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BIG BEACH FESTIVAL'11

おそらく私が東京へ出てまもなくの19、20歳くらいのころだったと思う。長く渋谷の音楽カルチャーの一躍を担ってきた、今はなき"渋谷HMV"のクラブミュージックコーナで見た「BIG BEACH BOUTIQUE」のDVD。海岸が遥か彼方まで隙間なく人で埋めつくされ、そして異常なまでの盛り上がりにカルチャーショックを受けたのを鮮明に覚えている。あれから約10年、ここ日本でもあの若いころにショックを覚えた光景の舞台に私自身参加者となれることが何よりうれしかった。
6月4日(土)当日。天候は晴れ、それもかなりの晴天。目の前に広がる東京湾からの風も心地よく、最高の1日になりそうな予感は入場直後から感じていた。ゲートをくぐりメインステージでは、HIFANAが得意のMC、そしてオーディエンスをもリアルタイムで映像素材にしてしまうパフォーマンスで、フェスのオープニングを盛り上げていた。ダンスミュージック系のイベントで、歓声とともに笑い声も混じり、和やかな雰囲気にさせてくれるアーティストは、そうはいない。のっけからがっつり躍らせるというよりも、フェスのオープンにふさわしく、お客さんのテンションを徐々にあげていくすばらしいパフォーマンスだった。

会場は、FATBOY SLIM、CARL COXなどがプレイする"BIG BEACH STAGE"、SETH TROXLERなどがプレイする"DIESEL ISLAND STAGE"、そして今年さまざまなフェスで出現しているJagermeisterの巨大なテント"BALOON STAGE"と、3つのステージからなっており、各ステージとも離れていたので音も混ざらずストレスを感じることなく過ごせた。私が入場した時間がわりと早めだったこともあり、心地よい環境の中、砂浜に座ったり、寝転がったりのんびり過ごしているお客さんが多く、私もその中に混じって楽しんでだった。海、晴天、音楽が混じり合った、普段なかなか味わえない空気感をここぞとばかり満喫したかった。

のんびり過ごしていると、お客さんの視線がブースではなく海辺に向き、歓声があがった。レッドブルフライトパフォーマンスが始まったのだ。普段、フライトパフォーマンス自体見る機会もないし、迫力のデモンストレーションに会場はヒートアップする。パフォーマンス中は拍手、歓声が鳴り止むことはなかった。

刺激的な体験をし、一気に興奮状態なったところで"BIG BEACH STAGE"でのSTEVE LAWLERのパフォーマンスを見に行った。CARL COX、SASHAと肩を並べ、世界各国のフェスや大箱への出演で大会場馴れしている彼が、この「BIG BEACH FESTIVAL」でどういったプレイをしてくれるか楽しみだった。以前はもっとメロディアスな印象があったが、今回はビートを前面に出してきていたように思う。プログレッシブさをそぎ落とし、よりミニマルな方向でグルーヴィーなセットを展開していった。

STEVE LAWLERのプレイが終わると、ステージにF-1の映像が浮かびあがった。2010年にF-1チャンピオンを獲得した「レッドブルレーシング」による東日本大震災の復興支援のためのチャリティランが行われようとしている。ちなみに音楽フェスの会場をF1が走るのは世界初となる。コースにはすでに多くの人が集まっており、間近で見ることは見れなかったが、こんなに音が出るの?という轟音ぶりに驚いた。余談だがこれをきっかけに生でF-1を見たくなり、10月に鈴鹿サーキットで行われる「2011 F1 日本グランプリ」のチケットを調べたところ、けっこういい値段だったので、生で見れなかったことを少し後悔した。

チャリティランが終わると、次に控えていたFATBOY SLYMと並らぶもう1人のヘッドライナー、CARL COXが登場した。彼のプレイを生で聞くのは初めてだったが、まさに期待を裏切らない純粋でパワフルなテクノセット。BPMもそれまでに比べ早めだったためか、日が落ちていくにつれてヘッドライナーのFATBOY SLYMへのカウントダウンをしているかのようだった。裏では、"DIESEL ISLAND STAGE"でSETH TROXLERがプレイしていたので、移動しようと思ったところLayo & Bushwacka!「Love Story」の懐かしいピアノフレーズが聴こえて思わず引き返してしまった。

個人的に今回のハイライトだったSETH TROXLER。2010年、Resident Advisorでのトップアーティストランキングで、RICARDO VILLALOBOS、RICHIE HAWTINに続きトップ3に輝き、ヒットトラックメーカーとしての高い評価を受ける一方、パフォーマーとしても世界的に人気を誇るアーティストである。ここ日本にも"ORgAnza @ WOMB"と"EPSILON @ WOMB"でのパフォーマンスも好評だったこと、そして野外でのプレイとあって期待は膨らんでいた。前のアーティストがスクラッチをメインにバラエティに富んだDJプレイをするDJ YODAだったということもあってか、ゼロから組み立てるおとなしめの立ち上がりだったように思う。そこから徐々にビルドアップさせていくが、彼のトラック特有の妖しさと色気がDJプレイにも感じ取れた。25歳だというのに、奏でる音楽にしても、ブースでの立ち振る舞いにしても、リズムの取り方にしても、彼がまとう色気はいったい何なのだろう。若く、そして自由で、そのキャラクターどおりウィットに富んだ彼が魅せたセットを十分に堪能し、いよいよFATBOY SLIMがトリを飾る"BIG BEACH STAGE"へと移動した。

