BLOG

“理想の音を届けるために”
サウンドエンジニアノート #01
rural 2017

文・写真:村井 佑史(Pioneer DJ 株式会社 Pioneer Proaudio担当)


 皆さん、初めまして。Pioneer Proaudioの村井です。Pioneer DJ株式会社にて、Proaudio事業全般およびPA/SR用スピーカーの商品企画を担っています。社内での企画業務と並行して、各種イベントやフェスティバルで、自社音響システムが使われる際には現場に足を運び、セットアップからオペレーションまでを行うことで興行の成功に向けて協力する活動を続けています。
 
 この連載では、Pioneer Proaudioの音響システムが使われたフェスティバルやイベントのレポートやモノづくりの裏側、音や音響に関する知識といった専門的な内容も解説していきます。皆さんがより一層、音を聴くことを楽しく感じられるようなことをご紹介できればと考えています。
 
 今回はPioneer Proaudioの最新モデルを含むサウンドシステムが使われたオープンエアパーティー「rural2017」の現場レポートです。
 
 
ruralとは?
 「rural」は2009年にスタートしたオープンエアパーティーです。アンダーグランドかつ実力派に特化したラインナップが、通の間で高く評価され、年々規模を大きくしながら進化を続けています。今年は長野県佐久市、荒船山を望む山の上の内山牧場キャンプ場で開催されました。
音が鳴るエリアが2つあり、完全屋外で360度パノラマが見渡せるOpen Air Stageとキャンプ場の食堂をクラブ形態に仕立て上げたIndoor Stage。サウンドシステムはOpen Air StageにVoid Acousticsが、Indoor Stageには私が手がけるPioneer Proaudioが使われました。

rural2017 会場マップ 
長野県佐久市の内山牧場キャンプ場のほぼ全体がruralの会場。2つのサウンドステージの間にキャンプサイトがあり、各会場への導線も快適につくられていました。


Open Air Stage 
内山牧場キャンプ場内のクロスカントリーコース内側にメイン会場を設営。景観が素晴らしく、来場者や出演者からも過去最高のロケーションだと大好評でした。



いざセッティング!
 
 今回私たちは、私自身の実体験や世界中のサウンドエンジニアたちからの要望をもとに、3年もの開発期間を費やした最新モデル「XY-3B」の試作品をメインシステムに組み込みました。Pioneer Proauduio PA/SR用スピーカー「XY Series」のトップモデルとして今年導入予定の3WAYフルレンジモデルで、ラインナップのなかで最も高出力でナチュラルなサウンドを提供します。サブウーファーには同じくXY Seriesで最も高出力なホーンローデッドサブウーファー・XY-218HSを組み合わせました。


Indoor Stage会場・下見の様子。通常はキャンプ客向けの食堂を、イベント側と相談をしながらDJブースやスピーカーの配置等を決め、ダンスフロアへと作り変るプランを考えます。


搬入開始から1時間でスピーカー設営終了。左右スピーカースタックの上段に載っているのが、Pioneer Proaudioの新商品XY-3Bの試作機で、今回日本では初めてメインスピーカーとして稼動させました。

 これらのスピーカーを鳴らすためのパワーアンプには、業務用アンプのリーディングカンパニー・イタリアPowersoft社のフラッグシップモデルX4を使いました。たった1U(約44mm)の薄さに関わらず1600W@8Ωもの高出力を4チャンネル出力する非常に優れたアンプです。このシリーズが導入されて以降、Powersoft社の人気も売上も全世界的にうなぎ上りだそうです。


アンプラック下段に4台マウントされている黒いモデルが今回使用したPowersoft X4です。中段の青いモデルも同じくPowersoftのアンプですが、バックアップ用として用意したもので実際には使用しませんでした。


 スピーカーの設置位置や左右・垂直方向の振り角度調整は、音作りにおける8~9割を占めると言われるほど重要な作業になります。会場の下見と図面確認によって事前に入念なシミュレーションをしてスピーカーレイアウトのプランを立てるのですが、実際には「音を鳴らしてみないとわからない」ことが多々あります。現場でスピーカーを組上げてから最初の出音を聞く瞬間は、いつも緊張感が高まります。今回は最初に音を鳴らした瞬間にかなり満足のできる音場に仕上がっており、出だしから好調でした。
 
 また今回はIndoor Stageの会場内だけでなく、Indoor Stageへの導線となる歩道にもサテライトのスピーカーを配置しました。意図としては、会場に向かって歩いてくる方にも良質なサウンドを届けることで、「早く会場に入りたい!」と感じてもらえるように配慮したためです。自分が現場に行く時はあらかじめバックアップ用のスピーカーやアンプ類を何台か用意しておき、可能な限りこのような現場対応ができるように心がけています。小さなことですが、「お客様の期待を越える感動」を提供するための自分なりの拘りです。



イベント中に私がやっていること
 
 イベントが始まってからは、今度はアーティストさんの出音に対しての調整作業、いわゆるPAの作業が始まります。最も基本的なオペレーションは音量のコントロールになります。イベント中はずっと同じ音量を保つのが正解ではありません。オープン時やフロアにいる人が少ない時は音量を控えめにしたり、フロア内の人が増えてきたら少しずつ音量を上げたり、常に場を見ながら微調整します。簡単なことに思われるかもしれませんが、ほんの少しの音量変化でもフロアにいる人の居心地の良さや快感指数を左右するため、最も重要な作業と言えます。
 
