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子育てと音楽活動の両立
Vol.8:「色々な意味で休んでよかった」KEIHIN

取材・文・写真:Koyas

 この記事は子どもを持つ音楽家に、どうやって子育てと音楽活動を両立させているかお話を聞く企画ですが、今回は敢えていったん活動を休止する道を選んだ方の話も聞いてみたいと思いました。今回登場頂くのは、長男が生まれたあとに3年活動を休止し、今年自身のレーベル”Prowler”と共に華々しく復活したDJのKEIHIN。横浜生まれのいい兄ちゃんDJであり、見るからにいい父ちゃんでもあります。
 KEIHINさんは、わたくしKOYASと同じ千葉市内に住んでいるので、昨年建てられた立派なご自宅にお邪魔して、美味しい手料理を頂きつつお話を伺いました。

ベース・ミュージックとテクノを繋ぐアンダーグラウンドDJ

KOYAS : 今回は敢えて活動を休んだKEIHINさんに、活動休止してどんな感じだったのか聞きたいと思います。まずは簡単な自己紹介をお願いします。

KEIHIN : 98年からDJ活動を始めていて、いわゆる日本のアンダーグラウンドなシーンでやっています。2008年くらいからダブステップとテクノを一緒にやるコンセプトのパーティー「ALMADELLA」を5〜6年やって、その頃が一番いろんなことを試行錯誤していました。2016年からは子ども生まれてちょっとDJ休んで、2019年にレコードを出して、またDJ活動を再開しました。

KOYAS :
ALMADELLAはModule(2014年に閉店した渋谷のクラブ)でやっていたやつですね。

KEIHIN : そうそう。海外のダブステップで尖っているアーティストを呼んで、国内のアーティストとやってもらうコンセプトだった。今では普通のスタイルだけど、当時はそれが出始めの頃で「今起きていること」みたいにすごい興奮しながらやっていて。

KOYAS : 2008年は早かったですね。

KEIHIN : かなり早かった。当時はベース(・ミュージック)はテクノと完全に分かれていたし、出音も全然違うからなかなか一緒には難しかったんだけど、それを力業でテクノの人にもベースの面白さっていうのも紹介できたのかな。

KOYAS : レーベル「Prowler」も今年から?

KEIHIN : レーベル立ち上げたのは2018年の12月だけど、実質的には発売した2019年の1月からっていう感じです。

KOYAS : 僕がはじめてKEIHINさんのDJ聞いたのはSacromonte(注)のFuture Terrorの頃だったんですけど、テクノとダブステップを行ったり来たりするところが面白いと思っていました。
*注:千葉市にあったアンダーグラウンドなクラブでFuture Terrorのホームでもあった。2009年に閉店したが、元スタッフがその流れを継いでsound bar muiを営業している。



怒濤のような日常

KOYAS : それでは家族構成について教えてください。

KEIHIN : 子どもが3歳、男の子一人です。僕も嫁さんも日中フルタイムのお仕事しています。共働きなので息子は保育園です。

KOYAS : よくある一日の流れを教えて欲しいのですけど、現場がない普段の平日は?

KEIHIN : だいたい6時くらいに起きて、朝ご飯の準備や会社行く身支度を整えてます。嫁さんが家出るのが7時位なので、それまでにバタバタ色々なことを回して。保育園の送り迎えは嫁さんが車でやっていますね。

KOYAS : 7時に家出るのは結構早いですね。

KEIHIN : 嫁さんは子どもを迎えに行くから残業できないので、早目に出社してます。僕は2人を送り出したあと、ちょっとゆっくりしてから7時20分に家を出る感じ。

KOYAS : 全然ゆっくりじゃない(笑)。

KEIHIN : (笑)。でもその20分に新聞読んだりとか結構大事。おっさんくさいな(笑)。新聞は千葉日報とってて、法人営業の仕事だから地域の経済活動とか頭入れておいた方がいいので。

KOYAS : 新聞は初めて聞きました(笑)。出勤のあとは?

KEIHIN : 嫁さんが会社終わったら(子どもを)車で連れて帰ってきて、僕は8〜9時に帰宅、そのままご飯を作る係です。

KOYAS : お父さんがご飯作るのは珍しいですね。

KEIHIN :  子ども生まれてから色々試行錯誤したんですよ。僕が小4の頃から両親が共働きになって、割と自分で料理を作っていたから、結局このやり方に落ち着きました。

KOYAS : 子どもの夕飯もKEIHINさんが?

KEIHIN : まだ全員一緒のものじゃないので、彼だけ嫁さんが作った別メニューで先に食べさせて、そのあと洗濯とかやって嫁さんが風呂に入れてます。それから僕が帰ってきて二人分の食事作るっていう感じですね。

KOYAS : 風呂入れた後は?

