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エレクトロニックミュージックにサステナブルとデジタルコンテンツが見事に融合したヨーロッパ最前線「DEKMANTEL FESTIVAL 2022」 – 後編 –

Text by Norihiko Kawai 
Photo by Bart Heemskerk, Tim Buiting, Pierre Zylstra, Tim Buiting,  Stef van Oosterhout, Charlotte van de Gaag, Kumi, Nori  
 

8月6日


 この日は土曜日ということもあり、前日に比べてオーディエンスの入りが早く、14:30の時点で結構な混雑具合だった。今回も公式に取材申請しており、スタッフ駐車場の利用から全日程入場可能なバックステージパス、フードや飲み物を買えるトークンなどが我々メディア関係者にも配布された。会場内はキャッシュレス化されており、フードやドリンクを買うトークンは、会場内の自動販売機と窓口にて5枚で€17.5で販売されていた。その他、ロッカー、マーチャンダイスショップもあった。


駐車場は会場から徒歩で1.5km


会場内のいたるところに設置されていたトークンの自動販売機


ロッカーはオンラインでの購入のみ


会場内のドリンクの値段は?


夕暮れのマーチャンダイスショップ

 昨晩、Selectorsステージにプレスパスではバックステージに行けない問題があったので、仕事にならんだろと担当者に改善を求めたところ、問題は解決されていた。理由を聞いてみると、アーティストによってはバックステージへの立ち入りを禁止している人もいるが、基本的にはこのパスでアクセス出来るとのことだった。

 そのSelectorsステージ2日目のオープニング4時間セットを託されたのは、UK出身・ベルリン在住のPalms Trax。UKガラージを中心とした緩やかで心地よいグルーヴが昼間のフロアを包み込み、雰囲気は最高潮。オープニングにも関わらずフロアの最後方までびっしり人で埋まっており、人気の高さに驚かされた。

 また、他のステージから遅れて15時にスタートしたBoiler Roomのステージでは、ドイツ・ケルンの名所、Salon des AmateursのレジデントであるPhillip Jondoと、ブルックリンシーンの重要人物Anthony Naplesとも交友の深いDJ Pythonが、ローファイハウスやテクノ、ブレイクビーツを織り交ぜ、フリークの期待を裏切らないセットで楽しませてくれた。


バックステージパスの種類


見事な4時間セットを披露したPalms Trax




 その後、個人的にこの日のハイライトであったUFO IIステージへ向かった。エレクトロシーンのベテランAnthony Rotherが登場し、文句のつけようがない、いぶし銀ダーク・ディストピアなシンセサウンドを響き渡らせ、超満員のフロアをどこまでも引っ張っていた。さらに、彼の後にはこちらもエレクトロシーンのベテランデュオ、​​Kittin & The Hackerが登場。エレクトロ好きには垂涎のこの流れ、バックステージもフロアも人がはじき出されるくらいに膨れ上がり、フロアは異様な熱気に包まれ、近年顕著なアシッディなエレクトロサウンドのリバイバルを肌で感じた。






UFO IIのバックステージ


UFO II

 土曜日ということも手伝ってか、会場内はとにかく賑やかだった。メインステージは夕刻のこの時間、Jayda Gが華やかかつエネルギッシュなパフォーマンスで大観衆を踊らせていた。彼女のプレイを見るのは2回目だが、今回も生命力のみなぎるグルーヴがフロアに送られており、続く地元のJob Jobseへの流れは、いかにもオランダっぽいアップリフティングな演出だった。


夕方18:30頃の会場内


メインフロアでプレイするJayda G



余談ではあるが、会場内で日本語で書かれたデザインのTシャツを多数見かけたので思わず何人かに話しかけてみたが、ほとんど意味を理解していない人ばかりだった…。


!!!

 その後は、中国生まれカナダ・バンクーバー育ちのYU SUがSelectors Stageにてプレイしており、幅広いセレクションかつ落ち着き払ったプレイに吸い込まれるかのように、フロアには人が集まり、穏やかな雰囲気の中に東洋の神秘さが漂っていた。バックステージには自然と東洋系の関係者が集い、交流の場と化していた(笑)。



YU SU

 そしてこの土曜日メインステージの大トリを務めたのは、もはや説明不要のデュオOcto Octa & Eris Drew。DJとして必要な全ての要素を兼ね備えたこの2人がステージに立てば、フロアもブース裏も狂喜乱舞の状況に創り上げられる。適切なタイミングでのイコライジングにはじまり、レイヴィーな音圧、心地よいサイケデリック感、ダンスミュージックへの深い愛情を感じるセレクション、そしてステージ上でのハイエナジーなパフォーマンスと、完璧なパーティが成立してしまう。さすがにフェス4日目のこの時間帯ともなると、50代目前の筆者の体はキツイ訳だが、そんなことすら一瞬で吹き飛ばされてしまった。正に音楽の持つ力をこのスーパーデュオによって体と心に強く刻まれ会場を後にした。




