REPORTS

浮き彫りになったイベントの二極化とビジネスモデルとしての発展 「Amsterdam Dance Event 2022」 – 前編 –

Text by Norihiko Kawai
Photo by ADE Official, Tetsu (laserboy.tv), Nori

  今回で26年目の開催を迎えた都市型フェスティバルの先駆的存在「Amsterdam Dance Event (以下、ADE)」。ラインナップやプログラムが4月頃から徐々に発表され、コロナが完全に過ぎ去ったオランダの首都アムステルダムでは、10月に入るとトラム乗り場を始め、街のいたるところにADEの広告が展開され、久しぶりの本格開催に期待が高まっていた。


開催日当日のアムステルダム中央駅


街中の看板

今回のリポートでは、ADEの昼間に行われるカンファレンスプログラムとイベントにフィーチャーした二本立てとしており、ADEの雰囲気を少しでも感じてもらえたら嬉しい。


アムステルダム中央駅のADEチケット売り場は長蛇の列


 浮き彫りになったイベントの二極化 


今年のADEで一番気になったことはと質問されたら、このタイトルにも示したようにイベントが二極化されたということだ。では、どのように二極化されたのか? 単純にADEに登録しないイベントやお店の数が、かなり増えたということ。そして、そのほとんどが地元や欧州である程度名前の通ったものであった。しかし、これは今年に始まったことではなく、コロナ禍の前からしばし起こっていた現象でもある。

日本から見ていると、どのように映っているのかは定かではないが、ADEはかなりコマーシャルな要素が多く、宣伝効果が高い。元々アンダーグラウンドから派生したものやそのようなスピリットを打ち出している人々の中には、反ADEとはいかないまでもADEに登録するメリットに疑問を感じている人が増えてきたのではないかと推測する。というのもADEのオフィシャル会場/イベントとして登録するには、ADEのフラッグやその他のグッズを購入したりと、それなりにコストがかかるのも事実だ。また、ADEのプロパスを購入したオーディエンスは、どのADEのイベントにもフリーで入場できてしまうので、入場料収益の観点からもオーガナイズサイドにリスクが潜んでいると思われる。

また、筆者は2008年に初めてADEの取材に訪れたが、当時と比較すると、近年はより商業的な側面が強く打ち出されてきているのが、さまざまなメーカーの参戦やEDMの台頭、世界各国からの参加者を含めた事情からも理解できる。簡単にいえば、ADEはエレクトロニック・ミュージックシーンのビジネスモデルとして年々進化し続けているのだが、アンダーグラウンド・ラバーからは少し距離を置かれつつある現状がある。


ADEでのAwekningsのパーティ


協賛メーカのブースは大盛況

わかりやすい例を挙げるとしたら、バルセロナで開催されている「SONAR FESTIVAL」の時期にSONARには直接関係ないが、SONAR WEEKと題して多数のイベントがバルセロナの至る所で開催されている。その時期に開催されるイベントは、SONARのオフィシャルイベントではないが、集客でその恩恵を受けているのはまぎれもない事実だ。今後、アムステルダムでも、ADEの開催時期にはそのような状況になるのではと考えられる。



とはいえ、商業的であろうがなかろうがシーンが発展していくことは微笑ましいことであり、パーティやDJ・アーティスト、レーベル活動を生業にできれば最高なことである。特にここアムステルダムではクオリティを保ちながらもビジネスモデルとして成功しているものが多数ある。

そんな状況を踏まえながら参加した2022年のADE。筆者が注目したイベントをADE未登録のイベントも含め、簡単に紹介していきたい。
 

Osàre Label Night
10/19 WED at Het HEM


2019年にローンチしたアムステルダム発のエクスペルメンタル系に傾倒したレーベルOsàreのレーベルナイト。会場はアムステルダム近郊の街Zaandamにあるアートスペースであり、レストランやカフェも併設するHet HEM。この会場のプログラムは普段からすこぶるセンスが良い。それもそのはず、閉局したRED LIGHT RADIOのファウンダーであるOrpheu The Wizardがプログラムを担当。当日もOrpheuと話したところ、やはりプログラムを決める際は会場との相性や音楽性を吟味し、熟考すると話していた。

このレーベルナイトでも実験的なアンダーグラウンド感が表現されており、客層も素晴らしかった。オープニングのDJを担当していたElena Colombはさまざまなジャンルを横断する肝の据わったセットでHet HEMのダークな地下空間に相応しいプレイだった。