KEIHIN : あんまり遅くなると子どもにも良くないので、9時か遅くとも10時には寝かせているんですよ。嫁さんは寝かしつけていると一緒に寝ちゃうので、その間に僕が風呂入ったり料理の準備して、嫁さんを起こして夕飯を一緒に食べるという流れですね。そのあと僕が片付けてして次の日の弁当の準備をするっていう。

KOYAS : お弁当なんですか?

KEIHIN : それは我々の。健康管理のために切ったキャベツをタッパーにいっぱいいれて、それを先に食べてからご飯食べる、みたいな。

KOYAS : 緑黄色野菜を先に食べると身体にいいらしいという。

KEIHIN : そうそう。どんどん野菜の量が増えてきたから、僕の一日の仕事の中に2人分のキャベツを切るという作業があって、嫁さんが朝弁当を作るんですよ。そこは完全に分業で。

KOYAS : 夫婦共同でがっつり家事に取り組んでますね。この家の広さだと掃除も大変そうです。

KEIHIN : そうですね。怒濤のような感じでやらないと終わらないっていう。掃除は週一でやってますけど、平日はロボット掃除機に任せてますね。

KOYAS : うちもロボットのアレですよ。週末はどんな感じですか?

KEIHIN : 週末は基本仕事が休みだけど、忙しくなってくると、土曜日に子どもを保育園とかお義母さんに預けて、家の掃除とか普段平日にできないことをやります。千葉の中央公園の近くにお義母さんが住んでいるので、嫁さんと2人でパーティー行く時は、遊びに行く前に子どもを預けて、朝引き取るとか。

KOYAS : じゃあmuiの近くだ(笑)。

KEIHIN : そう、muiの近く(笑)。ベロベロで朝行って、お義母さんのこと踏んじゃったり(笑)。
あとは申し訳ないと思いながら、嫁さんに子どもの面倒見てもらって出かけたりもするけど、その分自分も家の仕事をやってバランス取るようにしてますね。たまに現場ない時は、嫁さんの自由に過ごしてもらってます。それでストレスを抜いてもらわないと僕も困るので。

KOYAS : うちもかみさんがDJ入っているときは、僕が家で子どもの面倒みています。

KEIHIN : 特にDJできないってなると、ストレス溜まりまくっちゃってね。家庭の環境もギスギスしちゃったら、子どもにも悪影響与えちゃうし。

KOYAS : ちなみにKEIHINさんが現場から帰ってきたあとは?

KEIHIN : それは帰ってくる時間にもよるんだけど(笑)、だいたい現場のあと飲みに行っちゃったりとかするので。

KOYAS : 朝から?(笑)

KEIHIN : 朝から。できるだけなくそうとはしているんだけど、どうしても。それまで現場で気を張っているし、DJのラストが自分だったり、日頃のストレスもあるから、ここから遊ぶぞ!っていう(笑)。朝イチで帰ってくることもあるけど、仲いいやついっぱいいると昼ぐらいまで飲んじゃったり。
そのまま家に帰ってきたらしばらく寝て。大概そういう時、嫁さんが予定あったりするので、僕が起きてソファーでこんなに(白目をむく)なりながら、子どもの相手してます。



活動休止する上で引退戦と復帰戦はすごく大事

KOYAS : DJを休んでいた時の話を聞きたいのですが、最初から期間とか区切りがあって?

KEIHIN : 全然無かったですね。とりあえず一回休んで、ある程度目処が見えてきたら復帰しようと思ってました。だけど、この機会に曲を作っちゃおうって結局3年くらい経っちゃった。
DJに関してもちょっと煮詰まってきてて、一回距離を置きたかったんですよ。まず制作に集中してレコード出したらDJも変わるかなって、区切りつけて整理したところですね。

KOYAS : 一旦休もうと思ったタイミングはどこだったんですか?

KEIHIN : 生まれる半年くらい前から決めてました。生まれたばかりの子どもを置いて行くのは不安だし、家族の不和にも繋がるんじゃないかって。

KOYAS : もしかしたら復帰できないかも、みたいな不安はありました?

KEIHIN : それはないですね。絶対どうやってもやるだろうなって思っていたし、自分をアウトプットして評価してもらうことで、自分の精神が健全に保たれている部分もあるので。嫁さんもそれをわかってくれているし、しっかり戻るぞっていう目標があったので、レコードを出すまでは休もうっていう。なにもやるなって言われたら、ストレス溜まりまくって生きていけないですよ。

KOYAS : きちんと目標があった上での休業なんですね。

KEIHIN : 最初は曲とか作れたら良いなってモヤっと思うくらいで、正直そこまでは見えなかったですね。でもやり始めたら、今までDJにあてていた分が完全にそこ(曲作り)にあてはまった感じ。ずっと毎週毎週DJだったのが、休んでから家に向き合えた感もあって、週末に子どもとコミュニケーションとってゆっくりできるのもいいなと思いました。

KOYAS : 制作とかはいつやっているんですか?

