INTERVIEWS

DJ EMMAが編む、多様性に富んだ日本発アシッドハウス集とPhutureの衝撃

取材・文:yanma(clubberia)
写真:Satomi Namba(clubberia)


 
 DJ EMMAが2013年からリリースし続ける、アシッドハウスにフォーカスしたコンピレーション『Acid CIty』シリーズ。それが今年、3作目を迎えた。日本におけるアシッドハウスリバイバルの一翼を担ったプロジェクトではあるが、なぜこの音楽をDJ EMMAは、謳い続けてきたのだろうか? 歴史を遡っていくと、1987年にリリースされ、アシッドハウスの原点とされているトラック「Acid Trax」の生みの親であるDJ Pierre、Phutureの存在があった。アシッドハウス誕生から30年。世界中のアーティストを虜にし、シーンに革命をもたらしたこの音楽を、『Acid CIty 3』とともに振り返ってみたい。
 
 


 
有名無名問わず様々なアシッドハウスの解釈がここに。


——『Acid City 1』を作りはじめた2010年(リリースは2013年)、オファー時に「え、アシッドハウスですか?」という驚きの反応があったそうですが、今はどうなりましたか?

当時は、ほとんどの人に驚かれましたけど、今は驚かれなくなりましたね。アシッドハウスが普通になったというより、プレイして違和感がなくなった。アシッドハウスを謳っていると、僕の知らないシーンや世代の人たちとアシッドハウスをキーワードに繋がれる。今作だとAcid WorxのSeri君や909stateさんがそう。こういう人たちもいるんだと思ってコンタクトして、彼らの曲をDJでかけるようになったり、彼らもパーティーに遊びに来てくれたりして。
 
——新しい繋がりでいえば、KEITA SANOさんもですよね。彼の曲、とてもかっこよかったです。ずーっとディープハウスで最後にウネリが出てきて。
 
あれ、驚きますよね(笑)。でも彼はもう1トラック納品してくれていて、そっちは、もろアシッドハウス。でも何となく、彼は今回収録したトラックかなって思ったんです。でも機会があったらもうひとつのほうも収録したいですね。
 
——参加者からトラックが届いて、こう来たか!と思ったのは誰でしたか?
 
GONNOですね。Led Zeppelinみたいな始まり方してますから。今作で一番アートを感じたトラックでした。彼、納品する前にタイトルを変えたいって言うからOKしたんですけど、新しいタイトルが全然読めなくて。それが「3n55L7nE」ってタイトルなんですけど、意味を聞いたら「僕とEMMAさんが使ってるBASSLINE2の機材(TB-303のクローン)を見てください。」って言ってくるんですよ。機材をよく見たらその文字が書いてあった。ようするにBASSLINE2のロゴがあの文字「3n55L7nE」だったんですね。どんだけ見てるんだよっていうね。なので、彼のタイトルは「ベースライン」って読むんですよ。
 
——今作では、トラックの提供者が特にバラエティーに富んでいたと思います。石野卓球さんと大沢伸一さんがRubber Bankというユニットでトラックを作ったり、ZEEBRAさんがラップを入れたり。
 
卓球君と大沢君が一緒にやるって、みなさんが一番驚いた部分だと思います。じつは、僕が間に入り、やり取りしてできたトラックなんです。卓球君から「できました!」って僕宛に連絡がきて(笑)。それを大沢君に送ったもんだから、大沢君のアレンジが僕に戻ってくる。その流れでスタートしてしまったから、途中で変えることもできず。それを繰り返してできた曲。2人のキングの間に入ってやったわけだから、どんなレコード会社のA&Rもできるんじゃないかって思いましたよ(笑)。お陰でトラックは、自分の子どものようですし。
 
——大沢さんには、アシッドハウスのイメージがあまりなかったので、それも意外でした。
 
大沢君は、1~2年前から自分のプレイにアシッドハウスを取り入れてたのを知っていましたし、一緒に飲んだりしているときにアシッドハウスの話をしたり。

——ZEEBRAさんはいかがでしたか? ヒップホップでは、アシッドトラックのイメージがないので、どんな反応だったのかなと。
 
すごく面白いと言ってくれて、ZEEBRA君はノリノリでしたね。逆に、レコーディングを見ていて彼の凄さに驚きました。他のジャンルの人たちとDJをやったりして刺激は受けるのですが、それとは比べ物にならなかった。ヒップホップも聴いてきましたし、周りにもヒップホップのアーティストはいるから、ラップの凄さは知っていたつもりでした。でも、ヒップホップシーンを引っ張ってきた最重要人物なだけあって、凄い男だっていうのが1バース目で分かった。参りましたって感じでしたよ。