会場となったHet Hem(右側の白い建物)


Het Hemの地下フロア


Osàre Label Night


Voices From The Lake + Nadia Struiwigh
10/19 WED at Muziekgebouw


アムステルダムを代表する近代的な音楽施設Muziekgebouwで開催されたVoices From The Lakeのライブセット。日本でも大人気、イタリアの DJ 兼プロデューサーのDonato DozzyとNeelのプロジェクト。2011 年に日本で開催されたLabyrinth Festivalで誕生したこのデュオは、ADEにおいても唯一無二のアンビエント・テクノを持ち込み、瞑想的な旅へオーディエンスを誘っていた。現代クラシック音楽のメインコンサートホールでもあり、素晴らしいで音を体感できるMuziekgebouwの環境に非常にマッチした好内容ではあったが、シンプルで深みのあるサイレントグルーヴは、アップリフティングなADEのオーディエンスには少々物足りなさを感じる時間であったように映った。


会場内のデジタルポスター



Voices From The Lake + Nadia Struiwigh


Nxt Museum x Transmoderna present: AiR
10/19 WED at Nxt Museum


世界的に有名なDJ Dixonが共同設立した電子音楽とデジタルアートのハイブリッド集団Transmodernaと会場であるNxt Museumが協力して行ったアーティスト・イン・レジデンス・プログラム。3日間に渡り開催されていたが、初日に登場したAmsterdamのブレイクスやエクスペリメンタルに傾倒する人気アーティストupsammyの時間帯に訪れてみた。会場に到着するとダンスフロアに設置された370平方メートルのスクリーンに映し出されたビジュアルアートに驚いた。upsammyの不規則なグルーヴと相まってフロアを非日常な雰囲気で包み込み、野心的で大規模なニューメディアアートの可能性を感じさせてくれた。


プレイするupsammy



Nxt Museum x Transmoderna present: AiR
 

Kraak & Smaak (Live)
10/20 THU at Melkweg


オランダ出身、エレクトロニック・ファンクやニューディスコ、ハウスなどの作品で人気の3人組アーティスト・Kraak & Smaakのライヴが、アムステルダムの名門ライブハウスMelkwegで開催された。グラストンベリー等の国際的なフェスティバルでもプレイを披露してきた彼らのステージを見ようと会場は満員御礼だった。心地よいムーディーなグルーヴ、ライヴならではの勢いのあるステージパフォーマンスで年齢層高めのオーディエンスを虜にし、会場は最高潮な盛り上がりをみせた。

超満員に膨れ上がった会場

 

Kraak & Smaak live (ADE)


Henrik Schwarz & Bugge Wesseltoft
10/20 THU at Paradiso


アムステルダムが誇る歴史的なクラブParadisoにて行われたHenrik Schwarz & Bugge Wesseltoftのライヴ。エレクトロニックとジャズシーンのパイオニア、名盤『DUO』のリリースと、このコンビのプレイを体感しようと会場は早い時間から超満員。エントランスでADEにプレイしにきていたKuniyukiさんとJoe Claussellにも会い、注目の高さがうかがえた。ライヴが始まるとBugge Wesseltoftsが奏でるピアノとHenrik Schwarzの繊細なエレクトロニックミュージックがオーディエンスを十二分に魅了し、彼らの多彩な音楽表現を堪能できるエレガントなステージとなった。まだ、このライヴを未体験の読者は死ぬ前に一度は体感すべきだろう。


会場は満員御礼



Henrik Schwarz & Bugge Wesseltoft
 

Titlle unknown
10/20 THU at Schietclub Amsterdam 
住所:Papaverweg 15, 1032 KE Amsterdam


アーティストやクリエイティブなスポットが集まるアムステルダムのノールト地区に位置する居心地の良いクラブSchietclub。どちらかといえばDJバー的な雰囲気で内装は木を多用しており、いかにも音好きが集まりそうな佇まい。この日はRUSH HOURのファウンダーAntalもプレイしており、ADEでのパーティを控えていたReinbow Disco Clubの面々も集っていた。賑やかなバー、そして薄暗いフロアは盛り上がるのに最適で隠れ家的な匂いがした。アムスにお越しの際はぜひ立ち寄ってみて欲しい。ちなみにこちらのベニュー・イベントはADEに未登録であったが、この夜もADEのパーティに負けず異様な盛り上がりをみせていた。