Octo Octa & Eris Drew ブース内




Octo Octa & Eris Drewプレイ時のメインフロア



8月7日


 いよいよ最終日。野外での3日間は、自宅から車でAmsterdamse Bosに通っていた訳だが、駐車場やキャンプエリアから会場へ向かうには、この公園内の道を1.5キロ歩くことになる。森の中はとても爽やかで心地よかったのだが、時折会場に向かうであろう人が用を足している人を見かけた。そう、大きなフェスには付きもののトイレ問題、今回の「DEKMANTEL」も開催後に難題にぶち当たったようだ。レンタルトイレ業者の下請け業者が、無断でトイレの汚物の一部を会場の公園内に不法投棄したというニュースだった(現在も状況は調査中)。



会場へ向かう公園内の道


会場内のトイレは非常に大きく、混雑は感じられなかった

 会場に到着すると、メインステージのオープニングはすでにスタートしており、rRoxymoreがヒプノティックなブレイクス調のハウスや爽やかなミニマルハウスをプレイし、いい雰囲気だった。しかし日曜日、それも最終日、オープンして1時間も経過しているにも関わらず、会場自体に人がまだ集まっておらず、スローなスタートとなっていた。




rRoxymore

 Selectorsステージでは、地元のupsammyがプレイしていたのでチェックしに行くと、アンビエントまでいかないにしろ、エクスペリメンタル系のディープなトラックをプレイしていた。会場自体にまだ人がいないこともあったが、そのフロアには人が前方にのみいた。前述したが、このフロアは隣のGreenhouseステージの音が聞こえてしまい、音がぶつかり合う。さらにこの時間帯のGreenhouseでは、NTSのプログラムでおなじみ、ロンドンの多才なアーティストNABIHAH IQBALだった。彼女は当然、その後のAltın Gün→Antal & Huneeの7時間セットの流れを考え、アップリフティングなソウルやハウスをかけていたので、upsammyのセレクトした音楽では、フロア前方だけが楽しめるような状況だった。最終日のオープニングを静かにはじめ、徐々にアップリフティングな状況に持っていきたいというコンセプト(タイムテーブル)自体には賛同するし、upsammyも少ないオーディエンスを想定したプレイだったのかもしれないが、個人的な意見としては、なぜこのような没入環境に向かないフロアで、あのようなプレイを実践したのか、正直大きな疑問が残った。


upsammy

 それに対して、その後に同じステージに登場した地元アーティストのOceanicは見事だった。upsammyとの共演回数も多く、タイムテーブルの流れ自体も非常に良かった。彼はブレイクス調のダンサンブルなトラックやレイビーなトラックを選曲、そして音の出し方を含め、フロアの雰囲気や環境を理解していたように映った。


Oceanic



 そんな最中、UFO Iステージに出向くと、2016年の「ADE」で出会ってからパーティまで一緒に開催したが疎遠になっていた友人にたまたま出くわした。そのような久しぶりの再会もフェスにおける楽しみの一つだ。そんな気分を盛り上げるかのようにドイツ・ハンブルグのHelena Hauffが登場。最初のトラックこそヴォーカルが入り、少しチャラかったので一瞬戸惑ったが、ゴリゴリのパワフルかつ硬派なアシッドテクノやインダストリアル感極まるトラックを矢継ぎに投下し、フロアは彼女の得意とする“うだる”ような暑さで満ちていた。


Helena Hauff



 Boiler Roomステージに出向くと、この日のオープニング(他のステージより1.5h遅くスタート)は、なんとMarcel Dettmannだった。他のフロアがまだ集客に苦しむ中、このBerghainのレジデントはFunction-Oneの鳴りを知り尽くしたパワフルなプレイで特別な時間を作り上げていた。


Marcel Dettmann

 Greenhouseステージに移動すると、日本でもおなじみAntal & Huneeの7時間セットが控えていた。その前の時間帯には、アムステルダムのアナトリアンロックバンドAltın Gün。ファンク系のリズムとアナログオルガンのサウンドが心地よいサイケ感を醸し出し、最高潮の雰囲気でAntal & Huneeにバトンを繋いだ。7時間セットだったが、途中何度訪れてみても全く疲れているような気配はなく、こちらがパワーをもらうほどだった。バックステージにはRUSH HOURのクルーも駆けつけていたりと終始いい雰囲気であった。




Altın Gün




最後まで凄かったAntal & Hunee

 UFO Iステージに移動するとDJ Stingray 313がプレイしていた。このステージは屋内なのでとにかくサウナのような状態になっていた。デトロイトの歴史を継承し続けるサウンドを楽しみたかったが、連日の好天での体力低下、フロア内の蒸し暑さが異常なくらいに超半端なく、さすがに諦めた。しかし、あの環境の中でも汗だくになり踊りまくるヨーロッパのダンサー達には敬意を評したい。