DJ EMMAとDJ SHIMOYAMAによるユニットNUDEの新曲「NO PICTURE (ON MY PHONE)」。ZEEBRAのラップがアシッドハウスに乗っている。DJ EMMAは、今年印象に残っていることで、このヒップハウスが作れたこととも述べていた。


ーー他にもKEN ISHIIさんやKUNIYUKIさん、HIDEO KOBAYASHIさん、CHIDAさんなどが『Acid City 3』に参加されています。クラブで遊んでいる人であれば、一度は名前を聞いたことある日本人DJ/プロデューサーが多いんです。そして、彼らの“アシッドハウス”の解釈が一度で楽しめるのが、『Acid City』の面白さなんだと思いました。
 
海外を含め、これまでリリースされていたアシッドハウスのコンピレーションってひとつのテーマになっているものが多いように思っていて。アシッドハウスもあれば、アシッドテクノもあるし、トランシーなものもあるように、アシッドなサウンドを取り入れたものってたくさんあるのに、多様性というものをあまり感じられなかったんですね。
 
——その多様性を作品から感じたからですね。いろんなアシッドハウスを作るアーティストがいる街。だから『Acid City』というタイトルなんだと思いました。
 
外に出ないと出会えないものを僕は感じている。この『Acid City』のプロジェクトに関しては、街に出てコミットするっていうのをやってきています。『Acid City 3』に関しては、全国のアーティストがトラックを提供してくれていますから、「東京発」ではなく「日本発」というかたちに、3枚目にしてようやくなれたのかなと。卓球君は「タイトルに“Acid”って名前がちゃんと出ているアルバムが出たのは、すごく面白い」と言ってくれて。卓球君の新作も“Acid”ってしっかりアルバムタイトルになってますよね。




DJ EMMAのアシッドハウスの解釈とは?

——EMMAさんのなかでのアシッドハウスの解釈というのは、どういった音なのでしょうか?
 
やっぱりPhuture(フューチャー)の登場が、僕のなかでは大きいですね。当時、「なんて音なんだ!」って思いましたよ。音が分厚過ぎて普通のハウスとも、ニューウェーブディスコとも合わせにくかった暴力的な部分もあったし、ユーモアな部分もあった。ヘラヘラ笑いながら頭殴る、みたいなことに近いのかな(笑)。なんかどう捉えていいか分からない、謎な部分がアシッドハウスの面白さなんじゃないかな…。曲はもちろん計算して作ってますが、暴走し始めるときが面白い。
 
——すごい表現が出てきましたね(笑)。
 
アシッドハウスの解釈は、世代によっても違うと思いますけど、僕は縛られている部分もあるんですよね。『Acid City』のシリーズをまとめるとき、他のトラックが納品されてから作り出すんですけど、それはコンピレーション内のバランスを取るためで。例えば『Acid City 2』は、カッコイイ曲が多くなったから、ユニークさや馬鹿さを追加して、自分の思うアシッドハウスを1枚にまとめました。今回は、そんなに馬鹿になる必要性がなかったので、とくにSeri君とか909stateさんのThe Acidなトラックを良く聴かせるように工夫しましたね。
 
——12月15日(
東京)、16日(大阪)で開催される「EMMA HOUSE」には、EMMAさんが衝撃を受けたと言う、Phutureが出演しますね。
 
以前、PhutureのSpankyが亡くなる前のエピソードがあって。彼と食事をしているときに「新しいPhutureをやるんだ」と言うから詳しく聞いてみると、Felix da HousecatやKerri Chandlerといった友人、フォロワーたちを集めた流動的なユニットを考えていて、そこに「EMMA、お前も入れ」と言われて。残念ながら、この構想は実現しませんでしたが、1人メンバーが入って今の構成になった。今回、Phutureを呼んだのは、「Acid Tracks」のリリースから30周年のお祝いなんです。
 
——30年前というと1987年ですね。
 
最先端にまったく聴こえないけど、古くも聴こえない。ここが面白いところですね。だいたいのものは、錆びていくんですけどね。ダンスミュージックのなかで、アシッドハウスが何より重要だと思ってます。なぜなら、アシッドっていう言葉がこれだけ普及したのは、アシッドハウスが広まったから。Phutureの功績ですよね。一応、アシッドハウス以前で「アシッド」って名前が付いたジャンルってアシッドロックというものが60年代に出てきましたが、シングルのB面とか、何かの雑誌に少し掲載されている程度でした。



DJ EMMAが衝撃を受けたというPhutureの「Acid Trax」。アシッドハウスを定義づけることとなった作品。ローランドのベースラインシンセサイザー、TB-303が使われている。


いつの時代もDJ Pierreの存在があった。

ーーDJ Pierreは、ファーストアルバムを出したばかりですが、作品は聴きましたか?

