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七夕野郎

横浜を代表するヒップホップクルーZZ PRODUCTIONとしての活動をはじめ、ジャパニーズヒップホップシーンでのさまざまな活動で注目を集めるサイプレス上野とMIC大将。彼らが1年に1回の期間限定ユニットとして始動させた、七夕野郎。七夕前夜の7月6日(水)にファーストアルバムをリリース。馬鹿げたことを追求したら"カッコイイ"になったこのアルバムは、一体どのような過程を経て制作されたのだろうか。ユニットの結成経緯から、アルバムのコンセプト、ジャパニーズヒップホップに対する想いなどを彼らに聞いた。

 

 



七夕野郎はフックアップ a.k.a. ケツ叩きプロジェクト


ーーユニットの結成経緯と、「七夕野郎」というユニット名にした理由を教えてください。
サイプレス上野(以下サ上):MIC大将が何も出さないので、何かを出すためのユニットとして作りました。ユニット名は2人で『BE-BOP HIGH SCOOL』のDVDを観てモノマネしてたら自然と決まりました。
マイク大将(以下大将):僕らが所属するZZ PRODUCTIONは、結成当時からサイプレス上野とロベルト吉野、STERUSSの2大看板で、そこにDJ KENTAや三木祐司など現場やミックス作品でPROPSを得ているDJがいたりするなか、そのほかのMC陣は「基本何も出さない」って感じがずっと続いてて…。何を隠そうその一人がわたくしMIC大将だったわけです。なので七夕野郎はフックアップ a.k.a. ケツ叩きプロジェクトですかね(笑)。あとはZZのなかでも下衆度が均衡してたり、本当にくだらない部分の“ツボ”が一番近い2人なのかと。元々は、“ZZの下世話担当、サイプレス上野とMIC大将”という触れ込みだったのですが、タワーレコード渋谷店に行ったら“サイプレス上野と、ZZの下世話担当:MIC大将”になっていて、ひたすら頷くことしかできませんでした(笑)。ユニット名は、上野の言う通り、実写版のビーバップハイスクールを観ていて、「城東退学、柴田、西」の西くんが「この七夕野郎~」ってセリフを聞いて「これにすっか」って感じで決まりました(笑)。


ーーなぜ1年に1度の期間限定ユニットにしようと思ったのでしょうか?
サ上:ずっとやってても仕方ないかなと。あと、「サイプレス上野とロベルト吉野」の方がめちゃ忙しいので(笑)。
大将:最初は「毎年七夕に!」って感じだったと思うのですが、結果的に期間限定もクソもない程の月日が経ってしまいまして…。ある意味限定感が増したかもしれないですね。


ーー今回のアルバム『Optimistykal』のコンセプトと、タイトルの意味を教えてください。
大将:前作の『七夕野郎』もそうですが、2人でテーマを決めたり制作していく過程で1回たりとも「コンセプト」という類の話は出てきてないですね(笑)。それが「コンセプト」なのかもしれない…。「勘ぐり不要!」とか謳っといて変に勘ぐらせる言い方ですが(笑)。タイトルは“optimistic=楽観主義の”というところからきていて、名詞にするから形容詞にするか、みたいなやり取りを上野とメールでしてるなかで、「Optimistykalはどうですか? Mystikalに敬意を表して」と返信がきて「そこまでMystikalに思い入れねえだろ(笑)」とか言いながらこれに決まりました。


ーー本作は「馬鹿げたことを追求したらカッコイイになった」とのことですが、2人にとっての馬鹿げたこととはどのようなものですか?
サ上:DVD見てモノマネして、酔っ払ったあげく、深い意味の内容は面倒なのでテーマにそってそのまま書くだけってことですかね?
大将:日常にある本当に身近なことをテーマにして、本当の意味で生々しいことをラップしているので、必然的に馬鹿げたことを追求したかたちになっただけですね。日常なんて馬鹿げたこととか失敗だらけじゃないですか。みんなあまり表には出さないだけで。その馬鹿げたこととか恥ずかしいことをすべて曝け出すことに対する美学というのは少なくともあると思いますね。なので馬鹿げたことは僕らみたいな普通の人間が、自分たちの生活や経験したこと、誰もが知ってることをテーマに生々しいラップすることではないですかね。そこをベースに、ギャグラップではなく、ヒップホップというドス黒いフィルターを通して、ラップやビートはもちろん、細部も含めていかにかっこいい音楽として表現していくか、というところですかね。