DJ Stingray 313

また、同じ時間帯にプレイしていたUFO IIステージのLEE GAMBLEも素晴らしかった。



 ビッグフェスで気になるゴミ問題もチェックしてみた。会場内にはおそらく「DEKMANTEL」のクルーも含め3社くらいで掛け持ちでゴミに対応しており、各場所でゴミが散乱するような事態は皆無だった。Amsterdamse Bosの森を守ろうというスローガンがテーブル等に貼ってあり、来場者の意識を高めていた。




外部の会社の清掃スタッフ

 ここまで触れていなかったが、多様なジャンルの音楽がセレクトされたCONNECTSステージは、日本の野外パーティのセカンドステージのような位置付けに見えた。ここは前回の「Dekmantel」では、今はなきオンラインラジオ局RED LIGHT RADIOのステージだった。その時と比較すると、どうしても存在感が薄くなったのは否めなかったが、音楽的な流れは引き継いでいるようなアーティストチョイスであった。最終日の最後の時間に登場したSandrien & Fafi Abdel Nourは驚くほどに完璧なコンビネーションで、エレクトロ、テクノ、ブレイクスを横断し、最終日のラストの時間帯にも関わらずオーディエンスを釘付けにしていた。




最終夜のCONNECTSステージ


向き合った形でプレイしていたSandrien & Fafi Abdel Nour

 また、The Nestステージでラスト前を務めたニューヨークのデュオAceMoMaも大人気だった。シカゴハウスとデトロイトテクノを彼らのフィルターを通して解釈し、ブレイクスやジャングルの影響を色濃く反映させ、パワーハウスに落とし込むそのスタイルにオーディエンスは魅了されていた。



 そして最後の瞬間をどのフロアで迎えようか、全ステージのバックステージを走り回って考えた結果、知り合いの顔もちらほらと見受けられたメインステージに決めた。このメインステージの大トリを務めたのは、近年のブリストルシーンを代表するモダンベーステクノの旗手BATUだった。BPM140辺りの疾走感の溢れるテクノトラックで走らせ、モダンなダブステップやブレイクスを挟む近年の主流ともいえる王道スタイルに、自身のレーベルTimedanceにみられるような土着的なフィーリングを散りばめた見事なセットだった。


BATU




最終日のメインステージ


プレイ終了後にブースで祝福されるBATU

 今回の「DEKMANTEL FESTIVAL」は2019年以来の開催ということもあり、連日異様な盛り上がりが各フロアで見られた。特にここオランダでは、今年の春頃からほぼすべてのコロナ対策措置が解除となってコロナとの共生が始まったおかげで、マスクの着用は場所に関わらずほぼゼロに近く、コロナへの危機感は非常に薄くなっていた。無駄に心配をしないという気質、集団免疫という点で、不安なくフェステイバルを楽しむことができた。真のアフターコロナ時代の到来といえるだろう。

 音楽的には若いアーティストの間では明らかにBPMは高速化しており、トランシーなテクノ、レイヴィーかつヒプノティックなブレイクス、重すぎないダブステップ、ドラムンベースとUKを発端としたベースムーブメントを感じるダンス系のトラックを中心に、往年のアシッドハウスやエレクトロから派生した近年のアシッドムーヴメントに触発されたスタイルが主流だった。



 最後に、今回の「DEKMANTEL」が発信したメッセージは非常に明確だった。

「DEKMANTEL FESTIVAL」は、音楽とダンスを思う存分楽しめる場所として、欧州各国から幅広い年代、多種多様な人種が集まってくるが、特に今回開催の背後には、運営サイドがどのような環境を作りあげたいか、意図がはっきりと見えた。

 オフィシャルの行動規範には「年齢や性的指向、出身地や宗教他、グループのアイデンティティに関わらず、すべてのフェスティバル参加者に対して友好的かつ安全で、ハラスメントのない環境を提供するよう努める」とあり、団体Stichting Sexmattersと協力して、会場内でハラスメントが起こらないかパトロールをしたり、ブースを構えて匿名でも親身に相談に乗れるような場が作られていた。

 また、未来志向の一端として、完全なキャッシュレス化やDEKMANTELアプリ、ハイクオリティなデジタルマガジン、Discordを使ったリアルタイムのライブブログを通じ、新しい時代の流れをいち早く取り入れていた。

 さらに、飲食はベジタリアンオンリー、コンポストなどのサステナブルなコンセプトを導入し、より良い未来に向けた選択肢を、エレクトロニックミュージックと共に提案し、オーディエンスや関係者の高い意識を育もうとするフェスティバルへと進化を遂げていた。

Special Thanks: Jennifer & Chanel, Yasu & Aoi, Kumi