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DEKMANTEL FESTIVAL 2024 ~ 光に導かれて ~

TEXT: Norihiko Kawai 
PHOTO: Tim Buiting, Stef van Oosterhou, Norihiko Kawai
MOVIE: Norihiko Kawai 

2013年にスタートし、今回で10回目の開催を迎えたDEKMANTEL FESTIVAL。それを祝うかのようにほぼ晴天に恵まれた今年のフェスティバル。このオランダの巨星は、新たな10年に向けてどのようなスタートをきったのか? キーポイントにインタビューを交えて振り返ってみたい。


Robert Henke CBM8032 AV

 

Robert Henke CBM 8032 AV


エレクトロニック・ミュージックのパイオニアであり、Ableton Liveの共同制作者、そしてオーディオビジュアル・アーティストのRobert Henkeが、修復された1980年代初頭のコンピューターCBM(コモドール・ビジネス・マシーン)のラインナップを集め、オーディエンスの心を溶かすAVショーケースを開催した。現代的なコンセプトと40年前のテクノロジーを融合させたこのパフォーマンスは、1980年代のSF的なハイテク楽観主義を借りながら、初期のコンピューターで達成できることの限界を押し広げたエクスペリメンタルなライブセット。近年の平均的な家庭用洗濯機等に搭載されているマイクロチップの方が10万倍も高性能であるようだが、彼の修復したマシンは畏敬の念を抱かせ、サイケデリックなパターンを次々に構築し、映画『マトリックス』風のコードの流れが渦を巻き、緑色の映像が明滅する。生成される音は、ゆらめくサイン波、クリック音、ブープ音、カット音など、まばらだが催眠術のようで没入させられた。40年前の時代遅れなテクノロジーと現代的な美学との間の両義性を楽しませてもらった。




UFO1でプレイするWata Igarashi


Wata Igarashi 


彼のセットを聴くたびに心技知という言葉が相応しいと思うのは私だけだろうか? 今回のセットも紛れもなくその言葉に相応しい見事な内容だった。彼が今回プレイしたUFO1ステージはテクノ界の重鎮たちがしのぎを削る特別な場所だ。記念すべき10回目のフェスティバル、この偉大なステージのオープニングを託された彼だが、プレイ前日にフェスティバル・プログラムの一環として『Production workshop with Wata Igarashi』も担当していたので、その辺りも含めて話を聞いてみた。

ーーワークショップを担当されていましたが、どのような経緯で決まったのでしょうか。会場の雰囲気やどのような内容を行ったのかを教えてください。

W:Dekmantel本祭の出演が決まった後、Dekmantelの方からworkshopのリクエストがきました。日本ではこれまで数回ワークショップをホストしましたが、海外では初めてでした。なので、興味のある人がいるのかも未知数でしたが、良い機会なのでチャレンジしてみました。
内容は僕の方で決定していいとのことだったので、以前からよく訊かれることがあった「アルペジオやベースラインなどの作りかた」を解説しました。
ジャズなどで使われるモードに基づいた音の選択や重ね方などをプロジェクターを使ってDAWの画面を共有しながら1時間話し続けました。これまでのどんなDJのロングセットよりも疲れました…笑。と同時に世界中の先生や教授に改めて尊敬の念を抱きました。
以前行った日本でのworkshopより、女性プロデューサーの方々が多くいたのも印象的でしたね。


ワークショップの模様

ーー記念すべき10回目のフェスティバルでUFO1ステージのオープニングを託されましたが、どのようなコンセプトで臨んだのでしょうか。

W:UFO1は大きなテクノメインのドームステージですが、今回はオープニングの3時間ということで、特に前半は人がある程度集まるまで時間をかけるつもりで110BPMくらいから始め、徐々にあげていった感じです。フェスでもクラブでも一番手はとても大切でスキルとセンスのいる役割だと思っています。遊びにきた人達が気持ちよく・スムーズにパーティーに入り込める世界観を創るようにと考えています。ただ、今回のような大型フェスでたくさんのステージがある場合、一つのステージに留まらない人が多いので、ただの軽めなウォームアップだと、すぐに他のステージにいってしまうこともあるんです。その点を踏まえて、オープニングでも自分のカラーをしっかりと出して印象を強く残していくプレイを心掛けて挑みました。

