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ADEを通して見えたAmsterdam Noord地区の魅力

取材・文:Norihiko Kawai
写真:Dick Rennings、Mark Richter、Hesse De Jonge niels de vries、Norihiko kawai


 
 今年で23回目の開催を迎えたAmsterdam Dance Event (以下ADE)。クラブカルチャーに興味を持つ人なら、一度は名前を聞いたことがあるのではないだろうか?
 
 2018年に入りアムステルダムでは、待ちに待ったひとつの地下鉄が開通した。セントラル地区からノールト(北地区)へ運行する52番線だ。この地下鉄が走る前ノールトへ行くには、無料フェリーに乗るかバスか車を利用する他なかった。この地下鉄のおかげで移動時間は短縮され、身近となったノールト地区には、多数のクリエイティブなスポットが以前から存在していた。このADEシーズンも良質なパーティーが同地区で開催されていたので 、ベニューと共に紹介していきたい。


noorderling(noorderschip)

http://www.noorderschip.com/


noorderlingフロア

 過去に海賊のラジオ局として使用され、長年ノールト地区のNDSM埠頭に放棄されていた船を改装したクラブ兼レストラン。アムステルダム中央駅から無料で乗船できるフェリーに乗り込み、NDSMフェリーターミナルから徒歩1分の好立地。100人も集まれば、ぎゅうぎゅう詰めのダンスフロアには(会場全体のキャパは300人)、Funktion-Oneのスピーカーシステムがインストールされている。天気がいい日は、最上部のデッキや船の横に増設されたスペースに出て飲食を楽しめるのも魅力だ。夜になるとここもフロアになることもある。
 
 今回この箱に初めて訪れてみたが、予想以上に開放的で座れるスペースも多く、長時間遊んでいても飽きない設計になっていた。船の最下部に位置するダンスフロアの天井は吹き抜けになっており、上階からもフロアが見渡せる。今回のADEでも、通常のクラブカラーを失うことなく、DJ Stingray、DJ Nobu、Optimo、Call Super、John Talabot、Gerd Janson、I-F、Solarなどと、ディープ目なアーティストがヘッドライナーとして名を連ね、連日フロアは活気に満ち溢れていた。特に初日の夜のDJ Stingrayは、デトロイトテクノ/エレクトロの真骨頂を感じさせるプレイを存分に披露し、初日の夜で他会場が客足に伸び悩む中、船内は熱気に満ちていた。

 

NDSM
http://www.ndsm.nl/

NDSMのシンボルの巨大なクレーン

 埠頭にそびえ建つ巨大なクレーンがNDSMのシンボルだ。1900年代初期には造船所として 、好景気の中心にいたが、1984年に閉鎖されると不法滞在者に占拠され、犯罪が多発する地域となってしまった。しかし 、アムステルダム市の再開発プロジェクトに伴い、安い賃料を聞きつけたアーティストやアトリエ、そして企業のオフィスが集い、造船所跡地はいつの間にかアムステルダムを代表するクリエイティブな創造的地区に発展を遂げた。
 
 現在では広大な面積を活用し、多数のカフェやレストラン、クラブ、ホテルまでもが建設されており、一大ユートピアと言っても過言ではないであろう。そのNDSMの主要な役割は、イベントスペースとして機能していることだ。サウンドシステムを備えた野外ステージを持つカフェから、巨大なウェアハウス、そして2万平方メートルにも及ぶ造船所跡地を使用し、ほぼ毎週のようにイベントが行われているパーティーのメッカである。


Into The Woodsのフロア

 今回のADEでは、「Into The Woods」というパーティーを訪れてみた。作り込まれたデコレーションや奇抜なアイデアも話題のこのパーティー。今回も期待を裏切ることなく、エントランスを抜けたステージ間を結ぶ道に、天空の城ラピュタに出てきそうな巨大なロボットのデコレーションが設置されていた。
 
 訪れたのはイベント初日の金曜日、4つのステージが用意されており、広大なNDSMの敷地内を耳を頼りに動いていると、お目当てのDJ Fett Burgerに辿り着くことができた。北欧の異端児はセット開始からディスコ〜ハウスのパワーボムを投下し、木で作られたコテージのようなステージに集まったオーディエンスを完全にコントロール。その後はサーカステントで Prins Thomasをチェック、現場を北欧ディスコに変貌させた安定感のある選曲を披露したが、Function-Oneからの出音はPAブースまわり以外は高音域が強く、耳栓が必需品だったと言わざるを得ない。
 
 夜を迎えると圧倒的なライティングとメインフロアから響き渡るアップリフティングなトラック群が、壮大なデコレーションと相まって、幻想的な時間を提供していた。



Garage Noord & Skatecafe
https://www.facebook.com/garagenrd/
https://www.skatecafe.nl/


Garage Noordのクルーと店内

 複数のオーナーにより共同運営されているこの二つのベニューは、隣合わさっており、アムステルダムの音好きが集まり日本のDJバーの拡大版のような感覚がGarage Noord、そしてスケボーのランプが際立ち、併設されたレストランで食事も楽しめるイベントスペースがSkatecafeだ。どちらもオープンからちょうど一年が過ぎた新しいベニュー。
 
 Garage Noordは、東京でいう東高円寺のGrassrootsや神宮前のbar bonoboのような雰囲気を感じる。こじんまりとしたフロアは、ハンドメイドのスピーカーシステムとFunktion-Oneのモニターに囲まれ、ソファでゆったり腰かけながらフロアを見渡せる2階、中庭もあり外の空気でリフレッシュすることもできる。オープン以来ローカルDJをメインに、こだわりを感じるアーティストを招聘しており、今回のADEでもL.I.E.S.の首領Ron Morelli、Red Light Radioの創設者であるOrpheu The Wizard、日本のrularでもプレイ経験のあるLena WillikensとVladimir Ivkovicがヘッドライナーとして招聘された。ADE期間中もローカルと音好きのツーリストが集い、ピースフルな日常の雰囲気を醸し出していた。Ron Morelliのセットも普段のクラブとは一線を画し、小箱ならではの緩目なアシッドトラックや味のあるハウスをブレンドし、懐の深いセットが印象に残った。

