
——今回はSankeys TYOで「#ONFLEEK」というパーティーとコラボレートしてLenzmanを呼んで開催しますね。
 
YMASA:「GRACE」はいつかLenzmanを呼びたいと思って始めたパーティーでもあるんです。彼の音というのは、家で聴いても良いし、クラブで聴いても良い。どこで聴いてもマッチするドラムンベースです。だから、他ジャンルの人も気に入ってくれると思うし、いろんな人に聴いてもらいたいっていう気持ちです。Microcosmosだとキャパシティが足りないのでSankeys TYOでやることになりました。「こういうアーティスト呼びたいんですよ」ってKOSUKEさんにプレゼンをしたら、それ「#ONFLEEK」のコンセプトにバッチリ合うから呼んで一緒にやろう! という流れになりまして。

 
ーーLenzmanは、ドラムンベースシーンのなかでどういうアーティストでしょうか?
 
DJ MASA:ドラムンベースってジャンルの名前になる通り「ドラム」と「ベース」がすごく重要な音楽なので、シーンのなかにいる人たちやトッププロデューサーたちは、いかにドラムの質感がよいか、実験的で面白く作り込まれたベースであるかを重視しています。Lenzmanはそこがしっかり作られているので、たとえキャッチーな曲を作ったとしても、評価につながっているのだと思います。メロディラインで使っている音も昔のレアグルーブとかファンク、ソウルからサンプリングしていたりして、音楽に対する知識がすごく豊富。アーティストとしての奥行きがあるも魅力のひとつです。
 
——ちなみにドラムンベースシーンの最近の傾向、流行のサウンドというのは?
 
DJ MASA:メインストリームのイベントでプレイするDJたちがかけているドラムンベースは、EDMの要素が強いものだったり、歌ものだったり、ポップスに近いものだったりするので、多くの人はドラムンベースがそういうものだと考えているように思います。5年前くらい前はドラムンベースシーンでもEDMやエレクトロの流れを汲んだドラムンベースがすごく流行っていた印象です。でも今は、いろんなサブジャンルに散っているように感じます。ハーフステップだったり、ラウンジで聴けるようなリキッドファンクだったり。去年は、ハーフステップという、ダブとかヒップホップの要素が強いドラムンベースがすごく流行った年だったように思います。その要因として、「Sound Crash」で優勝したりマンチェスターのドラムンベースプロデューサクルーのLevelzだったり、Exit Records中心のプロデューサー集団Richie Brainsなどの影響が強かったと思います。






ドラムンベースとSankeys TYOの相性は抜群!?

——SODEYAMAさんはSankeys TYOでレギュラーパーティーを開催していますが、箱のサウンドをよく知る一人としてドラムンベースとSankeys TYOのサウンドシステムの相性をどう思いますか?
 
SODEYAMA:俺はAIRのときから、あの場所でやっているけど、システムはまったく違って今はMartinが入ってる。俺の印象だけど、AIRのときよりベースの帯域は大きいと思う。ただ、ボリュームとしはAIRのほうが大きかった。AIRってめちゃくちゃ音出てじゃん。でもそれは音量としてデカかっただけで、低音が強烈ってほどではなかった。でもSankeys TYOは音量がでかいわけじゃなくて、低音のほうがでかい。だからSankeys TYOでドラムンベースは、俺は映えると思う。でも曲によってはお客さんがしんどくなるかもしれないね。
 
——どういうことですか?
 
SODEYAMA:低音が強烈だから。でもドラムンベースが好きな人って、そもそもそれが好きなんだよね(笑)。テクノ、ハウスシーンの人って、低音がでかすぎたり、音がでかすぎたりするのを避ける傾向があるけど、俺はそれにちょっと疑問。耳には良くないのは事実だけど、クラブなんだから。家で体感できない低音の感覚があってなんぼじゃないかな。クリアで聴きやすくて、耳にしんどくない程度でフロアでも喋れますみたいなのより、浴びるほどの低音と喋れないフロアでいいんじゃない?って思っちゃう。そのほうがフロアに行ったとき、“おおおおっ”てなるじゃん。でも東京ってもともと音の苦情もあって、爆音が出せるクラブってないから。これが今の基準なんだけね。海外のクラブにいってアホみたいに音が出てるクラブっていくらでもあるから、あれくらいの体感があってもいいかなって思う。
 
YMASA:日本のクラブだと本来のドラムンベースを感じられる場所ってほとんど無くて。僕が以前訪れたロンドンのfabricの様にしっかりと低音を感じたのは「OUTLOOK FESTIVAL JAPAN」でeastaudio SOUNDSYSTEMがVoidを入れた時ですね。スピーカーの前にいると気持ち悪くなる、みたいな。
 
SODEYAMA:ドラムンベースってそもそも、作り手は“スピーカーの前まで行ったら気持ち悪くなってよ”って思って作ってるんじゃないかな。“聴きやすいから”なんて作り手は思ってないと思うな。だから特殊なジャンルなわけか。曲の再現性がないとさ、活きない音楽なんだな。
 
——曲の再現性?
 