私がクラブミュージックへ興味を持ち始めた高校時代に、彼のアルバム"Halfway between the gutter and the stars"や"You 've Come A Long Way, Baby"などをよく聴いていたので、今回聴きたい曲はたくさんあった。いわば青春時代の音楽と言ってしまえるが、おそらく彼の曲を聴いてクラブミュージックへ興味を持った人は多かったのではないだろうか。改めて今、当時のアルバムを聴き直しながらテキストを起こしていると、各アルバムの完成度や斬新さなど、改めて驚く内容だと思う。お茶の間にクラブミュージックを届けた偉大なアーティストだと改めて痛感する。

話を戻して、「Praise You」が流れいよいよFATBOY SLIMが登場した。このとき、もちろん会場内は大歓声に包まれたわけだが、想像もつかないことでさらに驚かされた。私が立っていたのはブースから約100メートルぐらい離れており、会場の後方だと思っていた。だが眼前だけでなく、私の後ろもかなり先まで人で埋め尽くされ、"Praise You"からビートが入るとこの日1番というぐらい盛り上がりを見せた。ビーチを埋めつくした人、それもとんでもない数の人が歓声を上げて踊っている。冒頭にも書いたが、あの「BIG BEACH BOUTIQUE」の映像の世界を、この瞬間まさに体験していることへ感動と驚きを覚えた。圧倒的な人の数と、後方までエネルギーが充満している様を目の当たりにし、まるで私の知っている日本ではないようにすら思えた。

プレイは、ブレイク部分に往年のアンセムをサンプリングで使用し、じわじわじわじわと盛り上げたところから、バウンシーなビートを乗せて、次のブレイクまで引っ張るといったDJスタイルを多く取っていたように思う。プレイもさることながら、映像演出がすばらしかった。抽象的な、音楽の邪魔をしない映像ではなく、音楽に引けを取らないFATBOY SLIMらしいユーモア溢れる映像に、私だけでなく多くの人が釘付けとなっていたことだろう。開催前々日にニコ生に出演し「今後、クラブミュージックのパフォーマンスの表現はどうなっていくと思いますか?」というMCの問いに「映像と音楽とのシンクロが重要になっていくと思う」と答えたとおり、それを自ら実証するかのごとく、音楽にシンクロする完璧に作りこまれた映像が準備されていた。

そんな音と映像に浸っていると、いきなり音が止まった。スクリーンにもFATBOY SLIMのMACのデスクトップが映し出されていた。走らせていたアプリケーションが落ちたようだ。画面中央には、ロード中の虹色のサークルが悲しく回っている。「アーーーーー」という声があがり、会場中がざわつき始めた。無音はマズイと思ったのだろう、少し小さい音が会場に鳴り出す。せっかくパーフェクトな内容だったのに、ここにきてアプリケーションが落ちるなんて。そう思っていると、音が徐々に大きくなっていく気がしてきた。スクリーンを見ると、読み込み中を表す虹色のサークルがどんどん大きくなっていく。ここで、会場中は、アプリケーションが落ちたのではなく、もともとそういう映像と音を準備して落ちたように見せかけたFATBOY SLIMの演出だったことに気付き、再び大歓声があがった。


パフォーマンスも終盤に差し掛かり、スクリーンには「EYE PHONE PROJECT まであと5分」と表示された。FATBOY SLIMに向かい、各携帯端末から指定の画像を空高く一斉に掲げ会場をひとつにする企画がもうすぐ始まろうとしている。周りのオーディエンスも携帯を準備し始めている。私は、クラベリアの人間なので、むしろきちんと作動するかどうかの方にドキドキしていた(笑)。どうやらアプリは、正常に作動している。よかった。「Bad Davis Saved My Life」が流れスクリーンには、「EYE PHONEを掲げて」と合図が出た。照明も弱くなり、多くの人が"EYE PHONE"をFATBOY SLIMへ掲げている。FATBOY SLIMもまた私たちへ"EYE PHONE"を掲げている。あたりはすっかり暗くなっていたので、FATBOY SLIMからははっきりと多くのEYEが目の前に広がったことだろう。多くのEYEに見つめられ、「BIG BEACH FESTIVAL'11」は終演へと向かっていった。

FATBOY SLIMが最後の曲を流し、ステージから私たちへ何回もお辞儀をしていた。ステージの後方から花火が上がり、最高のフェスティバルの閉幕を告げている。初夏を告げるフェスとしてたった3回で定番フェスへと定着し、来場者を熱狂させるフェスがほかにあっただろうか。「BIG BEACH BOUTIQUE」の再現となった今回、いつまでも多くの人の心に残るフェスとして刻まれたに違いない。今から来年も開催されることを願い、また開催された際には、どういったアーティストが出演するか期待が膨らむばかりだ。

Text : yanma

Photo : Kotaro, Masanori Naruse, Gaku Maeda, Akiyoshi Ishigami