Interview & Text : yanma (clubberia)
Photo : 大森エリコ
「テクノで遊ぶ楽しさだったり、喜びだったり、そういうものを難しく考えるんじゃなくて現在進行形のダンスミュージックを使ってストレートに表現したいと思ったんです」
- 本作『Nuit Noire』は、2013年にリリースされたミックスCD『Crustal Movement Volume 01 . Dream Into Dream』のような実験的な要素を残しつつ、ダンストラックでまとめられていました。そして、“ミックス”というDJ特有の感性にフォーカスを当てられているのも特徴のように思ったのですが、ご自身のなかでは、どのような意図をもって本作を制作されたのでしょうか?
前作で実験的なミックス作品を作ったんですけど、リスナーからの反応や、現在の国内の電子音楽に対する成熟度などをひっくるめて考えた時に、本作のようなDJミックスがいいんじゃないかっていうのがあって。今作は自分的に、完全にダンスミュージックを意識した作品なんですよ。1曲目に使ったDasha Rushのトラック「Lumiere Avant Midi」はノンビートですけど、他の曲は全部ダンストラックです。料理にたとえるなら、今回使った曲は、すごく調理のしがいがある曲。曲単体で聴くっていうよりも、ミックスすることによって初めて威力を発揮する、魅力が出てくる曲というか。そういったものにフォーカスしたのはありますね。今回は、使いたい曲が明確にあって、こうしたら面白いだろうっていうアイデアがあったから、それを形にしました。
- 前作のリスナーからの反応というのは?
前作は、自分なりにDJという行為の可能性を押し広げるのが目的だったんです。万人にうける作品ではなかった。だから、いい評価とそうでない評価がはっきり分かれた。当時は、エレクトロニックミュージックの面白い部分を抽出して、今までやっていなかった表現を模索して身につけた時期だったんです。
- 今作では、非常に長いロングミックスを多用されているようにも思いましたが、いかがでしょうか?
そうですね。家だとリラックスできるし、1つの素材を現場よりも集中して繊細に扱うことができる環境なので上手くいったのかなというのはあります。現場は、そのときどきの閃きで即興のようなもの。もちろんバックトゥーバックをやる時もどの曲を使うか相手と打ち合わせたりしないし。DJは、そういった直感的な面白さもありますよね。
- もうひとつ思った感想なのですが、この作品が一般的や普段の生活に溶け込まないなあと思って。たとえばこの作品を爽やかな朝の出勤中に一般の人が聴いているをイメージできないというか。もし聞いていたら、その人は、なかなかのつわものだなと。
はははははは(笑)。でも自分自身はそうは思っていません。しかし海外も日本も、今は世相が暗いですからね。最近は街中を歩いている時も、暗いというかネガティブな空気を感じる時がよくありますね。そういう時代のなかで、本作はいわゆるテクノで遊ぶ楽しさだったり、喜びだったり、そういうものを難しく考えるんじゃなくて現在進行形のダンスミュージックを使ってストレートに表現したいと思ったんです。
- 今作では、ヨーロッパのアーティストの楽曲が多かったですが、NOBUさんの旬なものを詰め込んだら、たまたまヨーロッパのアーティストの楽曲が多くなったのですか?
そうですね、たまたまですね。でもヨーロッパ以外から出てくる音も好きですよ。例えば最近だとThe Bunker New Yorkっていう同名のパーティーをやってるレーベルがあって。そこはすごい好きかな。今年はThe Bunker New York Nightを東京でやる予定です。日本全体で見たらまだそこまで知られてないんじゃないかと思いますけど、そうやって面白いと思うことを紹介したり、やっていかないと。前作もそうだったんですけど、自分から見て、まだまだ紹介されていない面白い音楽って世界中にたくさんあるから、それを楽しむ人たちをもっと増やしたいという気持ちはあります。
「探究心の感じられないDJはたとえキャリアが長くても作品やDJも退屈に感じますし、逆に自分に刺激を与えてくれるDJはキャリアや年齢に関係なくリスペクトしています」
- NOBUさんは年齢的にも大御所ではないですけども、中堅でもない。大御所と中堅の間にいる存在だと思うんですけども、自分のなかでの何か役割を感じていますか?