DJ MASA:ドラムンベースってベースのためにキックのピークの周波数を少し高めに持ってくるというか、あえてローカットしているんですよ。大体125〜150hzをピークとして、それ以下をベースの帯域に空けておいてベースラインはそこで作り込んでいる。でも、サウンドシステムの低音の再現性が高くないと、再現できなかった周波数帯が抜けてしまいます。そうすると、MIDベースなどでしっかりレイヤーされていて耳で聞こえるベースを意識して作られていない限り、あえて迫力のある帯域を削ったキックがサウンドシステムで再現できる一番低い周波数の音になってしまう、つまり聴いていて面白くないようなスカスカのドラムンベースになるんです。Lenzmanは、サウンドシステムを信頼したあまりMIDベースをレイヤーしていないタイプの曲をよく作っている印象なので、低音の再現性が高いSankeys TYOなら曲がちゃんと生きると思います。それにLenzmanの曲はステレオ性の強い曲が多いイメージです。だから、とくにビートを中心とした高音域の再現性が必要。例えばミニマルテクノが映えるような場所であることは大事です。
 
SODEYAMA:「GRACE」に出ることになって、ドラムンベースを聴いて思ったのが、作っている段階でテクノとかと比べてバランスの組み方が違うんだよね。ハウスはちょっと別だけど、テクノはキックの帯域がドラムンベースと違う。簡単に言うとテクノとかハウスってキックが前に出ている曲が多い。ドラムンベースの曲のほとんどはベースが前に出てる。だからドラムンベースをキック単体で聴くと以外とスカスカだったりする。その代わりにベースを突っ込んでいる量が多い。
 
——“再現性”が重要なワードとして出てきましたが、ドラムンベースに必要とされる低音の帯域、それが再現されると、僕らはどうなりますか?
 
SODEYAMA:キックの帯域80〜250hzって、ドンって鳴ったときお腹にズンって来るんだけど、それより下の帯域、40hzとかになると、すね毛がワサワサするような感じかな。すね毛がワサワサする箱って今ないよね。でもSankeys TYOはそれくらいまで出ている気がする。むしろカットしているくらいだからさ。さっきも話したけど、解像度も高い、長時間いても疲れない、耳にも優しいって今の主流だけど、それは家の延長かなって思っちゃう。家であの音だったらいいけど。低音で体が“おおおおっ”て成るのを再現する音楽だと思うんだよね、ドラムンベースなんてとくに。
 
KOSUKE:再現性か…、だからかな? Sankeys TYOの機材リストをアーティストに送ると安心してくれるのか、サウンドチェックをしない外タレ多いよ。
 
SODEYAMA:手を抜いてるだけじゃないですか(笑)。ちゃんとしたほうがいいと思うんだけどな。
 
KOSUKE:SODEYAMAはちゃんとするからね。この前、若い子が「サウンドチェック終わりました」って言うけど、ずっとDJブースにいたんだよ。フロアに行って出音のチェックしていなかったんだよね。
 
SODEYAMA:それサウンドチェックって言わない。DJの練習をしただけ。練習は家でしてこいよ(笑)。機材チェックだとしてもPAが最初にしてんだから、DJがしなくていいよ。
 
KOSUKE:フロアで出音を聴いてエンジニアと一緒に調整しないと。
 
DJ MASA:Sankeys TYOはリハのときにエンジニアさんと調整はできますか?
 
SODEYAMA:できる。俺は毎回してる。
 
DJ MASA:パーティーが進んで人が増えていくと、高域の音とか吸収されてしまうじゃないですか。パーティー中も調整は可能ですか?
 
KOSUKE:つねに調整できます。そこはほったらかしにはしません!
 
——SODEYAMAさんは、今回出演されませんよね?
 
SODEYAMA:うん、しない。このパーティーのTAPROOMのフライヤーは作ったけど。
 
——じゃあ7月15日はSankeys TYOに遊びに?
 
SODEYAMA:うん、行けたら行く(笑)


Lenzmanの来日にあたり、本人に行ったメールインタビューも掲載中。インタビュー記事は下記より。
http://clubberia.com/ja/interviews/807-Goldie-Lenzman/


本パーティーの前売りチケットは下記で販売中。
https://ticketpay.jp/booking/?event_id=8834