ーー気になるステージや良かったアーティストはいましたか。

W:どのステージもDekmantelは独自のキャラがあって良いなと思いました。
また、週末の会場の話ではないのですが、平日にMuziekgebouwで開催しているコンサートの方も素晴らしかったです。クラブ音楽に留まっておらず、良い音楽がいろいろと聴けるのは本当にありがたいです。

僕は週末のメイン会場には自分が出演した金曜日にしかいなかったのですが、UFO1でプレーしたJane Fitzの珍しい超爆速テクノセットが個人的にかなり良かったです。他にもMarcos Valleなど観たいアーティストが沢山出演していました。


Children of the Light の演出


Children of the Light 


VJが主流の日本とは違い、オランダのクラブシーンは、ほぼライティングのみで視覚的なディレクションが行われている。DEKMANTELのメインステージともいえるThe Loopにおいてもそれは同様で、丸いダンスフロアを360度取り囲むライトでの視覚効果は驚異的な体験をダンスフロアに落とし込む。そして時に光が音楽の存在を忘れさせてしまうほどに…。

その体験へと導いてくれる水先案内人はChildren of the Light。Christopher GabrielとArnout Hulskampから成るアムステルダムを拠点に活動するビジュアル・デュオだ。彼らは光を主要な素材として、パフォーマンス、ビデオ、彫刻、没入型インスタレーションなど多岐にわたるメディアでアートと体験を創造している。

クラブシーンを例にとると、彼らは今は亡き伝説のクラブClub11にTrouw、そしてDe Schoolというアムステルダムのアンダーグラウンドシーンを象徴・牽引してきたクラブで活動してきた。

そんな彼らは毎年DEKMANTELのメインステージの舞台デザインとライティングを使った空間演出を担当している。その眩いばかりの輝きやあざやかな色彩の極限まで追究されたライティングは、オーディエンスの精神領域にまで深く入り込む。人々が集いダンスする喜び、音との共存、大量に焚かれたスモークとの相乗効果。フェスティバルで導かれる最高の瞬間は偶然に起こることが多い。しかし、彼らはそれを導く光の魔法使いなのだ。

ぜひ、彼らの活動を公式のInstagramでチェックしてみてほしい。



Green Houseステージ


Antal


世界を飛び回るRush Hour RecordsのボスAntal。DEKMANTELにおいてもその存在感は異彩を放っており、無くてはならない存在である。
今回、彼は土曜日のGreen Houseステージのトリを見事に務めていた。フロアのみならずブース上にも関係者があふれ、彼の人柄を象徴するシーンだった。今回のDEKMANTELでのセットについて質問を投げかけてみた。

ーー記念すべき10回目のDEKMANTELで意識したDJセットのコンセプトについて教えてください。

A:Ron Trent presents WARMのライブの後のプレイだったし、ステージのクロージング枠だったので、最後まで盛り上がることをイメージしていた。フェスティバルの10回目を記念して、これまでの名曲をいくつかプレイして、いい雰囲気にしたかったんだ。フェスティバルの中でエレクトロニック・ミュージックは、ほとんど他のDJたちにカバーされていたので、今回の自分のセットにはとり込まないようにしたんだよ。

ーー Ron Trent presents WARM後の時間帯に出演されましたが、とてもいい流れでしたね。

A:Ron trentは私が愛してやまないこのハウス・サウンドの創始者であり、伝説的な存在だからね。

ーーDEKMANTELにはDJとしてのみ参加しているのですか?  アイデアを提供することもあるのですか。

A:私はDJとして参加している。Rush HourはDekmantelレーベルのディストリビューターでもあるけどね。



オープン30分後のSelectorsステージ


Selectors Stage


DEKMANTELの音楽センスをより深く探求し、フロアの良質なバイブスを味わうならSelectorsステージに足を運ぶのが賢明だ。今年も例外に漏れず多数の良質なミュージックセレクター(DJ)がこのステージに登場した。