大御所とか中堅とか正直よく分かりませんが、自分は自分だと思っています。探究心の感じられないDJはたとえキャリアが長くても作品やDJも退屈に感じますし、逆に自分に刺激を与えてくれるDJはキャリアや年齢に関係なくリスペクトしています。役割と言われると難しいですが、たとえばいま世界中で面白いエレクトロニックミュージックが生まれ続けていると自分では思ってるんですが、その面白さに気づいている人はシーン全体から見るとごくわずかだと思います。幸い自分は有名無名問わず面白いDJやアーティストと共演したり知り合う機会が多いので、そこで受けた刺激をDJや作品、パーティーなどを通じてこれからも皆さんに紹介していければと思っています。
- NOBUさんの場合、海外での経験も大きいのではないですか?
そうですね。やっぱり最近は以前より頻繁に海外に行く機会があるし、海外の中でも良いブッキングに恵まれてて、最先端というか自分が面白いと思う感覚を持っていて、かつ更新し続けている人たちと一緒にプレイしてることは大きいですね。あとヨーロッパだけでなく、台湾や中国、韓国などアジアのシーンも面白いですよ。いわゆるビッグアーティスト中心のシーンもあるけど、自分みたいな立場の人たちも出てきて、それが今繋がった感じがあるんですよ。そこでまた新しい文化が形成されてきてるのかなっていうのを最近特に実感してて。より一層自分たちが面白いなっていうのをプッシュしやすい環境ができつつあると感じています。
- 今年5月にUNIT(東京都渋谷区)でNOBUさんとraster-notonからもリリースされているNHK yx Koyxenがキュレーションするイベント「Phantasmagoria」がありましたよね。このイベントも今までお話しに通じて、面白いものを提案しようといった考えがあるように思いますがいかがでしょうか?
「Phantasmagoria」は、いわゆる自分が普段いるテクノシーンにいる人達に向けて、いつも遊びに来てるパーティーの雰囲気とは違うけど、こういう世界も刺激的だから体験してみなよ、とか聴いてみなよっていうメッセージを込めて始めました。もちろん一緒にやっているNHK' koyxenにはまた他の思惑があります。今度、Ryo Murakami君とEna君がベルリンのフェス「Berlin Atonal」に出るじゃないですか? 「Berlin Atonal」のようにある程度大きな規模で、ああいう実験的な音楽を楽しむ場所やプレゼンできる場所って今、日本では少ないと思うんです。90年代はたくさんあって、00年代ではまだ面白いものが残っていたけど、10年代になって音楽そのものを楽しむ、ジャンルとか関係なしに面白い音楽を単純に楽しむ人たちや場がすごく減ったと実感してます。そういう意味で自分では「Phantasmagoria」をやって大成功だったなって思っているんですよ。ハードコアもあり、ノイズもある。Mark Fellのような数学的な表現もある。さまざまな表現をするアーティストに出演してもらいました。あの規模の箱では珍しい内容だったけど、お客さんも入ってくれたし、各フロアとも終始雰囲気もよく、ひとつの流れが成立してた。こういう面白い音楽を国内でやっている人もいるし、そういうのをもっと楽しもうよっていう提案じゃないけど、「Phantasmagoria」のパーティーメイクは、このミックスCDを出す意味と相通ずるところがありますね。
今、自分自身の素直な感覚に従って楽しまなくなってる人が前より目につくようになってきてると思うんですよ。何かひとつのものに対して、どこかで何らかの立場の人が評価してるから、自分もいいって思ってしまうような主体性のない人が増えてるように思います。権威を持つ他者に評価の軸をゆだねがちというか。SNSも小さなところの権威でもあるだろうし。そういうのをひっくるめてなんか残念に思う事があります。自分がヨーロッパでDJをした時、現地じゃぜんぜん有名じゃなくてもダイレクトなリアクションがあったし、それがあったから今の自分があると思ってる。先入観なしに、シンプルにDJが評価されたかなって思う。だから聴き手も先入観なしに音楽を素直に楽しんでほしいですね。
- 今度やられようとしているThe Bunker New Yorkってどういう雰囲気のパーティーなんですか?
行ったことはないんですけど、リリース作品は好きでほぼ全部持ってます。あとポッドキャストのライブ音源とか所属アーティストのミックスやライブを聴いてみて、面白いシーンがNYにひとつできたんだなって思いました。クオリティ高い事やってますよ。
- さきほどアジアのお話がちょっと出たんですけど、この作品の13曲目に入っているSenyawa(センヤワ)のトラックがすごくかっこよくて。
Senyawa は、LIVEに関しては映像でしかみてないんですけど、すごく評判がいいですよ。SuperDeluxe(東京都港区)で今年の5月に内橋和久さんっていうギタリストの方とマハンニャワっていうユニットで出演していて、見に行った人が皆大絶賛してたんですよね。行けなかったから悔しくて。Senyawaのことは去年「FUTURE TERROR」を開催した時に、Morphosisっていうアーティストを呼んだんですけど、彼が紹介してたので知りました。それも、彼の視点が自分と似てると思ったんですよ。彼からしたら一緒にすんなって思うかもしれないけど(笑)。Senyawaをここに入れることでいろんな人に紹介したかった。
「全然アンダーグラウンドじゃないことをやっているのに、アンダーグラウンドって言ってる人がいることの方が自分には抵抗がある」
- 今は、インダストリアルというかハードミニマルなトラックが流行っているように思いますがいかがですか?