ーー本ユニットでは、“ただ目の前に与えられたテーマを純粋に歌う”をコンセプトに活動されてていますが、そのテーマとは一体どこから生まれてくるものなのでしょうか?
サ上:酒場で飲んでいるときにあーだこーだいって、大将が俺の2ちゃんねる話をしてツイッターでキレるってところからです。
大将:見て頂ければ分かる通り、ミクロとマクロです(笑)。ただ双方ともにほかのアーティストの方たちとは少しその捉え方、意識の高さ、いや低さが違うと思いますね。B-BOYって基本的に天邪鬼なんですよ。少なくとも我々は。なので、テーマとしては「こんなことをテーマにして歌ってるアーティストはどのジャンルにもいないだろ」っていうものと、「誰もが聞いたことのあることや知ってること、経験したことのあること」というものをテーマとして選んで、本当に細かい部分や生活に根付いている生々しい部分=わざわざ言わなくても良い、誰もラップや歌で言わない、言わなくても良いどうでもよい部分を言っていくことで、そのテーマ内で派生させていく感じですね。テーマ自体は毎回2人で居酒屋で肴をつまみながら決めてます。

 

 



みんな真面目で本当の意味でのどうでもいい笑いとか忘れてないか? 


ーーサイプレス上野さんは現在、人気番組「フリースタイルダンジョン」のモンスターとして活躍されていますが、その経験から何か作品に反映されているものはありますか?
大将:私からも是非お聞きしたい…。
サ上:一切ないと言いたいのですが、番組好きの若い子もプレイヤーもみんな「真面目だな〜、勝ち上がりたがり過ぎじゃね? ラップってもっと面白いし、ギスギスするなよ…」って気持ちはありました。


ーーMIC大将さんはラップのスキルはもちろんのこと、ライブ中に披露するモノマネのスキルも相当高いと聞きました。モノマネの極意、また、現在一番ホットなモノマネはなんですか?
大将:どこからそんな情報が…。正直モノマネに関しては、大前提として自然にしっかりと聴き込んでないとダメじゃないかと思いますね。自然にってところがポイントじゃないかと。好きじゃないとダメですね。いろいろと。あとはいかに似せるかよりも雰囲気や言い回し、言葉選びで楽しい空気を作って、そこからいかにヒップホップエンターテイメントとして昇華させていけるかを意識してやろうと思ってます。今後は(笑)。最近一番ホットなモノマネは、Method ManのAll I Needのライブ時の、サビ歌い待ちのMary J Bligeですかね。


ーーヒップホップッシーンの楽曲ではメッセージ性の強いリリックが多く含まれていると一般的に認識されていますが、「七夕野郎」の楽曲は“裏も無ければ表の意味も無い。つまり何も無い。”という、メッセージ性を全く含まないものを意図的に作ってらっしゃいます。これにはどういったこだわりがあるのでしょうか?
サ上:みんな真面目で本当の意味でのどうでもいい笑いとか忘れてないかな? とは思います。あと、リリック書くのが楽すぎるので(笑)。
大将:確かにメッセージ性が強いアーティストや曲も多いですが、一般的な認識としてはまだ「チェケラッチョ~」なイメージは根付いてると思うんですよ。日本語のラップの魅力として、まず言葉が分かるということがありますよね。いわゆるバイリンガルラップでも要所要所の日本語から何となく意味が分かったり。 日本語でラップしている以上、せっかく意味が分かるし、ほかとは違う内容が溢れているヒップホップを興味の無い人にも聴いてほしいというのは当然ありますね。いろんなスタイルがありますけど、僕個人的にはヒップホップが大前提としての日本語のラップの魅力は、いわゆるハスラーラップやギャングスタラップでは売人の日常や暴力的な描写による、一般的な人にとっては非現実的な事柄が描かれている部分。それとは逆に、都市や街の名前にしてもたとえば、東京という一括りの表現じゃなく細かい町名や通り、実在するビルの名前とかがでてきたり、テレビに出てるタレントの名前や政治家や実業家の名前がでてきたり、飲みすぎてゲロまみれになったとか誰にでもあるようなことを言ったりとか、挙げればキリがないですが…。つまりは現実的な部分が描かれていますよね。


ーー日常で起こっている些細な出来事ですね。
大将:非現実的と現実的が合わさって、より文学的な表現だったり、この文化に根ざした表現になるってのも魅力としてありますけど。この両面は、意味合いや内容は違えど、結局共通するところは生々しさ、エグさ、細かな描写で、この部分が日本語のラップのほかにはない魅力だと思ってるので。七夕野郎の場合にはこの「現実的」な部分の生々しい描写を軸に、誰もが知ってるようなことをラップすることで「こんなどうでも良いことも曲にできるのがヒップホップなんだよ」っていう部分と、「ほかにはない生々しくてエグい表現」という部分の魅力に、「チェケラッチョ~」な一般層のなかにも少しでも食いついてくれる人がいればいいなと思いますね。捉え方は人それぞれでしょうけど。「何も無い」と言いながらこうやって話してたら結構裏の意味がある感じになりましたね(笑)。


