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ドイツ産ハウスバンドSession Victim
誰もが羨むサンプリングセンス、その極意を聞く

 Hauke FreerとMattias Reillingからなる、ドイツ人ハウスデュオSession Victim。ヒップホップやファンク、ディスコ、ソウルのレコードコレクションからのサンプリングと、ドラムマシンや生楽器を駆使したライブジャムで世界中から高い評価を受けている。その彼らが、今年6月にリリースしたばかりのニューアルバム『Listen To Your Heart』を携え、7月15日に渋谷Contactに登場。アルバムの制作経緯やコンセプト、またサンプリングの極意などについて、来日直前の彼らに聞いた。

取材・文:
Midori Aoyama
 



ーー過去のアルバムと比べて、より音楽的要素が幅広くなったように感じられます。アルバムタイトルの『Listen To Your Heart』には何か特別なコンセプトがあるのでしょうか?
ありがとう! アルバムのタイトルは君が言ったとおり、音楽の多様性と同じく僕らがこの制作に取り掛かった初期の段階であまりプレッシャーを感じずに取り組めた、ってことも表現しているんだ。リリース元のDelusions Of Grandeurは、新しいアルバムにサインすることに以前から興味をもっていたけれど、一度も催促されることもなかったし、決まった時間枠もなかったね。この信頼関係を僕らは本当に感謝しているし、このようなかたちで制作を進めることができて本当に幸せだったね。


ーーアートワークも個性的ですね。誰がこのデザインを担当したのでしょうか? また、タイトルと同じく何かコンセプトはありますか?
過去の2枚のアルバムもそうだけど、I want designのJohn(Jimpsterが運営するFreerangeやDelusions Of Grandeurの作品のアートワークを担当)が手がけてくれたんだ。でもこの数年間、彼と一度も会ったことがなくて、ある意味幻みたいな存在なんだ。もちろん僕らのために3枚目の素晴らしいアートワークを手がけてくれて本当に感謝しているよ。単純なガイドラインを伝えると、彼はベストなデザインを仕上げてくれる。前回のアルバム『See You When You Get There』は“ゴールデンゲートブリッジ”、そして今回は“ピンボール”とシンプルに伝えたのさ。




ーー今作のプロジェクトはいつ頃から始まったのでしょうか? また前作のリリースから約2年経ちましたが、この数年間で起こった出来事についても教えてください。
それは本当に素晴らしい28ヶ月だったね。なにより僕らは2年に1度のペースでアルバムを作れると思ってなかったからね。アルバム自体の制作期間に、だいたい1年くらいをかけたけど、それまでは特別プロジェクトを抱えてなかった。とにかく2人でジャムを繰り返して自分たちがどこへ向かうかを探り続けた。その間は別のアーティストのリミックスをこなしたり、ほかに12インチを切りながら徐々に正しいアイデアとスケッチができ上がってくる。その後、レーベルに送れるだけの7〜8曲ができて、彼らと共通の認識とか要素を擦り合わせて全部の締め切りをまとめたって感じかな。本作では8曲のデモをレーベルに送って「これはいいね。よし行こう!」という感じでお互いにリアクションをとったんだけど、最終的には最初の8曲のうちの半分はお蔵行きになって、もっと強烈な曲に入れ替えたりもしたんだ。


ーー2枚目のLPをサンフランシスコのRoom Gスタジオで制作したと伺いました。今回のアルバムも同じスタジオで取り組んだのでしょうか?
そのとおり。ただどちらのアルバムも一部をそこのスタジオで制作しただけさ。実際は、2枚目の最初の制作がRoom Gでスタートして、3枚目は最後の制作をそこで行なったんだ。それはある意味意図してやった部分もあったと思う。去年の10月に訪れた時は、ホームスタジオで進んだ制作を持ってきて、大量のお菓子を買ってまた新しい曲を作ったよ。意図したかどうかはわからないけど、このセッションで作った3曲がアルバムの最後を飾ってたりもするよ。


ーーあなたたちの音楽のテーマには常に“The Sounding Of The Sun(太陽の音楽)”だということを聞いたことがあります。これはアルバムのなかにもメッセージとして反映されていますか? それともただ西海岸のスタジオで制作したからなのでしょうか?
“太陽の音楽”か、その言葉いいね! でもそれは実際のコンセプトではないかな。ベイエリアでの衝動は間違いなく晴天からきてると思うし、もちろん僕らもそれを愛してる。実際今回のアルバムでも夏を意識した曲はたくさんあると思うよ。でもそれと同時に「The Hatch」のような曇ってて暗い曲もあるからね。


 
ーーあなたたちの代名詞でもあるサンプリングについて聞かせてください。サンプリングワークにおいて、これは重要だというアドバイスを3つ教えてください。
そうだね、こんなのはどうかな?