うっそうと生い茂る木々の中、地面に敷き詰められたウッドパネル。毎年、趣向を凝らして設置されたライトは、どこか怪しげながらもスタイリッシュな光を放つ。そして、15inchのFunktion-Oneサウンドシステムから届けられる極上のサウンド体験。ブース裏(バックステージ)に赴けば、オーセンティックなパーティーラバーの雰囲気を携えた陽気なクルーがいつも心温かく迎えてくれる。要約すれば森の中に創られた最高のフロアだ。



圧倒的な存在感を放ったEris Drew


Eris Drew


ロングセットが主流のSelectorsステージで、特に際立ったのが最終日のオープニングに登場したEris Drew。オーストラリア生まれながら幼少期にアメリカへ移住、シカゴにわたり、10歳の頃からダンスミュージックの本場でシンセサイザーを始めた。その頃から磨かれてきたツボを心得たグルーヴ。ハウス、ガラージ、トランス・テクノ、エレクトロを3時間半にわたって熱狂するオーディエンスに惜しみなく降り注いだ。正に最終日の雰囲気を感じられる熱狂がフロアに渦巻いていた。ブース裏には近隣諸国のフェス関係者が集い、彼女への称賛を多数耳にした。日曜の午後、アムステルダムの自由な雰囲気と豊かな自然の中、Funktion-Oneを通して体感するEris Drew極上の3時間半セットを想像してみてほしい。



The Loopステージ


Suze Ijó


最終日のThe Loopステージのオープニングを飾ったのは、ロッテルダム出身のSuze Ijó。彼女のセットを初めて聞いたのはアムステルダムの良音箱DOKAが最初だった。一瞬でその美しいグルーヴに魅了されたが、今回も極上にエレガントなサウンドセレクションで見事なまでにDEKMANTELファイナルデイのオープニングを務めあげた。日本ではまだ知られていないであろうこのフィメールハウサーに質問を投げかけてみた。

ーー記念すべき10回目のDEKMANTELでしたが、あなたのセットのコンセプトを教えてください。

S:Dekmantelフェスティバルでプレイするときは、いつも自分の違う面を見せようとしている気がする。今年はパーカッシブでヘヴィー、ディープでウォームなセットにしようと思っていたんだ。

ーーあなたは日曜日のオープニングセットでしたが、フロアは素晴らしい雰囲気でした。どのような音の流れをイメージしていましたか。

S: 気に入ってもらえたようで嬉しいです。実は、オープニングや長時間のセットで、あらゆるサウンドやムードを網羅できるようなプレイをするのがとても好きなんだ。私はいつも、人々をダンスフロアに誘うようなウェルカムなヴァイブ、温かみのあるサウンドを届けることから始めるんだ。

ーーオープニングの2時間は、自分を表現するのに十分な時間でしたか。

S:メインステージのオープニング枠で2時間は少し短いと思う。セットが終わる頃にフロアはちょうど埋まり始めるけど、フェスではたくさんのアーティストをラインナップに並べるのが常だから、短いセットはごく普通のことだと思う!

The Nestステージ


今年も大成功で終えたDEKMANTEL FESTIVAL。実はThe Loopステージを演出した光の魔術師Children of the Lightの一通のメールから、この取材はスタートした。そう、彼らの織りなす光の魔術に導かれるように…。
次の10年でDEKMANTELがどのような道を辿るのか? Children of the Lightのライティングが、何か道標を提示していたのかも知れない。


Bedankt!


Arnout Hulskamp & Christopher Gabriel (Children of the Light), FOOD ESCAPE crew, 
Joke (Dekmantel), Wata Igarashi, Antal (Rush Hour), Suze Ijo