取材・文:Norihiko Kawai、So Oishi
写真:The Crave Festival、So Oishi
写真:The Crave Festival、So Oishi
世界屈指のダンスミュージック大国オランダ。首都アムステルダムでは、「ADE(Amsterdam Dance Event)」や「Dekmantel Festival」といった“世界最大級”や“世界最高峰”と謳われるフェスティバルが開催されていたり、第二の都市ロッテルダムは、高速ハードコアテクノ「ガバ」発祥の地としても有名だ。この記事の舞台となる第三の都市デン・ハーグは、オランダ議会の議事堂や各国の大使館が集まる政治の中心地。土地柄的に保守的かと思えるこのデン・ハーグでも行政が積極的に、あるフェスティバルをサポートしている。それが6月1日〜3日に開催された「The Crave Festival」だ。
「Crave(渇望する)という名前には、新しい音楽や人に出会いたいという渇望の気持ちが込められているんだよ」
そう語るのは、このフェスティバルの中心人物であるJarrellとLex。デン・ハーグには彼らが言う良いテクノイベントがなかったため、であれば自分たちでやろうというのが、そもそものスタート。クラブイベントから始めて、フェスティバルとなったのは2016年から。フェスティバル会場は緑豊かなザイデル公園。住宅地も近くにあり、東京で言えば井の頭公園で開催されているようなイメージだ(会場内に池があるところも似ている)。
会場内にある池には、ときおり白鳥もやってくる。(写真:The Crave Festival)
取材に応じてくれたJarrell(左)とLex(右)。彼らを含め、メインで動いているのは5人。パートタイムも含めると10人。もともと友達同士でスタートしたチーム。(写真:So Oishi)
オランダ西海岸サウンドとは!?
地元ならではサウンドやアーティストを取り上げていきたい。
デン・ハーグという街はアムステルダムと比べるとマーケットの規模は小さい。しかし、コンパクトながらネームバリューに頼らない厳選されたラインナップが、「The Crave Festival」の魅力なのだ。とくに地元オランダのアーティストを積極的に起用し、オランダ発、デン・ハーグ発といったローカルシーンを盛り上げようとする姿勢がうかがえる。
たとえば「Intergalactic FM & Creme Organization Stage」というステージがあるのだが、この「Intergalactic FM」は、デン・ハーグを拠点に国際的に活躍するテクノアーティストのI-Fが運営しているインターネットラジオ局のこと。出演者には、I-FやEkmanなどオランダで活動するアーティストが多い。I-FもEkmanも、アシッディーなシンセ音を全面に押し出していたパフォーマンスが印象的だった。
「最近ではデン・ハーグを中心とした“オランダ西海岸サウンド”とでも言えるようなアシッディーなエレクトロサウンドもローカルシーンで盛り上がっているよ。I-Fなどは、まさにそういったサウンドを体現するキーパーソンだね。今後は地元ならではサウンドやローカルアーティストをもっと取り上げていきたいよ」(Jarrell & Lex)
Ekmanは、このフェスティバルに来る前はノーマークだったのだが、太いキックとベース、そしてゴアトランスにも通じるかと思われるようなサイケデリックなシンセが織り成すグルーブに見事に踊らされてしまった。
IFは、Beverly Hills 808303という名義での出演。DJセットではあるが、その名の通り、RolandのリズムマシンTR-808の極太キック、シンセサイザーTB-303のアシッド感全開のベース音がふんだんに聴ける。
もうひとつ「PIP STAGE」というステージがある。このステージは、良質なイベントを多数開催していることで人気のデン・ハーグのクラブ「PIP」がオーガナイズしている。私が見たのは、Rush Hourからのリリースでオランダでも大きな支持を得ている寺田創一とカルト的な人気を誇るレーベルSex Tags Maniaの主宰するノルウェー出身のDJ Sotofett。DJ Sotofettは、ステージのトリとして登場。民族調なトラックやエレクトロニカなどの音楽を織り交ぜ、トリながら渋い選曲。彼のように玄人の観客に向けて刺激的な曲をかけるアーティストがいることで、パーティーとしての音楽的な奥行きが一気に深くなった印象を受ける。
この日もマイクパフォーマンスやエアギターを織り交ぜたハッピーオーラ全開の笑顔のプレイで盛り上げていた。(写真:The Crave Festival)
残るステージは2つ。「MAIN STAGE」とこのフェスティバルのオーガナイザーチームが作る「DISTRICT 25」。両ステージには、国際的なアーティストが多数出演している。たとえば、複数回来日しているデンマーク出身の女性DJ Courtesy、ニューヨーク・アンダーグラウンド・ハウス・シーンのカリスマLevon Vincent、UKベース・ミュージックシーンを長年牽引したHessle Audio Trio(Ben UFO、Pearson Sound、Pangaea)などなど。