Pip goes Skatecafe


Skatecafeのスケボーランプ



 一方SkatecafeではADE期間中、オランダ第三の都市デン・ハーグを代表するクラブPIPやフェスティバルTodays ArtとThe Craveのクルーがパーティーを開催する等、オランダローカルのオーガナイザーが集い、アート色の強いコンテンツで連日賑わいをみせていた。
 
 とくにPIPのオーガナイズしたPip goes Skatecafeでは、Skatecafe自慢のスケボーランプも活用し、ダンスミュージックxスケートボードという遊び心満載のイベントであった。
 
 最終日には 、個性的なアーティストが集い、エクスペリメンタルなハウスやテクノのリリースで人気のGieglingのパーティーが開催された。チケットは即日ソールドアウトだったが、会場内は余裕を持って遊ぶことのできるスペースが確保されていた。 スケボーのランプ前にDJブースが設置され、踊りやすい出音の軽快なハウストラックが繰り出され、最終日の夜に相応しい時間を演出していた。ここの特色はとにかく音が良く、フードが美味しい。イベント時もピザを始め、多数の手作り料理が楽しめた。



Likeminded - DJ Masda @ HoogtIJ Amsterdam 
https://www.amsterdam-dance-event.nl/program/2018/likeminded-daytime-w-dj-masda-quest-krn/12636177/

ADEでプレイするDJ Masda


 ここからは多目的スペースを使ったイベントを紹介していきたい。
まずは、日本人DJのDJ Masdaがゲストとして迎えられたパーティーLikeminded。会場は普段クラブイベントではなく、企業やクリエイターの発表の場として使用されることが多い4階建てくらいのビル。オーナー曰くダンスイベントは初の試みとのこと。メインフロアは最上階に設けられており、全面ガラス張りでアムステルダムの街が見渡せる最高のロケーションだった。オーディエンスの年齢層は若目だったが、質の高いパーティーラバーが集まった感があった。DJ MASDAのプレイ中には、フロアも埋まりDJする姿がかろうじて見えた。彼のレコードコレクションから放たれる軽快かつ繊細なミックスワークは、オーディエンスを酔いしれさせるには十分で、ポジティブなパワーを充満させるフロア作りは熟練のなせる技であった。



ADE '18 Closing Afterparty @ Undercurrent
https://www.amsterdam-dance-event.nl/program/2018/ade-18-closing-afterparty/12900711/

会場となった Undercurrent


 世界的な人気を誇るルーマニアンミニマルをコンセプトに開催されたADE 2018クロージングパーティー。開催時間も日曜昼14時から、翌日12時までのロングパーティー。会場はAmsterdam City Camp場の先にあり、港に浮かぶイベントスペースUndercurrent。水に浮かぶ屋内テラスとガラス張りでデザインされた本館からは、美しい景色を眺めることができる。ただ交通の便も不便で、本当にここまで人が来るのかと疑問を抱いていたが、どこからともなく人が集まり、早い時間から会場内は熱気に溢れていた。
 
 ラインナップにはRhadoo、Barac、Prikuなどのルーマニアンアーティストに加え、同日にSkatecafeでのパーティーを終えたDJ Dustin、Edward、KonstantinのGiegling のクルーなどもラインナップされていた。2つのフロアが用意されていたが、フロアごとに音のコンセプトが分かれておらず、Function-oneスピーカーシステムから放たれる出音で終始賑わっていたメインフロアとは逆に、セカンドフロアはスピーカの出音は悪くはなかったが、パワー不足なのか中々人がたまらず苦戦を強いられていた。Rhadooの硬派かつエレガントで幻想的なグルーヴの力強さが、個人的なハイライトだった 。



Ryoji Ikeda @ Eye Filmmuseum
https://www.amsterdam-dance-event.nl/program/2018/ryoji-ikeda/12904975/

 最後に紹介するのは、オーストリアの企業Delugan Meisslがデザインした、アムステルダム中央駅の対岸にある「目」のような形をした"Eye"と呼ばれる美術館。このモダンでゆったりとした建物は、近づいてみるとかなりの迫力を感じられる。
 
 超音波や周波数など、音の持つ本質的な特性の細部にまで徹底して焦点を当てた作品やパフォーマンスで、日本の電子音楽分野の第一人者として注目され、ジャンルを超え、建築やダンスなどの分野でも影響を与えているRyoji Ikeda。今回の展示でも音の視覚化を行い、デジタルテクノロジーを極限まで駆使し、緻密かつ迫力ある映像インスタレーションを展開していた。訪れた人の探求心をくすぐる作品群は老若男女問わず人気で、革新的な現代電子音楽家として賞賛を浴び続ける理由がそこにはあった。
 



 毎年開催される都市型フェスティバルADEを楽しむためには、大きなイベントへ参加するのも醍醐味だが、ここで紹介した様なクリエイティブで斬新な小箱や、このADE時のみにダンスフロアと化すイベントスペースへの参加をオススメしたい 。そこにはローカルやパーティーラバーが集い、真のアンダーグラウンドな雰囲気でダンスミュージックを感じられるからだ。

 
Special Thanks to Steven van Lummel & Luka Kueter (PIP), Giegling crew, JUN & Akira (Yoshi Bento), Miho Honda (Otemba Sake Project)