ーー各トラックにパンチラインが盛り込まれていますが、特に気に入っているフレーズなどを教えてください。
サ上:11曲目「オリンピック」の“気になって仕方ない、選手村の夜の中を”ですかね。
大将:3曲目「続・銭湯態勢」の、上野の“さあ、始めよう銭湯態勢 いや、今日は銭湯体操”ですね。自分で振って自分でいや、今日は銭湯体操って否定してて。何を1人で言ってんの?、っていう(笑)。自分のフレーズでいうと、ライブ中アカペラでやると評判の良い4曲目「ZZ(痔)」の“GOING GOING桜木町の松島病院病院(肛門科専門)”と、やはりオリンピックの“ふなき”ですね。



 

 

 



レコーディング最終日に“大将のラップが暗い”ことに気づき、一気に録り直した


ーー前作に引き続き、本作でもさまざまなDJ/アーティスト/クリエーターがフィーチャリングされています。このラインナップを起用した経緯や理由などを教えてください。
サ上:俺個人用でいろいろなトラックメーカから集めさせてもらい、それを相談しながら使わせてもらいました。みんな怒らずに理解してくれて有り難かったです。
大将:基本的にはエンジニアにMISTA SHARさんを迎えて、ビートもSHARさんとドリームトラクターズを使用、という基本的な布陣は変わってないですね。あとは、わりと上野が七夕野郎用に集めてくれたビートのなかからテーマと音を聴きながらイメージして選んでいったかたちです。あとは、ラップでは唯一のフィーチャリングとしてR指定に参加してもらう予定だったんですが、あまりにもこっちのスケジュールがタイト過ぎて今回に関しては無くなってしまいました。


ーー本作品の制作過程でもっとも印象深かった出来事はなんですか?
サ上:レコーディング最終日に“大将のラップが暗い”ことに気づき、一気に録り直したことかな…。
大将:とにかく時間が無くて、毎回会うたびに「本当に大丈夫? 間に合うのか?」と心配そうな神保さんの顔が印象的でした(笑)。あとは、上野と2人で揃ってスタジオ入ったのは2日間だけで、わりとSHARさんとタイマンでずっと録ってたことですね。最終日に上野とは2回目のスタジオだったんですけど、ある程度録り終わって聴き直してたら、その日に上野と録った曲と、前に1人で録った曲のテンションが明らかに違ってて。「ん? やたら俺テンション低くない?」ってなって。多分2人でふざけながらやってる方が声のテンションも上がってて。で、本当に時間なくてギリギリのなか、SHARさんに「録り直すなら今だよ。どうする?」って煽られて「録り直します!」ってブースに駆け込んだ曲が2曲くらいありましたね。


ーー今後の「七夕野郎」での活動を教えてください。
大将:8月7日(日)にタワーレコード横浜ビブレ店でミニライブ&サイン会、8月28日(日)に横浜 CLUB LIZARDで開催される上野のイベント「建設的」でリリースパーティー。それ以外は…無し!


ーーサイプレス上野さん、MIC大将さんそれぞれの今後の活動を教えてください。
サ上:サイプレス上野とロベルト吉野×ベッドインの『成りあがりVICTORY』が配信されていて、今後はLEGENDオブ伝説名義でミックスCD、春にはサ上とロ吉のアルバム出す予定なので忙しく、七夕野郎はできません!
大将:今回のケツ叩きプロジェクトを機にソロアルバムを制作中なので、2017年の早い段階にはリリースしたいと考えてます。あとはモノマネやらで面白そうなイベントに参加させてもらえる予感がしてます。そのほかはTwitterもFacebookもやってないので、何となく見守っていただければと思います。
 

 

 



- Release Information -
タイトル:Optimistykal
アーティスト:七夕野郎
リリース:7月6日(水)
価格:2,484円

[トラックリスト]
01. タナトロ
02. 七夕野郎
03. 続・銭湯態勢
04. ZZ(痔)
05. 旅行
06. 飛田新地
07. 男の料理
08. 漫画
09. 酒場
10. BBQ
11. オリンピック

■リリースページ

http://www.clubberia.com/ja/music/releases/4767-Optimistykal/