流行っていると思うんですけど、例えばインダストリアルって言葉にしても今はちょっと一人歩きしすぎてる気がします。全然これインダストリアルじゃないじゃんっていうのをインダストリアルテクノの誰々が来ますとか宣伝しているのもすごく嫌いなんですよ(笑)。なんでもインダストリアルって言えばいいのかっていうのも目につきすぎるし、もちろん音楽の解釈なんて人それぞれでいいとは思うんだけど、言葉ひとつとっても、あまりにも安易な使い方をしてるのを目にすることがあるし、消費に偏りすぎというか。そんな簡単じゃないですよね。
- 本作は、オールドスクールなテクノの質感や雰囲気も残っているように思ったのですが。
例えばLory Dの曲は、最近出したものなんですけど、いい意味でオールドスクールで、昔の良さを残しつつ新しさはあまり無いけど、普遍的な格好良さがありますね。あとは、わりと更新されていると思いますよ。RashimやSvrecaの曲にしても現代のテクノの到達した形のひとつだと思います。Svrecaの曲の上物にしてもこんな感覚は昔はなかったじゃないですか(笑)。
- ヨーロッパツアーも控えてますよね?
7月の中旬から行きます。
- どんなスケジュールなんですか?
パリ、ベルリン、アムスでギグが入っています。あと、ベオグラードが面白いとDJの友人が勧めてくれてるから、行ってみようかなと思ってます。そのほかにもいくつかオファーが来ているので、諸々調整したうえで年末頃までにもう一度くらいヨーロッパに行きたいと思ってます。
- 4月には、アジアに行かれてましたよね?
中国(上海と北京)に行きましたね。1月は台湾に行ったし、あとは6月中旬に韓国に行って、10月にオーストラリアへ行く予定になっています。
- アジアのなかでシーンの面白さで比べたときに日本と他国ではいかがでしょうか?
やっぱり日本が一番面白い。そこはダントツかな。昔からってのもあるし。逆に台湾とか、日本の90年代の良かった雰囲気とかを残しつつ、今のことをやり始めてる若い子たちが出てきていて、今まさに始まった感じですね。熟成する前のフレッシュな感じがすごく面白いですね。
- アジアでNOBUさんがやられる時の規模は、どのくらいなんですか?
150〜500人くらいかな。
- 現地だとどれくらいの規模なんですか?
ん〜どうなのかな。それこそEDMのクラブとか1回連れてってもらったんですけど、やっぱそっちとかはすごいですよ。アンダーグラウンドとは全然違いますからね。
- そういう場にも行かれたんですね。
行きましたね。日本だと行く機会がないから。ちょっと冷やかしに行こうよって連れてってもらった。でも、ある意味すごかったですけど。
- どうでしたか?
なんだろう。ダンスミュージックに入るきっかけになってくれるんだったら、そんなに否定する必要はないと思う。むきになって悪口を言う人もいるけど、別に好きにやらせておけばいいじゃんって、個人的には思うんだけど。それでクラブに興味持ってもらえるんだったらいいと思うんだよね。今、少子化も関係していると思うけど、どんどんクラブで遊ぶ人の絶対数が減ってるなかで、自分とやってることが違っても、人がクラブに足を運ぶきっかけになるんだったら、いいのかなとは思いますね。逆に全然アンダーグラウンドじゃないことをやっているのに、アンダーグラウンドって言ってる人がいることの方が自分には抵抗あります。
- そういうのは日本には多いと思いますか?
多いですよ。根強いんですかね、みんな新しい刺激がほしくないのかな? 逆に予想がつくほうが楽しめるのかな。
「もちろんハウスやディスコも好きな音楽だけど、本来やるべきところは、テクノだっていうのがあるので」
- NOBUさんの情報の更新作業はどうされているんですか? たとえば、レコ屋に行きまくるとか。
レコード屋さんにはもちろん行くけど、時間的にはネットでずっと掘ってる時間のほうが長いですね。何かしらのキーワードを見つけてそこから掘り下げて見つけていくというか。やっぱり誰もが持ってるものより人が知らないものを見つけたほうが面白いじゃないですか。宝探しじゃないですけど。
- けっこうネットを見てるんですね。音楽メディアとかって見たりします?
