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サウンドエンジニアにとって我が子。Pioneer Pro Audioが開発した新たなスピーカー「XY-3B」試聴会

取材・文・写真:yanma(clubberia)


 新しいサウンドシステムの試聴会が9月15日に新木場Studio Coastで行われた。clubberiaで10年強働いているが、このような取り組みがあったことを記憶しているのは過去2回。ひとつは2016年、aegHaのサウンドシステムがリニューアルしたとき。ひとつが今日である。
 
 会場に着いたのは18時。普段のageHaに行く感覚からすると、知り合いに合ってもなんだか照れてしまう。いつもは「イェーイ」が、まだ「お疲れ様です」となってしまう(ただ、二言目には、だいたいが明日からラビリンス行く?だった)。
 
 さて、アリーナのフロア上にDJブースが、その両脇に3ウェイスピーカー「XY-3B」とその下にサブウーファー「XY-218HS」が置かれている。この「XY-3B」が今日の主役である。Pioneer Pro Audioが満を持して発表した新しいスピーカーなのだ。



今回発表した3ウェイスピーカー「XY-3B」。スピーカーの下はサブウーファー「XY-218HS」。


今回の主役「XY-3B」のホーン部分。奥から3つ目のパーツがコンプレッションの役割を果たし、高出力を実現。最前列中央にある金色のパーツは指向性を司っておりナチュラルな音色を保ちながら高効率に音を放射する。デザイン的に高級感もある。


同社、XY Seriesのサウンドシステム。クラブやDJ Barへの店舗導入のみならず、カンファレンスルームなどで使われる場合も多い。


 Pioneer Pro Audioの前身であるPioneerにおけるサウンドシステムの歴史は古い。1937年に同社は、日本初のダイナミックスピーカー(※1)「A-8」を開発している。ここからはPioneerは、カーオーディオやホームオーディオなどスピーカーを開発に力を入れていく。そしてプロフェッショナル向けオーディオ製品の最高級ブランドとして「TAD(タッド)」を設立。そういった、技術者たちのノウハウを今日まで脈々と承継してきているのだ。
※1:磁界中のコイルに電流を流すことでコイルを振動させ、コーンやホーンを駆動させ音声を出す技術。

 それでだ、現在Pioneer Pro Audioとして展開しているシリーズは3つある。


GS-WAVE Series
同社のフラッグシップモデル。大きなクラブを狙ったスピーカーで、Sankeys Ibizaにインストールされた。日本だとBody&SOULやRainbow Disco Clubで使用された。

XY Series
多様な現場に対応し、多用途に使用できるというコンセプトに基づき作られたパッシブスピーカー(※2)。その実力が認められ、ロンドンのクラブfabricでは、このXY Seriesが30本ほど使われているという。国内ではCIRCUS Tokyoにも導入されている。
※2:アンプを必要とするスピーカーのこと。下記に出て来るアクティブスピーカーはアンプを必要としないスピーカーのこと。


XPRS Series
モバイル性に優れているアクティブスピーカー。木製のキャビネットに2400ワットのDクラスアンプを搭載。高出力と高音質を両立したモデル。




写真上が世界での導入実績マップ。下が日本の導入実績マップ。日本のクラブでは、Mago、JBs、METROといった老舗から、GIRAFFEやKING∞XMHUといった大箱かつ新しいクラブにも導入されている。


 品番や名称が英数字で続くと単なる記号のようで、どうしても頭に入って来にくいが「XY-3B」は、可愛らしらがありすぐに覚えた。XYが染色体の並びに見えて親しみがあるからだ。というのは少々後付だが、遺伝子のように思えた理由は、試聴会当日、プレゼンテーションを行った企画担当マネージャー村井氏の第一声にある。
 
「これから紹介する商品は私が仕事人生のすべてを注いで、汗を流し血を流し、時には涙を流しながら命を懸けて生み出した、本当に子どものような商品です。」


村井氏。試聴会で我が子(スピーカー)のお披露目のため、連日の微調整が続いたという。

 Pioneer時代から脈々と受け継がれたDNAと村井氏をはじめ、現在の開発チームのDNA、その結晶がこの「XY-3B」にも宿っているのだなと。ただ、これはあくまで私の勝手な考えである。正しくは、村井氏のプレゼンテーション内の言葉を参考にしてほしい。
 