①敬意をもってサンプルを扱うこと。“気軽に”っていうのは誰にでも当てはまる言葉じゃないからね。そのうえでいいドラムループをカットするんだ。サンプリングをしただけでClyde Stubblefield(James Brownのバンドも務めたドラマー。「もっとも多くサンプリングされたドラマー」とも言われている)になりきれるってわけじゃないからね。
 
②自分だけのオリジナルなサンプルを見つけること。※「Nautilus」や「Heather」から取れる有名なサンプルに頼らないこと。それこそが自分にとっての“クリエイティブ”になるはずだからね。
※Nautilus(by Bob James)/Heather(by Billy Cobham)はどちらもヒップホップやハウスでよくサンプリングされる楽曲。

③ヤバいループはレコードのすべてから見つかるわけじゃない。へたすれば10枚に1つ見つかるかどうかだろう。小さく考えるんだ。ドラムの単音やピアノのコード、またはなんでもいいから自分にとって“楽器の1つ”として機能する細かなピースをカットするといい。




ーーYoutubeやsoundcloudなどからもサンプリングを行っているのでしょうか? また、プロデューサーによってはある意味音の質にこだわらない人もいると聞きました。
僕らも稀にやることはあるかな。でも「本当にレアだ!」と思えるような、例えばレコードで出ていない映画の音とかをDVDとかでね。それからインタビューの一部を切り取るときもあるけれど、できる限りそれは避けるようにしている。今作に関しては、Youtubeのサンプルは1つもなくて、レコードのサンプルとシンセワーク、コンピューターのドラムプログラムそしてベースギターと電子ピアノで構成されているね。


ーープロデューサーの多くが80〜90年代のレコードをサンプリングし、そのレコードを求めて日本のレコード屋を訪れます。過去に日本の素材をサンプリングしたことはありますか? 
僕らにとって日本の音楽はまだ未知の領域なんだ。つまり、まだまだ新しい音楽を発見できるチャンスがあるってことだね! とはいえ、強いていうならRyo Kawasaki(川崎 燎)の『Juice』ってアルバムのファンだし、Kenji Kawai(川井 憲次)の『Making Of Cyborg』(攻殻機動隊のサウンドトラック)もお気に入りだよ。




ーーDelusions Of Grandeurとの関係についても聞かせてください。同レーベルからは、2010年の最初のリリースからコンスタントにリリースを重ねていますね。
2009年にオーナーでもあるJimpsterとベルリンで出会って、そのとき彼はDelusions Of Grandeurの楽曲もプレイしていたんだ。まさか彼とFreerangeがこのレーベルに関係していたなんて知らなかったよ。彼が僕らをプロジェクトに誘ってくれたときはそこまで考える必要もなかった。このレーベルとの関係性が本当に好きだし、プライベートと同じくらいプロフェッショナルでもある。素晴らしくて信頼できる人たちであり、同時にパーティーで一緒にハメを外せるのも最高だよ。


ーーアルバムリリース後のプランはありますか? 自身のレーベルRetreatのリリースも気になります。引き続きこのレーベルはレコードのみのリリースにこだわり続けるのでしょうか?
Retreatは常にヴァイナルのためだけにあるレーベルさ。Yanneck(Quarion)とHaukeがともに運営していて、レコードだけのコンセプトをキープしながら“いつも音楽がここにある”、っていうことを体現している。今のところ新しいリリースの予定は決まってないけれど、突然そのときはやってくると思うよ。それから、Session Victimとしてはいくつかのリミックスを待っている状態だね。とはいえ、今はジャムや音楽を掘り直すことに集中してるから、次に何が起こるかは期待していてほしい。


ーーライブセットでは強烈なエナジーと情熱を映像越しでも感じますね。たまに燃え尽きてしまうなんてことはありませんか? 
ありがとう!僕らの熱を感じてくれて嬉しいよ。でも燃え尽きることはないね! これからもないことを祈るよ!!



 

- Release Information -
タイトル:Listen to Your Heart
アーティスト:Session Victim
リリース:2017年6月9日(金)
レーベル:Delusions of Grandeur
 
[トラックリスト]
1. Over and Over
2. Bring It Back
3. Moons and Flowers
4. The Hatch
5. Shadows
6. Matching Half
7. Unchained
8. If We Can Make It Here
9. Almost Midnight
10. Castle for Sale
11. Up to Rise (LP Mix)
12. Head over Heels
13. Thermal Explorer

■リリースページ
http://www.clubberia.com/ja/musics/4908-Listen-to-Your-Heart-Session-Victim/

 
https://www.pioneerdj.com/ja-jp/landing/ddj-wego4-and-wedj/