Schietclubのバーカウンター



Intercell x 999999999 Invites
10/20 THU at H7 Warehouse


アムステルダムを拠点とするテクノオーガナイザーIntercelは、ADEにおいても代表的なテクノ・イベントとして人気を博している。この夜はイタリアのハードテクノ最前線デュオ999999999やドイツの匿名プロデューサーSNTS等が登場し、会場は鮨詰めサウナ状態。夜中の2時過ぎに行ったにも関わらエントランスでは入場規制がかかり、足止めをくらうほどだった。ピュアなハードテクノが会場全体に響き渡り、ほとんどの男性オーディエンスは上半身裸で汗だくになって踊っており、パーカーを着ていた僕は奇妙な目で見られた。朝方になっても全く衰えることのない会場の雰囲気にオランダ・テクノシーンの底力を痛感させられた。


会場内の様子




Intercell x 999999999 Invites


PIP x SKATECAFE
10/21 at SKATECAFE


オランダの都市デン・ハーグの人気クラブであり、デン・ハーグ・シーンでさまざまなフェス等も仕掛けるPIPのクルーが、アムステルダムノールト地区の人気ベニューSkate CafeでADE期間に行う恒例のパーティ。今回はADE未登録での開催であったが、エントランスは長蛇の列で、さすが人気のPIPといったところだった。メインフロアではレイビーなテクノ・トランスが、セカンドフロアではディスコ・ハウスが流れ、どちらも高揚感を煽る雰囲気だった。また、屋外にはサッカーコートも設けられており、男女入り乱れてフットボールに励む風景は、さすがサッカー強豪国オランダならではといったところか。


エントランス





PIP x SKATECAFE
 

L.I.E.S. x Nation x Dirty Blends x HEAT x Oddity Radio
10/21 at Secret venue 


AmsterdamをベースにコアなDIYパーティをオーガナイズしているHEATとNYの人気レーベルL.I.E.S.がタッグを組み、シカゴのNationレーベルのファウンダーであり、アンダーグランドシーンのレジェンドTraxxを招聘。このパーティは会場も明かされておらず、参加者だけに伝えられるシステムで、もちろんADEには登録していない。当日はRon Morelliも登場し、Traxxと共にDark Wave、ロウハウス、そしてアシッディーなサウンドを十二分に聴かせてくれた。まさにDIYのお手本ともいうべきこのパーティ。会場はアムステルダム郊外の倉庫兼事務所のような寂れた建物を利用していた。バーにバーテンダーはおらず、お酒は各自で飲み放題。冷蔵庫には常にビールが冷やされていた。夜中に到着すると既にエントランスは閉まっており、どこがエントランスなのかと?入場するのも一苦労だった。しかし、会場に入ると雰囲気はダークであったが、参加者は非常にピースフルで安心して遊ぶことができた。商業的な匂いは一切しない、まさにパーティの原点といえる超優良なパーティであった。


HEAT


Yoyaku x Repeers
10/21 at Club Atelier


メインルームにアップグレードを施したFunktion-One Soundsystemを備え、3フロアで開催されたClub AtelierでのADE登録パーティ。会場に到着したのが、朝方近くだったにも関わらず、エントランスで入場規制がかかっていた。やっと入場したところ、ちょうどFumiya Tanakaに交代するベストタイミングだった。vinyl特有の太い低音を心地よく響かせながらもツボを心得たミニマルテクノ・ハウスの絶妙なセレクションでミックスし、朝方5時を過ぎたフロアを完全にロック。途中完全にDUBに可変するトラックが非常に印象深かった。この時間帯は2フロアのみの開催で、Fumiyaさんの裏ではfabricのレジデントCraig RichardsがサイケデリックかつトランシーなトラックやUKガラージ・ブレイクスをミックスした抜群のセットを披露し、熟練技術者のみが成し得るモーニングの時間帯を構築していた。この贅沢な組み合わせを含め、この日は非常に濃厚なパーティを各所で楽しませていただき、家路に着いた。



