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「Amsterdam Dance Event'24」- ローカル2大レコードショップが拓く新時代の都市型フェス -

Text by Norihikoi Kawai
Photo by ADE Official, Clone Crew, Doug Piers, Nori
 
2024年のAmsterdam Dance Event(ADE)は、第28回目の開催となった。10月16日から10月20日までの5日間昼夜にわたり、3,000人以上のアーティストが参加し、200以上の会場で1,000以上のイベントが開催された。
 
世界には数えきれないほどのフェスティバルが存在するが、都市型フェスのトップに君臨するのはADEだといえるだろう。その魅力は世界中の電子音楽業界のプロフェッショナルが集結し、パーティーだけでなく、プロフェッショナルによるパネルディスカッションやワークショップが開催されることで、音楽ファンと業界関係者の両方にとって、貴重な場となっている。
 
今年はコロナ以降で出足の鈍かった2022年と23年に比べ、盛大な盛り上がりをみせた。その兆候は、前日にプレスのリストバンドを受け取りに出かけたところで気づかされた。



初日オープニングナイトは、さまざまな会場で多様なイベントが開催されていたが、アムステルダムの中心部に位置する名箱melkwegで開催されたFloating Pointsへ向かった。元々は乳製品工場として使用されていたこの会場は、アムステルダムのカルチャーシーンにおいて重要な役割を果たしている。Floating Pointsが登場すると会場は一気に混みだした。ステージ上は機材以外ほとんど全てスクリーンという演出になっており、眩く微粒子的な映像が大迫力で映し出され、心地よいエレクトロニック・グルーヴと相まってフロアを包み込んだ。最新アルバムで見せた進化したサウンドに加え、ライブならではの即興的な演奏とヴィジュアルは必見のパフォーマンスであった。


満員に膨れ上がった会場内
 
都市型フェスの片翼を担う昼間のコンテンツに目を移してみると機材系メーカーが熱心にプロモーション活動を行っている。日本からはPioneer DJ機材でおなじみのAlphaThetaが精力的に活動を行っていた。
『AlphaTheta @ art’otel』ではアムステルダム中央駅の絶好のロケーションにあるホテルのフロアを貸し切り、DJ機材が展示され、来場者は機材に実際に触れて体験できるようになっていた。




歴代のPioneer CDJが並べられていた



また、AlphaThetaは、別の会場Lynk & Co Labにて『AlphaTheta Take Over』と題して、ワークショップを開催しており、DJソフトウェア『Rekordbox』の使用方法の解説を行う講義等を行っていたが、席が満席になるほどの盛況となっていた。


 



その他にはアムステルダムの中心部にあるカルチャーセンターのDe Brakke Grondでは、高品質なサウンドを求めるオーディオファンやDJ向けに、カスタム設計の回路を使用した高級ロータリーミキサーを少量生産で提供していることで知られているドイツのベルリンに拠点を置くResørやT-1 Algorithmic SequencerやS-4 Sculpting Samplerの商品で知られるデンマーク・コペンハーゲンの音楽機器メーカーTorso Electronics等を含む多数のメーカーが機材を展示し、大盛況であった。
 







また、ベルリンのプロモーション・エージェンシーがオーガナイズしたRSVPオンリーのカンファレンスに、アムステルダムを代表するクィアパーティー『IsBurning』のパネルディスカッション「Burning Topics」が行われた。ゲストにはCassy、Carlos Valdes、Hiroko Yamamura、ISAbella等が招かれ、オープントーク形式でのコンテンツとなり、アムステルダムの東側に位置するThe Social Hub Amsterdam Cityが会場となった。



このディスカッションでは、クラブシーンとLGBTQ+コミュニティの関係について、特定の都市や時代背景を通して振り返り、議論もなされた。クラブ文化の歴史とLGBTQ+コミュニティでは、1990年代のニューヨークを例に、クラブがLGBTQ+にとって「安全な空間」として機能してきた歴史について触れ、当時の人気クラブであったParadise GarageやThe Loftの影響力が議論された。こうしたクラブは、新しい音楽の発信地であると同時に、コミュニティが集まり、つながりを深める場所でもあったようだ。