「Xが水平軸、Yが垂直軸。水平にも垂直にも広範囲に良い音を届けたいという想いから名づけたモデルとなります。単純に指向性が水平、垂直に広いというだけではなく、ラインナップが小さなモデルから大きなモデルまで幅広くいろいろなアプリケーションに対応できるという意味もあります。そのなかで、新たに追加する「XY-3B」というモデルが、XとYの2軸だったところに3軸、ナチュラルな音を遠くに飛ばしたいという意味で、3軸目のXY3という意味になります。最後のBというのは、3ウェイではあるのですがバイアンプモデル、アンプが2チャンネル必要という仕組みとなっておりまして、3ウェイスピーカーXY-3Bと名付けました。」
 
 ここから村井氏のプレゼンテーションは専門用語が入ってくるので、少々難しくなる。スピーカーの特徴を説明してくれた。少し集中を高めていただきたい。



「XY-3Bは名前が示すとおり3種類のスピーカードライバーが使われています。一番下、低域を再生する部分になるローフリケンシードライバーには、12インチドライバーを2発搭載。再生する帯域は50Hzから250Hz。少し上にいき、特徴的な金色のフェイズプラグと呼ばれるものの後ろ(本稿前半に写真で見せた分解され飾られていたパーツ部分)には8インチのコーンドライバーが使われています。こちらが中域の再生を担うものでして、再生数周波数は250Hzから4kHz。ちょうど人の声が通る帯域はこの金色の部分から再生されます。フェイズプラグの下に小さな穴があるのですが、そちらの奥には1インチのコンプレッションドライバーが搭載されており、4kHzから上の高い周波数を再生します。こちらはハイハットだったり、空間の広さや残響音だったりなど、4kHzから上の音が鳴るとより広い空間で音がなっているように感じます。」
 
 ほうほう!と頷いている読者もいれば、知恵熱を出しそうな読者もいることだろう。私も現場では後者であったが、それでも低域を司るパートは、興味深かった。なぜなら、ドライバーが前を向いていないのだ。反対側を向いているのだ。そのようなものは見た記憶がなかった。



その理由として
「2つのドライバーが同じ空間を震わせるような構造なっております。これも空気を密室を作るところにドライバーを動かすことによってコンプレッションを掛けるような役割をもちます。これによって、のれんに腕押し状態ではなく圧力の高い音を全面に押し出すことが可能です。」
 
 これを私生活に置き換えると、昔の圧力鍋が近いのだろうか。蓋のツマミを上げると勢いよく噴出する蒸気を思い浮かべた。
 
 このプレゼンテーションのあとは、DJ YAZI、sauce81、Asusuのパフォーマンスで実際の出音を確認できた。もちろん、いい音だ。DJ YAZIはノイズとアンビエントの境界線を行き来するDJセットだったが、音質で不快感などは感じなかった。sauce81は自身で歌うライブセットだったが、彼のゴスペルを思わせる透き通った声も再現している。そしてAsusuのヘビーなベースミュージックも楽しませてくれた。五角形のグラフを作ったら、「XY-3B」のレビューは正五角形に近いものが出来上がるだろう。



 日本での導入も増えて来ているので、クラブやフェスでそのサウンドを実際に確かめてみてほしい。近いところだと「MUTEK.JP 2017」でも使用される。あと「LIFE FORCE」だ。東京だとCircusに行くとよい。皆さんの鼓膜と肌を震わせてみてほしい。
 
 そして、村井氏は、clubberiaでも連載「“理想の音を届けるために” サウンドエンジニアノート」を担当してくれることとなった。記事では、レポートやモノづくりの裏側、音や音響に関する知識といった専門的な内容も解説してくれる。1回目は「rural 2017」での現場レポート。こんな細かいところにも考えを及ばせているかと思うと、あなたのパーティーの楽しみ方が少し変わってくるかもしれない。記事は近日公開予定なので、お楽しみに!
 
■Pioneer Pro Audio
http://pioneerproaudio.com/ja/index.html