KEIHIN :(子どもが)寝たあとが一番重要ですね。きつくなってくると、ご飯を外で食べて、その分時間を前倒しして、21〜22時くらいに僕はこっち(スタジオ)に入りますね。そこから3〜4時間やって、4時間くらい寝て仕事行く、みたいな。

KOYAS : それは結構きつい。

KEIHIN : 毎日やってたら死んじゃうので週2〜3日ですね。ずっと外食とかも良くないので、ご飯はなるべく作るようにしています。あとは営業の仕事なんでしっかり昼寝も(笑)。
ただ、いま制作がほとんどできないんですよ。レコード出して復帰したら、ありがたいことにDJのブッキングいっぱい入ってくるけど、僕はDJの選曲に時間がかかるタイプなので。ブッキング入ってこないのも寂しいんだけど、逆に制作には集中できるから、上手くバランス取るのが難しいですね。

KOYAS : 3年間振り返ってみてどうですか?

KEIHIN : 色々な意味で休んでよかったと思いますね。子どもの大変な時期を一緒にふれあえたり、曲に集中出来たのも良かった。結果納得できるものができて、レコードも出せて、子どももしっかり育ってくれて、今は赤ちゃんの時より手もかからなくなっているし。

KOYAS : レーベルもその時からやろうと?

KEIHIN : それはもう。僕は人のところで出すより、自分のレーベルでこういうスタイルですって出していった方がいいのかな。そろそろ2枚目のSumisonicのレコードが出ます。僕も作り貯めていたので3枚目までは出せるけど、さてそこからどうするかなっていうのがありますね。
左 : KEIHINによるProwlerの1枚目  右 : 間も無く発売される2枚目 Sumisonic ”Flail EP”

KOYAS : そこからがレーベル的に難しいところですね。

KEIHIN : やっていて面白いですけどね。それに絡めて自分の復帰もあったので、興行的にもよかったかな。なんとなくぬるっと復帰するよりも、レコードも出しました、復帰します!ってドンってやった方がインパクトあって良いかなと思って。ずっとプロレスとかも見ていたので。

KOYAS : その打ち出し方はプロレスを参考に?(笑)

KEIHIN : 完全にプロレスですね。引退戦と復帰戦はすごく大事だって。やっぱり多くの人に聞いて貰いたいですからね。パーティーに人が来ないよりも、何かしら色々組み合わせて、そこにサムシングが起これば絶対良いと思うんですよ。

KOYAS : 僕は一旦活動止めようとは思わなかったけど、今までと同じようにやるのは難しくて。ただ、KEIHINさんの話を聞いていると、自分ももっと良いやり方があったかもしれない。子どもできたときに一旦休むべきか、意地でも続けるべきか、このテーマで悩む人もいると思うんですよね。

KEIHIN : でもビジョンがあるんだったら、一旦休むって選択肢もあると思うんですよね。ずっと日常のペースでやっていると、自分のことが客観的に見れなくなるし、自分をちゃんと見つめ直す時間も必要だと思うんですよ。
僕はDJに関してもレコードからデータに移行した時期で、プレイも変わっている。これには(活動を)一回止めて、自分の中でもう一回練り直す時間が重要だった。週末に現場出ながらだと、自分の中でのリセットもできなかったですね。



父親に対する愛着と、自分が父親に似てくるのを避けたい葛藤

KOYAS : 子どもが生まれる前と後で何か変化はありましたか?

KEIHIN : 音楽的な変化はしているけど、色々な要素が絡むから子どもの影響なのかどうか難しいですね。音楽以外の部分はすごいあるんですよ。

KOYAS : それはどんな変化ですか?

KEIHIN : 自分の親のことを考えるようになりました。子ども育てているときって、自分が生まれ直している部分ないですか?親父にやってもらったこととか、こういう風に思っていたんだな、ということをトレースしている感じがして。
僕の父親はもう死んでいないので、その父親のことを思い出すことが多くなってきました。自分の親から連綿と続いてきたことの一部になったというか、人類がずっと繰り返してきたことの歯車の一つになれた感がありますね。

KOYAS : お父さんが亡くなられたのはいつだったんですか?

