INTERVIEWS

Gilles Peterson

なぜか最近フランスとの仕事が多くなってきていてね。ある意味で自分のルーツに戻るのが好きなので、私は常にフランス人と多く接触し仕事しようとしているんだ。たとえばパリのラジオ・ノヴァでラジオ番組を行うとか、私が南仏で手がけ毎年開催しているフェスティバル「Worldwide Festival」とか。またパリに最近建てられたばかりで、これからオープンする予定の大規模な新しい劇場"レ・ゲティ・レ・リーグ"の仕事をすることになっているんだ。この劇場は、来年の2月にオープンする芸術と文化のための会館でね。フランスの新しいメディア、音楽と文化の会館になるんだ。ポンピデゥー・センターの隣にある、何かすごいビルなんだよ。来年から、そこでいろいろな国々を焦点とするイベントの主事を務めてくれと、運営者から依頼を受けた。私の過去の渡航経験に基づいているイベントシリーズなので、日本、キューバ、ブラジルなどの国を主題とする大規模なイベントを開催する予定になっているんだ。いろいろな行事が今後そこで行われるので、おもしろくなるだろうね。 そう、フリースタイルにしたかったんだ。リスナーは、恐らく私のミックスCDには、90分ずっと同じビートがかかっているミックスを求めていないと思う。ラジオ番組ではこのようにプレイするし。このようなスタイルでミックスCDを制作したのは、恐らく初めてだと思うね。数年前に「Trust The DJ」というミックスCDシリーズを3~4枚制作したときの哲学にもっとも近いかな。私は本作で、最近の幅広いジャンルから良質な音楽の「今」の熱さを反映したくて、久々にこういうスタイルのミックスを本作で表現したんだ。 そう。もうひとつ言いたいことは、僕がもしあなたから「今日もう1枚ミックスを作ってくれ」と言われたら、完全に違うような別物を作れる。今はそれほどいい音源が飛び回っているんだ。また、私は日本のマーケットと日本人の考え方をよく理解しているつもりなので、本作に収録している楽曲を意図的に入れ、そのいくつかのアーティストとシーンを日本のみなさんに紹介したかった。日本のみんなが収録アーティストを逐一分析するということは、百も承知だったので。たとえばLAのシーンで活動しているジェームズ・パンツであろうが、ジョージア・アン・ムードローが別名儀のジョアティーであろうが、ピアソン・サウンドかラマダンマンであろうが、新しいワールドミュージックシーンで活躍しているタイプのDJ、アップルート・アンディーであろうが、少しでも間違いなく収録したかったんだ。これらのアーティストは、日本でもそれなりに個々に有名ではあるけれど、本作には基本的にこれらのアーティストの個性を間違いなく入れ込みたく、人々がもっと彼らのことを発見できるようにね。

最近、4~5年前に自分が手がけたポッドキャストを振り返っていたら、ベンガ、スクリームといったアーティストの楽曲もプレイしていたんだ。今や彼らはイギリスではスーパースターの地位に達している。本当に奇妙であり、彼らは今マジでビッグなんだ。このムーヴメントはこれまでのドラムンベースの存在よりもはるかにデカい。なぜダブステップがデカくなったか?ドラムンベースは誕生してから、大きなインパクトを及ぼしたけれど、進展はしなかった。消え去ることもなく、まだ存在しているし、音楽シーンの重要な部分でもある。一方ダブステップはメインストリームの意識に浸透するのに、多少時間がかかった。しかし、今やっとポップや非ダブステップのプロデューサーまでもが彼らの音楽に取り入れられ、総合的な音楽シーンにかなり浸透している。私自身はまさかこれほど成長するとは思わなかったよ。また驚くことに、こんな現象まで起こっている。たとえば過去イギリスの夏フェス、ビッグチル、グラストンベリー、ベスティバルなどのメインストリーム系の夏フェスの会場をウロウロしているとき、テクノやドラムンベースがかかっていた。しかしこの2~3年の間に、一般の人々、つまりティーンエージャーや学生が気に入るような、現地でプレイされている音楽のほとんどは驚くことにほぼダブステップなんだよ。