メディアもちろん見ますよ。
- クラベリアで毎年アワードを発表しているのですが、あれって賛否両論あるんです。NOBUさん的に作品だったりアーティストだったりをランキング付けするという行為って否定派ですか賛成派ですか?
いつもアワード入れてもらってますけど、そこはあまり気にしてないというか。もちろん入れてもらえるのはありがたいけど、そこを気にしすぎたらダメじゃないですか。本当に自分がやるべきことをやっていくだけだから。否定とかではなく、自分は気にしてないという意味です。そこのゲームにハマっちゃったら、本来やるべきことができなくなるんじゃないかな。何がやりたいんだって聞かれたら、俺は好きなことをやりたいわけだから。人気を得るためだけにやっているような人を見てると、すごくかっこ悪いですよ。だせーなって思う。自分はそれをやっているつもりはないんで。ただ好きなことを追求して得た感覚をアウトプットしているだけなので。作品をリリースしておいて変なこと言ってしまいますけど、自分では、出すものを必要以上にたくさん売ろうと思って作ってないんです。自分のレーベルの作品にしてもセールスはあまり気にしてない。自分から出てくるものの結果が市場に出ているだけ。
- 普段の生活の流れってどんな感じなんですか?
起きてスタジオに行って制作して、お昼食べて……他に、何をやってるんだろう(笑)。あ、メールチェックとかPartyの打ち合わせとか。でもスタジオにいる時間が1番長いんじゃないかな。曲作るのは、まだ下手くそなんで、そこは人の倍頑張らないと追いつけないなっていうのがあるので。
- 今回のミックスの制作環境は?
今回はPioneer DJのCDJ-2000NEXUSとALLEN&HEATH XONE:92です。
- では、何テイクも録られたんですか?
いや、それはないっすね。逆にスパッとできちゃって。あんまり考えこみ過ぎず、いつもやってる感覚が素直に出せたというか。深く考えずにできたのが逆に良かったのかなっていう。普段、他の人よりもDJについて考えてるとは思うんですけど、5回くらい録って1番いいんじゃないかってのを選んだって感じです。
- 普段結構使われているトラックですか?
そうですね。
- ハウスやディスコに焦点を絞った作品って考えられたりしたことはないですか?
頼まれればやるかな(笑)。年に何回かハウスセットとかもやるじゃないですか。そういう時はそういう時だし、もちろんハウスやディスコも好きな音楽だけど、でも本来やるべきところは、テクノだっていうのがあるので。ただ「Rainbow Disco Club 2015」(以下RDC)もすごく楽しかった。RDCでAtaのDJを初めて聞いたんですけど、ディスコをかけててそれがすごくかっこよかった。RDCの初日に出演して、その晩に松本でDJして、最終日にけっきょくRDCに戻って。それでAtaのDJをみて、こんなにかっこいいDJまだいたんだってびっくりするくらい良くて。115くらいのBPMでDoc Martin的なグルーヴをずっと作ってディスコやってるっていう。無茶苦茶よかったですね。2日目いられなかったけど、3日目に帰ってきてそのAtaがすげーよかったから、やっぱディスコいいなって思ったし、ディスコ方面を全然追えてないんだって思いました(笑)。こんな面白いDJがいるのに。
- Release Information -
タイトル:Nuit Noire
アーティスト:DJ NOBU
レーベル:Bitta
発売日:2015年6月17日
価格:2,592円(税込)
[トラックリスト]
01. Dasha Rush - Lumiere Avant Midi
02. Eduardo De La Calle - The Demigod's Control
03. AMBIQ - Toxic Underground (Tobias remix)
04. Unknown Artist - Euphorbia Susannae
05. Will & Florian - Sound Of Reptilians
06. D.Å.R.F.D.H.S. - Shoot! Rob!
07. Retina.it - Logos
08. Skarn - Revolver
09. Abdulla Rashim - Moral Blinds
10. Donato Dozzy - Il canto della maga Pt. 2
11. J&L - Ramayana Planet (Abdulla Rashim Remix)
12. Terrence Dixon - Emergency
13. Senyawa - Di Kala Suda (Replayed by Charles Cohen)
14. Oscar Mulero - Mentally Induced Action (Stanislav Tolkachev Remix)
15. Lory D - Acidspix
16. Alien Rain - Alienated 4A
17. Svreca - Mountain-Splitter
18. Abdulla Rashim - No God