INTERVIEWS

UKAWANIMATION!

まず、avexからリリースのオファーがあったときに、どうせやるなら、"J-POP"のフィールドでやらないと意味がないと思ったんですよ。avexといえばJ-POPを代表するレーベルですが、自分は何が出来るのかなって思ったときに、今のヒットチャートを見るとラブソングに溢れていることに気づいて。ラブ・ソングって、完全に人間目線の歌ですよね。人間が人間のことを人間目線で語っている。どんな恋愛のシチュエーションにも当てはまってしまうくらいのアーカイヴが既に遺産として解放されてますよね。口ずさんだりカラオケで絶叫したりする曲の大半が恋愛に関する曲ばかりで本当にいいのか?と。そこまでみなさんの頭の中の風景は色情なのか?(笑)。そして例え、人間目線で恋愛のことを語ったとしても、共感できる同世代に向けなければリアリティがないと思ったんですよ。でも、自分の考えている世界観を共有できる人たちって、実は世代を超えた所に存在しているワケで。それを考えたら人間目線ではなく、森羅万象に溢れている生物や無機物を問わない、つまり万物すべての視点をテーマに楽曲を作成し、なおかつミュージック・クリップも平行で作成しようと思ったところからUKAWANIMATION!は始まりました。J-POPを俯瞰で観ながら、童謡とかアニソンなんかを聴いてみれば、他の生物や、或はロボットの目線から歌われた歌だって沢山あるでしょ?

