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渋谷に1日だけ現れた、音楽とアートが交差する空間
「BACARDÍ“Over The Border”2018」

取材・文:山本将志
写真:Masanori Naruse、Gaku Maeda
 
 
 ラム・ブランドBACARDÍによるイベント「BACARDÍ“Over The Border”2018」が11月5日(月)にSHIBUYA STREAM HALLで開催されました。
 
 このイベントは、BACARDÍが2017年にスタートしたカルチャープロジェクト。「Over The Border=既存の概念を越える」をコンセプトに開催され、常識に捉われない創作活動を行なっているアーティストとのコラボレーションや活動のサポートを通じて、ブランド・メッセージである“Over The Border”を伝えることを目的としています。
 

“アートを愛で音楽を嗜む”
ラウンジ&ギャラリーフロア


 会場となったのは、9月にオープンしたばかりの複合施設SHIBUYA STREAM内にあるホール。飲食店が並ぶ3階から、うっすら聞こえるキックの音をたよりに会場のエスカレーターに乗り4階のエントランスへ。するとさっそく生命力溢れるデコレーションが出迎えてくれます。サイやカタツムリ(にしては大きい)の置物、植物や流木、ハンガーのような日用品から工業資材までを使ったR領域の作品です。


R領域は、現代の資源浪費社会に問いかけるための作品作りと旅をコンセプトに活動をしている美術家、山田卓生によるアートプロジェクト。海や山や都市のいたるところでゴミとなった素材を収集し、それらを再利用して大規模なオブジェやインスタレーションを作成しています。


 この日は、事前応募で申し込みを行った人のみが入場できる完全招待制のパーティー。受付を済ませて次に目にするのは、およそ3メートル × 3メートルほどの巨大なパネルに飾られたアートの数々。最初の1枚は、女性と女性がディープキスをしている写真で、これは「愛に性別は関係ないこと、ピュアさを表現したかったからエントランスを入って最初のアートにしました。」(本イベントプロデューサー)

Joe Cruzは、ロンドン出身のコラージュ・アーティストでテキスタイル・デザイナー。モノクロ写真にオイルパステルなどでドローイングを施しポップな色合いの作品を発表し続けています。


 この階には、グラフティーと書を合わせアブストラクトな線で表現するJUN INOUE、ストリートカルチャーを基盤としたグラフィティーや壁画制作が国内外で高い評価を受けるHiroyasu Tsuri aka TWOONE、大友克洋の原画展やルミネ×エヴァンゲリオンのビジュアルなどを手がけるKOSUKE KAWAMURA、ミラーボールと様々な素材を駆使し、光の反射と色彩で幻想的な空間を創り出すMIRRORBOWLERの作品も展示。さらにDJブースも設置され、アート作品の中で踊れる空間が準備されていました。


エントランス入ってすぐのDJラウンジ&ギャラリースペース。


DJラウンジ&ギャラリースペースに出演していた、DJ SARASA。Hiroyasu Tsuri aka TWOONEの絵とMIRRORBOWLERの作品も。


 会場の構成は、先程紹介した4階のDJラウンジ&ギャラリースペースに加え、5階はギャラリー&モヒートワークショップ、そして6階はライブパフォーマンスが行われたホールの三つ。5階では、クリエイティブチームYARによるブラウン管を使用したインスタレーションとクラブやフェスのVJとしての活躍だけでなく写真家としても注目を集めるNaohiro Yakoの展示が行われていました。とくにNaohiro Yakoの写真は今回のアート展示のなかでもっとも人だかりができていました。Naohiro Yakoは、VJのflapper3としてもともと活動。Instagramに載せる写真が話題に。今回が写真家としては初めての展示になるといいます。この未来的であり、潤いを感じる写真はどのように撮影しているのでしょう?
 
「特殊な撮り方はしていません。撮った後に本来持っている色を部分部分で引き立たせています。カラフルなもの、リフレクション、暗がりに光が当たっているものが好きなのでこういった作風になっています。」(Naohiro Yako)


Naohiro Yakoの作品。手間の巨大な作品前は記念撮影のスポットにもなっていました。



このフロアでは、モヒートのワークショップが開催。フレッシュなミントに、好みの果物を組み合わせてオリジナルモヒートを作ることができるという企画。


ナチュラル × フューチャリティックが共存するフロアで世界のトップアーティストが魅せる、音楽というアートフォーム


 ライブが行われる6階に上がると、雰囲気は一転。フロアへと続く導線は真っ赤な照明で満たされ、それだけで気分は高揚させられます。フロアへ入るとMIRRORBOWLERとR領域の巨大なオブジェがステージや天井のいたるところに。広さは、clubasiaのメインフロアが近いかなと思います(天井が高いところも似ています)。このフロアは、本イベントのプロデューサーによると、4階のナチュラルさと5階のフューチャテリックさを共存させたフロアとのこと。これまで見てきたものの要素がこの6階でミックスされ、音楽も加わり、新たなアート空間となっていました。
 
 到着したころにパフォーマンスをしていたのは、DJ KOCO a.k.a. ShimokitaとJUN INOUE。二人のDJ × ライブペインティングが行われていました。DJ KOCOは、ダンスクラシック、ヒップホップ、ラテン、ソウルなどをジャンルレスに選曲。JUN INOUEは、曲に合わせ踊るように、大小様々な筆を使い力強く流れるペインティングを施していきます。パフォーマンスが終わるとライブペインティングの作品はそのままステージを彩る作品の一部に。
 
 続くのは、ウガンダから初来日となるKampire。東アフリカのエレクトロニックミュージックブームの中心にいるアーティストコレクティブNyege Nyegeの中心人物です。世界的フェスティバル「Sonar」にも今年出演しています。彼女のDJは、アフロビートとベースミュージックと少しのポップさ、毒を融合させたようなサウンド。ロンドン・サウンドとアフリカン・サウンドの邂逅とでも言うのでしょうか。映像も民族調のモチーフを連続させサイケデリックな雰囲気に。それがJUN INOUEのペインティングにも重なっていたのも面白い要素でもありました。


向かって左がDJ KOCO a.k.a. Shimokita、右がJUN INOUE。



Kampire


 そして最後は、世界のヒップホップシーンの新時代を牽引するロンドンの才媛Little Simz。あのKendrick Lamarに「彼女は現行シーンで最もイルなラッパーだ」とも言わしめたり、Gilles PetersonのWorldwide Awardsで「Breakthrough Act of the Year」を獲得したり、その活躍や注目例を挙げると枚挙にいとまがありません。彼女が登場すると同時にフロアは月曜日とは思えない熱狂に。音源やMVではクレバーな印象がある彼女でしたが、ライブは真逆。DJと一緒になって(息もぴったり)煽りに煽る。それにより、多くの人のインナーは、びっしょりと濡れていたことでしょう。スタイリッシュな来場者が多かったイベントで、見た目はクールな彼らのリミッターを一瞬で外してしまったLittle Simz、やはり本物なのでしょう。
 
 いろいろなカルチャーが生まれてきた渋谷で、カルチャーを創り出す力を持った超越者たちによって実現した1日限定のイベント「BACARDÍ“Over The Border”2018」。合言葉はOver The Border=既存の概念を超えて。イベントとして、既存の概念を超えるとしたら……。今年の内容をどうアップデートしてくれるのでしょうか? 難しいお題かもしれませんが、欲張りな私たちは、このイベントのさらなる挑戦や提案に期待しています。



写真2枚ともLittle Simz