聴きましたよ。やっぱり彼はDJだったんだなって気がします。ハウスがメジャーで売れた頃、Frankie Knucklesがアルバムを出した時に僕は「DJがアルバムを出すんだ!」って驚いたんです。というのも当時は、DJはリミックスを頼まれてなんぼ、DJをしてなんぼの世界だと、僕は思ってましたからね。その後はMasters at Workなど、音楽性で勝負するDJたちの曲が大ヒットしていきます。今回、Pierreのアルバムは、また元に戻ってるじゃん!って思わせてくれた。僕はそこがかっこいいと思うんですよね。でもPierreって世界でも過少評価されている人物の1人なんじゃないかなって思うんですよね。
 
——それはなぜですか?
 
アシッドハウスとは違いますが、Wild PitchのスタイルはマイアミのDanny Tenaglia、Murk Boysだったり、ニューヨークのSound Factoryサウンド、間違いなくそういったもののベースになっているんです。僕もWild Pitchのスタイルにも衝撃を受けましたし、ハウスミュージックのシーンがシカゴからニューヨークに移っても、僕のセットの中心には、ずっとPierreがいたんです。

——一目置く存在だったんですね。彼とは今回で6回目の共演となりますが、彼とのエピソードもありますか?
 
驚きなんですが、今、アシッドの音源にハードシンセは使ってないと言うんです。あの独特の揺れとか、もはや彼には必要ないんだろうな、機材云々じゃないんだろうなと思いました。
 
もうひとつ。「ヨーロッパだとボーカル物をかけるとみんなブーイングしたい顔をする、こんなコマーシャルな曲をかけるとはとかさ、でもハウスってこういうものだよなぁ、EMMA?」って言ったんですよ。ハウスって歌とインストのバランスが面白いわけで、ずっとアシッディーなサウンドが響いてるなかで、いきなりメロディアスな曲がくると、これ以上ないっていうぐらい気持ちいいですから。ぐいぐいいってスコンと抜けたときの気持ちよさっていうのはね。しかもボーカルがくる。これがハウスです。彼はDJ終わった後に「EMMA、俺、本当はもっといいDJなんだ」、「今日は失敗しちゃってさ」、「早くボーカルかけすぎちゃった」、「アシッドに戻せなかったんだ」みたいなこと言ったりしますしね(笑)。そういった人間味みたいなのもすごく魅力的ですね。



30年に及ぶキャリアで初となるアルバム『Wild Pitch: The Story』。2017年11月24日にGet Physical Musicからリリースされた。


——すみません、Pierre の話をしていたらAcid Cityについて聞きたいことを思い出しました。アシッドハウスってスマイルマークがシンボルですが、Acid Cityでは、まったく使われていませんよね?
 
もっとオリジナリティを出したかったんです。アシッドハウスと言われるなかで、ビジュアルも次のものにしたくて。それでいて東京っぽいものや、日本っぽいものにしたかったんですよ。


ーーだからジャケット写真は、渋谷だったんですね。
 
やっぱり渋谷がAcid Cityになってくれたらという想いがあります。DJにとっては、自分たちの仕事場なんですから。
 
——仕事場と聞くと、風営法が改正して1年半が経ちましたね。
 
メディアの人に言いたいのは、こういうことを毎回取り上げてほしいということ。風営法絡みで誰かが捕まり問題が起きた時だけ、災害が起きた後だけとかでは意味がない。続けてほしい。僕らを含め教育が必要なんです。これが日本に一番欠けていることじゃないでしょうか?
 
DJたちも先導してくれたら、お客さんも共感してくれると思いますし、良い方向に持っていくために「誰かがやるだろう」という考えは間違っていると、僕は伝えたいんですよね。自分たちで変えられるんだから。みんなから「無理だ」、「誰も頼んでない」、「勝手にやりやがって」とか散々言われましたが、僕たちは風営法を変えましたから。もっと自信を持ってやっていきたい。音箱、チャラ箱、そういうことを言っていてもしょうがない。プロレスみたいに表面でどうのこうの言っててもいいですけど、下ではちゃんとコミットして繋がりたいですね。『Acid City』もその方法としての、ひとつなんです。




iTuens
https://itunes.apple.com/jp/album/acid-city-3/1291268459
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