このプロジェクトのベースにあるのはその名が示す通り、アニメーションの語源である、アニマ。ギリシャ語で魂という意味。広くは"アニミズム"です。アニミズムは、万物すべてに魂が宿っているという思想でしょ。言ってみれば、究極の"エコ"に繋がる概念なのではないか?と。例えば「人間の暮らしを豊かにする為」に地球の環境を保護してゆこうという意志と生活スタイルがLOHASなわけですよね。これが何か僕には現代のチャート上位に溢れるコンビニエンスなラヴ・ソングと同じにみえたんですよ。どちらも人間中心主義でしょう。だからそうじゃなくて、逆に人間の目線ではない視点から環境の側に立ってみるっていうアクションを起こしてみたかったワケですね。そういう発想から始めたのがUKAWANIMATION!なんですよ。だからコンセプトを一言でいうと「エコ・クリティシズム」で、環境に対しての批評的眼差しのもと「人間以外の万物の目線から見た世界を構築していく」というアイデアですね。 FUJI ROCKは、リリースが全く無い常態だったにも関わらず、どういう訳か、レッドマーキーの最終日のしかも大トリという大役を与えられて(笑)。そこで、大ハジを晒さないようにダンスアーティストであり、世界的に有名なコレオグラファーでもあるジョンテにNYから来てもらいました。ラハさんという方がオーガナイズしている「MAINSTREET」というコアなダンスイベントで僕がVJしていたときに彼がゲストで出ていて友達になったんですよ。彼はビヨンセとかマドンナ、あとジャネット・ジャクソンとか安室ちゃんとDoubleの「BlackDiamond」の振付け師でもあるんですけど、FUJI ROCKのタイミングで日本に来てもらい、ウナギの気持ちになって日本語で唄っもらいました。振り付けもウナギの動きをモチーフにしたものです。トラックはTOBYさんに担当してもらい、お陰さまでかなり酒池肉林な状況になりましたね。アルバムづくりのヒントとしては、結局コンセプトから発展させていく表現形態としては、音や映像だけじゃなく、ダンスでも言葉でも対話でも、究極には想念でもなんでもいい訳だということが判りましたね。 まず、師と仰ぐ卓球さんとショーケンさんの相乗作用には凄まじい起爆力がありました。これはカメラに捧げた楽曲です。ボーカリストの人選をする段階で「ノイバウテンの(中心人物)ブリクサこそがドイツのショーケンさんだ!」と言っていた卓球さんの名言を思い出して。僕も卓球さんも幼少の頃から大ファンだったのでお願いしたいな、と。そこまでは思いつきだったんですけど、その数分後、午後の紅茶が飲みたくなって近所のコンビニに寄ったら、ショーケンさんが表紙の『WARP』がコンビニにずらっと面見せされて並んでいて、まるでショーケントレインが10車両くらい連なっているようなサイケデリックな状況が突如目の前に現れて(笑)、底知れぬシンクロニシティを感じ、これは、もう絶対頼むしかないと。しかも、翌日の記者会見で「執行猶予期間中だから格安で引き受けた」って言ってました。だから、猶予期間が終る前に早く頼まないとって、翌日編集長通じて、オファーさせて頂いた流れです!(笑)。ショーケンさんは今回ちゃんと歌メロにブルースハープも入れて頂いて。しかも先生は「シャッターチャンス!!」って絶叫されていますが、それは自分が書いた歌詞にはないんですよ。そこで携帯でのカメラ機能が常態になった24時間激写態勢の現代の若者との世代差が、直接カメラに対する想いの隔たりとして浮かび上がってきているわけです。DJ NOBU君のテーマは「落花生」。僕は「ジャガー、氣志團、FUTURE TERROR」っていう三大要素として千葉を捉えているんだけど、 明らかにFUTURETERRORが、千葉代表なんだから、八街の落花生しかないでしょ! って以前グラスルーツで会った時に二人でテーマを決めた。落花生が種蒔きされて、実がなって、収穫されて、乾燥されて、出荷されるまでをイメージして作ってもらったんですけど、この曲の完成度ももの凄い。よく考えたら落花生は、途中で花が枯れて、地中に潜って、脂肪塀から養分を吸い取って土の中で実が生れるんですね。だから文字通り「落花生」。花が落ちて土の中で産まれる。これってリアルアンダーグラウンドでしょう(笑)。ALTZに関しては、彼と話しているうちに、生まれてすぐ、岐阜県に住んでいて、岐阜での記憶は、川でおぼれたことしかないって言っていて。その記憶のみって、すごいでしょ(笑)。だから酸素に対しての思い入れは人一倍深いだろう(笑)ということでこのお題になりました。テーマは、酸素の恩恵から光合成、果てはCO2削減による地球温暖化対策にもつながってきます。溺れたときに吐き出した二酸化炭素を、川のほとりの森林が光合成して酸素に変換して、吸って、吐いて、という無限循環ですね。光合成は、水と空気中の二酸化炭素から炭水化物を合成して、水を分解しながら酸素を大気に供給するシステムですね。あと、メルツバウは、実際秋田さんが飼われているアヒルのおしゃべりに電子的な変調を加え、ハーシュ・ノイズに発展してもらいました。僕は秋田昌美さんとはもう、20年くらいおつきあいさせて頂いているので、メルツバウの変遷はずうっとファンとして追いかけているのですが、氏はここ7年くらい鳥を中心とした動物にデディケイトしたアルバムばかりを作られていて、現在チャボ数匹とアヒルと一緒にハードコア・アニマルライツなライフスタイルを貫かれているので、絶対参加して頂きたかったアーティストです。お願いしたら快く引き受けて頂いて、それでアヒルの水浴びをテーマにした楽曲になりました。その音源に対しての絵コンテっていうがグラフィックスコアを僕は描いたのですが、それはアヒルが水浴びしている様をCGで描いて、フォルム舐めの視点移動のみで構築してゆくというものです。映像はDVDの山口くんとのコラボになります。こんな作品をJ-POPフィールドに送り出そうって発想はハードコア以外の何者でもないと思いますよ(笑)。今回のアルバムでは他にも、ハナタラシ名義で参加してもらっているBoredomsのEYEさんは偏西風がテーマ、iLLのナカコーが作ったトラックで歌っているMEGちゃんはスプーンがテーマ、あと田中フミヤくんはウォッカの曲を作ってくれています。あと、STRINGRAPHYっていう糸電話を使ったオーケストラは、弦目線でのデリック・メイの 「STRINGS OF LIFE」をカヴァーしていたり、ムチャクチャでしょ?それからリアル・クラストのアブラハムクロスにも参加してもらいます。しかも、UKAWANIMATION!では繰り返すように、その表現を音楽だけに限定してないんですよ。 大変だと感じた点は全くありません。音楽、映像ともにコラボレートした全アーティストが僕に縁の深い方々か、もしくは一方的にリスペクトしている方々なので。現代って、音楽だけで独立、成立している表現だけじゃなく、例えば、映像と音が完全にシンクロしたMADが日常茶飯事にyoutubeとかニコ動でUPされていたり、ライヴの現場にしても、音と映像は普通に蜜月をむすんでいますよね、すでに視覚と聴覚に働きかける情報は、マルチ・メディアな展開をして世に流出されている。だから、音楽を独立したものとしては捉えず、音楽は様々な世界と関係を結ぶミラクルな記号としてこのプロジェクトは捉えているワケです。その可能性を、ミュージック・マーケットの内側から探っていきたいのです。 今回の自分の役割は、このプロジェクトの総合的なプロデュースってことだと思うんですよ。コアにあるのは僕から発したコンセプトや歌詞だったり、絵コンテだったりするわけで。例えば、こういう捉え方はどうかなって思うんですけど、コンポーザーって立ち位置を考えたら、例えば、モーツアルトが残した譜面って、その後も活用可能ですよね。それをどこかの交響楽団が編曲して演奏するってことは普通にあるわけじゃないですか。あと、シュトックハウゼンのグラフィックスコアとかね。それと同じ感覚で絵コンテや詞を描きました。今回だけでも絵コンテは70枚くらい書き上げましたね。それだけを形にしてリリースしても世界観が伝わりますが、絵コンテのマーケットは世にないわけで(笑)。だから、アティテュードさえ伝承できれば、どんなイメージ的な飛躍があってもいいんじゃないかっていう自由度です。映像も様々な物質から見た世界観を、様々な方達とのコラボで試しました。自分のプロジェクトじゃないと普段からリスペクトしている同業者とのコラボはなかなかやれるタイミングがないので。 僕は一度聞いて簡単に判った気になってしまうような、消費を加速させる音楽などより、よっぽどここに収録された音達の方が味わい深い奥行きがあると思っていますよ。そしてこれらは、どんな批評を受けようと、いまこそメジャーフィールドで問うことに意義があるファインミュージックだとも思っています。意図についても、今回、現代美術の企画展をキュレーションするような感覚でプロデュースしていますが、むしろこれ以上説明する必要ないくらい説明していますけどね。でも、こうして映像がつくと、かなり印象が変わると思いますよ。あと、音楽と映像は本来別の感覚帯に働きかける情報ですけど、MTV以降の蜜月によって、オーディオ&ビジュアルはごく普通の手段になりましたよね。音と映像があって、初めてイメージの輪郭が浮かび上がる。これもそんな作品ですね。