 その他、PAには数え上げればキリがないほどの調整作業があるのですが、ここからはセオリーはあれど、正解のない世界となります。実はPAにも様々なポリシーを持った方がいます。一度基本となる音を決めたら本番中は極力触らないという方もいれば、事前のセッティングには時間をかけずに本番中に詳細を詰めていく方、また音が鳴り止む瞬間まで最善を尽くす方、とそのスタイルは多岐に渡ります。イベント中における私の役割は、そのような様々なタイプのPAの方々に安心してシステムを運用してもらい、普段通りのオペレーションができるようにサポートすることです。基本的な役割分担は、PAの方にコンソールミキサーを操作してもらい、私はスピーカーを鳴らすためのアンプ類を監視する、となるのですが、今回は私自身も初めて現場で扱うスピーカーをシステムに組み込んだため、PAの方と蜜にコミュニケーションをとりながら、本番中にも少しずつシステム設定を調整しました。
 
 さて、肝心のIndoor Stageの出音ですが、新モデルが想定以上に完成度の高い状態で鳴ってくれたおかげで、スタッフや来場者の方々からも数多く好評をいただくことができ、現場稼動の初回としては十分に及第点を越えた成果が得られたと思います。とくにDJ Ko Umeharaさんのプレイ中は音のバランスが綺麗に整っていて、フロア内にいるお客様もずっと同じ場所で踊り続けている(フロアがロックされている)状態となっていました。私自身も仕事中であることをうっかり忘れてしばらくKoさんの作り出す音の世界に浸かってしまったほどです。他のDJ/アーティストの方々も本当に素晴らしいプレイをされていて、Indoor Stageのオープンから終了までの64時間、全く不安なくオペレーションすることができました。


Day2 AM3時、Ko UmeharaさんのDJをPAブースから。3日間を通じて最もフロアがロックされていました。


イベント中の私です。今年のrural Indoor Stageは開演から閉演まで64時間ほぼノンストップだったため、PAは3人で交代しながら対応しました。

 一方で、今回初めて現場で使用した新モデルスピーカーの配置の仕方、設定などでいくつか修正が必要と思われる箇所も見つかりました。実際、イベント開催中に1時間だけ音が鳴り止む時間があったのですが、その短い時間の間にスピーカーの配置を僅かに修正しました。例えば、サブウーファーの上に載せたフルレンジスピーカーの高さを10cmかさ上げし、よりフロア後方まで中高域が届くように改善したり、フルレンジスピーカーの左右方向の振り角度をよりフロア内に内振りにすることで、会場両サイドの壁による反射音の軽減を図ったり。結果的に、システムを組み上げたばかりの初日よりも、2日目、3日目の方がよりクリアな音をフロア内に均一に届けられるようになり、完成度の高い音場を作ることができました。
 
 さらに、「rural 2017」終了後、会社に戻りに即座に開発・設計チームにこれらの情報を共有。それぞれの改善対応を検討・検証しました。左右それぞれに2台ずつ配置したフルレンジスピーカーの開き角度を1°単位で検証し直し、最適な開き角度の再シミュレーションとリスニングテストによる効果確認をしました。ここで得られた改善ポイントは「rural 2017」後に同じサウンドシステムを稼動させた「Fujirock Festival’17」の Daydreaming Stage「 Fasten Musique vs Vis Rev Set」といったイベントに反映させて、すでに再検証を済ませています。


Fujirock Festival - Daydreaming Stage。屋外は壁による反響がないため、室内よりもスピーカーの指向特性を確認するのに適しています。


Fasten Musique vs Vis Rev Set @Ciero y Rio。蔵前に位置する新しい多目的スペースです。スカイツリーも見える夜景がキレイでオススメです。


音楽文化の活性化につながるようなアクションを続けていきたい
 
 今年のIndoor Stageに関わるスタッフは、ほとんどが昨年と同じメンバーだったことから、チームとしての連携も昨年以上によくなり、まさに阿吽の呼吸で様々な作業が円滑に進みました。イベントが終わった時には散会するのが寂しくなってしまい、帰宅してからもしばらくは「ruralロス」が続き、心がこの写真の中に留まっているかのような状態でした。また同じメンバーで大勢のお客様を楽しませる空間を作りたいなと心の底から熱望しています。
 
 私にとってのモノづくりの裏側というのは、現場にいるスタッフやお客様と過ごす時間そのものです。今回「rural」での現場体験によって得られたことを糧に、今後導入する新商品を完成形に仕上げ、世界中の音楽好きの方々により一層良質な音楽エンターテイメントを楽しんでもらえるよう尽力していきます。
 
 また、私は単なるメーカーの人間としてモノを創って販売するだけではなく、皆様と一緒に音楽文化の活性化につながるようなアクションを続けていきたいと考えていますので、現場でお会いすることがあればぜひ、要望や提案をお伝えください。


Indoor Stage2017 スタッフ一同
 


PREV
Dachambo CD HATAのMachine de Music 
コラムVol.43 
BAIS MSO & EarthQuaker Devices
Dachambo CD HATAのMachine de Music
コラムVol.43
BAIS MSO & EarthQuaker Devices
NEXT
Dachambo CD HATAのMachine de Music コラムVol.42 
手作り変態エフェクター Earth Quaker Devices (アース クエイカー デバイセス)
Dachambo CD HATAのMachine de Music
コラムVol.42
手作り変態エフェクター Earth Quaker Devices
(アース クエイカー デバイセス)