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OVERSTEPS

AUTECHRE
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エレクトロニック・ダンス・ミュージックの頂点に君臨し続け、数多のフォロワーを生み出してきた、ショーン・ブースとロブ・ブラウンによるエレクトロニック・ユニット、オウテカ。また、名だたる世界のビッグ・アーティスト達に与えてきた影響も計り知れない。レディオヘッド『キッド A』において、いかにオウテカからインスパイアされたかをトム・ヨーク自身が公言してはばからないことからも、オウテカが2000年代のミュージック史に残した功績は窺い知れる。
果てることのないクリエイティビティへの渇望と尽きる事のないアイディアによって、作品毎に新たな実験と挑戦、そして抵抗を繰り返し、ダンス・ミュージックの概念を覆し続けてきたかのように見える2人だが、「何も変わっていない。」とこともなげに言い放つ。“頭の中で鳴っている完璧なトラック”は常に変化している。だが、オウテカは何も変わっていない。変化していないことこそが、常に彼らが変化しているように議論される理由なのかもしれない。あるいは、変化していないことこそが最大の変化なのだ、と感じずにはいられないほど、またしても“オーヴァーステップス”は革新的で野心的な作品である。
『LP5』、『EP7』によって得た“孤高の存在”という地位に甘んじることを2人は頑なに拒否した。『コンフィールド』で新たな出口から踏み出し、『ドラフト7.30』で彼らの第2ステージを堂々と突き進み、『アンティルテッド』でそれまでのオウテカを完全に振りきり、唯一無二のサウンドを遙か先に推し進め、『クアリスティス』ではライブ音源の素材を使い、制作プロセスもライブに近い感覚で行いながら可能性を最大限拡張した。そして今作である。
冒頭1曲目は、まるで聴き手のはやる気持ちを優しく諭す、または裏切るように、約10秒の無音を経てゆっくりと始まっていく。『アンバー』を彷彿とさせる深遠なるアンビエント・トラック、耳をつんざくようなベース音が鳴り響く攻撃的トラック、メタリックなアルペジオが折り重なる奇抜なトラック。また、新境地を切り開いたかのようなビートが新鮮なトラックもあれば、エレクトロニック・ヒップホップや初期テクノなどの影響が垣間見れるトラックもある。各トラックが見せるベクトルは多彩だが、共通しているのはビートを極力抑え、メロディをシンプルに紡いでいるということ。ショーンは「音数が多いから複雑」という見解を完全否定していたことがあったが、このアルバムにはストレートだからこそ到達した複雑性、そして過激性が存分に表現されている。一見関連性の見えない、拡散していくユニークな音の断片が一寸の狂いもなく集積した時、オウテカにしか創り上げられない広大で壮麗なサウンド・スケープが生まれる。この『オーヴァーステップス』を“アンビエントな作品”と言ってしまうのはあまりにも簡単だ。だが、アンビエントがここまで先鋭的な音楽だということを、オウテカ以外の誰が証明し得るだろうか。