KEIHIN : 高校生の時ですね。

KOYAS : 父親像みたいなのはあるけど、途中で止まっちゃってる。

KEIHIN : 一番対立する思春期を乗り越えて、さらに繋がる部分があったと思うんですけど、そこがスパーンと抜けているんですよね。そこは気にしてなかったけど、子ども生まれたりするとそういうことを強く感じますね。
ただ、僕の父親が結構厳しかった人なので、逆に父親と一緒になるのは嫌なところもあるんですよ。親父には愛着もあるけど、やっぱり血なのか、自分が親父に似てくるのを避けたいという葛藤はありますね。

KOYAS : 避けたいけどどうしても似ちゃう(笑)。

KEIHIN : 怒るポイントとかどうしても似ちゃう。何かバーンってやって怒ったあと、一人になって反省して、あとで謝ったりとか、それを嫁さんに話して慰めてもらうみたいな(笑)。

KOYAS : (笑)

KEIHIN : それはお互いですからね(笑)。嫁さんがそうやって落ち込んでいるときも。
嫁さんが子どもに怒ったら、できるだけ僕は怒らないようにして、僕が怒っているときは嫁さんが子どもに優しくするようにしています。じゃないと子どもの逃げ場が無くなるんじゃないかな。

KOYAS : 言われてみれば自分の両親もそうなってました。

KEIHIN : そのやり方一番良いですよね。



KOYAS : 子どもが生まれて、良かったことや苦労していることはありますか?

KEIHIN : 苦労といえば苦労だけど、もうしょうがないですからね(笑)。一番は時間ですよ。時間欲しいのはあるけど、子ども生まれてなかったら時間を有効に使えていたのかっていうと、ダラダラしてたんじゃないの?とも思いますよね(笑)。逆に子どもがいて、これやらなきゃっていうのがハリになっているのかな。

KOYAS : 子どもできると時間の感覚ががらっと変わりますよね。

KEIHIN : 僕、夫婦で回しているからなんとかできていますけど、1人で子ども育てて、仕事して、音楽やって、っていう人に現場で会うと、どうやってるの?ってすごい気になるんですよ。自分がもし1人だったら絶対できてないと思うから、そういう人の記事も読みたいですね。1人だからもう(音楽を)辞めざるを得ないって人とかに、こういうやり方ありますよっていうの知りたい人いるんじゃないかな。

KOYAS : そういう人の話も聞いてみたいです。夫婦間で工夫していることかありますか?

KEIHIN : 仕事の分担を決めてやることですね。自分の手が空いたときや状況に応じて、相手の仕事もしてあげるのも重要だと思います。逆をやられたら嬉しいじゃないですか。そういうのを率先してやっていくのが夫婦うまくいくコツなのかな。

KOYAS : さすがイメージ通りのいい父ちゃん(笑)。

KEIHIN : 全然そんなことないですよ。僕も脊髄反射的な怒り方をするので、他のところでカバーしないと。悪いことしたなと思っている時は、口で言うよりも行動で示した方が相手に伝わるかなと思って。

KOYAS : それは子ども生まれる前から?

KEIHIN : 子ども生まれてからですよ。生まれるとき立ち会ったのがでかいですね。あれ見たら、これは僕が色々なことやらないと無理だ、この人だけこんな思いしているのに任せきりにできない、と思いましたね。

出産の立ち会いが大きく影響を与えた

KOYAS : 立ち会っていたのは生まれるどれくらい前からですか?

KEIHIN : 4日前に陣痛促進剤いれたんですけど、一向に生まれなくて。4日目に、流石にこれ以上会社休めないからもう出るわってなったら、本格的なのが来て。出産1時間前くらいについて、そこから出てくるところまでダイレクトで見ていて、あれは人生で一番のすごい体験でしたね。

KOYAS : 結構長かったんですか?

KEIHIN : 実際は1時間くらいだけど、その前から3日間まるまる辛い思いしていて。いよいよ出るぞっていう時は、周りにいる看護師さんとかが超エモいこと言ったりして。それ聞いて、この人すごい頑張っている、これはすごいって。



KEIHIN : 僕は手相が珍しくて「て」って書いてあるんですけど、子どもが生まれてきたら全く一緒で、これは俺の子どもなんだって実感してすごい嬉しくなりましたね。出てくるところみてるってやっぱり大事ですね。今から子ども生む人には、絶対みた方がいいよって皆に言ってます。

KOYAS : 僕も立ち会っていて、同じように陣痛促進剤使って3日くらいの長丁場になるかと思ったら、翌朝に生まれたからそこまでエモくなれなくて(笑)。

KEIHIN : 展開早い(笑)。出産するとき好きな音楽かけられるんですけど、その時Grass RootsのQさんのミックス聞いていたら、子ども産まれた瞬間にクライマックスのIsley Jasper IsleyのCaravan Of Loveがかかって、すごくユニティーな曲で。あまりにも出来過ぎていたから馬鹿馬鹿しくなって、それで現実に戻った感じがありますね。あんまりスピリチュアルな方向に行きすぎるのもアレなので。(笑)