クラブの進化と現代的な課題では、参加者たちは、近年のダンスフロアが「安全で包括的な場」としての重要性が増していると述べていた。クラブ文化が進化し、インターセクショナリティ(交差性)や包括性が求められる一方で、社会的変化やナイトライフの多様な価値観も反映されているようだ。
 
総じて、この会話はクラブが単なる音楽と娯楽の場を超え、コミュニティ形成や文化発信の中心としてどのように役割を果たしてきたかを探り、その重要性について考察していた。


 
オランダのテクノシーンの中心的存在といえば、ロッテルダムに拠点を置くClone Records以外には考えられないだろう。CloneはSergeによって1993年にレーベルとして活動をスタートし、1995年にはレコードショップとディストリビューション部門を開設し、世界中のアンダーグラウンド・ミュージックファンやDJにとって重要な拠点として知られている。Cloneといえばテクノやエレクトロに特化しているイメージだが、店舗にはハウスやディスコ系、その他のジャンルのレコードも売られている名店だ。日本からもネットで買えるのでぜひチェックしてもらいたい。https://clone.nl/
 
毎年恒例のClone Recordsのポップアップ・ショップが、今年もADEの期間中に開催された。また、10月17日の夜には、アンダーグラウンドな雰囲気で人気のClub RaumにおいてCloneのパーティーが、主宰Serge、デトロイトの重鎮でベルリン拠点のDJ STINGRAY 313、ブラジルの出身でベルリン拠点、レーベルUnterwegs主宰のThe Lady Machine、ドイツ・イェーナ発のレーベルSolar One Music主宰のThe ExalticsのLive、そして近年アムステルダムから活動を行っているWata Igarashiと選りすぐられたラインナップで開催された。


 
ポップアップ・ストアやパーティーのことなどを含めCloneのボスSergeに話を聞いてみた。
 
ーー10月17日のパーティーは本当に素晴らしかったですね! 今回のラインナップは本当に最高でしたが、どのようなコンセプトだったのでしょうか。
 
Serge:ありがとう。一夜を通じて流れの良いセットを作り、テクノやエレクトロ、時にはハウスのミックスを取り入れたかったんだ。私たちのレーベルが持つ多面的な音楽性を一晩でどう表現できるかを示したかった。私(Serge)はオープニングだったので、シカゴ・ハウスやデトロイト・テクノから夜を始めて、皆を良いエネルギーで包み、踊らせるところからスタートした。そこからThe Exaltics(Live)がエレクトロ/テクノへと徐々に盛り上がりを創り、The Lady Machineの力強いセットへと続いた。彼女からDJ Stingrayに引き継ぎ、速くて激しいビートで盛り上げ、最後にWata Igarashiが深いテクノで朝方まで皆を夢中にさせた。


会場となったClub Raum会場内は撮影禁止だった
 
ーーちなみに出演したThe Lady Machineが足を怪我をしていましたよね。松葉杖で登場しましたが、彼女のプレイはすさまじかったです。本当に感動しました。
 
Serge:そうなんだよ、彼女は足を骨折していた。それでも“レコード”だけであれだけの素晴らしいセットをプレイするなんて、本当にタフな人ですよね!:-)
 
ーーこのパーティーはクローンレーベルのカラーを表しているといえますか? それともクローン全体のイメージでしょうか。
 
Serge:はい、その通りだと思う。私たちのレーベル、ストア、そしてディストリビューションは、幅広い高品質なダンスミュージックを代表している。私たちはハウス、テクノ、エレクトロ、そしてディスコに対する深い愛情を持っているので、こうした影響は常に含まれている。
 

bar Theoでのポップアップストア
 
ーー 毎年恒例のポップアップイベントも開催されましたね。そのコンセプトについて教えていただけますか?会場も昨年と変わっていますよね(以前はRadio Radio)。
 