音楽を楽しむことの先にある“コミュニティーづくり”
3年前に始めたときは地元のお客さんがほとんどだったそうだが、年々話題を集め、今年はオランダ国内のみならず、外国からも多くのお客さんが来ていたそうだ。
「口コミで評判が広まって、他の都市や外国からもお客さんに来てもらえるようになったから、徐々に規模を拡大しているよ。今年はおそらく、お客さんのうち半分がデン・ハーグの市民、40%がオランダのほかの都市から、10%ぐらいが外国から来てくれているかな」(Jarrell & Lex)
今後「The Crave Festival」をどうしていきたいか? 最後に2人に聞いてみる。
「音楽的な目標は、ローカルのアーティストにフェスティバルの一番良い時間帯をやってほしいと思っているよ。海外から呼んだアーティストではなく、The Crave Festivalのレジデントがすべてのステージのクロージングをできるようにするというのが、この先の音楽的な目標のひとつかな。運営に関して言うと、関連イベントを増やして、外国から来たお客さんが一週間ぐらいかけてデン・ハーグという街を楽しめるように規模を拡大していきたいよ。」(Jarrell & Lex)
彼らの話を聞くなかで、行政はこのようなフェスティバルが若者をひきつけ、コミュニティーを築き上げていくことに期待をしている。金銭的なサポートも含めて、行政が積極的に後押ししてくれる理由のひとつだろう。その期待にオーガナイザーもそれに応えようと努力している。もちろん行政が協力的でも近隣の住人の理解がなければ形にならないので、たとえばイベント会場の近隣住民に挨拶回りをして、不満が出ないようにしているという。そのときに「よければイベントに来てくださいね」と声をかけて、近所の人も含めてみんながハッピーになれるように気を配るそうだ。音楽を楽しむことの先にある“コミュニティーづくり”という発想が、街とフェスティバルの幸せな関係性を構築するためのキーワードと言えそうだ。
(写真:The Crave Festival)
(写真:The Crave Festival)
(写真:The Crave Festival)
この日もマイクパフォーマンスやエアギターを織り交ぜたハッピーオーラ全開の笑顔のプレイで盛り上げていた。(写真:The Crave Festival)
残るステージは2つ。「MAIN STAGE」とこのフェスティバルのオーガナイザーチームが作る「DISTRICT 25」。両ステージには、国際的なアーティストが多数出演している。たとえば、複数回来日しているデンマーク出身の女性DJ Courtesy、ニューヨーク・アンダーグラウンド・ハウス・シーンのカリスマLevon Vincent、UKベース・ミュージックシーンを長年牽引したHessle Audio Trio(Ben UFO、Pearson Sound、Pangaea)などなど。
音楽を楽しむことの先にある“コミュニティーづくり”
3年前に始めたときは地元のお客さんがほとんどだったそうだが、年々話題を集め、今年はオランダ国内のみならず、外国からも多くのお客さんが来ていたそうだ。
「口コミで評判が広まって、他の都市や外国からもお客さんに来てもらえるようになったから、徐々に規模を拡大しているよ。今年はおそらく、お客さんのうち半分がデン・ハーグの市民、40%がオランダのほかの都市から、10%ぐらいが外国から来てくれているかな」(Jarrell & Lex)
今後「The Crave Festival」をどうしていきたいか? 最後に2人に聞いてみる。
「音楽的な目標は、ローカルのアーティストにフェスティバルの一番良い時間帯をやってほしいと思っているよ。海外から呼んだアーティストではなく、The Crave Festivalのレジデントがすべてのステージのクロージングをできるようにするというのが、この先の音楽的な目標のひとつかな。運営に関して言うと、関連イベントを増やして、外国から来たお客さんが一週間ぐらいかけてデン・ハーグという街を楽しめるように規模を拡大していきたいよ。」(Jarrell & Lex)
彼らの話を聞くなかで、行政はこのようなフェスティバルが若者をひきつけ、コミュニティーを築き上げていくことに期待をしている。金銭的なサポートも含めて、行政が積極的に後押ししてくれる理由のひとつだろう。その期待にオーガナイザーもそれに応えようと努力している。もちろん行政が協力的でも近隣の住人の理解がなければ形にならないので、たとえばイベント会場の近隣住民に挨拶回りをして、不満が出ないようにしているという。そのときに「よければイベントに来てくださいね」と声をかけて、近所の人も含めてみんながハッピーになれるように気を配るそうだ。音楽を楽しむことの先にある“コミュニティーづくり”という発想が、街とフェスティバルの幸せな関係性を構築するためのキーワードと言えそうだ。
(写真:The Crave Festival)
(写真:The Crave Festival)
(写真:The Crave Festival)