奇妙なことに、ダブステップはイギリス以外ではそんなにインパクトがない。イギリスならではのムーヴメントなんだ。ドラムンベースはいち早く世界中に拡張していったけれども。ダブステップがすごく興味深くなったいくつかの理由は、多くのダブステップキッズが出現していること。そしてドラムンベースシーンにゴールディー、ロニ・サイズやダニー・ブッケムがいたように、ダブステップシーンにもリーダー的存在のアーティストがいる。コード9やら、ベンガやら、ディープ・メディのレーベルを運営しているマラとか。ドラムンベースとの違いは、気取ったエッジピープルが少ないこともあると思う。ひょっとして(ドラムンベースやその他の新たに誕生したジャンルの音楽と比較すれば)よりパンクみたいだと思う。またダブステップは、 イギリス音楽シーンの中のメディアに評価され、音楽業界とイギリス音楽の伝統を継承している。ダブステップシーンを代表するアーティスト やレーベルが、イギリスの音楽シーンをリードしているんだ。

またそういった音楽を制作している大勢のキッズがいる。ベッドルームでトラックを作っている次世代のプロデューサーたちがわんさか誕生している。シルキーとか、アクトレスとか、クエストとか、本当に大勢いるんだよ。スクーバ、ジアイ、ラマダンマンみたいなヤツがいる。彼らはすごく賢くて、明確なビジョンを持っていて、魅惑的で、幅広い音楽に対してすごくオープンなんだ。だから、彼らのスタジオから出てくる音楽は、スクリームみたいなサウンドを思い浮かべるような、スタンダードで一般的なダブステップとは限らない。彼らはよりテクノだったり、ジャジーに聴こえる音楽をも制作している。 シャックルトンはすばらしいね! (笑)。エレクトロニックミュージックの第1世代に出てきたスクエアプッシャーやエイフェックス・ツインが誕生し、その後トリップホップが出てきて……。すばらしいことに、彼らは基本的にこれらの流れの延長なんだ。今、すごく力強い勢いに乗っているよね。そして、何人かすごく気の強い個性的なアーティストが台頭している。 私に取って日本は第二の故郷であり、大事なところであり、何回行っても最高で、私は本当にラッキーだと思っているよ。なぜかというと、日本では周りの人々が私の手助けをしてくれて、よく思ってくれている人々がいて幸せなんだ。なので、J-Waveと共に仕事ができてすごく光栄で。シャララカンパニーという制作会社に務めているマリさんにも感謝したい。なぜかというと、この番組自体はかなりクレイジーだから。今の音楽業界、また最近の新世代が音楽に向き合う姿勢が激変しているということもあり、私自身の興味を常に成し遂げるのはたやすいことではないので。

私に取ってラジオ番組を持ち、自由にやりたいことができ、私を日本で手助けしてくれている人々のおかげで、毎日大々的にラジオ局で番組を放送できるのは、すばらしい成果だと思う。あなたに言いたいことなんだけど、最初にJ-Waveで番組をやらないかと依頼を受けたとき、まずこれは興味深くなる感じだと思った。「まっ、数週間続けて、きっと番組自身が切られるだろう」とさえ思っていたよ。それで、こんな感じに成長していったんだ。今話しているとき、木材に触るぜ(※)。なぜかというと、何においてもそれがどのぐらい継続できるのかはまったく予測がつかないからね。昼間にJyotiジョアティやラマダンマンをJ-Waveでかけられるのは信じられないよ(笑)。なので、私にとってJ-Waveで自身の番組をできることはとてもすばらしいことなんだ。

(※木材に触る(touch wood)=英語圏では、幸運なできごとについて話した直後に災いを避けたり、いつまでもその運が続くように、おまじないとしてこの言葉を唱えたり、実際に木を触ったり叩いたりする)