Serge:私たちはロッテルダムのストアからアムステルダムの会場へ商品も含め、私たちの持つ雰囲気を提供したかった。音楽愛好家が集まれる小さなスペースを作りたかったんだ。音楽を聴き、友人や音楽好きと交流し、来訪するアーティストやさまざまなDJと会い、レコードやグッズを買ったり、少し踊ったり、飲み物を楽しんだりしてもらいたかった。
現在、多くのパーティーやフェスティバルではDJやプロデューサーが遠い存在となり、直接会話するのが難しい状況だと思う。しかし、私たちは全員が平等に交流できる環境を提供し、つながりを簡単に感じられるようにしたいと考えている。ダンスミュージックのコミュニティは、ポップスターや有名人を目指すものではなく、音楽と自己表現に対する共通の愛や、日常の悩みから解放され、良い音楽と共に人生を楽しむことを目的としているんだ。

Jeff Mills presents: Tomorrow Comes The Harvest
 
今回のADEで高い注目を集めていたのは、Jeff Mills presents Tomorrow Comes The Harvestだった。Tomorrow Comes The Harvestは、2018年にBlue Noteからリリースされたナイジェリアの伝説的なドラマーであるTony Allen(2020年79歳没)とJeff Millsによるコラボ作品のタイトルだ。Jeff Millsがこのコラボレーションに敬意を表し、Tony Allen Bandに欠かせない存在であったベテランのキーボーディスト、Jean-Phi Daryと、タブラの名手Prabhu Edouardと組んで再びトリオとして再構成したプロジェクトだ。
 
2023年の『DEKMANTEL FESTIVAL』でも同バンドのライブを楽しませてもらったが、当時は急遽4人目のフルート・アーティストが加わっていたので、純粋なメンバー3人のプレイを見るのは今回が初だった。



前回のオープニングコンサートとは違い、今回のライブはダンスフェスティバルを意識してか、ダンサンブルな内容だった。会場となったアムステルダムの音楽聖地であるParadisoは1968年にオープンした由緒ある雰囲気だが、彼らのプレイと共に創りあげられた最高の雰囲気にオーディエンスは飲み込まれていった。

プレイ後のTomorrow Comes The Harvestのメンバー

 
今回のADEでのライブについて中心メンバーのJeff Millsに質問を投げかけてみた。
 
ーーTomorrow Comes The HarvestのADEでのパフォーマンスのコンセプトは何でしたか。
 
Jeff Mills:このパフォーマンスのコンセプトは、即興的で自由なライブ音楽を通じて人々の心と魂を高めることを目指しています。これは新しいコンセプトではなく、フリージャズのジャンルでよく見られるものですが、私たちのパフォーマンスでは、さまざまな音楽スタイルを取り入れている点が特徴です。観客の前でリアルタイムでその意思決定が行われ、実際に演奏するところが独自の要素になっています。


プレイするJeff Mills
 
ーーステージがフロアの中央にあり、360度オーディエンスから囲まれていましたが、普段とは違った雰囲気でしたか。
 
Jeff Mills:そうだね、オーディエンスがステージのすぐそばにいて、フロアの中央でプレイするというのは、いつもとは異なる体験でした。バンドとしては、視線や身振りがはっきりと見られるため、むしろ親密さが薄れる感覚もありました。しかし、オーディエンスにとっては、ライブセットがどのように形作られ、作曲がなされていくか、そして各ミュージシャンのタイミングや正確さを間近で見ることができるため、より興奮を感じられたでしょう。
 
ーーTomorrow Comes The Harvestとしての日本での公演予定はありますか。
 
Jeff Mills:まだ、予定は決まっていませんが、このコンセプトを日本に持ち込みたいという強い意欲を持っています。私自身、何度も日本に滞在したことがあり、日本の観客がこのパフォーマンスとどれほど共鳴するか、想像に難くありません。


 
今年は毎年恒例、ADEの風物詩となりつつあった“Reinbow Disco Club x Rush Hour”のコラボ・パーティーが開催されなかった。その理由は後述Antalのメッセージで語られているが、さすがは世界的な人気を誇るRush Hour(RH)だけに、それを補って余りあるコンテンツが届けられた。
 