Yoyaku x Repeers
Yoyaku x Repeers goes to Amsterdam Dance Event


Rush Hour x Rainbow Disco Club
10/22 at Lofi


ADE恒例、アムステルダムが世界に誇るレコード屋・レーベルRush Hourと日本を代表するフェスティバルReinbow Disco Clubのコラボレーションパーティ。ほぼ毎回、会場を変えているこのパーティ、今回はアムステルダムの西地区に位置するLofiでの開催となった。会場はこれまで行われてきた中でも一番の広さで、キャパは2500人ほど。このイベントで恒例となっている日本酒と日本食も現地Otemba Sakeの協力の元、複数のケータリングが出店されていたが、それでも会場のスペースは余裕を感じられた。14時からスタートしたパーティのオープニングを託されたのは、RDCのレジデントKikiorix。会場で話したRush Hourのクルーからも「彼のオープニングは素晴らしかった」と絶賛されていた。その後は近年頭角を現すKamma & Masaloが派手に盛り上げ、Rush HourのファウンダーAntalのパワフルなグルーヴへと誘い、メインのPalms Traxが登場。前日にはDGTLの屋内フェスでもプレイし、トランスやテクノでエクスタシー感を表現していたが、この日は彼の幅広い引き出しを象徴するかのように、このパーティにそぐったアフリカンなリズムやジャジーな音色を織り交ぜフロアの期待を裏切らない好セットだった。そしてラストはAntalとKamma & MasaloのB2Bとなり、満員の会場は最高潮に盛り上がり、ラストはDiscotheque - For Your Love (Kamma & Masalo Radio Mix)で締めくくられた。


Kikiorix


日本酒バーも大好評


Antal

Rush Hour x Rainbow Disco Club


Breakfast Club ADE Sunday
10/23 at Hemkade 48


都会から少し離れた理想的な場所で午前中から開催され、朝食が無料で振舞われることで人気の高いADEでもおなじみのパーティ。ロックダウンで夜のパーティが開催できない時期にパーティ時間を長くしようとしたのが午前中スタートのきっかけのようだ。会場はアムステルダム中央駅から公共機関で40分ほどの音楽イベント複合施設Hemkade48。ヨーロッパでよく見かける古い工場跡地を活用した場所で、最大4000人ほど収容可能。土・日曜と開催されていたが、日曜のEris Drewの時間帯に訪れてみた。会場は屋内と屋外があり、Music Districhtと謳っているだけあり、音楽に没入できる環境だった。ADE最終日・日曜午後の時間帯とあってか、音楽とパーティを愛するオーディエンスで溢れており、Eris Drewのセレクトする極上のアンダーグラウンド・ハウスと相まって雰囲気は素晴らしかった。次回は午前中から参加してブレックファーストを味わいたい!


会場入り口


セカンドフロア




Breakfast Club


Mary Go Wild invites: Voxnox & Dualism
10/23 at ​​Club Atelier


今回のADEで一番最後に訪れたパーティ。アムステルダムのどセンターにテクノシーンを中心としたレコードや本、アパレル等を販売する店舗を構えるMary Go WildがベルリンのオーガナイザーVoxnoxとDualismと協力し、オランダとドイツのアンダーグラウンド・テクノシーンを紹介することをコンセプトに行われた。当日のお目当ては、Efdemin→Answer Code Request→Etapp Kyleという流れが組まれたDualismのフロアだった。EfdeminはDialからリリースしていた時代とはうってかわって、近年のリリースに象徴されるかのように140BPMくらいのエレクトロ感のあるテクノを巧みに操り、Answer Code Requestへとバトンを繋いだ。Answer Code Requestはレイビーなトラックでフロアに集まったオーディエンスを離さず、Etapp Kyleへとつなぎピュアなテクノで締めくくられた。さすがに三者ともにBerghain/Panorama Barの常連だけあって、息つく暇も与えないくらいにトラックを投下し続け、最終夜に好適なテクノ祭りとなった。



Mary Go Wild invites: Voxnox & Dualism

久しぶりの本格的な開催を祝うかのように大盛況に終わった2022年のADE。今回紹介したイベントはADE期間中に開催された中のほんの一部に過ぎない。アジア方面はまだコロナ禍ということもあり、アジアからの参加者は例年に比べ非常に少なかったが、来年のADEには日本からも多数のパーティラバーの参加を期待したい。



リポート後編では、ADEのカンファレンス・コンテンツやデイプログラムのリポートをお届けします。



Amsterdam Dance Event 2022

https://www.amsterdam-dance-event.nl/

Special Thanx : Steven (PIP), Hessel (HEAT), RDC crew and Yappo (Otemba Sake)