特に土曜日の昼から夜にかけてLo-fiで行われたパーティーは、例年通りの盛り上がりを魅せた。Antalからシカゴ・ディープ・ハウスの重鎮Ron Trentへの豪華な流れにメインフロアは終始満員で酸欠気味ですらあった。セカンドフロアにおいてはSassy JとKaidi TathamのB2Bセットが繰り広げられ、Stevie Wonderの名曲「くよくよするな」からColonel Abramsの「Music Is the Answer (Dub Version)」等のメッセージ性の強いトラックが楽しめるなど、幅広いオーディエンスを満足させるラインナップのセレクトは、さすがはRH。音楽の多様な魅力を存分に味わえるパーティーであった。

プレイするAntal 


 
今年のRHのコンテンツについて同社のボスAntalに質問を投げかけてみた。
 
ーー毎年ADEでは、Reinbow Disco Club(RDC)とRHのパーティーを開催していましたが、今年開催しなかった理由を教えてください。
 
Antal:RDC x RHは2024年からは5月開催へと移行したんだ。次のコラボパーティーは、2025年5月にアムステルダムで再び開催される予定だよ。
 
ーー10月19日にLo-fiにおいて開催されたRHのパーティーは2フロアでの構成でしたが、今回のパーティーのコンセプトはどのようなものでしたか。
 
Antal:メインフロアでは、私たちが考える「ハウスミュージック」を表現しました。アップテンポなソウル、ディスコ、シカゴやニューヨーク、デトロイトをルーツとしたテクノ寄りのハウスなど、幅広いジャンルを取り入れた。
セカンド・フロアはオーガニックな雰囲気で、ディスコ、ブラジリアン・ミュージック、アフロ、ヒップホップ、ダブ、レゲエなど、より「ハウス」から離れたスタイルで展開したんだ。
 


ADE期間中のRHのストア

ーー今年もインストアイベントを開催しましたが、反応はいかがでしたか。

Antal:最高でした! Louie Vega、Moodymann、Soichi Terada、Recloose、Touching Bass、Ron Trent、Roland、Alphatetaなど、素晴らしいアーティストや機材メーカーが集結したプログラムでした。
 
ーーインストアイベントのコンセプトはどのようなものでしたか。

Antal:私たちのミュージックカルチャーをより深く掘り下げることを意識した。アーティストトーク、プレゼンテーション、機材チュートリアル、アートワーク展示、リスニングセッションなどを行ったよ。


寺田創一 RHのインストア
 
ーー寺田さんの出演とKORGとのコラボレーションもありましたよね。
 
Antal:寺田創一さんは、相撲ジャングルとゲーム・ミュージックを融合した新作アルバム『Apes In The Net』のライブを初披露してくれた。また、RolandのSP-404とMoodymannのコラボレーションもあり、Alphatetaの新しいミキサー「Euphonia」のプレゼンテーションも行い、今年も大盛況だったよ。


 
2009年と2016年以降は毎年取材で参加させてもらっているADEだが、今年ほど盛り上がりを魅せた年はなかったのではないだろうか? 過去には平日開催の水曜日など、いいプログラムでもガラガラという状況によく出くわしたものだが、今年はとにかくほとんどの会場で昼夜問わず賑わいを見せていたようだ。
 
今回のADEの最後に訪れた、ベルリンで有名なクィアパーティーのひとつCocktail d'Amoreも最終日を飾るに相応しい自由な雰囲気が素晴らしかった。


Mad Professorが鳴らすKrackfree Soundsystemの音は最高だった
 
その他にもアムステルダムでスピーカーの制作に日夜励み、今回のADEでも積極的にイベントを開催した日本人Yuji Tsutsumida率いるKikunonoとKorg berlinのコラボショーケースやアムステルダムのレゲエシーンの重鎮が集った『African Head Charge mixed by Adrian Sherwood / Mad Professor feat. Earl 16 / Gaudi e.a.』、独自のサウンドシステムを構築し、ディープなサウンドで唸らせてくれたKrackfree Soundsystemのパーティー『Dusty Cabinets presents 5 GATE TEMPLE / Powered by Krackfree Soundsystem』など、ここには書ききれないほど、優良なパーティーが目白押しだった。
 
ADEを通じて、良い音楽やパーティーと共に人生を楽しむ喜びを再確認しながら、実りの秋を過ごさせてもらった。
 
Special Thanks: Antal and Boy (Rush Hour), Serge (Clone Records), Carola Stoiber (pullproxy) and Wata Igarashi